「佐川宣寿」という人。面識はなく、その個性に関するエピソードも知らない。が、なんとなく哀感が漂う。アベに尽くして、アベに捨てられ、それでもアベに反抗できない。今、どこで何をしているのだろう。これからどうなるのだろう。この人の家族は大変な逆境にあることだろう。
福島県平市の生まれで地元の中学校在学時に父を亡くし3人の兄が学費を負担して都立九段高校に進学というのだから、学業は優秀だったのだろう。一門の与望を一身に担って、その自覚にもよく応えた。二浪して東京大学文科二類に入学し経済学部を卒業後大蔵省に入省。理財局長から国税庁長官まで昇進し次官一歩手前まで上り詰めた。恵まれない境遇から、刻苦勉励して出世コースに乗ったという人物像の典型。銀の匙を加えて育った人種とはおよそ縁が遠い。
その佐川が、巡り合わせから「忖度政治」を象徴する官僚となった。森友事件におけるアベとアキエに対する世論の追及を、防御する立場に立たされたのだ。やり方の選択肢はいくつもあったろう。徹底的に真実を暴露することも、面従腹背でやり過ごすこともできたはずだ。しかし、おそらくは骨の髄まで染みついた官僚としての習性が、徹底したアベとアキエの擁護という方針選択とさせた。
そのハイライトが、3月27日衆参両院の予算委員会での証人喚問である。彼は、宣誓したうえで、アベとアキエを擁護する立場での証言をした。しかしこのとき、彼は政権から懲戒処分(減給)を受けて依願退職をした身であった。退職後に議会で証言して、なお、アベに尻尾を振って見せたのだ。これが哀感漂うという所以である。彼なりの打算もあったのだろうが、その打算は実るはずもない。
その後、6月4日に、彼は「停職3ヶ月懲戒処分相当」とされた。退職した公務員に「停職」である。政権は、尻尾を振った佐川に鞭打って見せたのだ。哀感は深まるばかり。
アベとアキエにしてみれば、トカゲの尻尾は切らねばならず、切った尻尾の勝手はゆるさない。切られた尻尾の逆襲などあってはならないことであり、尻尾の切り口からの化膿も防がなければならない。
だから、政権には、佐川に対する市民団体の刑事告発の成り行きが重大関心事だった。万が一にも、佐川に対する強制捜査や起訴がなされれば、政権が吹っ飛ぶ事態となりかねない。裏で何をしたか何があったか不明だが、佐川にまつわる数々の告発は、すべて不起訴となって、今は大阪検察審査会の判断を固唾の飲んで待つ事態。
このときに、注目すべきは、衆参両院の各予算委員会による告発の成否である。告発の権限は、予算委員会と各院にのみある。告発なければ捜査機関は動けない。
かねてから、野党は佐川を議院証言法における偽証罪で告発するよう与党に提案していた。これができれば、インパクトは大きい。検察庁も強制捜査に動かざるを得ない。動けば政権が危うくなる。
本日(8月3日)衆院与党は、政権の思惑を受けて、野党の誘いには乗れないと見解を表明した。参院与党は週明けの6日に同様の見解表明の予定だという。メディアは、「告発には出席議員の3分の2以上の賛成が必要なため、告発は実現しないことになった」と報じている。
野党側は、佐川の証言には「衆院で5カ所」「参院で4カ所」の偽証があると具体的に指摘している。佐川証言ののちに、財務省が公表した森友学園関係の調査報告書と膨大な公開資料との照合を根拠にしたものである。
これに対して、与党側は、「記憶に忠実である限り、客観的に誤っていたとしても虚偽の陳述に当たらない」「いまや私人である人の告発には慎重であるべき」などというもの。
朝日は、立憲民主党の逢坂議員のコメントを紹介している。
「『記憶の限り』という枕ことばを付ければ、あらゆることが偽証にならなくなり、国会の議論は成り立たない」
また、「国会閉会中の予算委開催や佐川氏らに対し改めて証人喚問を実施するよう求めた」が、与党からの返答はないという。
政権としては、ようやく森友問題に蓋をしたつもりのところ。この蓋を再び開けたくはないという強い思惑がある。ホルマリン漬けの切られた尻尾を再びうごめかしてはならないのだ。
しかし、国会はまた別の立場で動きうる。ここでは世論の動向の読みが事態を動かす。頑なに佐川の口を封じ続けることが世論の大きな反発を受けるという読みの事態となれば、議会は動きうるのだ。
声を上げたい。予算委員会は佐川を偽証罪で告発せよ。もう一度佐川の証人喚問を実施せよ。併せて、安倍昭恵も喚問せよ。徹底して疑惑を解明せよ。溜まった膿を出し切れ。
(2018年8月3日)
月が変わった。戦争と平和をめぐるいくつもの出来事の記憶を喚起すべき8月である。日本国憲法制定の出発点は1945年8月にあった。憲法の平和主義・国民主権・人権尊重を当時に立ち返って確認し、その理念が今にどう生きているかを検証すべき8月。
その8月の入りが異様に暑い。ぶり返しの猛暑は体にこたえる。朝からの暑さを不快と思いつつ赤旗をひろげたら、その2面に不愉快な人物の不愉快な言動についての記事。
稲田朋美の憲法誹謗である。見出しは、「『憲法教という新興宗教』 稲田氏がツイッターで暴言」というもの。皆すなるツイッターもて、落ち目の稲田朋美も復権をはからんとするか。
問題のツイッターは7月29日の夕刻にアップされた下記のもの。
「日本会議中野支部で『安倍総理を勝手に応援する草の根の会』が開催され、私も応援弁士として参加しました。支部長は大先輩の内野経一郎弁護士。法曹界にありながら憲法教という新興宗教に毒されず安倍総理を応援してくださっていることに感謝!」
これが炎上して、30日の昼過ぎに削除されたという。赤旗には、「(すでに削除ずみ)」の投稿写真と「稲田朋美元防衛相のツイート」が掲載されている。ツイートの内容もみっともないが、批判されての翌日の削除は、みっともなさの極み。こんなのが、アベ政権の防衛大臣だったのだ。こんなのを当選させていたのでは、誇り高き越前福井の恥だろう。
赤旗は、「自民党の稲田朋美元防衛相(衆院議員)がツイッターに憲法を敵視した暴言を投稿(7月29日)したことに対し、世論の批判が高まっています。同氏は30日までに投稿を削除しました。」と経過を説明した上で、「国の最高法規である憲法を擁護する立場を『憲法教』『新興宗教』などと攻撃し、安倍首相応援と憲法擁護が対立することを自白した形です」「稲田氏の投稿は、国会議員の憲法擁護義務に明確に反します。投稿を削除したからといって責任は免れません」と手厳しい。
さて、このツイートの憲法に関わる内容が興味深い。「法曹界にありながら憲法教という新興宗教に毒されず安倍総理を応援してくださっていることに感謝!」というだけの短いものだ。稲田は、自分では気の利いた内輪受けの文章を書いたつもりだったのかも知れない。が、こんなときにこそ普段は隠している本性が表れる。憲法に対する無知・無理解、不真面目で揶揄的で真摯に憲法と向き合おうという姿勢を欠くという本性である。実はそのことは、憲法の理念尊重の姿勢に欠けるということ。端的に言えば、稲田は、人権も民主主義も平和もキライなのだ。
「法曹界にありながら憲法教…に毒されず」とは、恐れ入った表現。法曹界とは、実務法律家である裁判官・検事・弁護士の三者をいう。稲田は法曹三者からなる法曹界が「憲法教…に毒されて」いるというのだ。ここには、憲法と宗教の双方に対する侮蔑のニュアンスが込められている。「憲法教」とは、憲法を人類の理性が尊重すべきものとして確認した理念の体系であることの否定にほかならない。あたかも教典のごとく、教祖の祖述をひたすら信仰の対象とする非理性的な観念の体系として拝跪しているという揶揄である。
しかし、法曹界が憲法を尊重し厳格に憲法に従ってその職責を果たすべきことはあまりに当然なのだが、稲田にとっては揶揄すべきことなのだ。稲田は、憲法を知らないだけでなく、法の支配という大原則を理解していない。信仰は個人それぞれに信ずる内容が異なるが、憲法は普遍性を有し誰もが受容せざるを得ないもの、という基本認識に欠けている。
アベ政権は、こんな人物を内閣の一員としたことの政治責任を自覚しなければならない。文民統制の要の立場にあるのが防衛大臣。こんなのがその地位にあったのだ。自衛隊制服組の暴走を心配せざるをえないではないか。
稲田は、問題ツイートの3日前の7月26日夜、「深層ニュース」(BS日テレ)なる番組に出演してこう語っていたそうだ。
「ツイッターで私のイメージというか、本当に右で、歴史問題では修正主義者っていう向きも多いが、いろんな面を発信することができればいいなあと思いまして…。まだまだ未熟なので、手探りで…。まだ1個しかやってないんですけれども…炎上しないように頑張っていきたいと思います!」
「炎上しないように頑張って」発言直後のツイート炎上のお粗末。そもそも、大臣や代議士の柄ではないのが無理して背伸びするからこんなことになる。ツイッターも、やればやるほど、「本当に右で、歴史問題では修正主義者って」イメージを固めるばかり。悪いこと言わない。背伸びや無理はおよしなさい。ツイートも。
(2018年8月1日)
アマテラスよ、ヤオヨロズの神々よ。
安倍のナニガシ、謹んで申さく。
斉しくヘイカの赤子たる我が民草の諸子をして、
忘れろ、忘れろ、忘れろ。みんなみんな忘れさせたまえ。
侵略戦争を繰り返した近代の歴史を。
植民地支配の血なまぐさい諸々を。
治安維持法による大思想弾圧を。
軍国主義に染め上げた息苦しいあの時を。
