澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

記事の解釈は「一般読者の普通の注意と読み方とを基準として」。

(2022年11月10日)
 昨日、東京地裁で興味深い名誉毀損事件判決が言い渡された。共同通信は、「産経新聞と門田隆将氏に賠償命令 森友記事、2議員名誉毀損」との分かり易い見出しで報じている。

 原告の2議員とは、立憲の小西洋之、杉尾秀哉両参院議員。この見出しのとおり、被告は産経新聞と門田隆将、メディアとライターである。請求は880万円、認容額は220万円であった。

 朝日の報道が的確な内容となっているが、その見出しは「『国会議員が職員つるし上げ』表現めぐり産経新聞と門田氏に賠償命令」というもの。この見出しは、不正確とまでは言えないが、ややミスリードではないか。「つるし上げ」という表現が問題になったわけではない。記事の日本語としての文意の理解如何が問題となった。朝日の報道は以下のとおりである。

 「学校法人森友学園への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざん問題を取り上げた、産経新聞への寄稿記事で名誉を傷つけられたとして、立憲民主党の小西洋之、杉尾秀哉両参院議員が、産経新聞社と筆者でジャーナリストの門田隆将氏に計880万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が9日、東京地裁(大嶋洋志裁判長)であった。判決は名誉毀損を認め、産経新聞社と門田氏に計220万円の支払いを命じた。

 記事は2020年10月25日付の朝刊に掲載。18年3月に財務省近畿財務局の職員が自殺した件に言及し「(両議員は)財務省に乗り込み、約1時間、職員をつるし上げている。当該職員の自殺は翌日だった」と記載した。一方、両議員が訪れたのは東京の本省で、自殺した職員には面会していなかった。

 判決は、『当該』との単語が使われ、連続した2文で構成されたこの文章を読めば『読者は、両議員が自殺前日にこの職員を集団的に批判、問責し、自殺の要因になったと理解する』と判断し…名誉毀損を認めた。」

 森友学園の決裁文書について、命じられた改ざん実行を苦に自殺した近畿財務局の元職員赤木俊夫さんの死をめぐる門田隆将の産経寄稿記事のなかに国会議員に対する名誉毀損表現があったとされて、訴訟になった。

 原告となった両議員が、門田の産経寄稿記事における名誉毀損表現として特定したのは、「(両議員が)財務省に乗り込み、約1時間、職員をつるし上げている。当該職員の自殺は翌日だった」という文章。原告両議員は訴訟で「この記事は我々が赤木さんをつるし上げ自殺に追いやったとする内容だ」「それゆえ、この記事は両議員の議員としての名誉を著しく毀損するもの」と主張。これに対し、被告両名は「つるし上げを受けた職員と自殺した職員が別人であることは、容易に理解できる」と反論した。

 判決は、「(この文章の)読者は、両議員が自殺前日にこの職員を集団的に批判、問責し、自殺の要因になったと理解する」と判断した。記事内のつるし上げられた職員と自殺した職員は同じ人物を示していると読み取れると認定。「国会議員としての社会的評価を低下させたのは明らか」と結論付けた。

 以下は、判決後の門田のツィッターである。悔しさが滲んでいるが、具体性に欠け、判決批判になっていない。

 「添付の私のコラムを読んで頂きたい。自殺した近畿財務局職員の上司に関する新聞の意図的報道を取り上げたものだ。これに何と“我々への名誉毀損”と訴えてきたのが立憲の小西洋之&杉尾秀哉両議員。どこが名誉毀損?と門前払いと思ったら司法は彼らの訴えを認めた。唖然…左傾化し正義を捨てた日本の司法」

 この判決をもって「左傾化し正義を捨てた日本の司法」とする悪罵に、「唖然…」とするしかない。

 2022年10月25日産経朝刊への門田寄稿の問題箇所は以下のとおりである。

 「国会で野党が安倍晋三首相や、佐川宣寿理財局長を糾弾し、同時に公開ヒアリングと称して官僚が吊るし上げられていたことを思い出してほしい。平成30年3月5日、福島瑞穂氏(社民)、森裕子氏(自由)ら野党は近畿財務局に乗り込み、数時間も居座り、押し問答を続けた。また東京では、翌6日、民進党の杉尾秀哉、小西洋之両氏が財務省に乗り込み、約1時間職員を吊るし上げている。当該職員の自殺はその翌日の7日だった。」

 この内の「また東京では、翌6日、民進党の杉尾秀哉、小西洋之両氏が財務省に乗り込み、約1時間職員を吊るし上げている。当該職員の自殺はその翌日の7日だった。」という文章をどう読むべきか。「6日、両議員は約1時間職員を吊るし上げている。当該職員の自殺はその翌日の7日だった。」という文章を素直に読めば、「6日に両議員が約1時間職員を吊るし上げ、吊し上げられた当該職員が翌日の7日に自殺した」という文意に読みとるしかないと思われる。

 判例は、一定の記事の内容が事実に反し名誉を毀損すべき意味のものかどうかについては、繰り返して「一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである」と判示している。
 
 昨日の東京地裁判決も、「一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断」して、門田の文章を『一般読者は、両議員が自殺前日にこの職員を集団的に批判、問責し、自殺の要因になったと理解する』と判断して…名誉毀損を認めたのだ。

 物書きに思い込みは禁物である。自分の文章を「一般読者の普通の注意と読み方とを基準として」どう理解されるかを弁えなければならない。「どこが名誉毀損?」「唖然…左傾化し正義を捨てた日本の司法」などと責任転嫁する以前に、である。

内閣支持率続落ゆえの「統一教会被害救済新法」成立へ見通し

(2022年11月9日)
 内閣支持率は低ければ低いほど良い。なまじ高支持率の内閣は傲慢となって、その奇っ怪な本性を現す。少しでもマシな政策を実行させるためには、支持率を低くしておくに限る。

 世論調査における岸田内閣の支持率低下に歯止めがかからない。結構なことだ。何とか手を打たなくてはならないとの思いからであろう。岸田は昨日突然に、統一教会の被害者救済新法の成立に本腰を入れることを表明した。今国会での法案提出に最大限努力するという。内閣支持率低迷も、被害者救済新法成立見通しも結構なことではないか。

 具体的な岸田の言は、「政府として、今国会を視野にできる限り早く提出すべく最大限の努力を行う」というもの。これに先立つて、公明党の山口那津男代表と官邸で会談。新法の主な内容について合意したという。これで、統一教会被害者救済新法は、議員立法でなく政府案として国会提出される見通しとなった。

 自民党議員とりわけ安倍派と教団との癒着を背景に、及び腰に見える取り組みが世論の離反を招いたため、岸田が態度を変えて厳しく対処する姿勢を押し出した、と報じられている。

