澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

在外国民の最高裁裁判官国民審査制限は違憲(東京高裁判決)

(2020年6月30日)
6月25日、東京高裁(阿部潤裁判長)が、「在外邦人の最高裁裁判官国民審査制限は違憲」という判断を含む判決を言い渡した。当事者は「勝訴」の二文字を掲げて、記者会見に臨んだ。もっとも、一審では認められた慰謝料請求が高裁では棄却となり、主文だけでは「敗訴」の判決。

同判決は理由中に、「次回までに制度の改善なく(原告らが)投票不能なら、国賠法上の違法となる」とわざわざ書き込んでいるという。次回総選挙は目前ではないか。上告の有無にかかわらず、政府はこの判決に応えて、早急に臨時国会を開いて「最高裁判所裁判官国民審査法」の改正を行うべきである。いずれ、この時期に最高裁裁判官の国民審査が話題に上るのは結構なことだ。

この事件の原告になっているのは、米国在住の映画監督想田和弘さんら5人。煩わしさに負けず、費用負担にもめげず、このような提訴をする人がいるから新たな判例も生まれ、制度も改善される。想田和弘さんらの行動に敬意を表したい。

在外邦人の選挙権行使制限の問題については、「在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件」と名を冠した訴訟の05年9月14日大法廷判決で決着済みである。

96年10月20日総選挙当時において、在外邦人に一切の在外投票を認めなかった公職選挙法の規定は、憲法15条、43条、44条に違反すると判断し、しかも「原告らが次回の選挙において選挙権を有することの確認を求める訴え」の適法性を認めて認容した。のみならず、国会の立法不作為(為すべき立法を怠ること)に過失あることまで認めて、慰謝料5000円の支払を命じた。

この最高裁判決の後、衆参両院の選挙については、在外邦人の選挙権行使が可能となったが、総選挙の際に行われる最高裁裁判官の国民審査には投票できない状態が続いて、2017年国民審査についての合違憲が争われることになった。

昨年(2019年)5月の東京地裁一審判決(森英明裁判長)では、その違憲性を認めた上で、国の立法不作為の責任をも認めて、原告1人当たり5000円の慰謝料を賠償するよう命じていた。

その一審判決によれば、国民審査を巡って2011年に東京地裁で同種訴訟の判決があり、海外から国民審査に投票できないことを「合憲性に重大な疑義がある」と指摘していたという。にもかかわらず、その後も国が立法措置を講じなかったことについて2017年の国民審査で審査権を行使できなかった事態に至ったことを正当化する理由はうかがわれない」と非難。「長期間にわたる立法不作為に過失が認められることは明らか」として、国の賠償責任を認定している。これは、立派な判決。

この度の控訴審判決は、国会の責任(立法不作為)を認めず賠償請求を棄却した。この点、必ずしも立派な判決とは言いがたい。

しかし、控訴審判決には、国民審査の意義を「司法権に国民の意思を映させ、民主的統制を図るための制度だ」との指摘があるという。選挙権の保障と同様、その制限にはやむを得ない事情が必要だとした。

しかも、審査権は選挙権と同様、「権利行使の機会を逃すと回復できない性質を持ち、賠償では十分に救済されない。」「次回審査で審査権が行使できなければ違法になると認めた」。制度の改正を急げとの、メッセージであろう。

とかく影が薄いと言われる最高裁裁判官の国民審査だが、主権者国民が最高裁裁判官を見守っているということを確認する貴重な機会である。

どんな経歴のどんな人物が最高裁裁判官になって、どんな裁判をしてきたのか。有権者によく知ってもらうことが必要である。日本民主法律家協会は、国民審査の都度、その努力を重ねてきた。

そして、裁判官の来歴を知ってきっぱりと×を付けよう。よく分からない場合に、何の印も付けずにそのまま投票してしまえば、全裁判官を信任したことになる。よく分からない場合には、躊躇なく全員に×をつけることだ。何しろ、今や全最高裁裁判官が安倍内閣の任命によるものなのだから。

切られた尻尾のうごめきに目を奪われることなく、トカゲのアタマを押さえねばならない。

(2020年6月28日)
河井克行・案里の運動員買収の実態がほぼ明確になりつつある。検察のリークだけではなく、メディアによる追及もめざましい。何より、世論の糾弾が厳しく、被買収者が否定しきれない空気を作っている。そのことが、「買収ドミノ」「告白ドミノ」といわれる現象を生んでいる。

だが、これまで明らかになりつつあるのは、河井夫妻から地元議員への金の流れだけである。これは、事案の半分でしかない。もっと重要なのは、安倍晋三ないしは自民党中枢から河井夫妻への、買収原資となった金の流れの解明である。いったい誰が、どのような意図をもって、いつ、どのようにこの金額を決め、送金したのか。

この点については、検察のリークも、メディア追及の成果も表れてはいない。世論の糾弾も厳しさも不十分で「告白ドミノ」も存在してはいないのだ。はたして検察は、この点に切り込んでいるのだろうか。メディアはどうだろうか。

トカゲの尻尾切りを、生物学では「自切」というそうだ。非常の時に、トカゲは自ら尻尾を切る。尻尾は容易に切れる構造になっており、切っても出血はせず、やがて再生する。外敵に襲われたとき、自切し尻尾は、しばらく動き回ることで外敵の注意を引きつけ、その隙に本体は逃げることができるのだ、という。これ、アベトカゲの常套手法。本体を守るために、尻尾を切り捨てるのだ。「責任は尻尾限り」と言わんばかりに、である。

今また、安倍晋三は河井という尻尾を切り捨てた。この切り捨てられてうごめく2本の尻尾にばかり注意をとられていると、その隙に本体が逃げおおせてしまうことになりかねない。腐ったアタマをこそ、押さえねばならない。