1945年の、3月10日を。6月23日を。
そして、8月の6日・9日・15日を。
忘れりゃ気楽。忘れりゃ悩みもなくなるぞ。
みんなが忘れてくれれば、もう一回あの時代を繰り返せる。
そしたら、今度こそ、きっとオレがうまくやる。
忘れろ、忘れろ、みんな忘れろ。
忘却こそか美徳じゃないか。
アベの行状、アベの責任、みんなみんな忘れてしまえ。
NHKへの番組改変圧力も
みっともない政権投げ出しも
ポツダム宣言知らないことも
96条改憲提案も
ニッキョーソもデンデンも
コントロールでブロックも
「あんな人たち」発言も
みんなみんな忘れてしまえ。
忘れろ、忘れろ、みんな忘れろ。
忘却こそ美徳だ。忘れておしまい。
教育基本法の改悪も
特定秘密保護法も
戦争法も共謀罪も
カジノも高プロも
辺野古の新基地建設も
オスプレイもイージスアショアも。
赤坂亭も、稲田や、杉田の重用も。
みんなみんなきれいさっぱり忘れちゃえ。
森友・加計も忘れよう。
アキエの関与も忘れよう。
丁寧に説明すると何度も言ったが、忘れよう。
ウソ・隠ぺい・改ざん・ねつ造・廃棄。
忖度政治も忘れよう。
「政治家やめる」も忘れよう。
さあ、呪文だ。
アブラカダブラ。
あなたの記憶は、次第々々に薄れていく。
私の悪行は、忘却の彼方に消えてゆく。
紅葉のころには薄くなり、
屠蘇のころには完璧だ。
みんなが忘れてくれるから、
地方選も参院選も、バッチリだ。
忘れちゃならないこともある。
オリンピックは楽しいぞ。
カジノやらなきゃ遅れるぞ。
株を持たなきゃ損するぞ。
北朝鮮は危険だぞ。
大きな中国恐ろしい。
憲法変えなきゃ危ないぞ。
軍隊持たなきゃ不用心。
安心国家は、お任せを。
(2018年7月31日)
本日の赤旗トップ記事。大見出しの「防大 いじめ・暴行」。少しポイントを下げて、「月平均 規律違反10人・処分5人」「背景に『命令と服従』」。「幹部自衛官養成」「上級生から下級生へ」。3面に続いて、「防大『指導』の名で容認」「『ファイヤー』『食いしばき』悪質さ深刻」と、おどろおどろしい。
(リード)自衛隊幹部の養成機関である防衛大学校(学生数2010人、神奈川県横須賀市)で上級生らによる下級生への暴行、いじめ、セクシュアルハラスメントなど反社会的な「服務規律違反」が横行しています。過去10年間で平均して毎月10人が服務規律違反に問われ、うち5人が懲戒処分となるなど異常な事態が、防大の内部資料から明らかになりました。
内部資料は、2016年5月に国と加害学生を相手に損害賠償請求訴訟を起こした元防大生の弁護団が裁判手続きや情報開示請求で入手したもの。元防大生は、上級生らから暴行やいじめをうけ、2学年だった14年8月に休学に追い込まれ、15年3月に退学しました。
防大が開示した07年から16年までの10年分(16年は4月から7月)の「学生などの懲戒処分者」によると、服務規律違反は合計1136件に上ります。うち懲戒処分をうけたのは約半数の550件です。平均すると規律違反は月10件程度、懲戒処分が月5件程度になります。
提訴した元防大生の被害実例にそって防大がまとめた「防衛大学校における不適切な学生間指導などに関する調査報告書」(16年2月)には、こんな実例が記述されています。
「13年秋頃、部屋のポットのお湯を交換していなかった罰として、被害学生らに対し、ズボンと下着を脱ぐように指示し、掃除機で陰茎を吸引した」「複数回、同様の行為を行った」
防大の懲戒処分台帳には、4学年が「ポットのお湯を(下級生に)掛けさせた」「私的制裁 鼓膜破れる」など暴力行為も多く記載されています。
これらのケースは氷山の一角です。防大生は全寮制です。学生寮での日常生活について上級生が下級生を指導します。その指示は自衛隊の「命令と服従」と同様で“絶対服従”です。「命令と服従」を基本にした訓練と「生活指導」を教育の根幹にすえる防大の姿勢が、反社会的行為に拍車をかけているのではないか―。“防大の闇”の実態に迫ります。
『ファイヤー』とは、陰毛に火をつけること。『食いしばき』とは「ラー油の一気飲みや靴墨などを混入させた食べ物を与えること」だという。常軌を逸しているとしか言いようがない。こうして育てられた自衛隊幹部が、中堅・下級の自衛隊員の教育に携わり、自衛隊全体を同じ体質に染め上げて、部隊の指揮を執る。自衛隊全体が、常軌を逸した集団であると考えざるをえない。
なぜ、こんなことが日常化しているのか。戦争が常軌を逸しているからであろう。戦争を任務とする組織においては、徹底した上命下服の関係が要求される。将は兵に、理「不尽な死」を命令できなければならず、兵は将の理不尽な「死ね」という命に服さなければならない。その関係や感覚が、常軌を逸したイジメやシゴキの横行のなかで培われる。それが、「防大『指導』の名で容認」の意味するところ。
実は、この赤旗記事をみて、少し驚き、すこし残念と思った。あと数日で「法と民主主義」7月号が発行となる。その特集が、「自衛隊の実像」なのだ。赤旗に先を越されたか、という少しの残念。
その「法民」特集に佐藤博文弁護士が、「防衛大学校における人権侵害の実態」を寄稿している。同弁護士は、「(防大は)社会常識からかけ離れた重大事案という認識に立って改善努力をしてきたのかまったく疑問」「『悪弊』などではなく、本音では容認している(ダブルスタンダード)と言わざるを得ない」「かれらに日本の平和と国民人権を守ることを委ねてよいのか」と述べている。
特集のコンセプトは、次のようなもの。
いま、「安倍9条改憲」の阻止が、憲法運動における焦眉の課題となっている。安倍首相(総裁)が、国民に向けて「現在の自衛隊を合憲であると明確にするだけ」のことであって、実質的に何の変更もないと宣伝に務めているが、その虚偽性は既に明らかと言えよう。しかし、自衛隊を憲法上の存在として確認することの正確な意味や影響を論じるには、現在の自衛隊の何たるかを多面的に明らかにする必要がある。限定的にもせよ集団的自衛権の行使を容認した安保法制(戦争法)成立後の自衛隊の法的位置付については、活発な論争ががなされてきたが、自衛隊の実態把握という点での議論は必ずしも十分とは言えないのではないか。
最近の自衛隊をめぐる諸事件の数々には、慄然とせざるを得ない。本特集は、安倍9条改憲案が、憲法上の存在として位置づけようという自衛隊と、隊員の実像をリアルに把握するための論稿集である。…
本特集には、佐藤論文を含めて6本の論稿が寄せられている。
◆「旧軍と自衛隊・シビリアンコントロールの視点から」(纐纈厚・明治大学特任教授)は、自衛隊の文民統制が危うくなりつつある現状を詳細に論述している。「文民優越の原則を守ることによってのみ民主と軍事は共存可能である」「なぜならば、私たちは素手で実力組織を統制していく宿命を負っているのだから」という。
◆「防衛計画の大綱改定への動向」(大内要三・ジャーナリスト)は、防衛大綱の見直し問題である。現在の「25大綱」が、賞味期限切れで「本年末を目指して」改定検討中だという。これで「自衛隊は明らかに外征軍となる」「安倍政権が憲法で認知させようとしている自衛隊の実態はこのようなものだ」という。
◆「現代の戦場経験から考える自衛隊の憲法明記問題」(清末愛沙・室蘭工業大学大学院准教授)は現代の戦場体験をリアルに語っている。筆者は、イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区で、「国際連帯運動」のメンバーとして、イスラエル軍と非暴力で対峙する。その苛酷な体験を通じての「人は武器を持つと変わる」という言葉には説得力がある。
◆最後に、自衛隊関連文献解説の二編。
「読書ノート自衛隊」(小沢隆一・東京慈恵会医科大学教授)。自衛隊を違憲とする論者が、「自衛隊の実相を知っておく最低限の作業はしなければ」と読み込んできた「読書ノート」である。
◆「漫画に描かれた自衛隊」(澤藤大河・弁護士)。こちらは漫画編。漫画でもリアルにいじめやしごきの実態が描かれ、「これがあってこそ精強な軍隊を維持できるというイデオロギーが根付いている」という。
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下記が、「法と民主主義」のURL。ご注文はこちらから。
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本日(7月25日)時点では、まだ6月号【529号】「特集★性の尊厳をとりもどそう」が最新号として紹介されている。同特集の掲載論文は以下のとおり。
◆特集にあたって………編集委員会・小沢隆一
◆セクシュアル・ハラスメントの現状と課題………戒能民江
◆職場のハラスメントの法規制………内藤 忍
◆セクシュアル・ハラスメントとメディア──行動を起こした女性たち………明珍美紀
◆麻生財務大臣の言動とその裾野………角田由紀子
◆女性たちは何と闘っているのか?マタニティ・ハラスメント裁判原告女性の経験に着目して………杉浦浩美
◆刑法・強姦罪規定改正の意義と課題──「女性に対する暴力」根絶ツールとしての刑法を………谷田川知恵
◆旧優生保護法による強制不妊手術・謝罪と補償を………新里宏二
◆性的マイノリティと人権──LGBT/SOGIという概念が問いかけること………谷口洋幸
◆性の商業的搾取──規制が遅れた最後の性暴力?………中里見 博?