 昨日首相は記者団に対し、新法の内容として、
(1) 社会的に許容しがたい悪質な寄付の勧誘行為を禁止、
(2) 悪質な勧誘行為に基づく寄付の取消しや損害賠償請求を可能とする、
(3) 子や配偶者に生じた被害の救済を可能とする
―の3点を挙げた。

 異存はない。早期の法案化を期待したい。

 もっとも、この急進展歓迎の一色ではない。先月24日に、迅速で適切な対応を求める声明を出した宗教研究者有志の代表で、北海道大大学院の桜井義秀教授(宗教社会学)は、被害者救済を急ぐ必要性を指摘しながらも、「旧統一教会の統制目的で、他の宗教団体に影響が及んでは意味がない」「宗教団体の組織存続の要は寄付や献金、布施であり、さまざまな団体が納得する形にするべきだ」と発言している。このような貴重な意見も踏まえて、法案はバランスの取れたものになるだろう。

 なお、首相は「私自身、旧統一教会の被害者の方々と内々にお会いし、凄惨(せいさん)な経験を直接お伺いした」と教団被害者に既に直接面会したと明らかにし、「政治家として胸が引き裂かれる思いがした」と言及。「政府として被害者救済と再発防止のために、更にペースを速め、範囲を広げて新たな法制度の実現に取り組む決意をした」と語った。政府関係者によると、首相は被害者3人と面会し、約1時間半にわたり話を聞いたという。揶揄することなく、「首相の言や良し」というべきである。これも、低支持率の賜物。

ハトのタマゴからタカが生まれた。瓜の蔓にトリカブトが生った。

(2022年11月8日)
 本郷三丁目の皆様、こちらは「本郷・湯島9条の会」です。月に1度の街頭宣伝活動です。少しの時間お耳を貸してください。

 ニワトリのタマゴからはニワトリが生まれます。ウズラのタマゴからはウズラが孵る。これが当たり前。ところが、鳩のタマゴから鷹が生まれる、という奇っ怪な現象が、今、われわれの目の前で起きています。これはタネもシカケもあるトリックに違いない。

 鳩のタマゴだったはずの岸田文雄。殻を破ってヒナとなって首相の座に就いたその姿をよく見たら、何と爪を研いだタカではありませんか。えっ? 何だこれは? すっかり日本国中が観客はだまされてしまっています。

 長く続いた安倍政権がようやく幕引きとなって菅政権となったとき、誰がどう見ても変わり映えはしませんでした。安倍から菅へ、ムジナからタヌキへ、政権がたらい回しとなったのです。嘘とゴマカシと私物化と、そして日本国憲法大嫌い、改憲したくてたまらないというその安倍の政治姿勢は、安倍政治の片棒を担いでいた菅に受け継がれました。多くの人がそう思い、ほぼ、そのとおりとなりました。

 菅政権の不人気で、ようやく安倍・菅政治に終止符が打たれたとき、今度こそは、多少は変わり映えのする、マシな政権ができるだろうと期待しました。タヌキやムジナの政治ではない、ハト派の政治が実現するのではないか。自民党内の良心に期待をした国民は多かったのではありませんか。私も、その一人でした。

 だれもが、岸田をハトのタマゴだとばかり思っていました。自民党だって、戦争大好き、改憲命の人間ばかりじゃない。鈴木善幸・宮沢喜一・加藤紘一・古賀誠等々の人脈に連なる岸田文雄ではありませんか。宏池会前代表の古賀誠などは、「憲法9条は日本の宝」「9条は日本最大の抑止力」「9条は世界遺産」とまで言っています。

 岸田が首相になれば、安倍菅政権とは違う色になる。「平和憲法を擁護して専守防衛に徹し、あらゆる国との平和外交を展開する」そんなイメージを振りまいたのです。

 ところが彼は首相になるや、「自らの任期中に自民党が党是とする憲法改正の実現を目指す」などと言い始めました。おやおやと思っている内に、国防費の2倍化です。そして、敵基地攻撃能力論です。「スタンド・オフ・ミサイル」など物騒なことも容認しようとしている。今や、専守防衛は有名無実となろうとしています。

 もしかしたら、岸田首相は、自分はハトだ。しかし、安倍派から、タカの振る舞いを強制されてやむを得ないのだ、と言いたいのかも知れません。

 もしそうなら、安倍と統一教会の癒着問題を徹底して暴くことで、安倍派の勢いを殺ぐことができるではありませんか。なんと言っても、日本国内で統一教会を容認し、育て、利用してきたのは、岸信介、安倍晋太郎、安倍晋三の三代なのです。党として、この癒着を徹底して抉り、暴露することで、岸田は、安倍のくびきから逃れて独自の道を歩むことができます。

 安倍の残影を恐れて、それができなければ、岸田はいつまでも、安倍の影に怯えるだけの人物に過ぎません。安倍の影とは、改憲・防衛費増強・核武装、そして分配よりは成長の、自己責任経済政策…。 

 これから暮れにかけて、政府は「安全保障3文書」を確定して発表します。岸田が、本格的な戦争政策に踏み切るかも知れないのです。皆さん、平和憲法を大切に、戦争勢力のタカ派を押さえ込む世論作りに、ご一緒に声を上げてください。

DHCテレビの『虎ノ門ニュース』は、間もなく放送を終了いたします。

(2022年11月7日)
 今日は、少し嬉しいニュースのお知らせである。DHCテレビの『虎ノ門ニュース』が、11月18日(金)に放送を終了するという。その裏側はまだ分からないが、目出度い話ではないか。

 デマ(D)とヘイト(H)とチート(C)と、そしてスラップで高名となったDHC。「DHCテレビ」はその100%子会社、代表取締役会長が吉田嘉明。事実上、DHCの一部門と言って良い。DHCと吉田嘉明が金を注ぎ込んだ、極右メディアである。

 そのキャッチフレーズは、『“既存のメディアに満足していない”全ての視聴者をターゲットに、地上波メディアでは “伝えない”内容を深く掘り下げた番組製作』という。要するに、「右翼の皆さん、ウチは思いっきり右寄り目線で、右翼にご満足いただける番組作りますから、見てね」というわけだ。

 DHCテレビの看板右翼番組が『虎ノ門ニュース』である。常連の出演者が、百田尚樹・ケントギルバート・有本香・竹田恒泰などという面々。この連中を「日本で最高レベルの知性を集結」などと言ってのける、お恥ずかしい限りの図々しさ。その『虎ノ門ニュース』が本日、下記の社告を出した。

「真相深入り!虎ノ門ニュース」番組終了のお知らせ

 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼を申し上げます。
 既に番組内において発表させていただいておりますが、この度「真相深入り!虎ノ門ニュース」は11月18日(金)をもって最終回とさせていただきますことを謹んでお知らせいたします。