ところで、たまたま明るみに出た広島の地方保守政界の選挙事情。ドップリ、金が動き金で動く体質をさらけ出した。これは、ひとり広島だけのことなのだろうか、また自民党だけの問題だろうか。広島だけの特殊事情であり、アベ・溝手確執の特殊事情故のこととは思いたいところだが、おそらくはそうではあるまい。

インターネットテレビ局ABEMAに、『ABEMA Prime』という報道番組がある。そこに、かの勇名を馳せた元衆議院議員・豊田真由子が出演して、埼玉4区(朝霞市・志木市・和光市・新座市)でも、事情は大同小異であったと語っている。一昨日(6月26日)のことだ。

埼玉4区は、関東都市圏の一角、けっして保守的風土が強い土地柄というわけではない。ここでの選挙事情は、日本中似たようなものであるのかも知れない。

豊田真由子は、「とある先輩議員から、『ちゃんと地元でお金を配ってるの? 市長さん、県議さん、市議さんにお金を配らなくて、選挙で応援してもらえるわけがないじゃないの』と叱られ、びっくりしたことがある。選挙の時に限らず、この世界は桁が違うお金が動いているんだと、5年の間に感じた」と告白したという。さらにこう言っている。

「私はお金も無かったので、(自民)党からの1000万円と親族からの借金などでやったが、収支報告書を見た他の議員さんに『本当にこれでやってんの? どうやって勝ったの? 市議会議員選挙並みだね』と笑われるくらいだった。ど根性で地べたを這いつくばることで、だんだんとお助けをいただけるようになっていったが、必ずしもそうではない地域があるし、『お金をくれないんだったらあなたを応援しないよ』という方もいる。やっぱりそういう風習のようなものが日本の政治にはあるし、国会議員の選挙というのは、地元の市長さんや県議さん、市議さんに応援してもらわないと、非常に戦いにくい、厳しいということだ。議員さんに世襲の方や大きな企業グループのご子息が多いのも、そうではないとやっていけない世界だからだ」。

わが国の政治風土と、有権者の民度を語る貴重な証言である。そのような、票と議席の集積の頂点に、腐ったアタマが乗っかっている。切られた尻尾のうごめきに幻惑されることなく、この際本体のアタマを押さえなければならない。

30万円の現金授受に添えられた『安倍さんから』の強烈なインパクト

(2020年6月26日)
昨日(6月25日)の中国新聞の報道が、「克行容疑者『安倍さんから』と30万円 広島・府中町議証言」というものだった。これは、強烈なインパクト。

この証言をしたのは、案里容疑者の後援会長を務めたベテラン府中町議・繁政秀子(78)。中国新聞の報道は、以下のとおり詳細でリアリティ十分である。なぜ、ここまで話す気持になったのか、その説明はない。

 繁政町議は中国新聞の取材に、参院選公示前の昨年5月、克行容疑者から白い封筒に入った現金30万円を渡されたと認めた。現金を受け取った理由について、自民党支部の女性部長に就いており「安倍さんの名前を聞き、断れなかった。すごく嫌だったが、聞いたから受けた」と振り返った。

 繁政町議によると、克行容疑者が現金を差し出したのは、案里容疑者が参院選前に広島市中区へ設けた事務所だった。克行容疑者から呼ばれ、2人きりになった時に白封筒を示された。

 気持ちの悪さを感じてすぐに「いただかれません。選挙できんくなる」などと断ったが、「安倍さんから」と言われ、押し問答の末に受け取ったという。現金は今も使っていないとして「返したい。とても反省している」と話した。

 繁政町議は同じ県内の女性議員として案里容疑者とつながりがあり、後援会長を引き受けたという。選挙戦では出陣式や個人演説会でマイクを握り「心を一つにして素晴らしい成績で当選させてほしい」などと支持を呼び掛けていた。

 今のところ、克行らが買収先に、金を渡した相手は94名に及ぶという。その中で、ひとり繁政町議だけに『安倍さんから』と言ったというのでは不自然極まる。その他の議員や首長にも、現金を交付する際に、『安倍さんから』と申し添えたものと一応の推認が可能である。

実際、昨年7月参院選公示前には、首相の秘書団が案里議員の陣営に入り、企業や団体を回っていたと報じられている。そのような事情のもとでの『安倍さんから』には自然なリアリティがある。『安倍さんから』ではなく、「総理からです」「総裁からのお金です」、あるいは「これ、党本部から」だったかも知れない。なにも言わないのが、よほど不自然であろう。いずれ、安倍晋三と結びつけられた現金の授受に意味があったのだ。

2019参院選広島選挙区(定数2)の選挙結果は、以下のとおりである。

1位当選 無所属現 森本真治 (推薦:立民・国民・社民)
得票 329,729(32.3%)

2位当選 自民新  河井案里 (推薦:公明)
得票 295,871(29.0%)

3位落選 自民現  溝手顕正 (推薦:公明)
得票 270,183(26.5%)

2位と3位の自民票の合計は、566,054票(55,5%)であって、自民(+公明)の総得票数は2議席獲得には足りない。河井と溝手とは、票を食い合って、2位争いをしたことになる。その結果、5期目を目指した長老の溝手が新人の案里の後塵を拝して落選した。前回までは無風だった選挙区で、自民の陣営内での票の食い合いでは、豊富な実弾と『安倍さんから』の意味づけが効いたということだ。

『安倍さんから』のインパクトは、日本の民主主義へというだけのものではない。日本の国民や広島県民に対してだけのものでもない。安倍晋三と検察に対して、インパクトが大きいのだ。まずは、政治責任のレベルでの問題がある。実弾の原資が公認料1億5000万円だったことは、今さら覆うべくもない。溝手憎しで溝手を追い落とすために案里を擁立し、選挙資金を投入し、秘書団を派遣し、自らも応援演説に奔走した安倍晋三の責任は重大である。

