澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

スラップは両刃の剣だ。統一教会は、自分を斬ることになる。

(2023年7月5日)
 先月の28日、統一教会の本部(韓国・清平)で、教団トップの韓鶴子が、日本人を含む約1200人の幹部信者を前に、「岸田を呼びつけ、教育させなさい!」と演説した旨報じられている。

 岸田と呼び捨てにされたのは、日本の首相である岸田文雄のこと。「岸田を呼びつけ、教育させなさい!」は、演説というよりは、悪罵を浴びせたというのがふさわしい。
 
 複数メディアが入手した韓鶴子の音声データの翻訳はこんなところ。
 「1943年、韓半島で独生女(救世主=韓鶴子自身を指す)が誕生しました。分かっているのは、日本は第2次世界大戦の戦犯国だということ。犯罪の国。ならば賠償すべきでしょ、被害を与えた国に」
 「今の日本の政治家たちは、我々に対して何たる仕打ちなの。家庭連合(統一教会のこと)を追い詰めているじゃない。私を救世主だと理解できない罪は許さないと言ったのに。その道に向かっている日本の政治はどうなると思う? 滅びるしかないわよね! あなた(信徒)たちの運動は国(日本のこと? それとも韓国のことか?)を生かす道だ!」
 「政治家たち、岸田をここに呼びつけて、教育を受けさせなさい! 分かっているわね!」

 信者たちは、歓声と拍手で応え、「万歳!!」と叫んだという。統一教会とは、統一教会信者とは、「韓鶴子を救世主だと理解できない罪は許さない」という、思い上がりも甚だしい、他からは理解不能の集団なのだ。

 その統一教会が、日本の右翼と相性が良い。とりわけ、岸信介・笹川良一・安倍晋三などが教団と癒着し、これに取り入っていたことはよく知られている。国士を気取る右翼の輩が、どうして韓国ナショナリズム集団とかくも親和的であるのか、理解しがたい。岸田を除く自民党の連中が、「文鮮明や韓鶴子を救世主だと理解していた」というのだろうか。

 その韓鶴子が創設したのが、「世界平和女性連合」である。統一教会の宗教法人としての登録名が「世界平和統一家庭連合」。名称が近似しているだけではない、ダミー団体。その女性連合が、「韓鶴子を救世主だと理解できない」弁護士7名を被告とし、損害賠償を求めて東京地裁に新たな提訴をした。昨日(7月4日)のことである。請求金額は、3300万円。

 この訴訟の原告代理人となった弁護士は、統一教会お抱えとしてお馴染みの福本修也ではなく、これまでは、右翼の弁護士として知られていた徳永信一。なるほど、統一教会のダミーと攻撃されている女性連合の代理人が統一教会お抱え弁護士では座りが悪いということなのだ。統一教会と右翼との蜜月を見せつける弁護士選任である。

 女性連合は、6月から8月にかけて、全国28カ所で留学生向けの日本語弁論大会を開く。全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は、これを「旧統一教会の資金集め、人集めのためのイベント」と指摘して警戒を呼び掛け、6月15日の全国弁連声明では、女性連合は「ボランティア組織を仮装した悪質な献金勧誘団体」として、全国の自治体に施設の利用許可をしないよう求めた。

 女性連合は、この声明を「宗教ヘイト」と主張、弁連の主要メンバーである弁護士7人に損害賠償を求めて提訴した。訴状提出後の記者会見では、「声明は悪質な印象操作だ」「旧統一教会と創設者は同じだが、活動も運営も独立した別個のNGO団体だ」とし、全国弁連の声明は「事実無根で名誉毀損に当たる」、自治体への働きかけは「差別的取り扱いを勧奨する宗教ヘイトとして、法の下の平等を定める憲法14条などに反する」とした。

 この訴訟には万に一つも、原告側の勝ち目はない。勝ち目がなくても、提訴によって統一教会に対する批判の言論を怯ませることができるだろうという思惑だけがよく見える。

 しかし、スラップは常に両刃の剣である。この訴訟も、原告敗訴が確定した時の、統一教会側のダメージは大きい。全国弁連側がコメントしているとおり、「訴訟の中で、女性連合の実態が明らかにされざるを得ない」からだ。統一教会は、この提訴によって自分を斬って傷つくことになるだろう。

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