今朝の毎日新聞が報じた、2件の在日差別訴訟。
(2021年11月19日)
本日の毎日新聞朝刊。社会面トップが、『ヘイト投稿、放置できぬ 川崎の在日コリアン 男性を提訴』という記事。その紙面での扱いの大きさに敬意を表したい。
続いて、『差別文書、差し止め命令 フジ住宅の賠償増額 大阪高裁』の記事。今のところ、《東のDHC》《西のフジ住宅》の両社が、悪名高い在日差別企業の横綱格。そのフジ住宅に対する厳しい高裁判決。ヘイトの言論はなかなか無くならないものの、ヘイトに対する批判の世論や運動は確実に進展していると心強い。
まずは、ヘイト投稿への損害賠償請求提訴。提訴は、昨日(11月18日)のこと。提訴先は原告の居住地を管轄する横浜地裁川崎支部である。
「川崎市の多文化総合教育施設「市ふれあい館」館長で在日コリアン3世の崔(チェ)江以子(カンイヂャ)さん(48)は18日、インターネット上で繰り返し中傷を受けたとして、投稿した関東地方の40代の男性に対し、慰謝料など305万円の損害賠償を求める訴えを横浜地裁川崎支部に起こした。
訴状などによると、男性は2016年6月、自身のブログで「崔江以子、お前何様のつもりだ‼」とのタイトルで「日本国に仇(あだ)なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」などと投稿した。崔さんの請求を受けてブログ管理会社が投稿を削除すると、同年10月から約4年にわたり、ブログやツイッターなどで崔さんについて「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」などと書き込んだ。
崔さんは21年3月に発信者情報の開示を請求し、投稿した男性を特定した。男性は崔さんとの手紙のやり取りの中で自身の行為を認めて謝罪をしたものの「仕事がなくてつらかった」などと弁解したため、反省がみられないとして提訴に踏み切った。」
「川崎市は20年4月、ヘイトスピーチに刑事罰を科す全国初の『市差別のない人権尊重のまちづくり条例』に基づいて有識者で構成する審査会を設置。この審査会がヘイトと認定した計51件のネット上の書き込みを削除するようサイト運営者に要請した。このうち37件が削除されたものの要請に強制力はなく、残る14件にそれ以上の措置をとれないのが実情だ」
弁護団は「やったことに対して責任を取らせるというのがこの裁判の趣旨。削除要請だけでは問題が解決しないケースで、このまま放置できないと考えた」と話している。
この被告とされた男性は、「仕事がなくてつらかった」から在日差別の投稿を繰り返していた。イジメの動機として多く語られるところは、惨めで弱い自分を認めたくないとする心理が、自分よりも弱く見える相手を攻撃することによって、自分の弱さを打ち消そうとするものだという。
問題は、このような攻撃の捌け口として、在日コリアンが標的とされる日本社会の現状にある。リアルな社会では差別を恥としない右翼政治家や評論家、行動右翼の言行が幅を利かせ、差別本が世に満ちている。ネットの世界では匿名の壁に隠れて口汚い差別用語が飛び交っている。この状況が、在日コリアン攻撃に対する倫理的抵抗感を失わしめ、しかも報復のない安全な弱い者イジメと思わせてはいないだろうか。在日コリアンだけでなく、貧困や性差別や心身の障害などでの差別に苦しむ人々についても、イジメの対象としてよいと思わせる風潮があるのではないか。
いまや、理念や倫理を語るのでは足りない。刑罰や、損害賠償命令という形での民事的な制裁が必要と考えざるを得ない。差別言論は、刑事罰を科せられ、あるいは損害賠償を負うべき違法行為と自覚されなければならない。広範にその自覚を拡げるために毎日新聞記事のスペースの大きさを歓迎したい。
そして、たまたま同じ日に、「差別文書、差し止め命令 フジ住宅の賠償増額 大阪高裁」の記事である。
「ヘイトスピーチ(憎悪表現)を含む文書を職場で繰り返し配布され、精神的苦痛を受けたとして、東証1部上場の不動産会社「フジ住宅」(大阪府岸和田市)に勤める在日韓国人の50代女性が同社と男性会長(75)に計3300万円の賠償を求めた訴訟の判決で、大阪高裁(清水響裁判長)は18日、1審・大阪地裁堺支部判決から賠償額を計132万円に増額し、文書配布を改めて違法と判断した。1審判決後も文書が配られ続けたとして、会社側に配布の差し止めも命じた。」
フジ住宅については、当ブログで何度も取りあげてきた。下記を参照いただきたい。
https://article9.jp/wordpress/?s=%E3%83%95%E3%82%B8%E4%BD%8F%E5%AE%85
昨日の判決では、「会社側には差別的思想を職場で広げない環境作りに配慮する義務がある」との判断が示されたという。その上で、「差別を助長する可能性がある文書を継続的かつ大量に配布した結果、現実の差別的言動を生じさせかねない温床を職場に作り出した」ことをもって、会社側はその配慮義務に違反し、「女性の人格的利益を侵害した」と結論付けたという。
これは素晴らしい判決である。これまで、労働契約に付随する義務として、使用者には労働者に対する「安全配慮義務(=安全な労働環境を整えるよう配慮すべき義務)」があるとされてきた。今回の判決はこれを一歩進めて、「使用者には労働者に対して、差別的思想を職場で広げない環境作りに配慮すべき義務を負う」としたのだ。つまりは、労働者を尊厳ある人間として処遇せよという使用者の具体的義務を認めたということである。さらに判決は、ヘイト文書の職場内での配布を差し止め仮処分も認容した。これも素晴らしい成果。
裁判所は、よくその任務を果たした。が、それも原告の女性社員が臆することなく訴訟に立ち上がったからこその成果である。社内での重圧は察するに余りある。孤立しながらの提訴に敬意を表するとともに、この原告を支えて見事な判決を勝ち取った弁護団にも拍手を送りたい。
フジ住宅は「差し止めは過度の言論の萎縮を招くもので、判決は到底承服できず、最高裁に上告して改めて主張を行う」とのコメントを発表したという。ぜひ、上告してもらいたい。そして、《弱者を差別し傷付ける言論の自由の限界》についてのきちんとした最高最判例を作っていただきたい。そうすれば、フジ住宅というヘイト企業も社会に貢献したことになる。