それだけではない。安倍晋三の法的責任が追及されなければならない。「買収目的交付罪」(公選法221条1項5号)に当たる恐れがある。

公職選挙法は分かりにくい。弁護士の私も、隅々までよく分かっているわけはない。かつて公職選挙法違反被告事件の弁護をかなりの件数受任し、その都度それなりの勉強をして原理原則は心得ているつもりだが、細かいことまでは知らない。

この問題での野党ヒアリングで、郷原元検事が指摘して以来、「買収目的交付罪」が俄然話題となってきた。私は、今回初めてその罪名を知った。

公職選挙法221条は、おなじみの選挙買収の処罰規定である。最高刑は懲役3年。
その1項1号によって、克行の「(案里の)当選を得しめる目的をもつて選挙運動者(94名の地方議員等)に対し金銭を供与することが犯罪となる。これが、典型的な、運動員買収罪である。

さらに、同条同項第5号は、克行の運動員買収罪成立を前提に、「運動員(地方議員等)買収をさせる目的をもつて選挙運動者(克行)に対し金銭交付をした」者を処罰する。これが、「買収目的交付罪」なのだ。買収資金の提供者を処罰して、クリーンな選挙を実現しようという立法趣旨と理解される。

では、いったい誰がこの買収資金の提供者なのだろうか。克行自身が口にした、『安倍さんから』の一言が有力が手掛かりとして浮上した。買収資金提供者は、安倍晋三ではないのか。案里選挙には、自民党内での常識的公認料の10倍の資金が注ぎ込まれた。これは、最高幹部の裁断なくしてはできないこと。安倍か、二階か、あるいは菅か。その3人の他にはあるまい。

しかも、この常識外の多額な選挙資金の提供は、実弾込みの金額として認識されていたのではなかったか。安倍晋三は、この疑惑を晴らさなければならない。そして、ここまで捜査が進展した以上、検察も引き下がれない。政権からの独立に関する国民の信頼がかかっているのだ。「『安倍さんから』と30万円」のインパクトは、とてつもなく大きいのだ。

梅雨の晴れ間、徒然なるままに。

(2020年6月16日)
関東は6月11日に梅雨入り。平年より3日遅れだという。梅雨の晴れ間の早朝には、不忍池をめぐらねばならない。まず目につくのは、咲き誇る盛りの紫陽花。なんとも多種多様、色とりどりが楽しい。

アジサイは、日本の固有種とのこと。語源はいろいろあるようだ。「あづさあい(集真藍)」が転訛したものというのが、万葉かなの表記を根拠にした有力説らしい。ほかにも、「あづ(集まって)咲く」が語源との説も、「厚咲き」が転じたものとの説もあるという。

かつて、「紫(ムラサキ)」とは、「群れて咲く」花のことだと教えられて衝撃を覚えた。どうしてそれまで、気付かなかったのだろう。万葉の昔、関東平野には、「ムラサキ」が群生していたのだ、「ムラサキ」の花は白いが、その根から取れる染料の鮮やかな色を「紫」と名付けたのだ。今は、そのムラサキを目にすることはない。梅雨の季節、紫陽花にこそ「ムラサキ」の名がふさわしい。紫陽花の色をこそ、「紫」と呼ぶべきではないか。

いま、蓮池にはびっしりと蓮の葉が敷き詰められている。蓮の葉群落の、密生・密集・密叢である。蓮の華はまだ咲かない。目を凝らして、昨日(6月15日)一本の茎に小さな固い蕾があるのを見つけた。珍しげに見ていると、…「出たー」。噂の薀蓄おじさんである。「私は、今日は7つのツボミを見つけましたよ」「3日前からツボミが出ていますね」「最初の開花は、あと4?5日でしょう」「昨年よりもずいぶん遅れています」「一昨年は、記録的に早い開花で6月6日でした」と、貴重な情報。親切な薀蓄おじさんに教えられた場所で、15日には合計5個の蕾をメーッケた。そして本日(6月16日)は11個。中には、もうすぐ咲きそうな薄く紅がかった蕾も。

自宅から不忍池に直行するには、赤門から入って鉄門に抜ける、東大キャンパス横断コースが便利なのだが、今このコースがとれない。コロナ自粛以来赤門は、学外者通り抜け禁止となっている。加賀藩上屋敷の時代さながらに通行人は誰何される。遠回りの面倒はこの上ない。生協への買い物にも行けない。いつまで続く、東大自粛。

そういえば、6月15日の山本太郎出馬記者会見の見せ場。記者から、小池百合子の学歴詐称疑惑への感想を聞かれてサラリとかわし、「凄いですねー。カイロ大学の首席卒業だなんて。今度の都知事選立候補は、東大卒が二人(宇都宮と小野)でしょう。私だけが中卒」と笑い飛ばした。さすがに役者である。

私には、「れいわ」も「新選組」も、とても真面目なネーミングとは思えない。しかし、難しい記者の質問を逸らさず真面目に答え、ときには困ってみせる、山本の態度を好もしく思う。宇都宮陣営や野党の批判をせずに、周りの者を陽気に元気づける雰囲気を持っている。

2012年の都知事選。宇都宮陣営のキックオフ集会は、中野ZEROホールで開いた。このとき、山本太郎がゲストとして挨拶している。舞台の上で、彼は持ち前の明るい声で、「宇都宮さん、原発は全部止めなきゃだめですよね。止めましょうね」と語りかけた。そのきっぱりとした物言いが印象的だった。どう返答したらよいのか、さっぱり要領を得ない宇都宮とのコントラストが際立っていた。あれからもう8年に近い。

通常国会閉会後には、速やかな河井克行・案里両議員の徹底捜査と起訴を。

(2020年6月12日)
今国会(第201通常国会)の予定された会期終了が近づいている。野党は攻勢的に「この非常時に国会を閉じるな」とスローガンを掲げているが、与党側は徹底した逃げの姿勢である。国会での追及に自信を喪失した政権の末期症状。今のままでは17日(水)に閉会となる。