 2015年4月1日の番組開始から7年7ヶ月、これまで番組配信を継続してこられましたことは、ひとえに視聴者の皆様の温かいご支援のおかげでございます。
 長きに渡り番組へのご愛顧を賜り、出演者ならびスタッフ一同、心より感謝申し上げます。

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 唐突な番組終了の理由は述べられていない。経営破綻ないし不振説・親会社(DHC)の資金投入打ち切り説・内紛説などささやかれてはいるが、経営的な逼迫がなければこうはなるまい。常連の出演者は飽きられて視聴回数が低下し、赤字続きをDHC・吉田嘉明が穴埋めしてきたと噂はされてきた。真偽のほどを確かめる術はないが、右翼メディアの衰亡は、右翼には「悲報」でも社会全体には悪いニュースではない。目出度いニュースと言ってよい。

 DHCテレビは、かつては「DHCシアター」の社名で、MXテレビやCS放送にも配信していたが、昨今はもっぱらユーチュブ配信のネット番組制作会社となっている。

 この会社がその本性を現して有名になったのは、情報番組「ニュース女子」のデマとヘイトによってのこと。BPOに指弾されたのは、まともな取材もせぬままの沖縄基地反対闘争と在日を誹謗するデマ。対沖縄・対在日ヘイトの姿勢あればこそ。「虎ノ門ニュース」は放送継続して今日に至っている。安倍晋三なども、居心地よくこの番組に出演していた。お似合いの場所なのだ。

 DHCテレビの「虎ノ門ニュース」の突然の終了宣言の理由の一つとして、「近々、DHCは大幅な会社再編を行うようです」「そのなかで、現状赤字経営の子会社DHCテレビの運営にメスが入ったというわけです」「吉田会長個人としては、なんとかして虎ノ門ニュースを続けたかったようです。しかし、吉田会長は今までのように会社の経営に関わることができなくなったため、経営面で虎ノ門ニュースの継続を断念せざるを得なかったようです」などの噂がネット投稿されている。真偽のほどは分からないが、いかにもありそうな話。

 安倍は世になく、虎ノ門ニュースも消える。そして、吉田嘉明の威も地に落ちようという。時代は確実に遷りつつある。

宮司自身が語る「靖国神社の本質」

(2022年11月6日)
 「新宗教新聞」の10月31日号が届いた。いつものように、丁寧に目を通す。私は、新宗連には好意をもっている。私と新宗連・「新宗教新聞」との、ささやかな関わりについては、下記ブログをご覧いただきたい。

宗教弾圧を阻止し平和を守るための宗教協力 ー「新宗教新聞」を読む
https://article9.jp/wordpress/?p=4831 (2015年5月2日)

 私の、同紙今号への関心は、新宗連が統一教会問題に触れていないかということ。
 「われわれは統一教会とは違う。一緒にされてはたまらない。統一教会に対する厳しい規制を」と言うのか、あるいは「統一教会とは言え、宗教団体への権力的規制は望ましくない」とする立場なのか、それが知りたい。

 残念ながら、その関心に応える記事はない。ただ、10月6日新宗連定例理事会の議事終了後、「北海道大学大学院教授の櫻井義秀氏が、世界平和統一世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐる諸問題について詳細に解説し、質疑を行った」の記事があるのみ。また、スローガン「信教の自由を守ろう」に関する座談会に島薗進さん出席の記事がある。新宗連も、問題を避けずに、いろいろ模索してはいるのだ。

 ところで、「首都圏研集会 靖国神社を訪問」という小さな記事が目にとまった。えっ? 新宗連が靖国神社へ行くんだ。これは意外である。新宗連は、戦前の天皇制政府による宗教弾圧の経験から、厳格な政教分離を要求している。閣僚の靖国参拝には強く反対している。今年7月28日にも、新宗連・信教の自由委員会は、政府や自民党に「靖国神社の政治利用に関する意見書」を提出しているではないか。

 「首都圏総支部は9月6日午後2時から東京九段の靖国神社で「令和4年度研修会」を開催した。研修会は、信教の自由を学ぶ目的で新宗連外の宗教施設などを訪問するもので、例年開催されてきたがここ2年は新型コロナ禍により延期されてきた。
 靖国神社に集合した一行は、初めに境内にある展示施設「遊就館」で明治以降の日本の歴史や靖国神社の歴史などを学んだ。続いて本殿に昇殿し、正式参拝を行った。
 この後山口建史宮司と懇談。山口宮司が靖国神社創建の由来などについて説明した後、意見交換を行った。その中で山口宮司は、遊就館の展示は「戦争の悲惨さ」を示すものがないとの批判があることに触れ、あくまでも国のために亡くなった祭神を「顕彰」するための展示であり、戦争の記憶の継承が目的ではないことを説明。また靖国神社の祭神には個人的な救済を求めるのではなく「尊い命を国家に捧げられたことへの感謝を伝えることが大事」と語った。}

 これだけの短い記事だが、靖国の本質が淡々とよく語られている。靖国神社とは、「国のために亡くなった祭神を『顕彰』する施設」なのだ。けっして、戦争の悲惨を語り継ぎ、平和を祈る場所ではない。命の大切さを確認するところではなく、命を捨てたことを讃え、命を捨てよと教える場でもある。そして、「国のための死」であればこその「顕彰」である。靖国にとって万人の死は平等ではない。「君のため、国のための戦死」だけが顕彰に値する。それ以外の死は眼中にないのだ。

 「死は鴻毛よりも輕しと覺悟せよ」と、天皇から押し付けられて死んだ兵士や哀れである。その親も妻も子も憐れの極みである。この不幸・悲惨を名誉と教え込むマインドコントロール装置こそ、靖国の本質というべきであろう。

前川喜平さんを次期NHK会長に!

(2022年11月5日)
 NHKの報道姿勢に関心をお持ちだろうか。NHK会長の人事についてはいかがだろうか。NHKこそは世論に最も大きな影響力を持つ我が国最大の報道機関である。その動向は日本の民主主義に大きな影響を与える。そのトップの人事は、重大な政治マターとならざるを得ない。

 政権は、NHKのあり方にも会長人事にも、重大な関心を持ち続けてきた。とりわけ、安倍晋三である。彼はNHKを独立したジャーナリズムと見ることはなく、自分の意のままとなる配下の一部門と考えてきた。その結果、NHKは「アベチャンネル」と揶揄される惨状を呈するに至っている。

 民主的感覚を持ち合わせぬ安倍晋三は、自分の右翼仲間で経営委員会を固め、その経営委員会は、5期連続してNHK会長を財界出身者としてきた。在野性のカケラもない人物たち。ジャーナリズムの何たるかを知ろうともしない人たち。もう、いい加減にしてもらいたい。こういう声が、市民による次期会長選任の運動となった。

 市民の立場で、公共放送のトップにふさわしい、本来あるべきNHK会長を選ぼうではないか、という運動が起こっている。NHKを真に国民の立場に立つ公共放送として政府のくびきから解き放つには、強靱な在野精神に充ちた強力なリーダーが必要なのだ。
 
