澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

これが、高市早苗の言う「捏造」文書だ。

(2023年3月27日・連日更新満10年まであと4日)
 本日午前の参院本会議での答弁で、岸田首相は、野党からの高市早苗に対する罷免要求を改めて拒否した。今のところは、高市のクビはつながっている。しかし、これからどうなるかは分からない。首がつながったところで、高市に対する国民のイメージは地に落ちた。とりわけ保守派の高市見限りは避けられない。自民と有力者の高市を見る目は一様に冷ややかだという。さもありなん。右派高市ののダメージは大きい。安倍の負の遺産の一角が崩れつつある現象の一部と見てよいだろう。

 ところで、高市罷免要求の根拠となった今回の事件を何と呼ぶべきだろうか。けっして「高市早苗クビ賭け事件」ではない。「高市早苗・捏造固執事件」でも、「高市早苗落ち目の始まり事件」でもない。閣僚のクビの問題ではなく、民主主義の問題なのだ。「放送法解釈変更事件」であり、「権力による『政治的公平』濫用事件」でもあり、「安倍政権のメディア介入手口暴露事件」なのだ。

 放送法の政治的公平を巡っては、第2次安倍政権当時の官邸幹部が、解釈を巡り総務省と協議したことなどが記された行政文書が公表されている。当時総務相の高市氏が官僚のレク(説明)を受けたとの記述もあるが、高市氏は記載内容を一貫して否定している。

 高市早苗が捏造と非難している行政文書は、高市自身に関わるもので4枚ある。以下にそのうちの一枚である、「高市大臣レク結果」と題する文書の全文を正確に転載してみる。是非お読みいただきたい。高市自身は、「受けたはずがない」とレクそのものを否定していたが、総務省は調査の結果「レクは行われた可能性が高い」としたものである。

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【配布先】桜井総審、福岡官房長、今林括審、局長、審議官、総務課長、地上放送課長 ←放送政策課 

            

高市大臣レク結果(政治的公平について)

日時 平成27年2月13日(金)15:45?16:oo
場所 大臣室
先方 高市大臣(O)、平川参事官、松井秘書官
当方 安藤局長(×)、長塩放送政策課長、西がた(記)

 安藤局長から資料に沿って説明。また、補佐官からの伝言(下記のほか、「今回の整理は決して放送法の従来の解釈を変えるものではなく、これまでの解釈を補充するものであること」、「あくまで一般論としての整理であり特定の放送番組を挙げる形でやるつもりはないこと」)について付言。質疑等主なやりとり以下のとおり。

○)「放送事業者の番組全体で」みるというのはどういう考え方なのか。
×)例えば「総理と語る」や「党首と語る」番組はどの局でもあり得るところ、国民の二?ズに応えるものでもあり、これだけをもって政治的公平を欠くとすることは不適当。むしろ、与野党も含め、いろいろな番組を通じて多様な情報提供を期待するもの。
○)放送番組の編集に係る政治的公平の確保について、これを判断するのは誰?
×)放送番組は放送法による自律の保障のもと放送事業者が自らの責任において編集するものであり、一義的には放送事業者が自ら判断するもの。
○)「一つの番組」についてはどう考えるのか。
×)(このペーパーでいう「一つの番組」は、)報道ステーションなら報道ステーション、モーニングバードならモーニングバードの1回の番組を指しでいる。
×)大臣のご了解が得られればの話であるが、礒崎補佐官からは、本件を総理に説明し、国会で質問するかどうか、(質問する場合は)いつの時期にするか、等の指示を仰ぎたいと言われている。
○)そもそもテレビ朝日に公平な番組なんてある?どの番組も「極端」な印象。関西の朝日放送は維新一色。維新一色なのは新聞も一緒だが、大阪都構想のとりあげ方も関東と関西では大きく違う。(それでも政治的に公平でないとは言えていない中)「一つの番組の極端な場合」の部分について、この答弁は苦しいのではないか?
x)「極端な場合」にづいては、「殊更に」このような番組編集をした場合は一般論としては政治的公平が確保されていないとい。う答弁案になっている。質問者に上手に質問され、その質問を繰り返す形の答弁を想定しているが、言葉を補う等した上で答弁を用意したい。
○)苦しくない答弁の形にするか、それとも民放相手に徹底抗戦するか。TBSとテレビ朝日よね。実際の答弁については、上手に準備するとともに、?(カツコつきでいいので)主語を明確にする、?該当条文とその逐条解説を付ける、の2点をお願いする。
○)官邸には「総務大臣は準備をしておきます」と伝えてください。補佐官が総理に説明した際の総理の回答についてはきちんと情報を取ってください。総理も思いがあるでしょうから、ゴーサインが出るのではないかと思う。

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 高市は、この文書を「捏造」と言明し、「捏造が事実でなければ、大臣、議員を辞職する」とまで言及した。さすが自称の安倍後継。安倍と同様、食言を気しない。自分の言葉に責任をもとうとしないのだ。「総理も議員も辞める」と言って、けっして辞めない姿勢は、右翼に共通のものなのだろう。

 文書の「捏造」とは、権限のない者が勝手に文書を作ったり、あるいは事実無根の内容をデッチ上げたりという意味である。正確性に疑問があるという程度のことを「捏造」とは言わない。ましてや、官僚がその職掌の範囲で作成した行政文書を「捏造」というのは、文書の作成者に無礼であり、失礼極まる。本来なら、発言を撤回して謝罪しなければならないが、そうすると「大臣も議員も辞める」と言った手前、それができない。自業自得ではあるが、進退窮まったというところ。

 だが、この問題はけっして高市事件ではない。前記の文書によれば、高市レクの日付は2015年2月13日である。世は、安倍第2次政権の集団的自衛権行使容認の方針をめぐって、大きなせめぎ合いのさなかにあった。安保法制成立に向けて、安倍内閣は安保法制懇を作り、内閣法制局長の首をすげ替え、強引に法案の閣議決定に至ったのが、15年5月14日である。そして、法案成立強行に至ったのが同年9月19日。安倍政権は、世論操作に躍起になっていた。安倍のメディア操作は硬軟両面に及んだ。硬派を受け持ったのが、タカ派高市にほかならない。

 この時期、放送界に思いがけないことが起こっている。テレビ朝日「報道ステーション」でコメンテーターだった古賀茂明が15年3月に降板。降板理由を「首相官邸のバッシングがあった」と述べている。その後に、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターや、TBS「NEWS23」アンカーの岸井成格、「報ステ」の古舘伊知郎など相次いで番組を降板した。いずれも安保法制など安倍政権に批判的な立場を示していた点が共通していたとされる。

 表現の自由とは、メデイアの自由とは、権力を批判する自由である。権力を批判するメディアは、国民の支持あってこそ育つ。政治の質も、ジャーナリズムの質も、実は国民次第なのだ。

 貴重な政権運営の裏側を国民に見せてくれた、「安倍政権のメディア介入手口暴露事件」である。幾重にも、教訓を読みとらなければならない。

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