コロナと検察庁法に揺れた今国会、検察庁法改正の頓挫はアベ政権の凋落を象徴する出来事だった。コロナ禍のリアルなデモが成立しにくい不利な状況が、ツィッター・デモという新たな抗議の手法を生みだし、専門家を勇気づけた。

2度に渡る検察OBの連名の意見書の影響力も大きかった。このような、幾重もの政権包囲網の中で黒川検事長賭けマージャン疑惑発覚となって、法案は潰えた。まだ廃案確定とはなっていないが、政権には大きな痛手である。もしかしたら、致命傷になるかもかも知れない。というのは、政権の守護神喪失は今後への影響が大きいと考えられるからだ。当面、その影響は河井克行・案里両議員の刑事訴追の在り方に表れる。

国会会期中の議員に対する強制捜査はやりにくい。6月17日閉会となれば、その直後から昨年参院選での河合案里陣営における選挙違反捜査が本格化する。河井克行・案里両議員の不逮捕特権はなくなるから、その逮捕もあり得ないではない。

メディアは、「検察当局が公選法違反(買収)の疑いで河井克行氏を立件する方針を固めた」と報じている。少なくとも2000万円といわれる現金ばらまきの古典的「買収」の容疑である。これが、この間まで、法務大臣だった人物の容疑なのだ。

地方議員など多くの人が、被買収側として任意の調べを受けており、捜査進展の模様もリークされている。今のところ1億5000万円とされているこの選挙資金の出所は自民党本部であって、この異例の巨額支出に総裁安倍晋三が関わっていないはずはない。

参院広島選挙区で6選を目指した自民現職の溝手顕正は反安倍の急先鋒としてアベ晋三から嫌われ、そのために「安倍晋三が、自分に近い河井克行の妻案里擁立を画策した」とされる。だから金をばらまき、選挙事務の運営には、安倍事務所の秘書4人が投入された。アベ・菅らの党幹部が何度も広島へ応援に入ってもいる。河井夫妻起訴は、アベに対する最大限のダメージとならざるを得ない。

選挙では、案里が当選し溝手は落選という、アベ晋三の思惑通りの結果となったが、派手な金権選挙の付けがまわってきた。捜査と起訴がどこまで及ぶのか。安倍晋三としては、ここでの「官邸の守護神」の働きを期待していたはずだが、思惑がはずれて、今や守護神はない。世論と検察OBに背中を押されて、稲田検事総長は政権にとっての貧乏神となる肚を固めているのやも知れない。

問題は、単にアベ政権にとっての検察の在り方ではない。行政権力から独立して、権力に怯むことなく公正かつ厳正にその任務を遂行する検察本来の在り方が問われている。

《小池百合子》と《学歴詐称》は密接・密着・濃密な関係。 ー 野党にチャンス、『プランB』ではなく『プランA』の候補者を。

(2020年6月6日)
6月18日告示の都知事選が目前である。私は、差別を容認し思想・良心を蹂躙して顧みない石原慎太郎知事以来の都政に我慢がならない。小池百合子都政を変えるために有力な「勝てる候補」の擁立を心から願っている。

「市民と野党の共闘」が高揚するいま、その課題は現実的なものと考えていたのだが、どうやら期待外れになりそうだという。報じられているところでは次のような事情だという。

野党四党は当初、統一候補の擁立を目指した。立民の蓮舫参院議員や前川喜平元文部科学次官の名前が挙がったが、いずれも立ち消えになった。新型コロナの感染が拡大し、都の対策の陣頭指揮を執る小池氏の存在感が一気に高まったからだ。れいわ新選組の山本太郎代表も統一候補としての出馬を検討したが、立民と合意に至らなかった。
 立民が独自候補にこだわって小池氏に惨敗すれば、衆院選の野党共闘に痛手となることから…共産、社民との共闘の形を整えるため、無所属で出馬を表明している宇都宮氏の支援を事後に決める「プランB」(同)に落ち着いた。(東京新聞)

 「プランA」があったのだ。そのプランでは、蓮舫・前川喜平・山本太郎などの錚々たる顔ぶれがリストアップされていた。しかし、結局のところ意中の人は首を縦に振らず、「プランA」は儚く潰えた。やむなく、勝てそうにもない候補者だが、不戦敗よりはマシの形作りのために、「プランB」としての候補者選択を余儀なくされたということなのだ。「プランB」とは言い得て妙だが、意中の人ならぬ「Bクラス」「Bランク」「B面」の候補者の擁立である。

注目すべきは、「プランA」を採用できなかった理由が、「新型コロナの感染が拡大し、都の対策の陣頭指揮を執る小池氏の存在感が一気に高まったからだ」ということである。はたしてその通りだろうか。

確かに、コロナを追い風にした現職の強みは圧倒的で不戦勝に等しいというのが、つい先日までのもっぱらの下馬評だった。ところが、いま雲行き急変の様子がある。猪瀬直樹や舛添要一に対する突然のバッシングの嵐が記憶に新しい。小池百合子が「排除いたします」というたった一言でそのカリスマ性を喪失した事件もあった。この妖しい雲行き、突然の豪雨にもなりかねない。

本日(6月6日)の毎日新聞朝刊に、伊藤智永論説委員の「時の在りか=小池都知事再選を危ぶむ」が衝撃的である。その一節を引用する。なお、全文が、下記URLで読める。
https://mainichi.jp/articles/20200606/ddm/005/070/029000c

