澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

「競技連盟ファースト」も「アスリートファースト」もあり得ない。あるのは、「納税者ファースト」だけだ。

国際ボート連盟の会長が、ロランというフランス人だという。国際ボート連盟なる組織がいかなるものか、その会長がいかなる人物かはまったく知らなかったし、本来なんの関心もない。それが、突然に東京までやって来て出過ぎた発言で物議を醸している。

この人、フルネームがジャンクリストフ・ロランだそうだ。えっ? 本当か。ロマン・ロランのジャンクリストフといえば、我々の世代には「青春のバイブル」だった。この名前の印象は良過ぎ、それに比してこの人物の言動の印象が悪過ぎ。相対的に、小池側を応援したくなるのが少しシャクなほど。

2020年東京五輪の競技施設建設予算がべらぼうな額となり、遅きに失したとは言え、小池都知事が見直しに着手した。そのなかに、ボート競技会場となる「海の森水上競技場」の建設中止がある。昨日(10月3日)ロランは、これにクレームをつけたのだ。彼が言わんとしたは「東京から遠い宮城県なんかに移されてはがっかりだ。東京に連盟とアスリートの気に入るような最高の施設を作れよ。カネのことはオレは知らん。あんたの方でなんとかしろ」ということだ。ロマン・ロランも驚くだろう。ジャンクリストフなら絶対に言わないセリフ。知性なき乱暴者ロランだからこそ、こんなことを口にできるのだ。

学生時代にボートをやったという人は少なくない。あのロランと同類に見られるかと、さぞ肩身が狭いことだろう。それだけではない。アスリート全体に肩身の狭い思いをしてもらわねばならない。アスリートが何様だ。そう言葉を発するのに、ちょうどよいきっかけではないか。これから、遠慮なくものを言おうではないか。

報じられているところでは、ロランの言葉は、次のとおりである。
「我々は14年から日本全国の候補を調査、検討し、その中で色んな要素を考慮した。知事が懸念しているコストや、アスリートファースト、レガシーも。(海の森は)IOC、都、組織委員会という全てのステークスホルダーと分析して出した結論」。

「色んな要素」とは、コスト、アスリートファースト、レガシーの3点。
「すべてのステークスホルダー」とは、IOC、都、組織委員会の3組織。
おそらくは、これがアスリート団体のトップ層の粗雑で思い上がった頭の中なのだ。こんな連中をのさばらせてはならない。

彼らの頭からは納税者がすっぽりと抜けている。ステークスホルダーとして納税者を意識していないし、施設のコストやレガシーを決めるのは納税者だという当たり前のことを理解していない。あたかも、IOCや競技連盟や組織委員会がなんでも決めることができると思い込んでいる如くではないか。まるで駄々っ子だ。

都民も国民も、ロランが語る思い上がった「アスリートファースト」に怒らねばならない。フトコロに手を突っ込んで「アスリートの気に入るようにもっとカネを出せ」と言われているのだから。

アスリートがなんぼのものか。アスリートとはいったい何様なのだ。納税者を差し置いて、IOCファーストや競技連盟ファーストや組織委員会ファーストはありえない。そして、「アスリートファースト」を美しい響きの言葉にしてはならない。うさんくささを嗅ぎ取らねばならない。理の当然としての「納税者ファースト」の姿勢を貫かねばならない。

プロ野球と比較してみよう。ここではお客様ファーストとならざるを得ない。球場に足を運ぶか、テレビ観戦をする観客に支えられて球界が存立している。しかし、実はプロ野球でなら、機構ファーストでも、選手ファーストでもいっこうに差し支えない。公費が投入されていないからだ。それでも、お客様ファーストでなくては興業として成り立たない。

五輪は、今や薄汚い商業主義の象徴と化している。にもかかわらず、多額の公費が投入されている不条理がある。それはさておき、公費が投入されている以上は、納税者ファースト以外にはあり得ない。それが、民主々義国家の常道である。

無頼のロランに対峙した小池は、経費削減の観点を強調し、「宮城県の知事も(開催に前向きな)意思を示している。もともと復興オリンピックを標榜していた」と述べ、東日本大震災の被災県で開催を検討する意義に理解を求めた、という。その姿勢を後退させてはならない。

ところで、「オリンピック・アジェンダ2020-20+20の提言」というものを2014 年11月のIOC総会が採択している。ここに見られるのは、オリンピックが持続できるかという危機感である。オリンピックの招致合戦や設備の建設に無駄なカネがかかりすぎることや、時に垣間見える汚い裏舞台への批判に耐えられなくなることへの対応策が必要になっているのだ。ローマの五輪招致辞退が、このことを象徴している。

IOCの傲りが納税者ファーストをおろそかにしてきた。そのことのツケが、オリンピック持続可能性のための具体的提言となっている。ロランの言は、明らかにこれに反している。ロラン一人の思惑か、ウワサされるような結託者がいるのかは分からない。少なくとも、ロランの言はIOCのタテマエに照らしてさえ、なんの説得力もない。せっかくのロランの言。これを「オリンピックは納税者ファーストで」の世論に切り替えるきっかけにしようではないか。
(2016年10月4日)

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