澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

弁護士の生きがいー夫婦別姓訴訟・大法廷判決に思う

私は1968年の司法試験に合格して、69年4月から71年3月までの司法修習を受けた。当時は有給で修習専念義務は当然のことと受け入れた。しかし、カリキュラムの過密を意識することはなく、現役の裁判官・検察官・弁護士から成る教官たちには、ごく真っ当な常識的感覚と後輩の法曹をあるべき姿に育てることへの情熱を感じた。当時毎年500人の修習生は、2年間の修習期間中に、どの分野に進むかどのような法曹になるかを十分に考えた。課外の自主活動も活発で余裕のある2年間だった。

私の実務修習地は東京、配属弁護士会は第二東京弁護士会だった。今はなき、戸田謙弁護士(この人について語るべきことは多い)が修習指導担当で4か月間戸田法律事務所に通った。その際、いくつかの典型的な法律事務所訪問の機会を得た。修習委員会が組んだプログラムとして、虎ノ門の法律事務所に大野正男を訪ねたことを記憶している。同弁護士は、当時既に高名でその後最高裁裁判官になった人。

私を含め当時の修習生の多くは、ビジネスローヤーというものにいささかの敬意ももちあわせていなかった。そんなものは、法曹を目指す動機や弁護士としての生きがいになんの関わりもあろうとは思えなかった。身すぎ世すぎの術として、資本に奉仕する弁護士業務とはいったい何だ。経済的には恵まれようが、生きがいとは無縁。金が欲しけりゃ、大企業の出世コースを歩むか、自分で業を起こせばよいだけのこと。まったく魅力は感じなかった。

その対極にある弁護士として大野正男をイメージしていた。この人なら、弁護士としての生きがいを熱く語ってくれるだろう。この人の言うことになら耳を傾けてみたい。期待は高かったのだが、実はこの高名な弁護士が何を語ったのか記憶にない。確かに彼は何かを語ったが、若い(生意気な)修習生たちに受けるような内容ではなかった。ともかく話の内容は地味で、高揚感とは無縁のものだった。

話しのあとに水を向けてみた。「弁護士の仕事は、問題を事後的にしか解決しません。しかもきわめて個別的で分散的で、一つひとつの仕事が社会的な影響力をもつということは滅多にない。それでも、やりがいのあることでしょうか」

これに対する大野正男の回答は、確かこんなふうに落ちついたものだった。
「そのとおりですよ。弁護士が日常扱う個々の事件処理は、事後的な問題解決で個別的。地味なものです。政治家のような、何か華々しいものと錯覚してはならない。社会を変えようとして事件を受任するわけではなく、問題を抱えている人のために仕事をするのが弁護士。個々の依頼者に喜んでもらうことが、弁護士としての生きがいですよ。」

当時、私の脳裏にあったのは、砂川事件の伊達判決であり、松川無罪判決であり、恵庭や長沼事件であり、人権派弁護士大活躍の舞台だったいくつかの公害事件だった。弁護士が取り組んだ一つの事件、一つの勝利判決が、大きく社会や政治を動かすというロマン。自分もそのような仕事をしてみたい。そういう気持を、思い上がりとしてたしなめられたという印象が残った。

その後、私は地域密着型の法律事務所で弁護士としての仕事を始め、ときどき大野正男の言葉を思い出した。なるほど、あの言葉のとおりだ。事件の大小に関係なく、依頼者のために地味な事件を処理していくことの大切さと、そのことのやり甲斐とを実感するようになった。華々しい弁護士像追求を邪道と感じるようにもなって今日に至っている。

で、今は、弁護士と事件との出逢いは、「なかば偶然、なかば必然」と考えている。悪徳商法専門やスラップ常連弁護士は、事件と必然性をもって結びついているだろう。これに比べて、本日の最高裁大法廷判決2事件(「別姓訴訟」「待婚期間違憲訴訟」)などは、弁護士の日常業務が社会を動かす大事件に発展した好例。とりわけ、「夫婦同姓強制違憲訴訟」は、大きなインパクトをもつ事件だ。大法廷判決で、勝てればすばらしいことだったのだが…。「修身斉家治国平天下」の壁は厚く破れなかった。

担当弁護士は、さぞ頑張ったことだろうが、残念な結果に終わった。まことに無念。
それでも、事件と格闘して、ここまで社会に問題提起をした原告と弁護団に、心からの敬意を表したい。

法廷意見への賛否は10対5だったという。次がある。またその次もある。誰かがいつかは破る壁だと思いたい。

前例がある。津地鎮祭訴訟上告審の大法廷判決で、厳格政教分離派が敗れたのが1977年7月。判決は、やはり10対5に分かれていた。その20年後、97年4月に愛媛玉串料訴訟の最高裁大法廷判決が、同じ目的効果論を使いながら、厳格政教分離の側に軍配を上げた。逆転して、違憲派が13、合憲派は僅か2名だった。

逆転のゴールに誰かがすべり込むだろう。その目標も、弁護士としての生きがい。
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   DHCスラップ訴訟12月24日控訴審口頭弁論期日スケジュール
DHC・吉田嘉明が私を訴え、6000万円の慰謝料支払いを求めている「DHCスラップ訴訟」。本年9月2日一審判決の言い渡しがあって、被告の私が勝訴し原告のDHC吉田は全面敗訴となった。しかし、DHC吉田は一審判決を不服として控訴し、事件は東京高裁第2民事部(柴田寛之総括裁判官)に係属している。

その第1回口頭弁論期日は、
 クリスマスイブの12月24日(木)午後2時から。
 法廷は、東京高裁庁舎8階の822号法廷。
ぜひ傍聴にお越し願いたい。被控訴人(私)側の弁護団は、現在136名。弁護団長か被控訴人本人の私が、意見陳述(控訴答弁書の要旨の陳述)を行う。

また、恒例になっている閉廷後の報告集会は、
 午後3時から
 東京弁護士会502号会議室(弁護士会館5階)A・Bで。
せっかくのクリスマスイブ。ゆったりと、楽しく報告集会をもちたい。
 表現の自由を大切に思う方ならどなたでもご参加を歓迎する。
(2015年12月16日・連続第990回)

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