澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

天皇に「もう来るな 」の横断幕は、思想良心の自由、表現の自由として、保障されなければならない。

(2023年3月26日・連日更新満10年まであと5日)

東京弁護士会は、受理した人権救済申立事件において今月20日付で警視庁に対する下記警告を発した(ホームページへの掲載は23日)。

事案は、天皇制に反対する40代男性が天皇夫妻の自動車に沿道で「もう来るな」などと書いた横断幕を掲げたところ、警視庁の警察官(複数)から執拗な尾行、嫌がらせをうけたというもの。天皇制反対の思想が怪しからんはずもなく、その表現が規制される言われはない。当然のことながら、東京弁護士会は、警視庁の行為を人権侵害と断じて、再発のないよう強く警告をした。その警告書の全文を、転載しておきたい。

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2023(令和5)年3月20日

警視庁 警視総監 小 島 裕 史 殿

東京弁護士会 会 長 伊 井 和 彦

人権救済申立事件について(警告)

 当会は 、 申立人V氏からの人権救済申立事件について 、当会人権擁護委員会の調査の結果、貴庁に対し下記のとおり警告します。

第1 警告の趣旨
 貴庁所属の警察官らは、貴庁の職務活動として、2013(平成25)年10月11日から2014(平成26)年4月17日までの間に、別紙1記載のとおり、少なくとも5名(A、B、C、D、Fと表記)のうち1人または複数により申立人を公然と尾行・監視する等の行為を行った(以下、「本件尾行行為等」という。)。
 貴庁の警察官らによる上記職務活動は、申立人のプライバシー権、表現の自由、思想・良心の自由を侵害する違法な行為であり、重大な人権侵害行為である。
 よって、当会は貴庁に対し、貴庁自身が上述のような人権侵害行為の重大性を十分に認識・反省した上で貴庁所属の警察官への指導・教育を徹底するなどして、今後、貴庁の警察官がこのような人権侵害を行わないよう強く警告する。

第2 警告の理由
1 認定した事実
(1)申立人について
 申立人は、W市に在住する者であり、日本に天皇制があることに反対する旨の意見をもち、また、「X」と称する市民団体に所属する者である。
(2)本件尾行行為等に先立って、次の事実があった。
 2013(平成25)年10月、申立人は国民体育大会が開催された「Y」から天皇皇后夫妻(当時。現在の上皇、上皇后)が車で帰路につく際、その沿道で、1人、平穏な態様で「もう来るな W市民」とマジックで書いた横断幕を掲げた(以下、「本件抗議活動」という。)。
 本件抗議活動 は、天皇制 に 批判的な考えをもつ申立人が自由な表現行為として行ったものであり、 天皇皇后の帰途 や警備活動を妨げるものではなかった。
ところが 、申立人は 、私服刑事に両腕を掴まれて待機を命じられた。その後 、数十人の私服刑事に取り囲まれ 、その場に拘束されたほか 、質問を浴びせられたり 、非難等 をされた りした 。申立人 が 、大声で抗議し続けたところ 、20分ないし30分後に解放された。
(3)本件尾行行為等
 申立人の供述によれば、本件抗議活動の後、貴庁所属の警察官ら少なくとも5名(A、B、C、D、Fと表記)は、貴庁の職務活動として、別紙1記載のとおり2013(平成25)年10月11日から2014(平成26)年4月17日までの間、少なくとも21日にわたり1人又は数人により申立人に対し尾行したり、つきまとうなどの行為をした。その態様は、遠くから尾行・監視する場合もあれば、申立人が認識しうる形で申立人のすぐ近くに迫るなどして尾行・監視することもあった。また、申立人の行動を監視している旨告げたり、必要もないのに申立人の就業先をわざと訪ねたり、申立人やその家族である幼い娘の写真を撮影する等の行為を行った。
(4)上記の申立人の供述は、以下の点において、申立人から提出された資料及び当会の調査に基づく資料による 客観的な裏付けがあり、信用することができる。
ア Aは、貴庁が所有し久松警察署が管理する自動車登録番号「Z」の車両に乗車しながら本件尾行行為等を行っている(別紙1?、別紙2、別紙3)。
イ Aが行った本件尾行行為等は、別紙1?、?、?、?について、
申立人、申立人の妻、申立人の協力者が撮影した画像、動画の裏付けがある。
ウ Bが行った本件尾行行為等は別紙1?、Dが行った本件尾行行
為等は別紙1?について、申立人、申立人の協力者が撮影した画
像、動画の裏付けがある。
(5) 当会は貴庁に対し、 申立人の上記供述 及び客観的な裏付け資料等に基づき、本件について平成27年9月4日付け照会書 により、事実関係等について詳細な照会を行った。
 しかし 、これに対し貴庁は、 同 年10月2日付回答書において 、
「ご依頼の照会事項につきましては、貴意に沿いかねます。」と回答し、全ての照会事項について回答を拒否した。このような貴庁の回答拒否は、当会の行う人権救済活動の目的、趣旨に照らし、きわめて遺憾であるといわざるをえない。
(6) 以上のとおり、 当会は、申立人からの事情聴取、申立人から提出された 資料、当会の調査による資料 、貴庁による本件の回答拒否等を含めて、本件に関する事情等を総合的に検討して 、貴庁所属の警察官であるA、B、C、D、F が職務行為として本件尾行行為等を行ったことを事実認定したものである。
 なお、申立人は、 本件尾行行為等を行った 者の氏名を知ることができないためにA ?Fとして特定した。当会も本件警告をするにあたって上記 A ? Fをそのまま用いることとし、その上で貴庁の警察官とは認定できなかったEを除外したものである。
2 本件尾行行為等の違法性及び人権侵害性
(1)本件尾行行為等の違法性
ア 大阪高裁昭和51年8月30日判決(判例時報855号115頁)は、当該事案において、警察官が尾行している対象者に気付かれ、抗議を受けた後も尾行行為を継続したこと自体は違法とはいえないが、「如何なる態様、程度の尾行行為をも許されるわけ
ではないことは、警察法二条 二項、警職法一条 二項の趣旨に照らして明らかであり、どのような態様、程度の尾行行為が許されるかは、いわゆる警察比例の原則に従い、必要性、緊急性等をも考慮したうえ、具体的状況の下で相当と認められるかどうかによっ
て判断すべきものと解すべきである」と判示して、最高裁昭和51年3月16日決定(判例時報809号29頁)を引用し、警察官が対象者の後方わずか数メートルの至近距離範囲内を尾行(密着尾行)した行為は、「実質的な強制手段とはいえないにしても、前記のような判断基準に照らし相当な尾行行為であるとは到底認め難く、違法であるといわなければ ならない。」と結論づけている。
イ Aら警察官は申立人に対して捜査する必要を有していたわけではないと考えられる。このことは、 ?本件尾行行為等のきっかけは、申立人の本件抗議活動であることは明らかであること、? 申立人は本件尾行行為等の前、本件尾行行為等の 期間中 、犯罪行為
は行っていないこと、 ? Aら警察官は申立人の事情聴取を全く行っていないこと等から認められる。
 そして、本件尾行行為等の態様、回数、頻度、期間等からすれば、本件尾行行為等の目的は、?本件抗議活動への報復・いやがらせ、?申立人に対して将来的に本件抗議活動のような反天皇制の表現活動をさせないために心理的圧迫を加えること、?申立人に関する情報収集活動、の3点であると考えられる。
 以上よりすれば、 上記裁判例に照らしても、 本件尾行行為等には、正当な目的や 必要性、相当性は 到底認められず、違法であることは明らかである。
(2) 申立人の プライバシー権、表現の自由、思想・良心の自由に対
する侵害