 女性評伝の名手である石井(妙子)氏が、3年半かけて取材した新著は、5月末刊行の「女帝 小池百合子」。即重版の売れ行きらしい。3カ月前から東京オリンピック延期やコロナ感染症対策で張り切る東京都知事の半生を徹底的に跡付けた力作だ。
 一読、暗たんとなる。400ページを超える長編で、何人もが次々と小池氏に同じ言葉をぶつける。
 「裏切り者! ウソつき!」
 政治家の恨み言なら同情もしないが、これが国会議員時代前半に地元だった兵庫県の阪神大震災被災者、環境相当時の水俣病認定漏れ患者、アスベスト(石綿)被害者、築地中央卸売市場の豊洲移転に反対した「築地女将さん会」メンバーの叫びなら、そうはいかない。
 政治にウソや裏切りはつきもの、といった訳知り顔にはくみしない。例えば故野中広務元官房長官は政争をいとわず、怖がられ、孤独でも、有権者からこのようにののしられることはなかった。仮にあったら、何とかしようと骨折ったはずだ。
 小池氏はほったらかす。追いすがる相手に手ひどい矢を放つ。そんなエピソードがふんだんにある。
 震災被災者の陳情を、議員会館で指にマニキュアを塗りながら顔を上げずに聞いて言ったそうだ。
 「もうマニキュア、塗り終わったから帰ってくれます?」

昨日(6月5日)の講談社のネット記事。《「学歴詐称疑惑」再燃の小池百合子…その「虚飾の物語」を検証する》 「『女帝 小池百合子』著者が真相を語った。」というインタビューも、インパクト十分である。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73063

インタビュアー近藤大介と、石井妙子とがこんな遣り取りをしている。

近藤 小池百合子氏は、生まれてこの方、一体いくつのウソをつき続けてきたのだろうと、石井さんの本を読みながら数えていったものの、50くらいまで来てやめました。「嘘八百」という言葉があるけれど、本当にこの本には800くらいのエピソードが詰め込まれているかもしれません。まさに「虚飾の政治家」です。

石井 この政治家(小池百合子)は、ウソにウソを塗り重ねたことで現在があるということが、次第にはっきりとわかってきたんです。ある時は自己顕示欲を満たすため、ある時は自己防衛のためにウソをつく。その後、それを隠そうと土を掘って埋めるけれど、隠そうとするあまり、土をかぶせすぎてしまうので、かえって、土が盛り上がり、そこにあるウソが透けて見える。そんなイメージでした。

具体的問題は、小池百合子の学歴詐称「カイロ大学首席卒業」の嘘である。実は、「首席」が嘘というだけではない。そもそも「卒業」が嘘というのだ。

近藤 「(小池氏は)カイロ大学は1976年の進級試験に合格できず、従って卒業はしていません」はっきりとこう述べている。これが事実なら、小池氏は完全な公職選挙法違反です。

石井は、この点の取材の様子を詳細に語って説得力十分である。

石井と並んで、これまで小池百合子の学歴詐称問題を追及してきたのが、作家の黒木亮。5月30日に、ネットに以下の記事を出している。これも、説得力十分である。

カイロ大学の深い闇…小池百合子が卒業証書を「出せない」理由 「捏造」が当たり前の驚くべき実態
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72912

この二人の調査を前提に、6月2日元検事の郷原信郎がこんな記事を書いている。

小池百合子氏「卒業証明書」提示、偽造私文書行使罪の可能性
https://news.yahoo.co.jp/byline/goharanobuo/20200606-00182101/
「都知事選、小池百合子氏は「学歴詐称疑惑」を“強行突破”できるか」
その記事の中で、郷原はこう語っている。

 「カイロ大学卒」の学歴が虚偽である疑いが、石井氏の著書、黒木氏のネット記事で、改めて指摘されている中、疑問に答えることなく、これまでどおり・選挙公報の経歴欄に「カイロ大学卒」と堂々と記載することができるのだろうか。
 しかし、それを記載しないで、「正直」に、「カイロ大学中退」などと記載した場合、それまで、「カイロ大学卒業」としてきたことの虚偽性を認めることになる。小池氏にとって、それは政治生命の終焉を意味する。
 小池氏にとっての選択肢は、何らかの理由を付けて再選出馬を断念するか、立候補し、従前どおり「カイロ大学卒業」の学歴を選挙公報に記載して都知事選「強行突破」を図るかの、いずれかである。

 わずか4日前のこの指摘が、今にわかに注目度を上げている。小池百合子はこの都知事選に、いかなる学歴を記載して立候補するつもりだろうか。どのように学歴を記載しても、小池百合子と学歴詐称とは、密接・密着・親密・濃密な関係として定着するだろう。

かつて、立花隆の調査報道になる「田中角栄研究 その金脈と人脈」が、田中角栄を退陣に追い込んだ事件を思い出す。既に、この書を引いての小池百合子の学歴詐称追及が始まっている。もしや、と思わせる展開である。

そこで、申し上げたい。今や、小池百合子はけっして強い候補者ではない。「プランAの候補者」であれば十分に勝機はある。まだ、時間はのこされている。せっかくの勝機をみすみす逃すことのないよう、市民運動と野党の皆さんには賢明な再考を願う。

《呼びかけ人会議》に申しあげる。「宇都宮健児君を野党共闘の都知事選候補者として推薦することはお控えください」

(2020年5月31日)
共産党都委員会のホームページに昨日(5月30日)アップされた記事の一部を転載する。

【都知事選】臨戦態勢/革新都政の会が方針

革新都政をつくる会は29日、代表世話人会を東京都豊島区で開きました。告示まで20日に迫った都知事選(6月18日告示、7月5日投開票)で、市民と野党の共闘で都政を転換するため、臨戦態勢の確立を進める方針を確認しました。

日本共産党の田辺良彦都委員長が発言し、野党間の協議の現状を報告。元日弁連会長の宇都宮健児氏が立候補を表明したことについて、「基本政策は私たちと共有できる。たたかい方について、よく話し合っていこう」と語りました。また、野党統一候補の実現に努力するとしました。

同会の中山伸事務局長は、都政転換に向けた「呼びかけ人会議」(浜矩子・同志社大学大学院教授ら)の訴えに応え、草の根で呼びかけ人・賛同人を増やす活動に取り組んできたと報告。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除された下で、呼びかけ人会議主催の「変えよう東京」会合(6月3日)を成功させるとともに、「パンフレット『都知事選挙 私たちの提案』『都民の目で見た小池都政黒書』の普及を軸に、職場・地域・団体の臨戦態勢を確立しよう」と述べました。6月8日に臨時総会を開くことを提起しました。