 これまで、NHKの政権追随の姿勢を批判し、公平・中立・独立した番組編成を求める市民運動は全国に広範にあった。その人たちが、現前田会長の任期終了(来年1月)を目前に、「市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会」を立ち上げた。森下俊三経営委員会委員長らが次期会長候補推薦の動きをしているとの報に対抗してのことであろう。

 とは言うものの、具体的な候補者名はなかなか出てこなかった。具体的な固有名詞なしの「NHK会長推薦」は難しい。ところが、事情を知らない私にとっては突然に、前川喜平さんの名前が上がった。11月1日付で、「前川喜平氏をNHK会長に!」という署名運動が開始された。

 そして昨日(11月4日)、「会」と前川さんの記者会見が行われた。ユーチューブでその模様を見た私は、なるほど、前川さんこそが、次期NHK会長にピッタリだと思った。

 彼は言う。「私がNHKの会長に就任した暁には、憲法と放送法を遵守して、市民とともにあるNHK、そして不偏不党で、真実のみを重視するNHKのあり方を追求していきたい。そのためには番組の編集、報道にあたって、完全な自由が保障されないといけない」「政治的中立を上から求めたら権力への奉仕となる。不偏不党にも、公平にもならない。大切なことは現場の自由を重んじることだ。表現にかかわる分野では、報道も教育も文化も同じこと」「政府が右を向けと言っても右を向くことはない。左を向けと言っても同じ。けっして政府の言いなりにはならない

 NHKの視聴者は受信料は払うが、会長選任の権利はない。会長選任権は、内閣が任命する12人の経営委員がもつ。さはさりながら、前川喜平会長選任の国民の声は、政権もけっして無視はできまい。

 以下に、「会」の呼びかけを紹介しておきたい。

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市民とともに歩み、自立したNHK会長を選んでください!

     市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会

 公共放送NHKは視聴者の受信料で支えられています。しかしNHK会長は総理大臣が任命したNHK経営委員会が決めます。

 第一次安倍政権時の2008年1月に、密室の協議で福地茂雄氏(アサヒビール出身)が会長に選出されて以来、NHK会長には5期連続で安倍氏を支持する財界出身者が選ばれて来ました。そうした会長のもとでNHKは「アベ・チャンネル」と揶揄されるような、政権にすり寄り、時には市民をないがしろにする放送を、ニュースを中心に繰り返して来ました。

 私たちは、来年1月に任期満了を迎える前田晃伸会長(みずほ銀行出身)の後任を選ぶにあたって、NHK 経営委員会が過去の病弊を断ち切り、市民とともに歩み自立した公共放送のリーダーにふさわしい新会長を選ぶことを求めます。

 私たちは日本社会の民主主義と文化の向上のために、公共放送NHKが果たすべき役割は大変大きいものがあると考えています。そのためにNHK会長には、ジャーナリズムのありようや文化的な使命について高い見識を持ち、言論・報道機関であるNHKの自主・自立を貫き通す人物が選ばれる必要があります。そして、その選定にあたっては、透明性が確保されるべきです。

 ところが第一次安倍晋三政権時代の2008年1月に、菅義偉総務大臣が古森重隆氏(富士フィルム社長)を経営委員長に据え、古森氏が主導して福地茂雄氏(アサヒビール出身)をNHK会長に選んで以来、松本正之氏(JR東海出身)、籾井勝人氏(三井物産出身)、上田良一氏(三菱商事出身)、前田晃伸氏(みずほ銀行出身)と、5期(15年)の長きにわたって、安倍氏を支持する財界出身者が、経営委員長と政権幹部との密室の協議によって任命されて来ました。

 その間、「政府が右ということを左とは言えない」と発言した籾井会長に象徴されるように、NHKは政権にすり寄り、市民の活動を冷笑するような放送を繰り返して来ました。特に政権に都合のよい報道に偏った政治ニュースは、「アベ・チャンネル」と呼ばれるまでになりました。

 菅義偉政権になると前田会長を中心とするNHKの政権追従の姿勢はさらに顕著になり、市民の間にコロナ禍での東京五輪の開催に批判的な意見が強まる中で、NHKは世論を無視してまで、大会の強行を後押しし、盛り上げに邁進しました。そんな中、昨年12月にはBS1スペシャル「河?直美が見つめる東京五輪」という番組で、民主主義の根幹をなす市民の活動、その表現手段としてのデモを貶める内容の番組が放送されました。

 一方、前田会長が「スリムで強靭な新しいNHK」を目指すとして進める改革は、公共放送の価値や役割を軽視し、もっぱら経済合理性に重点を置いた人事制度改革・営業改革・関連事業改革に終始しています。前田会長が進める改革の内実は、一般の営利企業ですでに実践されてきたコンサルティング会社による改革案を、そのまま持ち込んだものに過ぎません。こうした強引な改革によって、NHKの現場は疲弊・荒廃し、放送番組の質の低下となり、視聴者の期待を裏切る事態が生まれています。

 10月11日には前田会長は、菅氏ら総務大臣経験者を中心とした自民党議員からの圧力に屈し、取りまとめていた経営計画案を急遽修正してNHK経営委員会に提出したことが新聞報道によって明らかになりました。政権主導で選ばれたNHK会長では、政治家の圧力に抗えない事実が白日の下にさらされました。

 このままでは日本社会にとってかけがえのない公共放送が崩壊しかねません。私たちは、公共放送の健全性を取り戻し、この社会の民主主義を育てるために、ジャーナリズムに深い見識を備え、NHKの自主・自立を貫き通すためのリーダーが、次期会長に選ばれることを強く望みます。

下記のURLから署名ができます。

https://www.change.org/p/%E5%89%8D%E5%B7%9D%E5%96%9C%E5%B9%B3%E3%81%95%E3%82%93%E3%82%92%E6%AC%A1%E6%9C%9Fnhk%E4%BC%9A%E9%95%B7%E3%81%AB

キャンペーン ・ 市民とともに歩み自立したNHK会長を選んでくだ
さい! ・ Change.org

国連人権委員会、学校行事における「日の丸・君が代」強制に是正勧告!