この号も充実している。両冊をお求めいただけたら、たいへん有り難い。
(2018年7月25日)
第196通常国会が、昨日(7月20日(金))事実上閉会した。思い起こせば、アベ政治の醜態極まれりという、「憲政史上最悪の国会」。これでいよいよアベ政権も終わりかと思わせる事態は何度もあった。が、膿にまみれ満身創痍となりながらも、アベ政権は持ちこたえた。内閣支持率は下げ止まり、やや上昇の傾向さえ見せている。アベ政治を許し、アベを政権の座にから追い落とせない、これが日本の民主主義の水準なのだ。
本日の朝日は、「通常国会、事実上閉会」「森友・加計など疑惑解明置き去り」「政権の強引さ、際だった」「野党『憲政史上、最悪の国会』」の見出しで、こう報じている。
公文書が改ざん、廃棄され、「ない」とされた文書が見つかる。答弁のうそが明らかになる。国会審議の前提は根底から覆された。過労死を招きかねないと指摘された制度やギャンブル依存症が増えかねないカジノ新設を認める法律も野党の反対を押し切って成立。安倍政権の国会軽視が際立つ通常国会だった。
巨大与党に少数野党。野党が提出した内閣不信任決議案が否決されるのは目に見えている。それでも憲法に基づいた手続きであることには変わりない。
立憲民主党の枝野幸男代表が不信任案の趣旨説明をしている最中、安倍晋三首相は隣の閣僚と談笑した。「何笑ってんだよ」。野党席からヤジが飛んだ。「憲政史上、最悪の国会になってしまった」。枝野氏は2時間43分にわたった趣旨説明をこう締めくくった。
毎日新聞は、「政府強引、国会に禍根」「森友・加計、疑惑解明至らず」「働き方・参院6増・カジノ… 重要法熟議なく」とよく似た見出しで、今国会をこう総括している。
通常国会は20日に事実上閉会した。学校法人「森友学園」「加計学園」を巡る問題で、政府・与党は疑惑解明に後ろ向きな姿勢を取り続け、真相究明には至らなかった。約半年にわたった国会論議が深まることはなく、与党は働き方改革関連法や参院定数を「6増」する改正公職選挙法など、問題を数多く抱える法を熟議なく強引に成立させた。政府が提出する法案や行政機関に対する立法府としてのチェック機能に課題を残した。
立憲民主党の枝野幸男代表は20日の衆院本会議で、安倍内閣不信任決議案の趣旨説明を2時間43分にわたって行った。枝野氏は、不信任の理由は「数え切れないほどある」としたうえで、森友・加計学園問題など7点を挙げて「この国会は民主主義と立憲主義の見地から憲政史上最悪の国会になってしまった」と批判した。
そして、東京新聞。本日(7月21日)の社説が、厳しく力のはいったものとなっている。
国会あす閉会 政権の横暴が極まった
通常国会があす閉会する。与党は延長会期中、国民への影響が懸念される「悪法」の成立を強行する一方、森友、加計問題の解明にはふたをしてしまった。安倍政権の横暴が極まったのではないか。
あす会期末を迎える通常国会はきのう事実上閉会した。実質的な最終日、与党が成立を図ったのがカジノを中核とする統合型リゾート施設(IR)整備法案だった。
そもそも刑法が禁じる賭博を一部合法化する危険性や、ギャンブル依存症患者を増やす恐れがある法案だ。地域振興や外国人の集客に本当に役立つのか、審議を通じても疑問は解消されない。法案成立後に政令などで決める事項が約三百三十項目にも上る。そんな法案を成立させていいのか。
延長国会の期間中、西日本を豪雨が襲い、二百人以上が亡くなった。猛暑の中、多くの被災者が生活再建を急ぐ。避難生活を余儀なくされている方は依然多い。
生活再建や復旧、復興に向けた策を練り、法の不備を補い、予算を確保することこそが、国会が優先すべき課題ではなかったか。
しかし、会期末の限られた時間は安倍政権が優先した「カジノ法案」の審議に費やされ、寸断された道路や鉄道、堤防が決壊した河川を所管する石井啓一国土交通相が答弁に追われた。災害対策より賭博か、との批判が出て当然だ。
西日本豪雨では、気象庁が厳重警戒を呼び掛けた五日夜、自民党議員が「赤坂自民亭」と題する宴会を開き、安倍晋三首相や小野寺五典防衛相らが参加していた。
豪雨発生時から緊張感を持って災害対応に当たっていたのか、疑問を抱かせる振る舞いだ。
与党は延長国会で参院議員定数を六増やし、比例代表の一部に優先的に当選できる「特定枠」を導入する改正公職選挙法も成立させた。法律が求める抜本改革に程遠く、「合区」対象選挙区で公認漏れした自民党現職議員の救済策にほかならない。こんな制度をつくり、恥じることはないのか。
森友学園をめぐる問題では財務省の公文書改ざんが明らかになり、佐川宣寿前国税庁長官による国会での偽証も指摘されている。加計学園は愛媛県に嘘(うそ)をついたと主張する。国民の多くが疑念を抱くのに、与党はなぜ事実を解明しないのか。政治権力を集める首相や官邸への配慮なのか。
国会で多数を占めれば、何をやっても許される。政権がそんな考えで国会を運営したとしたら、国民を愚弄するにも程がある。
確かに、数を恃んだアベの横暴の国会。しかし、当初はこの国会に「憲法改正原案の発議」がなされる恐れが報じられていたのだ。1か月余の会期を延長してなお、今国会に憲法改正原案の発議はできなかった。衆参両院の憲法審査会も実質審議の場となっていない。そもそも、自民党案さえ確定に至っていない。
昨夕、安倍晋三は、通常国会の実質閉会を受けて、官邸で記者会見し、改憲について「九月の自民党総裁選で大きな争点になる」と強調した。自民党がまとめた自衛隊明記など改憲四項目の条文案に関しては「(各党間で)取りまとめを加速すべきだ」と述べ、与野党に発議に向けた議論を呼び掛けた。と報道されている。
何度でも繰り返したい。改憲派にとっては、「アベが総理総裁でいるうち、改憲派の議席が両院ともに3分の2を超えているうち」が千載一遇のチャンスなのだ。
「アベが失脚する」か、「改憲派の議席が衆参のどちらかで3分の2を割る」ことになれば、改憲の危機は遠のくことになる。
アベ政権は、今国会で悪法成立の強行と引き換えに、「憲政史上最悪の国会」「国民を愚弄するにも程がある」との酷評にも晒されているのだ。アベ改憲の阻止は、十分に可能と考えられる。
(2018年7月21日)
自民党としてお願いしたい。名は体を表すと思われているではないか。「カジノ実施法案」とか「カジノ推進法案」では人聞きが悪い。聞こえのよいように「IR法案」と言ってもらいたい。あるいは「統合型リゾート整備法案」とね。
えっ? IRでは何のことだか分からない? 正確な法案名は、「特定複合観光施設区域整備法案」さ。もっと正確に言えば、既に成立した「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」にもとづいて、これを実施するための具体化法案。余計に分からなくなった? そこが付け目なんだが、分かり易く本質を衝いたネーミングだと、「民間賭博経営解禁法案」というべきなんだろうな。あるいは、「ギャンブル依存症蔓延法案」かな。本当のことを言っちゃあ、身も蓋もないけどね。
今日(7月19日)参院の内閣委員会を強行突破したから、この悪評さくさくの法案も何とか成立に持ち込めそうだ。
反対派の皆さん、この法案に目を通したことがおありかな。第1条に立派な目的が書いてある。立派すぎて少し恥ずかしいが、よく読んでいただきたい。だが、いかにも長い。読んでるうちに分からなくなる。実はそれが狙いなのだが、少しでも読み易いように、体裁を整えて改行してみよう。
第1条(目的)
この法律は、
我が国における人口の減少、国際的な交流の増大その他の我が国を取り巻く経済社会情勢の変化に対応して我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展を図るためには、国内外からの観光旅客の来訪及び滞在を促進することが一層重要となっていることに鑑み、
特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(平成二十八年法律第百十五号。以下「推進法」という。)第五条の規定に基づく法制上の措置として、