共産党都委員長が語る、「(宇都宮君の)基本政策は私たちと共有できる。たたかい方について、よく話し合っていこう」「野党統一候補の実現に努力する」とは何とも、不可思議な表現。保守には、こういう明晰さを欠いた政治的表現が目につくが、共産党にはこんな物言いは似合わない。

「たたかい方について、よく話し合っていこう」は、いったい誰と誰との、どのようなたたかいについて、何を目指しての「話し合い」を呼びかけているのだろうか。

まさかとは思うが、宇都宮君を意中の候補として「彼を野党統一の候補者とするたたかい方について、つくる会内でよく話し合っていこう」「宇都宮の野党統一候補の実現に努力する」ということと読めなくもない。

仮に、共産党主導で宇都宮君の野党統一候補(ないしは野党共闘候補)実現があればという仮定の話だが、そんなことになれば2020都知事選は革新陣営にとっての形づくりだけの消化試合でしかなくなる。彼を統一候補とした途端に、多くの都民は革新側に都知事選を本気で闘う意欲がないとみるだろう。事実上の選挙戦放棄である。

過去2度の都知事選に出馬して、惨敗した候補者である。負け馬の3度目の出馬に勝利の目はない。誰が見ても、本気で勝ちに行く選挙にふさわしい候補者ではないのだ。

彼の過去の2度の知事選の得票は、2012年97万票(当選した猪瀬直樹は434万票)、14年98万票(当選した舛添要一は211万票)である。いずれも、100万に届かない。前回都知事選では、あのバッシングの嵐の中で鳥越俊太郎は135万票(当選した小池百合子は290万票)を得ている。

東京の基礎票が弱いのでやむを得ないのかと言えば、そんなことはない。参院東京選挙区(6議席)では、蓮舫一人で171万票(2010年)を得票した実績がある。同氏は2016年の選挙でも112万票を獲得している。これには及ばないものの、共産党の参院東京選挙区での得票数も、以下のとおりなかなかのもの。
2013年(吉良佳子)71万票、16年(山添拓)67万票、19年(吉良佳子)70万票。

2014年総選挙の東京ブロックでの野党各党の得票数は、以下のとおりである。
民主党94万票、共産党89万票、社民党12万票。合計では195万票になる。この基礎票あって、宇都宮(統一)候補では100万に届かないのである。

野党共闘が成立して、基礎票に共闘効果としてのプラスアルファの上積みを期待し、これに魅力的な候補者と目玉になる政策の押し出しがあれば、…都知事選はけっして勝てないたたかいではない。

何よりも、都民の目から見て「革新共闘が今度は本気で勝ちを狙っている」と感じさせるだけの清新で有力な候補者の擁立が不可欠である。宇都宮君には、最初の出馬表明時にはその片鱗があった。しかし、選挙戦進展の中で、候補者としての資質の欠如、魅力の欠如を露わにして歴史的な惨敗をした。いま、政党が宇都宮を推薦するとなれば、都民の目には「この選挙捨てたな」と見られるしかない。

しかも、彼は前回都知事選にも革新共闘の協議を無視して3度目の立候補をし、告示直前に立候補を断念したものの、革新共闘には背を向け続けている。今回また、革新共闘とは距離を置くことを公言して憚らない。到底、革新共闘が一致して押すことのできる候補ではない。

まさかとは思うが、念のために「呼びかけ人会議」に申しあげたい。
真に革新陣営の共闘を大切する立場を貫くならば、市民と野党の共闘に背を向けてフライングの立候補宣言をした宇都宮健児君を共闘候補として推薦してはならない。共産党が、「基本政策は私たちと共有できる」と、さらにフライングを重ねたこの事態では、なおさらのことである。

仮に宇都宮君を共闘候補として推薦するようなことになれば、市民運動が主導して野党共闘を作るという、いま、成功しつつある貴重な枠組みに大きな傷を残すことになる。くれぐれも、よくお考えいただきたい。

そして、共産党にも一言申しあげたい。
無理をしてまで、今回都知事選に形だけの野党共闘にこだわる必要があるのだろうか。この時期、野党共闘にふさわしい候補者を得られないとすれば、共産党が単独推薦できる、清新で魅力的な候補者は何人もいるではないか。ことここに至って、やむなく宇都宮君で都知事選をということではなんとも虚しい。本気になって、党の政策を独自候補で押し出すたたかいを組むべきではないだろうか。

河井案里の議員失職は当然として、問題は河井克行起訴が実現するかである。

広島地検が、自民党・河井案里参院議員の選挙運動員3名を逮捕したのが3月3日。その勾留期限が24日に迫っている。昨日(20日)来、処分内容の見通しが、各メディアで語られている。いずれも、「関係者への取材で明らかに」とされているが、地検の意図的なリークがあったと見るべきだろう。各メディアの見出しが同じ方向のものとなっている。

共同通信配信記事の見出しが、「河井案里秘書 連座制視野に起訴へ」と端的であり、朝日が「案里氏秘書ら、連座制対象と判断か 百日裁判申し立てへ」、毎日が「公選法違反事件、連座制を視野 地検、百日裁判申し立てへ 河井案里議員、失職も」と順次詳細である。この3本の見出しで、大方の内容は把握できよう。

当ブログでも、この問題を下記のとおり3度取りあげている。

哀しいかな、議席もカネで買える現実がある。河井案里を当選させた、巨額の「安倍マネー」。
 https://article9.jp/wordpress/?p=14179  (2020年1月23日)

河井案里選挙違反事件でざわつく党内。自民党内からのアベ批判。
 https://article9.jp/wordpress/?p=14198  (2020年1月26日)