(2022年11月4日)
 セアート(ILO-UNESCO合同専門家委員会)に続いて、国連人権委員会も、学校行事における国旗・国歌(日の丸・君が代)強制の是正勧告を出した。これは、画期的なことである。

 各国の人権状況を審査している国連人権委員会(United Nations Human Rights Committee 「自由権規約委員会」とも呼ばれる)が、定期審査の結果を踏まえての各国に対する「最終見解」(勧告)を公表している。日本政府に対しては、昨日(11月3日)付けでの勧告が出されている。話題になっているのは、もっぱら入管行政の非人道性への指摘であるが、勧告は多方面にわたっている。あらためて、我が国の人権後進性を嘆かざるを得ない。もっとも、下には下があり、中国やロシア、北朝鮮などよりはずっとマシではあるのだが…。

 多方面にわたる日本の人権侵害状況の問題の中に、学校儀式における国旗国歌への敬意表明強制がきちんとしたかたちで取りあげられている。この勧告獲得に努力を重ねてきた関係者が歓声を上げている。世界には、真っ当な意見が通じるのだ。

 日本も批准している国際自由権規約(B規約)18条には、思想・良心・信教の自由の保障が明記されている。その保障された自由の制約を合理化する事由は、厳格に制限されている。

 この点について、勧告は、国旗国歌強制の人権侵害を問題視して、「許容されうる厳格な制限を超えて、思想良心の自由を制約しうるあらゆる行為を中止しなければならない」とする。さらに、「また、締約国は自国の法律及び運用を規約18条に適合するものとしなければならない」と明言している。愛国心を煽る日本の教育行政のみならず、最高最判例も、国連人権委員会から、「国際基準を遵守せよ」とその姿勢の転換を迫られているのだ。これは、大事件ではないか。

 国連人権委員会は、国連総会で採択された「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)28条に基づき、同規約の実施を監督するために設置され、1976年から活動を開始している。4年任期の18名の委員から構成され、通常年に3回、3週間ずつの会期を開く。規約締約各国は、規約第40条に基づき、5年ごとに同委員会へ定期報告書を提出する義務がある。委員会はこの各政府からの報告書と各国のNGOからのカウンター意見を踏まえて、規約の履行状況、即ちその国の人権状況を審査する。その上で各締約国に対し「最終見解」と題する文書により、懸念事項及び勧告を提示する。今回の日本国政府に対する「最終見解」は、7回目となる。

 ところで、自由権規約第18条【思想・良心及び宗教の自由(Article 18)は以下のとおりである。

 「すべての者は、思想、良心及び宗教の自由についての権利を有する。この権利には、自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由並びに、単独で又は他の者と共同して及び公に又は私的に、礼拝、 儀式、行事及び教導によつてその宗教又は信念を表明する自由を含む。
 何人も、自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由を侵害するおそれのある強制を受けない。
 宗教又は信念を表明する自由については、法律で定める制限であつて公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要なもののみを課することができる。」

 これを踏まえた、今回の「最終見解」第38・39パラグラフの仮訳は以下のとおりである。

第38項 委員会は、締約国において思想・良心の自由が制約されているとの報告に憂慮の意を表明する。また、学校儀式において、教員が国旗に向かって起立し国歌を斉唱しないという、式を妨害することのない消極的な行為によって、最長6ヵ月の停職処分を受けた教員もいることを憂慮している。さらに委員会は、式典の間、生徒学生らを強制的に起立させているという報告に憂慮している。(18条)

第39項 締約国は、本件規約18条に従って、思想及び良心の自由の行使を十分に保障し、許容されうる厳格な制限を超えて、思想良心の自由の制約となるあらゆる行為を控えなければならない。また、締約国は自国の法令及び運用を規約18条に適合するものとしなければならない。

  1. The Committee notes with concern the reports of restrictions of freedom of thoughtand conscience in the State party. It is concerned that as a result of passive, non-disruptiveacts of non-compliance of teachers to stand and face the flag and sing the national anthem atschool ceremonies, some have received punishment of up to six months suspension of duties.
    Furthermore, the Committee is concerned of the alleged application of force to compel
    students to stand during ceremonies (art. 18).
  2. The State party should guarantee the effective exercise of freedom of thought and conscience and refrain from any action that may restrict it beyond the narrowly
    17 CCPR/C/JPN/CO/6, para. 23.
    CCPR/C/JPN/CO/7
    construed restrictions permitted under article 18 of the Covenant. It should bring its legislation and practices into conformity with article 18 of the Covenant.

旧憲法から新憲法へ。法体系転換の狭間における「プラカード事件」判決

(2022年11月3日)
 本日は、「日本国憲法」公布記念日である。日本国憲法の冒頭に、「上諭」という天皇(裕仁)の文章が、目障りな絆創膏みたいにくっ付いている。下記のとおりの内容だが、これに1946年11月3日の日付が付されている。

 「朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法第七十三条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。」

 ところで吉田内閣は当初1946年11月1日を新憲法公布の日と予定していた。ところが、そうすると半年後の翌年5月1日が憲法施行記念日となって、メーデーと重なる。GHQがこれに難色を示して、公布日が2日遅れの11月3日となったという説がある。

 まったくの偶然であるが、この1日と3日にはさまれた1946年11月2日に、東京地裁の重要判決が言い渡されている。旧憲法から新憲法に法体系転換の狭間を象徴する「プラカード事件」の東京地裁一審判決である。

 1946年5月19日の通称「食糧メーデー」(「飯米獲得人民大会」)での出来事。参加者の一人である松島松太郎の、下記プラカードの表記が不敬罪に問われたのだ。

 「詔書 ヒロヒト曰ク 國体はゴジされたぞ 朕はタラフク食ってるぞ ナンジ人民 飢えて死ね ギョメイギョジ」(表面)
 「働いても 働いても 何故私達は飢えねばならぬか 天皇ヒロヒト答えて呉れ 日本共産党田中精機細胞」(裏面)

 不敬罪は刑法第74条。日本国憲法施行後削除されたが、当時はまだ生き残っていた。条文は、次のとおりである。

 「天皇、太皇太后、皇太后、皇后、皇太子又ハ皇太孫ニ對シ不敬ノ行為アリタル者ハ三月以上五年以下ノ懲役ニ處ス」
 
 構成要件は、天皇等に対する「不敬ノ行為」である。何が犯罪となるのか曖昧至極ながら最高刑は懲役5年。『天皇は神聖にして侵すべからず』とされた時代の弾圧法規の遺物というしかない。

 松島は、三田警察署から出頭を要請されて拒否し逮捕される。そして、天皇制の終焉明らかなこの時期に、検察は敢えて不敬罪で起訴した。

 この事件の弁護団は自由法曹団の弁護士を中心に十数人で編成された。弁護団長布施辰治以下、上村進、神道寛次、正木ひろし、森長英三郎、青柳盛雄、梨木作次郎等々の錚々たる布陣。「ポツダム宣言の受諾によって天皇の神性も神聖性も根拠を失い、不敬罪は消滅した」「天皇、天皇制に対する批判を含む言論・表現の自由は確立しているはずだ」と無罪を主張して争った。

 面白いエピソードが伝えられている。1審の公判で、正木ひろしは、裁判長に「天皇を証人として喚問しろ」と要求したという。もし不敬罪ではなく名誉毀損罪として罪名を換えて処罰するのなら、名誉毀損罪が親告罪である以上、裕仁の告訴の意思の有無を確認しなければならない、という至極もっともな理由だった。