適切な国の監視及び管理の下で運営される《健全なカジノ事業》の収益を活用して、《地域の創意工夫》及び《民間の活力》を生かした特定複合観光施設区域の整備を推進することにより、
我が国において国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現するため、
特定複合観光施設区域に関し、国土交通大臣による基本方針の作成、都道府県等による区域整備計画の作成、国土交通大臣による当該区域整備計画の認定等の制度を定めるほか、カジノ事業の免許その他のカジノ事業者の業務に関する規制措置、カジノ施設への入場等の制限及び入場料等に関する事項、カジノ事業者が納付すべき国庫納付金等に関する事項、カジノ事業等を監督するカジノ管理委員会の設置、その任務及び所掌事務等に関する事項その他必要な事項を定め、
もって『観光及び地域経済の振興に寄与』するとともに、『財政の改善に資する』ことを目的とする。
お分かりかな。キーワードはいくつもあるが、メインとなるのは《健全なカジノ事業》だ。《倫理観にあふれた自民党議員》とか、《忖度しない官僚》と同様の、矛盾・撞着ゆえにあり得ない概念。カジノとは、賭博のことだ。〈健全な賭博〉とは、そりゃいったい何だ、という疑問はもっともだ。
しかし、この法案の目的にあるとおり、「我が国を取り巻く経済社会情勢の変化」は待ったなしなのだ。これまでの常識では生き抜いていけない。賭博が不健全だという常識の間違いに気付かなければならない。《倫理観にあふれた自民党議員》がいるはずもないという常識も疑っていただきたい。
資本主義の今の時代、自分のカネをどう使おうと自由ではないか。何を買おうと、どこに投資をしようと、誰に寄付をしようと、ドブに捨てようと、文句を言われる筋合いはない。ならば、賭博に金を投じるのも非難されることではないだろう。そりゃ、自己責任の世界のこと。
賭博が何も生み出さないのは明らかだ。全財産を失う奴も出てくるだろう。借金漬けの問題もある。暴力団の資金源にもなり得るし、社会の風俗は乱れ、勤労意欲は確実に低下する。もしかしたら、一日パソコンに張り付いているデイトレーダーとカジノに入り浸りで一攫千金を夢みる若者が社会にあふれるかも知れない。でも、それでどうだというんだ。資本主義的自由とはそんなものだろう。個人も社会も、堕落する自由がある。自由民主党の「自由」とは、搾取の自由だけではなく、堕落の自由も意味しているのさ。
強調したいのは、この評判の悪い「民間賭博経営解禁法案」を推進しているのは、自民党だけではないこと。まずは仲間の公明党だ。「平和の党・福祉の党」と言っていたこともあったようだが、今は昔の看板だけ。公明党の国交大臣が先頭に立ってやっていることは、戦争のための辺野古新基地の建設と、このギャンブル依存症製造の賭博解禁法案の推進だ。どちらもまことに公明党に担ってもらうのにお似合いの任務ではないか。そして大阪に賭博場誘致を目論む維新も強固な推進派だ。
もっとも、こんなに評判の悪い法案にアベ自民党がどうしてこだわっているのか。いくつも理由はあるのだが、アメリカからの指示が大きい。もともとアメリカは、自民党筋のご主人様だし、日本外交の失敗から、アベ総理はトランプに大きな借りを作ってしまっている。そのトランプのスポンサーがアメリカのカジノ業界。そのご意向には逆らえない。だから、「今回のカジノ実施法案によって、歴史上初めて民営賭博を合法化しようとしている」のだ。売国奴と言われたり、民意に耳を傾けないとさんざんだが、またまた、「丁寧にご説明申しあげる」と言うあの手で、きっと切り抜けられるさ。なにしろ、有権者の怒りは持続しないんだものね。
(2018年7月19日)
沖縄県が防衛局申請のサンゴ移植を許可したことが、私の参加する複数のメーリングリストに紹介され、賛否の意見が飛び交っている。
昨日(7月14日)の琉球新報記事は以下のとおり。
「県、サンゴ採捕許可 防衛局申請 食害対策条件付き 反対市民が5時間抗議」
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-761509.html
「米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設で、県水産課は13日、埋め立て予定海域にある絶滅危惧種のオキナワハマサンゴ9群体を別の場所に移植するため沖縄防衛局が申請していた特別採捕を許可した。防衛局は食害対策のかごを設置してから14日以内にサンゴを移植することになる。ただ、かごの設置には、さらに県の同意が必要としている。移植されれば工事が進み、知事の承認撤回の方針に「逆行する」との批判の声も上がっている。
今回許可した希少サンゴは2月に特別採捕が許可された後、食害の跡が見つかって不許可になり、防衛局は3月20日と4月5日に再申請した。県が許可の判断を防衛局に伝えた13日、工事に反対する市民が県庁を訪れ、約5時間にわたって県水産課に抗議した。
県は防衛局の食害対策を妥当と判断した。県水産課の粟屋龍一郎副参事は「ずっと審査して説明要求もした。内容を精査した結果、許可に至った」と述べた。
防衛局は辺野古海域で約7万4千群体のサンゴを移植対象とし、準絶滅危惧種のヒメサンゴ1群体や小型サンゴ約3万8760群体や大型サンゴ22群体なども、移植のための特別採捕を申請している。
沖縄タイムス記事は、以下のとおりだ。
「埋め立て海域の「オキナワハマサンゴ」採捕、沖縄県が許可 辺野古新基地」
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/283504
沖縄県名護市辺野古の新基地建設を巡って、翁長雄志知事は13日、埋め立て海域で見つかった「オキナワハマサンゴ」9群体を別の場所に移植するため、沖縄防衛局が申請していた特別採捕を許可した。翁長知事はこれまで、採捕許可を新基地建設を阻止する権限の一つとして掲げてきており、工事に反対する市民らが「埋め立ての進展につながる」と県に強く抗議した。移植されれば来月中旬以降にも始まる埋め立てが加速する可能性が高い。
許可したのは環境省の絶滅危惧種リストに掲載されているハマサンゴで、防衛局は3月20日に1群体、4月5日に8群体の採捕許可を申請していた。
移植期間は、防衛局が移植先にサンゴを保護するための籠を設置してから2週間。週に2回モニタリングし、県に報告することなどを条件とした。
県の担当者は、許可の可否を判断する標準処理期間の45日を大幅に経過した理由について、「希少なサンゴで知見もなかった。申請内容にも疑問があり、防衛局に説明を求め、その回答内容の精査に時間を要した」と答えた。
日本自然保護協会の安部真理子主任は「移植に適さないと専門家からの提言があったにもかかわらず、なぜそれを無視する形でサンゴの産卵期にあたる今、許可を出したのか」と疑問を呈した。
琉球新報と沖縄タイムスの両記事。ずいぶんと印象が異なる。
見出しだけだと、「反対市民が5時間抗議」とした琉球新報記事が、辺野古新基地反対派の立場から県の許可に批判的な印象となっている。しかし、琉球新報記事の内容は、「県は十分な技術的検討を行った結果、サンゴ保護策に格別の支障がないとの結論に至ったから、移植許可やむなしとなった」と思わせるものとなっている。
これに対して、沖縄タイムス記事は、見出しこそ穏当だが自然保護団体の「移植に適さないと専門家からの提言を無視する形でサンゴの産卵期にあたる今許可を出した」との意見の紹介が、鋭い県政への批判となっている。
県の真意ははかりがたい。確かに、行政処分である以上は、他事考慮は許されず、環境保護の施策として万全であるなら、許可はやむを得ない。しかし、「当該サンゴは移植に適さないと専門家からの提言があった」ということとなると、話しはちがってくる。少なくとも、その「専門家からの疑念」が払拭されるまで許可を留保すべきではなかったか。