広島地検は、徹底して河井案里選挙の違法を追及せよ。政権への忖度などあってはならない。
 https://article9.jp/wordpress/?p=14443  (2020年3月8日)

報じられているところを整理すれば、以下のとおり。

逮捕された被疑者は、次の3人である。

 立道 浩(54) 案里の公設第2秘書(現在) 広島市在住

 参院選公示前に車上運動員調整役の事務担当となり、選挙カーの遊説ルート作りなどを担い、案里当選後に秘書になった。車上運動員の手配や街頭宣伝のスケジュール管理、運動員への報酬支払も担当した。

 高谷真介(43) 河井克行前法相の政策秘書 東京都在住

 選挙運動を実質的に仕切ったとされる河井克行(前法相)と案里陣営とのパイプ役で、違法な報酬を車上運動員の仲介役に伝えた 候補者の遊説の統括や広報を担当、日当3万円の「河井ルール」適用について克行から了解をとり、昨年5月22日に現場に伝えた。

 脇 雄吾(71) 案里陣営幹部 広島市在住

 選挙対策事務所の事務長として選挙を取り仕切った。昨年6月11日に日当3万円の最終確認をウグイス嬢に伝えている。

被疑事実は公選法違反(運動員買収)

 車上運動員14人に公選法が定める日当の上限(1万5000円)を超える報酬計204万円を支払った。

連座制の適用

 3名のうちの少なくとも1人を連座制の対象者に当たるとして起訴し、連座制の適用に向け、迅速に裁判を進める「百日裁判」を広島地裁に申し立てる方針。有罪が確定すれば、案里議員の当選は無効となり失職する。

この件を取り巻く状況は、当初とは劇的に変わった。黒川検事長定年延長と検察庁法改正問題が出来して以来、この件の処分如何が、検察庁の政権に対する独立性に関する試金石となっているからだ。広島地検は、この件の処分に関していささかの妥協も許されない。妥協は、安倍政権に対する忖度と指弾されざるをえないのだ。

報じられているところでは、地検が連座制の適用を意識した起訴に及ぶことは確実と思われる。これで、案里議員の失職は見えてきた。問題は、予てから「本丸」とささやかれてきた、河井克行元法相の立件の有無である。報道では「地検は違法な報酬の決定に克行氏が関与したかどうかも慎重に調べている。」「克行氏が選挙の実務の全てを取り仕切る実質的な最高責任者であると述べている供述調書もある」「現場では、ほぼ証拠は固まりつつある。後は上の決断ではないか。」

前法相起訴となれば、政権へのインパクトは大きい。厳しくその任命責任が問われることになる。安倍晋三にしてみれば、こういうときにこそ検察トップに頼りになる人物が欲しいのだ。河井の次は、いつ自分の問題になり得るか心配なのだから。あらためて、権力から真に独立した、公正・中立な検察業務を願う。

(2020年3月21日)

広島地検は、徹底して河井案里選挙の違法を追及せよ。政権への忖度などあってはならない。

自民党河井案里参議院議員の公設秘書ら3人が公職選挙法違反で逮捕されたね。検察もやるときはやるってことじゃない?

さあね。この先を見極めないとなんとも言えないんじゃないかな。

でも、河井案里の選挙運動は安倍首相肝いりだったと報道されているよ。自民党からは1億5000万円も資金がつぎ込まれ、安倍の秘書まで動員されたというじゃない。そこに踏み込んだのだから、広島地検も相当の覚悟のように見えるけど。

自民党現職として同じ選挙区に立候補して落選したのが岸田派の溝手顕正。こちらの陣営も河井案里の派手な選挙活動には驚いたそうだね。溝手には、党から1500万円しか届けられていない。なにせ10倍の資金だから、目立ち過ぎて検察も動かざるを得なかったのかも知れない。

夫の河井克行が選挙を取り仕切ったと言われているでしょ。この人は参院選当時の法務大臣。しかも、安倍・菅の身内の子分みたいな存在。検察も手を着けるのにためらいを感じたはず。そこに手を着けたということは、検察も意地を見せたんじゃないの。

安倍政権は不祥事満載じゃないか。モリ・カケ・サクラ、カジノ、管原・河井。それに入試疑惑もある。これだけあって、手を着けているのは、カジノ疑惑の小物と、この河井案里案件だけじゃないか。とても「検察よくやった」なんていう気にはなれない。

それでも、安倍首相にしてみれば、河井案里選挙違反に関しては、検察が自分の思うままにならないといういらだちがあるんじゃないの。

検察という機構は、時の総理大臣をも、強制捜査して起訴する権限がある。総理に忖度していては公正な職務を全うできない。

それはそうね。モリ・カケ・サクラ、カジノに入試疑惑と数えると、安倍晋三とその直近に、嫌疑がかかってくる事件だものね。

河井案里案件処理の関心のひとつは、逮捕された公設秘書を起訴して、公職選挙法上の「総括責任者」として有罪に持ち込めるか。それができれば、連座制の適用で河井案里の議席は剥奪となる。もう一つは、報道では選挙を取り仕切っていた河井克行を起訴できるかだ。これを有罪にできれば、この議員の衆議院での議席を剥奪できることになる。これは、安倍政権にインパクトが大きい。

黒川検事長の定年延長は、安倍自身が、身の灰色を自覚しての布石ということなのかしら。

そうとしか考えられないというほどの異常なやり口だから、このままだと検察の権威は地に落ちるね。まずは河井案里事件がどうなるかだけれど、これだけでは、とても検察よくやったとは言い難い。

案里の件は、「ウグイス嬢に規定を超える報酬を支払った疑い」とされているけど、自民党内には、「誰でもやっていることで大したことではない、法律の方が現実に合わない」という声もあるようだけど。

まったく嘆かわしい。選挙というものの基本が分かっていない。選挙運動というものは、本来が主権者である有権者国民が行うものであって、無償が大原則だ。車上運動員に、1日15000円の日当支払いを認める法律の方がおかしいんだ。