 しかし、裕仁の証人申請は却下されて、判決が言い渡された。新憲法公布の前日となった11月2日のこと。さすがに不敬罪の適用はなかったが、名誉毀損罪の成立を認めた。裕仁の告訴のないままにである。量刑は懲役8月、執行猶予はつかなかった。判決はこう言う。評価はさまざまである。

 「天皇の個人性を認めるに至った結果、かかる天皇の一身に対する誹謗、侮蔑などにわたる行為については不敬罪をもって問擬すべき限りでなく、名誉に対する罪条をもってのぞむを相当とする」

 1947年6月28日、控訴審東京高裁は「不敬罪に当たるが日本国憲法の公布にともなう大赦令で免訴」との判断を下す。この判決の評判はすこぶる悪い。最終的に1948年5月26日、最高裁判所で大赦による公訴権の消滅を理由に上告棄却となり、免訴が確定した。これが歴史上最後の不敬罪事件となった。

 松島は、敗戦直後の1945年11月に日本共産党に入党。田中精機に労働組合を結成して委員長に就任する。1950年以降は神奈川県川崎市に居住し、日本共産党の専従として活動。1960年の安保闘争では神奈川県民会議の代表幹事として運動を指導。衆院選、参院選に立候補したが落選。1973年11月、日本共産党中央委員に就任するとともに、神奈川県委員長を兼任。のち日本共産党中央党学校の主事を務めた。2001年8月9日、胃癌で死去している。

 後年、彼は、あのプラカードの文章を書いたことについて、こう語っている。

「号令をかけて国民を戦争に動員し、かつ生命や財産を奪った張本人はヒロヒト、すなわち昭和天皇ですよ。太平洋戦争は裕仁天皇の「宣戦の詔勅」で始まりました。これは厳然たる事実ですよね。そして「終戦の詔勅」で終結しました。裕仁天皇の意思で戦争が始まり、彼の意思で戦争が終わった。
 明治憲法のもとにおける天皇の臣民に対する命令と意思は、形式として「詔書」をもって周知されました。朕の言葉としてね。詔書は天皇の最高意思を示す形式ですよ。「詔書ヒロヒト曰く」はこの形式をもじったものです。あのプラカードは詔書という形式をとってなされる天皇政治をパロディー化したものでした。」

 「臣民=国民は裕仁天皇の“号令”があったからこそ、苦悶・葛藤しながら応召を受け、かつ戦争に命がけで協力したのです。結果は敗戦でした。
 憲法上、天皇の地位・立場がどうのこうのと言う以前に、最低限の問題として、裕仁天皇は日本国民やアジア各国民に対する道義的な責任があるのです。皇室典範などにおいて天皇の退位を定めていない、などと言って逃げてはいけないですね。 ところが広島と長崎に原爆を落とされ、敗戦となり、国民が戦争の惨禍で苦しみ、遅配・欠配で餓死寸前にあるというのに、その天皇がなお尊崇の対象とされていた。」

「天皇政治は「臣民ノ幸福ヲ増進」するどころか、生命財産を奪い、こんどは国民を飢餓に陥れました。プラカードに示される私の思いは、太平洋戦争であれ、現下の飢餓・欠乏であれ、すべての元凶が天皇制にあるのだということを国民に端的に訴えたかったのです。そうした意識が敗戦以来、私の脳裏に沈潜していたものですから、先ほど即興詩のように書いたと言いましたけれども、深く思案・推敲することなく書きなぐるように吐露できたのでしょうね。」

「法と民主主義」11月号紹介。憲法学者の解散命令慎重論と、実務家の積極論。

(2022年11月2日)
 「法と民主主義」(略称「法民」)は、日本民主法律家協会(略称「日民協」)の活動の基幹となる月刊法律雑誌です(年10回刊)。毎月、編集委員会を開き、全て会員の手で作っています。憲法、司法、教育、原発、国際情勢、天皇制、地方自治、沖縄問題、ジャーナリズム、戦争と平和等々の、情勢に即応したテーマで、法理論と法律家運動の実践を結合した内容を発信しています。
 法律家だけでなく、広くジャーナリストや市民の方々からもご好評をいただいています。定期購読も、1冊からのご購入も可能です(1冊1000円)。
 よろしくお願いします。

 法と民主主義最新号・2022年11月号【第573号】の(目次と記事)は以下のとおりです。

特集?●大学・学問の軍事動員の危機を考える

◆特集にあたって … 編集委員会・米倉洋子
◆「軍事立国」と学術の論理 … 広渡清吾
◆経済安全保障推進法の狙いと危険性 … 井原 聰
◆国際卓越研究大学とは何か? … 小森田秋夫
◆国立大学法人化がもたらした諸問題 … 光本 滋
◆日本学術会議の存在理由 ── 任命拒否と軍事研究をめぐって … 杉田 敦
◆岡山大学における軍事研究、自衛隊との共同防災訓練について … 野田隆三郎

特集?●緊急特集第2弾・「統一教会問題」

◆特集にあたって … 編集委員会・丸山重威
◆宗教団体に保障される信教の自由の限界
── 旧統一教会問題を中心として … 芹澤 齊
◆旧統一協会による被害の救済と予防のために … 河田英正
◆憲法24条改憲を狙う政治・宗教右派の動き … 清末愛砂

◆司法をめぐる動き〈78〉
 ・国葬住民監査請求と訴訟の動向 … 稲 正樹
 ・9月の動き … 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2022●《統一協会問題》
 問われているジャーナリズム 宗教団体の政治関与と言論封殺 … 丸山重威
◆改憲動向レポート〈№45〉
 統一協会と超濃厚接触政党「自民党」の「壊憲」「改憲」 … 飯島滋明
◆インフォメーション
 ・第52回司法制度研究集会のご案内
 ・安倍元首相の国葬強行に抗議し、国会での徹底検証を求める法律家団体の声明
◆時評●社会投企、ジェンダー・バランス、ウクライナ侵略 … 新倉 修
◆ひろば●「彼ら」による改憲策動を葬り去るために … 平松真二郎

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 特集?が、他誌にはない重厚で貴重な執筆者と論稿だが、当ブログでは、特集?《緊急特集第2弾・「統一教会問題」》をご紹介したい。

 本誌先月号は、《緊急特集・「国葬」と「統一教会問題」》を取りあげ、以下の4本の論稿を掲載し好評を博した。

◆「安倍国葬」は日本国憲法上で許されない … 石村 修
◆日本史のなかの「国葬」問題 … 宮間純一
◆統一協会の伝道手法とその破壊力 … 郷路征記
◆インタビュー●統一教会とは何か ─ 自民党との極まった癒着を問う … 有田芳生