ア プライバシー権の侵害
 本件尾行行為等は、申立人を尾行するか、尾行を伴わないものであっても申立人の行動を注視するものであるから、申立人の私生活を公権力が意図的にうかがい知るものであり、プライバシー侵害の可能性がある。それがプライバシーの侵害にならないとい
えるためには、本件尾行行為等を正当とする理由が必要である。
 しかし、上述のように、A らが行った本件尾行行為等には正当な理由、必要性、相当性等は 認められない。したがって、本件尾行行為等により、正当な理由等がなく申立人の日常生活が公権力に監視されたのであるから、プライバシー権の侵害があったことが明らかである。

イ 表現の自由の侵害
 申立人は、天皇制に反対の考えをもっており、天皇はそのような市民がいることを知るべきだ、との思想(考え)のもとに、 2013( 平成25 ) 年10月、「もう来るな W 市民」とマジックで書いた横断幕を天皇・皇后の乗る車両から見えるようにして
掲げるという本件抗議活動を行った。
 本件抗議活動は 表現の自由の1つの形態である。 また、本件抗議活動は、警備活動を妨げるものではなかったし、また、どのような法令に抵触するものでもなかった。
 ところがAらの警察官は執ように本件尾行行為等を行った。本件尾行行為等は、客観的にみて、同様な行為を今後行うことをためらわせるのに十分な威迫力をもつ。申立人も、つきまとわれることによる精神的苦痛を感じており 、 既に萎縮的効果が十分に発生している。
 他方、上述のとおり、Aら警察官による本件尾行行為等には正当な理由や必要性、相当性等は認められない。

 したがって 、本件尾行行為等は申立人の表現の自由 の侵害にあたる。

ウ 思想・良心の自由の侵害
 申立人は、天皇制に反対の考えをもっており、天皇はそのような市民がいることを知るべきだ、との思想をもっている。この申立人の思想は憲法で保障されるものである。
ところが、この思想の表現行為として申立人が本件抗議活動を行ったところ、本件尾行行為等が行われたものである。
 上述のように、本件尾行行為等には 、正当な理由や必要性、相当性等は認められず、 本件抗議活動と同様の 表現行為をすることをためらわせるに十分な威迫力を有するものである。
 そもそも、本件尾行行為等の目的は、上述のように、 ?本件抗議活動への報復・いやがらせ、?申立人に対して将来的に本件抗議活動のような反天皇制の表現活動をさせないために心理的圧迫を加えることであると考えられる。
 したがって、本件尾行行為等は、申立人の思想・良心の自由の侵害にあたる。

3 結論
 以上のとおり、本件尾行行為等は、重大な人権侵害行為である。
 また、本件尾行行為等が、申立人のみならず申立人以外の国民に対しても行われるとすれば、国家による監視社会の形成・思想統制につながりかねず、民主主義の根本を揺るがす深刻な事態を招くことになる。

 よって、当会は貴庁に対し、警告の趣旨記載のとおり警告する。

第3 添付書類
別紙1 尾行・監視行為等の一覧表
別紙2 貴庁警察官のうちA、B、Dの写真、車両の写真
別紙3 原簿情報照会
以上

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Published in 日曜日, 3月 26th, 2023, at 18:21, and filed under 天皇制, 弁護士.

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