「憲法9条は現実主義」ー伊東光晴が語る安倍右翼政権批判
日曜(10月9日)の赤旗一面「2014 黙ってはいられない」に、伊藤光晴が登場。よくぞ赤旗に、である。いまや、この人こそ日本の知性。日本の良心。
私は、1962年4月に東京外国語大学に入学している。一年間だけの在籍だったが、そこで新進気鋭の伊藤光晴助教授の流麗な講義を聴いている。もっとも、当時の若者の気風は、「社会を根底から変える思想を持たない経済学は真剣に学ぶに値しない」などというもの。私もそんなポーズを装ってはいたが、本当のところ、社会科学の素養に欠けて、十分な理解ができなかった。今にして、何ともったいないことと残念に思う。もっと真剣に学んでおくべきだった。
いまや経済学の泰斗となった伊東光晴翁からの赤旗記者の聞き書きは、実に分かり易い内容。タイトルは、「いま政権を批判するわけ」。安倍政権に対する仮借ない批判として3点が語られている。まずは憲法、そして経済と雇用についてである。
彼の安倍内閣批判は鋭い。政治について発言しないとする主義を撤回して、都留重人さんなきあと「同じ立場で発言する人がいないから、政治的発言をする」と宣言してのこと。87歳の迫力である。
「特にいま批判しなければならないのが、アペノミクスに隠された『四本目の矢』、安倍晋三首相の『政治変革』です。安倍政権は保守政権ではありません。右翼政権です」と、まず自らの立場を鮮明にする。
その上で、憲法9条の解釈問題に言及する。
「集団的自衛権を認めることは憲法9条に完全に違反します。集団的自衛権は国家間の紛争を武力で解決できるという考えの上に立っています。憲法9条は理想主義ではなく、現実主義だと思います。国家間の紛争は武力以外で解決するしかないというのが2度の世界大戦の教訓です。戦後アメリカが中東その他に何度も武力介入しましたが、国際紛争は一度も解決されませんでした。武力以外で解決するのが現実主義なのです」
そのとおりだ。心してこの言に耳を傾けねばならない。
次いで、専門の経済分野においてではアベノミクスを「経済効果なし」と徹底批判である。
「安倍首相は株価の上昇を得意がっていますが、株価が上がったのは『外国人買い』のためです。欧米市場で株価がリーマン・ショック前を回復し、投資先を探していた外国人投資家が、安倍政権誕生前に日本市場に入ってきて株を買ったのです。政権交代を期待して日本の投資家が買ったのではありません。日銀は年間50兆円もの国債を買い入れてきました。しかし、各銀行は融資先がないので、資金は銀行が日銀に持っている当座預金勘定に積み上がっています。経済的効果を及ぼすはずがありません」「財政では税収がぐんと落ち、支出が増えました。アメリカのような『フラットな税』にすると言って所得税や法人税を減税したからです。税収減と支出の増加を折れ線グラフにすると「ワニの口」のような形です。安倍政権はこの状態で法人税を減税するというから、まさに開いた口がふさがりません」
第一人者の経済政策批判は、心強いことこのうえない。
最後に、雇用政策についての「労働憲法崩す」との批判。
「そして小泉政権以来の労働市場改革です。戦前、中間搾取を許した教訓から、戦後、営利をもった職業あっせんを禁止しました。これを労働憲法と呼びました。それを崩して派遣労働を認めてしまった。とんでもないことです。有能な女性が正社員になれず、派遣社員をしている。そんな状況をつくりながら安倍首相は『女性が活躍する社会』などとよくも言えたものです」
赤旗記事の中では、この3点だけに絞っての批判。しかし、安倍右翼政権の罪は深い。批判すべき点は数え切れないほど。
特定秘密保護法、河野談話批判、朝日バッシング加担、靖国参拝、近隣外交失敗、日米ガイドライン、辺野古新基地建設、オスプレイ配備、原発再稼働、原発輸出、TPP、消費再増税、カジノ解禁、NHKお友だち人事、国営放送化、教育「再生」、右派閣僚人事、格差拡大、弱者切り捨て、地方無視、そして小選挙区に固執しての憲法改正への執念‥‥。
早期に退陣していただかねばならない。平和と民主主義のためにも、庶民の暮らしのためにも。(2014年11月11日)