 本号の3論稿は、これに続いてテーマを統一教会問題しぼったものとなっています。憲法研究者と実務法律家がそれぞれの立場を鮮明にしているのが興味深いところ。

 芹澤齊・青山学院大学名誉教授は、憲法学者として、問題をこう整理しています。

 「本稿は、旧統一教会と信者の関係が形成される順に、?入信勧誘並びに信者生活の続行と霊感商法の関係、?それに密接にかかわる信者の負担――主として経済的負担――の問題、?それらの負担が信者の家庭生活、特に子どもに及ぼす憲法上の権利侵害問題、?個人の信教の自由と宗教団体の信教の自由の一般的関係、最後に?宗教法人解散請求の問題に触れることとしたい。」

 そして今もっとも注目の集まる解散命令問題については、次のような見解を述べておられます。
 
 「宗教法人とは、ある宗教団体が一定の要件を充足して所轄庁から『法人格』を認証された場合の資格であり、その『公益性』のゆえに税制上の優遇措置その他の特恵的地位を享受することができる。このことは逆に、宗教法人格取得の要件に明白に反するような活動をした宗教法人はその資格剥奪を意味する解散が認められる場合もあるということである。」「裁判所が解散を命ずることができる事由として、第81条第2項1号には『法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと』が定められている。」
 「この解散命令を許容する事由は一般的基準としては極めてあいまい不明確であって、だからこそ解散命令が判例法上認められたのは、刑事事件の有罪判決が確定していたオウム真理教団と明覚寺の2例に過ぎないのである。旧統一教会の場合、前記の2例と同等か、またはそれらに準ずるといえるかは微妙であろう」
 「この要件の不明確さに関連して、旧統一教会に対してしばしば浴びせられる『反社会的団体ないし組織』という非難の言葉があるので一言しておきたい。多くの人々から非難される活動=『反社会的』活動として宗教団体規制が正当化されるならば、それは将来にわたって大きな禍根を残すことになろう。なぜなら、規制要件があいまい不明確であるということは、濫用の危険があるということを意味する。そして、これらの漠然不明確な概念の濫用は政権に批判的な表現活動を行う組織や団体に向けられる虞が極めて強いということは歴史が示しているからである」
 「したがって、筆者は、このような不明確な概念の下での解散命令には反対である。もし旧統一教会の解散がどうしても必要だというのであれば、解散事由の要件をもっと明確にし、要件該当性の有無がもっと客観的に行いうる法改正がなされてしかるべき後に解散命令が出されるべきであろう

 原理原則を大切にする、いかにも憲法学者らしい立場。それに対して、河田英正(弁護士「霊感商法被害救済全国弁連共同代表」)論稿は、被害救済と予防に携わる実務家として、解散命令発動積極説となっています。

 「被害救済と予防の観点からの『積極論』」と、「要件曖昧故の権力の恣意的発動を招きかねないとする『慎重論』」。本誌がこの問題についてのそれぞれの立場からの、噛み合った論争の出発点となれば、編集委員会の一員としてありがたいと思います。

 なお、「法民」のホームページは、下記のURL。
 https://www.jdla.jp/houmin/index.html

 そして、お申し込みは下記URLから。よろしくお願いします。
 https://www.jdla.jp/houmin/form.html 

統一教会スラップ批判の声明 ー 「報道機関各社は旧統一教会からのスラップ訴訟に萎縮してはならない」

(2022年11月1日)
 本日午後2時、東京地裁庁舎内の司法記者クラブで記者会見し、「統一教会のスラップを批判する弁護士・研究者・ジャーナリスト声明」を発表した。正式のタイトルは、「報道機関各社は旧統一教会からのスラップ訴訟に萎縮することなく市民の知る権利に真摯に応えた報道姿勢を堅持されたい」というもの。

 声明を掲載する特別のサイトはない。本日の当ブログに、全部の記録を掲載することとする。
 以下に、(1) 記者会見概要の説明、(2) 10月11日付け呼び掛け文、(3) 呼び掛けの主体となった「23期・弁護士ネットワーク」の個人名、(4) 声明文本体、(5)スラップの被告とされた各メディアに対するご通知、の順で掲載する。これで、経緯と声明の内容はお分かりいただける。

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2022年11月1日

「旧統一教会スラップ批判声明」のご説明

 本日、旧統一教会が9月29日東京地裁に提訴した3件のスラップ訴訟について、これを批判する立場からの声明を発表いたします。
 声明の趣旨は、「報道機関各社が、スラップに萎縮して統一教会批判の言論を自主規制するようなことがあってはならない」「報道各社には、怯むことなく、市民の知る権利に真摯に応えた報道姿勢を堅持していただきたい」というものです。

 この声明を呼びかけたのは、23期・弁護士ネットワーク。その個人名は別紙に記載したとおりの26名(23期弁護士22名と客員4名)です。弁護士を主に、親しい研究者・ジャーナリストにも賛同を呼びかけ、呼びかけ人を含む全声明賛同者は下記のとおりとなりました。

   弁護士        212名
   研究者         29名
   ジャーナリスト      5名
   その他(宗教者など) 25名 (総数271名)

 本日、声明を被告とされた各社にお届けするとともに、この声明を公表することによって全報道機関各社やジャーナリストの皆様への声援としたいと思います。

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2022年10月11日

弁護士・研究者・ジャーナリストの皆様に、別紙声明への賛同の呼びかけ
「報道機関各社は旧統一教会からのスラップ訴訟に萎縮することなく
市民の知る権利に真摯に応えた報道姿勢を堅持されたい」


 人権や民主主義擁護に活躍していらっしゃる弁護士・研究者・ジャーナリストの皆様に、別紙声明への賛同を呼びかけます。

 私たちは、1969年に司法修習生となった同期(23期)の弁護士です。1971年に弁護士や裁判官となって以来今日までの50年余、一貫して日本国憲法の理念を大切にする立場で職業生活を送ってきました。
 この同期のなかには、長年にわたって法廷で統一教会と対峙してきた者、スラップ訴訟と闘ってきた者、メディアの表現の自由を擁護してきた者、真実の隠蔽を許さずとして情報公開問題に取り組んできた者、消費者被害救済をライフワークとしてきた者、等々がいます。
 これまで、同期の気安さから忌憚なく懇談を重ねてきましたが、時として、どうしてもこの件については意見をまとめて公表しようという気運が高じることがあります。この度、そのような、やむにやまれぬ思いから多くの弁護士や研究者、ジャーナリストの皆様に別紙の声明へのご賛同を得たく呼びかける次第です。
 ことは、統一教会による、放送メディアと番組出演の弁護士とを被告とした名誉毀損損害賠償請求訴訟の提起です。これによって、報道機関各社が萎縮して統一教会批判の言論を自主規制するようなことがあってはならない。報道各社には、怯むことなく、市民の知る権利に真摯に応えた報道姿勢を堅持していただきたいという趣旨です。是非、所定のURLをご使用の上、声明にご賛同ください。月内に賛同署名を締め切り、11月の冒頭に公表いたします。