たまたま本日(7月15日)糸数慶子参院議員にお話を聞く機会があって、率直に質問してみた。当然に、「この時期に許可を出すべきではなかったのではないか」とのニュアンスが滲む質問となった。そして、「オール沖縄としては、どうお考えか」が聞きたいところ。
回答は、必ずしも歯切れのよいものではなかった。翁長知事の健康問題が生じて以来、知事と沖縄選出国会議員団との意見交換の機会が十分に持てていないということでもあった。そうか、質問先がまちがっているのだ。県の判断なのだから、糸数さんにではなく、県の担当者に聞いてみなければならない。「オール沖縄」は一体という思い込みがそもそもの間違い。
「オール沖縄」は、保革の溝を超えて作られた微妙な政治的連合体だ。今、米・日政府の理不尽に対して、「辺野古新基地を造らせない」との一致点での統一戦線。安保についても、自衛隊についても、あるいは運動スタイルについても、意見さまざまな幅の広い党派やグループが参加している。「オール沖縄」が翁長県政を支えているとはいえ、「オール沖縄」が県の方針を決めているわけでも指導しているわけでもない。
それでも、思い出す。今年6月23日沖縄慰霊の日の「沖縄全戦没者追悼式」における翁長知事の「辺野古新基地はつくらせない」という決意を。来賓の安倍を睨みつけるごとき眼差しを。
糸数さんの講演も、11月知事選挙への翁長知事再出馬への期待に収斂するものだった。そして、本土の人々への我が事として捕らえなおしていただきたいという訴え。耳が痛い。何ができるだろうか。何をなすべきだろうか。
いま、私たちがなすべきことは、沖縄にこの理不尽を押しつけている安倍政権を掘り崩すことなのだろう。北朝鮮危機を煽り、「国難選挙」で掠めとった自民党の議席が、沖縄を苦しめ、憲法の危機を招いている。沖縄県政や「オール沖縄」との連帯とは、「アベ政治を許さない」との声を上げ続けること以外にはないように思う。
(2018年7月15日)
植村隆元朝日新聞記者が、櫻井よしこらを訴えた名誉毀損損害賠償請求訴訟(札幌地裁)が先週の金曜日(7月6日)に結審した。判決言渡は11月9日の予定。原告・弁護団そして支援者は意気軒昂である。
櫻井よしこや西岡力らは、産経や週刊文春、WiLLなどを舞台に、植村隆を「捏造記者」として攻撃した。櫻井や西岡に煽動されたネット右翼が、植村本人だけでなく、その家族や勤務先の北星学園までを標的に攻撃して、大きな社会問題となった。問題とされた植村隆の朝日の記事は、1991年8月のもの。常軌を逸したバッシングというほかはない。
ことは表現の自由やジャーナリズムのありかたにとどまらない。従軍慰安婦をめぐる歴史修正主義の跋扈を許すのか、安倍政権を押し上げた右翼勢力の民族差別やリベラル派勢力への攻撃を默過するのか、という背景をもっている。
私も、同期の友人たちと語らって、植村・北星バッシングへの反撃の声をあげた。そのときの率直な気持は、この社会の動向に、薄気味悪さだけでなく恐ろしさを感じていた。伝えられている、あのマッカーシズムの雰囲気を嗅ぎ取らざるを得なかったのだ。この訴訟、この判決は、この社会の健全さを占うものとしての重みをもっている。
リベラルバネが多少は働いて、いま櫻井よしこや西岡力の影響力は明らかに落ちてきている。判決が、植村ではなく櫻井よしここそが「捏造ジャーナリスト」であることを明らかにするものとなるよう期待したい。
「植村裁判を支える市民の会」が立派なホームページを作っている。
http://sasaerukai.blogspot.com/
そのサイトから、結審(2018年7月6日)の法廷と、2年前3か月前の第1回法廷(2016年4月22日)での、原告植村隆渾身の意見陳述を引用しておきたい。
植村の「私は捏造記者ではありません」との痛切な訴えは、歴史を捏造し修正しようとする者の鋭い指弾ともなっている。
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結審(2018年7月6日)法廷での意見陳述
今年3月、支援メンバーらの前で、直前に迫った本人尋問の準備をしていました。「なぜ、当該記事を書いたのか」、背景説明をしていました。こんな内容でした。
私は高知の田舎町で、母一人子一人の家で育ちました。豊かな暮らしではありませんでした。小さな町でも、在日朝鮮人や被差別部落の人びとへの理不尽な差別がありました。そんな中で、「自分は立場の弱い人々の側に立とう。決して差別する側に立たない」と決意しました。そして、その延長線上に、慰安婦問題の取材があったと説明していました。
その時です。突然、涙があふれ、止まらなくなり、嗚咽してしまいました。
新聞記者となり、差別のない社会、人権が守られる社会をつくりたいと思って、記事を書いてきました。それがなぜ、こんな理不尽なバッシングにあい、日本での大学教員の道を奪われたのでしょうか。なぜ、娘を殺すという脅迫状まで、送られて来なければならなかったのでしょうか。なぜ、私へのバッシングに北星学園大学の教職員や学生が巻き込まれ、爆破や殺害の予告まで受けなければならなかったのでしょうか。「捏造記者」と言われ、それによって引き起こされた様々な苦難を一気に思い出し、涙がとめどなく流れたのでした。強いストレス体験の後のフラッシュバックだったのかもしれません。
本人尋問が迫るにつれ、悔しさと共に緊張と恐怖感が増してきました。反対尋問では再び、あのバッシングの時のような「悪意」「憎悪」にさらされるだろうと思ったからです。
「そうだ、金学順(キム・ハクスン)さんと一緒に法廷に行こう」と考えました。そして、金学順さんの言葉を書いた紙を背広の内ポケットに入れることにしたのです。
この紙は、私に最初に金学順さんのことを語ってくれた尹貞玉(ユン・ジョンオク)先生の著書の表紙にあった写真付の著者紹介の部分を切り取ったものです。その裏の、白い部分に金学順さんが自分の裁判の際に提出した陳述書の中の言葉を黒いマジックで、「私は日本軍により連行され、『慰安婦』にされ人生そのものを奪われたのです」と書きいれました。
私の受けたバッシング被害など、金さんの苦しみから比べたら、取るに足らないものです。いろんな夢のあった数えで17歳の少女が意に反して戦場に連行され、数多くの日本軍兵士にレイプされ続けたのです。絶望的な状況、悪夢のような日々だったと思います。
そして、私は、こう自分に言い聞かせました。「お前は、『慰安婦にされ人生を奪われた』とその無念を訴えた人の記事を書いただけではないか。それの何が問題なのか。負けるな植村」
金さんの言葉を、胸ポケットに入れて、法廷に臨むと、心が落ち着き、肝が据わりました。
きょうも、金さんの言葉を胸に、意見陳述の席に立っています。
私は、慰安婦としての被害を訴えた金学順さんの思いを伝えただけなのです。
そして「日本の加害の歴史を、日本人として、忘れないようにしよう」と訴えただけなのです。韓国で慰安婦を意味し、日本の新聞報道でも普通に使われていた「挺身隊」という言葉を使って、記事を書いただけです。それなのに、私が記事を捏造したと櫻井よしこさんに繰り返し断定されました。
北海道新聞のソウル特派員だった喜多義憲さんは私の記事が出た4日後、私と同じように「挺身隊」という言葉を使って、ほぼ同じような内容の記事を書きました。記事を書いた当時、私との面識はなく、喜多さんは私の記事を読んでもいなかったのです。喜多さん自身が直接、金学順さんに取材した結果、私と同じような記事を書いた、ということは、私の記事が「捏造」でない、という何よりの証拠ではないでしょうか。その喜多さんは、2月に証人として、この法廷で、櫻井よしこさんが私だけを「捏造」したと決め付けた言説について、「言い掛かり」との認識を示されました。