選挙運動のアルバイトという感覚がおかしいのね。案里の選挙では30000円の領収書は作れないから2枚に分けて、収支報告書には15000円分のものだけ記載していたそうね。これを「河井方式」と呼んでいたそうだけど、案里の選挙運動に関わった全員が違法であることを承知していたんだ。

あなただって、この間の地方選のときには選挙カーに乗ってウグイスやったじゃない。日当はもらわなかったの。

選挙運動に日当なんて文化が違うわね。アルバイトじゃなくて、自分の推薦する候補者の選挙運動をするんだから日当をもらうなんて考えもよらなかった。あのときは、カンパの要請があったから、こちらから支払ってきたわよ。

案里の選挙では、ウグイス嬢への違法日当支払いだけでなく、票のとりまとめの報酬として96万円の支払いがあったとも報道されている。ウグイス嬢への違法日当支払も、票のとりまとめの報酬支払いも、運動員買収となる。カネを支払った者には運動員買収罪、日当名目でも報酬としてでもカネを受けとった者には被買収罪が成立する。カネを配ることは、犯罪者を作ることでもあって罪が深い。表に出ることはすくないが、現実にあることだ。

1億5000万円の選挙資金がいったいどう使われたのか。検察は、その全容を解明して、説明して欲しいね。安倍政権への忖度なしで。

そうしてこそ、政権から独立した検察だ。そして、再度確認しておきたいのは、選挙運動とは無報酬ですべきことだということ。選挙運動の対価として報酬を得れば犯罪となる。このことを肝に銘じなければならない。不当な弾圧などと言って通じることではない。

(2020年3月8日)

哀しいかな、議席もカネで買える現実がある。河井案里を当選させた、巨額の「安倍マネー」。

「週刊文春」本日(1月23日)発売号の広告が目を惹く。《秘書4人派遣「安倍丸抱え」で公選法違反》 「河井夫妻『買収』原資は安倍マネー1億5千万円だった」「入出金記録LINE入手」「安倍 菅 全面支援で振り込まれた軍資金はライバルの10倍」と、この上なくセンセーショナルなもの。河井案里選挙違反問題の根の深さが見えてきた。「桜」だけではない。案里疑惑も安倍政権を直撃しそうな雲行きということだ。

文春も、河井夫妻の車上運動員への超過報酬支払いを『買収』と確認の上、その買収資金の出所が「安倍マネー」だとしている。もちろん、安倍晋三のポケットマネーではない。自民党のカネの配分ではある。しかし、その金額が半端ではない。1億5000万円だというのだ。「ライバル」とは、同じく自民党から定数2の広島県選挙区に出馬して落選した溝手顕正前議員のこと。河井克行は長く首相補佐官を務め,安倍側近と言われた人物。お友達への配分は、「ライバル」の10倍という手厚い配慮。いかにも、安倍晋三のやりそうなこと。こうなれば、誰が見ても案里選挙資金は「安倍マネー」というほかない。

文春がネットで配信している記事によれば、2019年4月15日から6月27日までの3か月間に、5回に分けて合計1億5000万円が河井夫妻がそれぞれ主宰する政党支部に送金されているという。19年参院選の公示日が7月4日、投票日は7月21日だった。その直前の巨額送金。誰が見ても案里選挙への「安倍マネー」の投入である。しかも、安倍の秘書4人を投入しての「安倍丸抱え」選挙なのだ。

1億5000万円がいかに巨額か。職選挙法(194条)は、「選挙運動に関する支出金額の制限額」を定める。極端にカネで選挙結果が左右されることのないよう、金権選挙に総枠の歯止めが掛けられているのだ。

この金額は、参院選広島県選挙区(定数2)の場合は、《選挙人名簿登録者数÷定数×13円、に2370万円を加えた金額》とされている。

選挙当日における広島県の有権者数は235万人だから、
235万人÷2×13円+2370万円≒3898万円である。4000万円に満たない。

1億5000万円の送金額は、それだけで「選挙運動に関する総支出金額制限額」の3.75倍となる。この時期のこの金額の送金は、違法な金権選挙断行の意思表示と見るほかはない。哀しいかな、議席もカネで買えるのだ。河井案里を当選させたのはこの「安倍マネー」だったのだ。

この「巨額安倍マネー」は、どう使われたのだろう。選挙運動費用収支報告書に真実が記載されているはずはない。検察には、捜査を徹底して明らかにする責務がある。

なお、一点だけ付言しておきたい。この「安倍丸抱え」選挙運動の中で、車上運動員に対する、上限超の報酬の支払いをごく形式的な選挙犯罪でしかないという見方についてである。

有権者にカネを渡す行為は、票を金で買うものとして「選挙人買収」となる。これは分かりやすい。だがそれだけではなく、選挙運動をする者にカネを渡す行為も、「選挙運動員買収」として処罰の対象となる。考えて見れば当たり前のことだ。本来、選挙運動とはボランティアのすることで、無償が大原則である。カネを持つ者が、カネの力で選挙運動員を集め金にものを言わせた選挙運動で集票することを認めてはならないのだ。

車上の拡声器を通じての投票依頼は典型的な選挙運動である。本来、これも無償でなくてはならない。ところが、保守陣営では理念で選挙運動を行う無償の運動員を確保することができない。もっぱら保守陣営の都合で公職選挙法が改正され、「公職選挙法第197条の2」という規定ができ、いわゆる「ウグイス嬢」に対して、一日1万5000円までの報酬支払いが許容された。

本来運動員買収行為の例外規定である。その違反には厳格に対処しなければならない。この限度を越える支払いは、運動員買収となる。もちろん、対抗犯として、金を支払う方にも支払いを受ける方にも犯罪が成立する。安倍丸抱え河井案里選挙には、厳正な捜査と処罰が必要である。

(2020年1月23日)

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