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23期・弁護士ネットワーク

「旧統一教会スラップ批判」声明
呼びかけ人(23期・弁護士ネットワーク)個人名
(23期弁護士)
梓澤和幸  (東京)
井上善雄   (大阪)
宇都宮健児 (東京)
大江洋一  (大阪)
木嶋日出夫 (長野)
木村達也  (大阪)
児玉勇二  (東京)
郷路征記  (札幌)
阪口徳雄   (大阪)
澤藤統一郎 (東京)
瑞慶山茂  (千葉)
豊川義明  (大阪)
野上恭道  (群馬)
野田底吾  (兵庫)
本多俊之  (佐賀)
藤森克己  (静岡)
松岡康毅  (奈良)
村山 晃  (京都)
森野俊彦  (大阪)
山田幸彦  (愛知)
山田万里子 (愛知)
吉村駿一  (群馬)
(以下・客員)
野原 光 (広島大学・長野大学名誉教授)
西川伸一 (明治大学教授・政治学)
北村 栄 (弁護士・愛知)
本田雅和 (ジャーナリスト)   以上26名

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(声明文)

2022年11月1日


「報道機関各社は旧統一教会からのスラップ訴訟に萎縮することなく
市民の知る権利に真摯に応えた報道姿勢を堅持されたい」

 本年9月29日、旧統一教会(現名称「世界平和統一家庭連合」)が、テレビ番組での出演者の発言を同教会に対する名誉毀損として、各テレビメディアと発言者である各弁護士を被告とする3件の損害賠償請求訴訟を提起しました。賠償請求金額は合計6600万円、謝罪放送の請求もされています。
 私たちは、この訴訟提起を看過し得ない重大事と受けとめました。その主な理由は下記の3点にわたるもので、報道機関各社をはじめとする関係者に適切な対応を要請するだけでなく、広く社会に大きな問題ととらえていただくよう訴えます。

 第1の理由は、各提訴とも報道機関を標的とした表現の自由への挑戦であり、市民の知る権利に蓋をしようとする企てだという点にあります。
 旧統一教会は、各訴訟において被告として特定した報道機関だけでなく、あらゆる分野のメディアに対して、旧統一教会問題追及の言論を威嚇し牽制して、批判を封じようとしているものと指摘せざるを得ません。
 最近の旧統一教会と政権与党との癒着をめぐる報道には、目を瞠らせるものがあります。日本の政治構造の根幹にも関わる重大な問題として、多くの人々が関心をもって関連報道に注視してきました。
万が一にも、報道機関各社が本件各提訴に萎縮して、旧統一教会批判の報道や番組編成に支障が生じるとすれば、日本の民主主義の行方にも関わるものとして憂慮せざるを得ません。放送に限らず各分野における報道機関は、是非とも、この重大な時期に重大な報道を萎縮することなく、視聴者・市民の知る権利に真摯に応えて、ジャーナリズムの本領を発揮されるよう要望いたします。

 第2の理由は、本件提訴がいわゆる「スラップ訴訟」であることです。
 正確な定義は困難ですが、「自分を批判する言論を威嚇し萎縮させる目的で提起される民事訴訟」をスラップ訴訟と言って間違いはありません。多くの場合、その目的のためにスラップは高額請求訴訟となります。直接被告とされた者に心理的負担と応訴費用の経済的負担を余儀なくさせるだけでなく、被告以外の周辺にも言論萎縮の効果をもたらします。
 状況から見て、本件3訴訟は、被告とされた報道機関と発言者を威嚇することで旧統一教会批判の言論封じを目的とした、典型的なスラップ訴訟と考えざるを得ません。民事訴訟本来の役割は、法的正義の実現であり、また社会的弱者の権利救済にあります。本件のごとき民事訴訟の濫用を、法の適正な運用に関心をもつ者としてとうてい看過し得ません。
 私たちは、スラップ訴訟を成功させてはならないと考え、その被害者に状況に応じた適切な支援を惜しみません。

 第3の理由は、本件各訴訟がいずれも、旧統一教会によるさまざまな被害を救済し、あるいは防止しようという運動の妨害を目論むものだからです。
 各訴訟の被告とされている弁護士は、旧統一教会の霊感商法被害救済を求めて闘ってきた人、あるいは現時点で旧統一教会のあり方を批判する立場を鮮明にしている人です。その人たちを被告として高額の損害賠償を請求することは、現在高揚しつつある旧統一教会による種々の被害救済・防止の施策や運動の進展を牽制し妨害することを意味しています。
 霊感商法被害・高額献金被害・二世信者被害等々の旧統一教会による種々の被害の救済や防止策が、社会的な注目の中で行政をも巻き込んで進展しつつある現在、これを妨害しようという提訴を許してはならならず、全ての関係者に毅然たる姿勢の堅持を期待いたします。

 私たちは、以上の理由から、旧統一教会が提起した各訴訟の被告となった各弁護士、報道機関各社を激励するとともに、全ての報道機関・メディアに対して旧統一教会への正当な批判報道に萎縮することがないよう訴え、ひろく社会に同様のご支援をお願いする次第です。

23期・弁護士ネットワークと    
賛同の弁護士・研究者・ジャーナリスト

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2022年11月1日

〒540-8510 大阪市中央区城見1丁目3番50号
讀賣テレビ放送株式会社
代表取締役 大橋善光様


23期・弁護士ネットワーク    
「声明」呼びかけ人26名の一人として

弁護士 澤 藤 統 一 郎

「旧統一教会スラップ批判声明」のご送付

 
 本日、弁護士212名・研究者29名・ジャーナリスト5名・その他市民(宗教者など)25名の総数271名の連名で、別紙の声明を発表いたしました。
 その内容は、旧統一教会が9月29日東京地裁に提訴した3件のスラップ訴訟について、統一教会を厳しく批判する立場からのもので、声明の趣旨は、「報道機関各社が、スラップに萎縮して統一教会批判の言論を自主規制するようなことがあってはならない」「報道各社には、怯むことなく、市民の知る権利に真摯に応えた報道姿勢を堅持していただきたい」というものです。

 この声明を起案し呼びかけたのは、23期・弁護士ネットワーク。その個人名は別紙に記載したとおりの26名(23期弁護士22名と客員4名)です。この26名が、親しい弁護士を主に、研究者・ジャーナリストにも賛同を呼びかけて、本日の声明となりました。

 被告とされた御社に本声明をお届けするとともに、スラップに屈することなく、今後とも全社を挙げてジャーナリズムの本道を歩まれ、旧統一教会の問題性を掘り下げる報道を継続されるよう期待申し上げます。

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2022年11月1日


〒107-8006 東京都港区赤坂五丁目3番6号
株式会社TBSテレビ
代表取締役 佐々木 卓 様

(以下、同文)

 

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