そして、こうも述べられました。「植村さんと僕はほとんど同じ時期に同じような記事を書いておりました。それで、片方は捏造したと言われ、私は捏造記者と非難する人から見れば不問に付されているような、そういう気持ちで、やっぱりそういう状況を見れば、違うよと言うのが人間であり、ジャーナリストであるという思いが強くいたしました」この言葉に、私は大いに勇気づけられました。
1990年代初期に、産経新聞は、金学順さんに取材し、金学順さんが慰安婦になった経緯について、少なくとも二度にわたって、日本軍の強制連行と書きました。読売新聞は、「『女性挺身隊』として強制連行され」と書きました。
いま産経新聞や読売新聞は、慰安婦の強制連行はなかったと主張する立場にありますが、1990年代の初めに金学順さんのことを書いたこの両新聞の記者たちは、金さんの被害体験をきちんと伝えようと、ジャーナリストとして当たり前のことをしたのだと思います。私は金さんが、慰安婦にさせられた経緯について、「だまされた」と書きました。「だまされ」ようが「強制連行され」ようが、17歳の少女だった金学順さんが意に反して慰安婦にさせられ、日本軍人たちに繰り返しレイプされたことには変わりないのです。彼女が慰安婦にさせられた経緯が重要なのではなく、慰安婦として毎日のように凌辱された行為自体が重大な人権侵害にあたるということです。
しかし、私だけがバッシングを受けました。娘は、「『国賊』植村隆の娘」として名指しされ、「地の果てまで追い詰めて殺す」とまで脅されました。
あのひどいバッシングに巻き込まれた時、娘は17歳でした。それから4年。『殺す』とまで脅迫を受けたのに、娘は、心折れなかった。そのおかげで、私も心折れず、闘い続けられました。私は娘に「ありがとう」と言いたい。娘を誇りに思っています。
被告・櫻井よしこさんは、明らかに朝日新聞記者だった私だけをターゲットに攻撃しています。私への憎悪を掻き立てるような文章を書き続け、それに煽られた無数の人びとがいます。櫻井さんは「慰安婦の強制連行はなかった」という強い「思い込み」があります。その「思い込み」ゆえなのでしょうか。事実を以て、私を批判するのではなく、事実に基づかない形で、私を誹謗中傷していることが、この裁判を通じて明らかになりました。そして誤った事実に基づいた、櫻井さんの言説が広がり、ネット世界で私への憎悪が増幅されたことも判明しました。
「WiLL」の2014年4月号の記事がその典型です。金さんの訴状に書いていない「継父によって40円で売られた」とか「継父によって・・・慰安婦にさせられた」という話で、あたかも金さんが人身売買で慰安婦にされたかのように書き、私に対し、「継父によって人身売買されたという重要な点を報じなかった」「真実を隠して捏造記事を報じた」として、「捏造」記者のレッテルを貼りました。「捏造」の根拠とした「月刊宝石」やハンギョレ新聞の引用でも都合のいい部分だけを抜き出し、金さんが日本軍に強制連行されたという結論の部分は無視していました。
しかし、櫻井さんは、私の指摘を無視できず、2年以上経っていましたが、「WiLL」と産経新聞で訂正を出すまでに追い込まれました。実は、訂正文には新たな間違いが付け加えられていました。金さんが強制連行の被害者でないというのです。日本軍による強制連行という結論をもつ記事に依拠しながらも、その結論の部分を再び無視していました。極めて問題の大きい訂正でしたが、櫻井さんの取材のいい加減さが、白日のもとに晒されたという点では大きな前進だったと思います。支援団体の調べでは、この種の間違いが、産経、「WiLL」を含めて、少なくとも6件確認されています。
提訴以来3年5か月が経ちました。弁護団、支援の方々、様々な方々の支援を受け、勇気をもらって、歩んでまいりました。絶望的な状況から反撃が始まりましたが、「希望の光」が見えてきたことを、実感しています。
そして櫻井よしこさんをはじめとする被告の皆さん、被告の代理人の皆さん。長い審理でしたが、皆様方はいまだに、ご理解されていないことがあると思われます。大事なことなので、ここで、皆様方に、もう一度、大きな声で、訴えたいと思います。
「私は捏造記者ではありません」
裁判所におかれては、私の意見を十分に聞いてくださったことに、感謝しております。公正な判決が下されることを期待しております。
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第1回法廷(2016年4月22日)での原告意見陳述
■「殺人予告」の恐怖
裁判長、裁判官のみなさま、法廷にいらっしゃる、すべての皆様。知っていただきたいことがあります。17歳の娘を持つ親の元に、「娘を殺す、絶対に殺す」という脅迫状が届いたら、毎日、毎日、どんな思いで暮らさなければならないかということです。そのことを考えるたびに、千枚通しで胸を刺されるような痛みを感じ、くやし涙がこぼれてきます。
私は、2015年2月2日、北星学園大学の事務局から、「学長宛に脅迫状が送られてきた」という連絡を受けました。脅迫状はこういう書き出しでした。
「貴殿らは、我々の度重なる警告にも関わらず、国賊である植村隆の雇用継続を決定した。この決定は、国賊である植村隆による悪辣な捏造行為を肯定するだけでなく、南朝鮮をはじめとする反日勢力の走狗と成り果てたことを意味するものである」
5枚に及ぶ脅迫状は、次の言葉で終わっています。
「『国賊』植村隆の娘である●●●を必ず殺す。期限は設けない。何年かかっても殺す。何処へ逃げても殺す。地の果てまで追い詰めて殺す。絶対にコロス」
私は、足が震えました。
大学に脅迫状が送られてきたのは2014年5月末以来、これで5回目でした。最初の脅迫状は、私を「捏造記者」と断定し、「なぶり殺しにしてやる」と脅していました。さらに「すぐに辞めさせろ。やらないのであれば、天誅として学生を痛めつけてやる」と書いていました。
娘を殺害する、というのは、5回目の脅迫状が初めてでした。もう娘には隠せませんでした。「お前を殺す、という脅迫状が来ている。警察が警戒を強めている」と伝えました。娘は黙って聞いていました。
娘への攻撃は脅迫だけではありません。2014年8月には、インターネットに顔写真と名前が晒されました。そして、「こいつの父親のせいでどれだけの日本人が苦労したことか。自殺するまで追い込むしかない」と書かれました。こうした書き込みを削除するため、札幌の弁護士たちが、娘の話を聞いてくれました。私には愚痴をこぼさず、明るく振舞っていた娘が、弁護士の前でぽろぽろ涙をこぼすのを見て、私は胸が張り裂ける思いでした。
なぜ、娘がこんな目にあわなければならないのでしょうか。1991年8月11日に私が書いた慰安婦問題の記事への攻撃は、当時生まれてもいなかった高校生の娘まで、標的にしているのです。悔しくてなりません。脅迫事件の犯人は捕まっていません。いつになったら、私たちは、この恐怖から逃れられるのでしょうか。
■私への憎悪をあおる櫻井さん
櫻井よしこさんは、2014年3月3日の産経新聞朝刊第一面の自身のコラムに、「真実ゆがめる朝日報道」との見出しの記事を書いています。このコラムで、櫻井さんは私が91年8月に書いた元従軍慰安婦の記事について、こう記述しています。
「この女性、金学順氏は後に東京地裁に 訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」。その上で、櫻井さんは「植村氏は彼女が人身売買の犠牲者であるという重要な点を報じ」ていない、と批判しています。しかし、訴状には「40円」の話もありませんし、「再び継父に売られた」とも書かれていません。
櫻井さんは、訴状にないことを付け加え、慰安婦になった経緯を継父が売った人身売買であると決めつけて、読者への印象をあえて操作したのです。これはジャーナリストとして、許されない行為だと思います。
さらに、櫻井さんは、私の記事について、「慰安婦とは無関係の「女子挺身隊」と慰安婦が同じであるかのように報じた。それを朝日は訂正もせず、大々的に紙面化、社説でも取り上げた。捏造を朝日は全社挙げて広げたのである」と断定しています。
櫻井さんは「慰安婦と『女子挺身隊』が無関係」と言い、それを「捏造」の根拠にしていますが、間違っています。当時、韓国では慰安婦のことを「女子挺身隊」と呼んでいたのです。他の日本メディアも同様の表現をしていました。
例えば、櫻井さんがニュースキャスターだった日本テレビでも、「女子挺身隊」という言葉を使っていました。1982年3月1日の新聞各紙のテレビ欄に、日本テレビが「女子てい身隊という名の韓国人従軍慰安婦」というドキュメンタリーを放映すると出ています。
私は、神戸松蔭女子学院大学に教授として一度は採用されました。その大学気付で、私宛に手紙が来ました。「産経ニュース」電子版に掲載された櫻井さんの、そのコラムがプリントされたうえ、手書きで、こう書き込んでいました。
「良心に従って説明して下さい。日本人を貶めた大罪をゆるせません」
手紙は匿名でしたので、誰が送ってきたかわかりません。しかし、内容から見て、櫻井さんのコラムにあおられたものだと思われます。
この神戸の大学には、私の就任取り消しなどを要求するメールが1週間ほどの間に250本も送られてきました。結局、私の教授就任は実現しませんでした。
櫻井さんは、雑誌「WiLL」2014年4月号の「朝日は日本の進路を誤らせる」という論文でも、40円の話が訴状にあるとするなど、産経のコラムと似たような間違いを犯しています。
このように、櫻井さんは、調べれば、すぐに分かることをきちんと調べずに、私の記事を標的にして、「捏造」と決めつけ、私や朝日新聞に対する憎悪をあおっているのです。
その「WiLL」の論文では、私の教員適格性まで問題にしています。「改めて疑問に思う。こんな人物に、果たして学生を教える資格があるのか、と。植村氏は人に教えるより前に、まず自らの捏造について説明する責任があるだろう」
「捏造」とは、事実でないことを事実のようにこしらえること、デッチあげることです。記事が「捏造」と言われることは、新聞記者にとって「死刑判決」に等しいものです。
朝日新聞は、2014年8月の検証記事で、私の記事について「事実のねじ曲げない」と発表しました。しかし、私に対するバッシングや脅迫はなくなるどころか、一層激しさを増しました。北星学園大学に対しても、抗議メールや電話、脅迫状が押し寄せ、対応に追われた教職員は疲弊し、警備費は膨らみました。
北星学園大学がバッシングにあえぎ、苦しんでいた最中、櫻井さんは、私と朝日新聞だけでなく、北星学園大学への批判まで展開しました。
2014年10月23日号の「週刊新潮」の連載コラムで、「朝日は脅迫も自己防衛に使うのか」という見出しを立て、北星学園大学をこう批判しました。「23年間、捏造報道の訂正も説明もせず頬被りを続ける元記者を教壇に立たせ学生に教えさせることが、一体、大学教育のあるべき姿なのか」
同じ2014年10月23日号の「週刊文春」には、「朝日新聞よ、被害者ぶるのはお止めなさい “OB記者脅迫”を錦の御旗にする姑息」との見出しで、櫻井よしこさんと西岡力さんの対談記事が掲載されました。私はこの対談の中の、櫻井さんの言葉に、大きなショックを受けました。
「社会の怒りを掻き立て、暴力的言辞を惹起しているものがあるとすれば、それは朝日や植村氏の姿勢ではないでしょうか」
櫻井さんの発言には極めて大きい影響力があります。この対談記事に反応したインターネットのブログがありました。
「週刊文春の新聞広告に、ようやく納得。もし、私がこの大学の学生の親や祖父母だとしたなら、捏造で大問題になった元記者の事で北星大に電話で問い合わせるとかしそう。実際、心配の電話や、辞めさせてといった電話が多数寄せられている筈で、たまたまその中に脅迫の手紙が入っていたからといって、こんな大騒ぎを起こす方がおかしい。櫻井よしこ氏の言うように、「錦の御旗」にして「捏造問題」を誤魔化すのは止めた方が良い」
私はこのブログを読んで、一層恐怖を感じました。ブログはいまでもネットに残っています。
櫻井さんは、朝日新聞の慰安婦報道を批判し、「朝日新聞を廃刊にすべきだ」とまで訴えています。言論の自由を尊ぶべきジャーナリストにもかかわらず、言葉による暴力をふるっているようです。「社会の怒りを掻き立て、暴力的言辞を惹起している」のは、むしろ、櫻井さん自身の姿勢ではないか、と思っています。
■「判決で、救済を」
「言論には言論で闘え」という批判があります。私は「朝日新聞」の検証記事が出た後、複数のメディアの取材を受け、きちんと説明してきました。また、複数の月刊誌に手記を掲載し、自分の記事が「捏造」ではないことを、根拠を上げて論証しています。にもかかわらず、私の記事が「捏造」であると断定し続ける人がいます。大学や家族への脅迫もやむことがありませんでした。こうした事態を変えるには、「司法の力」が必要です。
脅迫や嫌がらせを受けている現場はすべて札幌です。櫻井さんの「捏造」発言が事実ではない、と札幌で判断されなければ、こうした脅迫や嫌がらせも、根絶できないと思います。
私の記事を「捏造」と決めつけ、繰り返し世間に触れ回っている櫻井さんと、その言説を広く伝えた「週刊新潮」、「週刊ダイヤモンド」、「WiLL」の発行元の責任を、司法の場で問いたいと思います。私の記事が「捏造」でないことを証明したいと思います。
裁判長、裁判官のみなさま。どうか、正しい司法判断によって、「捏造」記者の汚名を晴らしてください。家族や大学を脅迫から守ってください。そのことは、憲法で保障された個人の表現の自由、学問の自由を守ることにもつながると確信しています。
(2018年7月13日)
7月5日夜、大雨予報が出ているさなかの「赤坂自民亭」宴会。記録的豪雨の被害確認が進むに連れて、批判の声が高まってきた。東京新聞「こちら特報部」の影響力でもある。
矢面に立たされているのが、西村康稔官房副長官。なにせ、政権の防災担当なのだ。それが、大雨予報が出ているさなかの飲み会のツィッター写真を垂れ流したのだ。この写真は、自民党議員らの無能・無神経の「証拠写真」だ。
この西村を矢面に、安倍政権批判というのが真っ当な報道。たとえば、産経の見出しが、『西村康稔官房副長官「誤解与えた」 安倍晋三首相参加の飲み会写真』となっている。
もっとも、朝日が『豪雨前の「赤坂自民亭」写真投稿を陳謝 西村官房副長官』、毎日が『赤坂自民亭:西村副長官が謝罪 大雨予報中の飲み会写真で』と、政権批判を押し出していない。
時事は、こう配信している。
『西村官房副長官、「自民亭」投稿を陳謝=ツイッターは炎上』
「西村康稔官房副長官は11日、「赤坂自民亭」と称した懇親会の写真を自身がツイッターに投稿したことについて「大雨の被害が出ている最中に、まるで会合をやっているかのような誤解を与えてしまい、多くの方に不快な思いをさせてしまった。おわびを申し上げたいし、反省もしている」と述べた。BS11の番組収録で語った。
自民亭会合が開かれたのは5日夜。東・西日本で激しい雨が降り、気象庁は厳重警戒を呼び掛けていた。西村氏は10日に、「誤解を与えた」と番組と同じ趣旨の釈明をツイッターに投稿したのに対し、「誤解?」「酒盛りしていた事実がなくなるわけではない」などの批判が殺到している。」
「大雨の被害が出ている最中に、まるで会合をやっているかのような誤解を与えてしまい、多くの方に不快な思いをさせてしまった。おわびを申し上げたいし、反省もしている」とはいったい何だ。
「誤解を与えてしまい」は、釈明(言い訳)の常套句だがまことに不適切で見苦しい。誤解とは、真実とは異なる認識(印象)を与えてしまったということだが、いったい何が真実で、どのように誤解されたのか、まったく明らかにされていない。
「まるで会合をやっているかのような誤解」という表現は、「まるで会合をやっていなかったような誤解」を誘発しようという底意が見え見えで不愉快。宴会ないしは飲み会を「会合」と言っているのも姑息千万。
「会合をやったのが、まるで大雨の被害が出ている最中のことであるかのような誤解」と言いたいのなら、この政治家は相当にタチが悪い。何の反省もしていない。誰も、「大雨の被害が出ている最中」の宴会とは言っていない。大雨予報が出ているさなか、豪雨の警戒を要する時期での宴会を問題としているのに、意識的な論点すり替えが悪質なのだ。印象操作だけが問題で、何を反省すべきかを真剣に考えてはいないのだ。これが、自民党の政治家らしくもあり、安倍政権の一員らしくもある。
ところで、政治家が聖人君子であるわけはない。聖人君子然とした人物が政治家にふさわしいわけでもない。酒を飲んでいけないはずもない。酒を飲むなじゃない。酒の飲み方が問題なのだ。先日鬼籍に入った歌丸の「厩火事」の一節が教えてくれる。仲人が、髪結いのおサキに対して、おサキの亭主の酒の飲み方に苦言を呈する場面。歌丸は権力者には辛口の芸人だったという。
ちょいとおもしろくないことがある。4、5日前だった。近所に用があって、出掛けたんだよ。帰りがけにおまえの家の前を通ると、格子がこのくらい開いていた。物騒じゃないか。いるのかいって声をかけると、「旦那ですか。どうぞおあがりください」座布団を出してくれた、お茶を淹れてくれた。これはいいよ。どうぞお上がりくださいといいながら、前にあった御膳を脇へすっとどかした。このお膳の上をひょっとみて、あたしはおもしろくない。刺身が一人前とってあった、これはまあいいよ。徳利が1本乗ってたね。いいかい、飲むなじゃないよ、飲むなじゃないけれども。おまえの家業が髪結いだ。おまえさんが1日中油だらけになって、真っ黒になって、働いている。その留守に亭主が昼間から酒なんぞ飲んでいられたら、困るじゃないか。飲むなじゃない。おまえだって少しは行ける口なんだろ?仕事から帰ってきて、2人で1人前の刺身を半分ずつ、1合の酒を半分ずつ、差し向かいで飲んでてごらん。近所のものがこれをみたら、仲のいい夫婦なんてもんじゃない。それをおまえが一生懸命働いて、その留守に亭主がうちん中で酒なんぞ飲んでいられたんじゃ、困るんだよ。別れたほうがいい、お別れ、お別れ。
ちょいとおもしろくないことがある。7月5日のことだ。雨模様のぐずついた天気だった。テレビもラジオも、西日本には大雨の予報だった。去年もおととしも、いまごろの季節に豪雨があって、川が氾濫してたいへんなことになった。今年も同じことにならなきゃいいなと心配しながら、用があって赤坂の議員宿舎に寄ってみた。するってえと、いつもとは様子が違う。「自民亭」とか看板を掲げて飲めや歌えのどんちゃん騒ぎだ。この騒ぎをひょっとみて、あたしはおもしろくない。いいかい、飲むなじゃないよ、飲むなじゃないけれども。こんなときじゃないか。会期は延長して、強引にカジノ法案を通そうというときだ。財界の意向を汲んだ働かせ方改革も強行した。モリカケ問題では国政の私物化批判の声が高い。ウソと隠蔽の政治には国民の多くが安倍政権に呆れている。自民党議員が飲んで騒いで、浮かれているときではなかろう。それだけじゃない。大雨や洪水を心配しなければならない予報のさなかだ。ひるまは真っ黒になって働いている人々が、大雨と洪水を心配しているんだ。それを尻目に、政治家が安閑として、酒なんぞ飲んでいられたら、困るじゃないか。飲むなじゃない。本当に国民がよろこぶようなことをしてごらん。そうすりゃだれも文句のつけようはない。それをこれから大雨が降ろうというときだ。避難をしなけりゃならない人も出てくる。そんなときに、「自民亭」で政治家が酒なんぞ飲んでいられたんじゃ、困るんだよ。そんな奴ら選挙で落とした方がいい。さっさと落とせ。落としておしまい。
(2018年7月12日)
政治家とは因果な商売だ。商品は自分自身。これを高く売り付けたいから、セールストークが過剰となる。悪徳商法まがいの自己宣伝が横行する。「粉骨砕身、国民のために働かせていただきます」なんちゃって。所詮はセールストークなのだから馬脚を表すことになって、「嘘つき」と呼ばれる。その代表格が、「嘘つき総理」の安倍晋三。
政治家稼業は楽でない。行住坐臥、常に国民の目が光る。安閑と酒を飲んでもおられない。ときに、「こんなときに酒など飲んでいる場合か」と叱責される。とりわけ、危機管理が必要なときには国民の見方が厳しくなる。いま安倍晋三の「宴会優先」姿勢が指弾を受けている。
7月5日の夕刻、安倍晋三は東京・赤坂の議員宿舎で開かれた自民党議員との宴会に出席した。参加議員たちの楽しげに盛り上がっている様子を、何人もの参加議員自らがツイッターに投稿していた。
最初、この宴会は「安倍首相と法相が オウム死刑執行前夜の“乾杯”に批判噴出」(日刊ゲンダイ・7月7日)という形で批判の対象になった。
「正気なのか――。オウム真理教の教祖・麻原彰晃死刑囚ら7人の死刑が執行される前日の5日夜、安倍首相が、執行を命令した上川陽子法相らと共に赤ら顔で乾杯していたことが発覚した。ネット上で批判が噴出している。
安倍首相は同日夜、東京・赤坂の議員宿舎で開かれた自民党議員との懇親会に出席。上川法相や岸田文雄政調会長ら40人超と親睦を深めた。
この時の様子を、同席した片山さつき参院議員が写真付きでツイッターに投稿。〈総理とのお写真撮ったり忙しく楽しい!〉と呟いている。写真では、上川法相の隣で破顔一笑の安倍首相。とても、死刑執行前夜とは思えない。
さすがに、片山議員のツイッターには、〈どういう神経でどんちゃん騒ぎができるのか〉〈普通は気が沈んで口が重くなる〉〈ゾッとする〉と批判の声が寄せられている。
安倍首相と上川法相は一体、どんな気分だったのか。翌日、7人を処刑するのに酒を片手に笑顔、笑顔とは……この2人、人としておかしい。」
これは辛辣。政治家としての資質や能力の以前に、「人としておかしい」という根底的な批判。生命に対する畏敬の念を欠いた、「こんな人たち」が権力を司っていることに寒気を覚える。〈ゾッとする〉の表現に深く同感だ。
グリコは「一粒で2度おいしい」。一つの宴会が2度目の批判をうけることとなった。今度は、「自民議員ら『宴会ツイッター』の波紋 豪雨『想定外』で済むのか」(東京新聞・7月11日)という角度から。
さすが、「こちら特報部」。「安倍政権対応ちぐはぐ」「危機管理強調なのに緊張感なし」「緊急事態条項は不要」と大きな見出しが続いている。
「懸命な救助対策が続く西日本豪雨では、自民党幹部らが「初動」の釈明に追われている。関西などで避難指示などが相次いでいた五日夜、自民党議員が宴会を開き、安倍晋三首相らも出席。参加議員たちが楽しげな模様をツイッターに投稿していたためだ。42人の死者・行方不明者が出た九州北部豪雨はちょうど一年前だ。「想定外」で済む災害なのか。」というリード。
?「5日と言えば、近畿地方を中心に大雨が降り続け、気象庁が『記録的な大雨となる』と警告していたさなかだ。同日夜までに計16万人に避難勧告が出ており、あまりに場違いなツイッターには批判が殺到。」「そんな宴会を危機管理担当の西村官房副長官が喜々としてツイッターで報告するあたり、安倍政権の緊張感のなさを露呈している(政治ジャーナリスト鈴木哲夫)」…。
中にこんな一節が。これは書き留めておかねばならない。
「2016年の熊本地震の際には、前震の段階で、避難所の体育館から出て避難者が外にいるのを見た安倍首相が、『青空避難をやめさせて体育館に入れろ』と指示したが、館内の状況を判断した現場責任者が拒否。この体育館は本震の際、天井が落下した首相のリーダーシップで危うく数百人が義性になるところだった」
政治家一般が因果な商売だが、総理ともなればなおさらのことだ。その一挙手一投足が国民の監視の的となり、批判にさらされる。が、その失敗が明瞭になることは必ずしも多くはない。この熊本地震の際の愚かなリーダーシップ発揮の失敗は極めて分かり易い。そして、7人死刑前夜の宴会、大災害徴候ある中での大はしゃぎ。
結局は、安倍晋三の人間性に問題があり無能で嘘つきという資質が露わになっているのだ。しかも、こんな首相のやることの失敗が、実は国民の目につかぬ形で積み重なっているのではないか。あらためて、〈ゾッとする〉。
(2018年7月11日)