澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

グララアガア、グララアガア?『DHCスラップ訴訟』を許さない・第8弾

赤旗日曜版の読みどころは断然連載漫画である。かつては、手塚治虫『羽と星くず』『八丁池のゴロ』『タイガーランド』や、永島慎二『れんさいまんが日本むかし話』などの古典と言ってよい作品群があった。中澤啓治も「チンチン電車の詩」を掲載している。近くは、矢口高雄「蛍雪時代」や、山本おさむ「今日もいい天気」の各連載が秀逸だった。

そして今は、ますむらひろしの『宮沢賢治短編集』。賢治作品の理解は読者それぞれだが、猫を借りた人物の描写も、細かく書き込んだ植物や模様も、賢治のイメージをみごとにふくらませている。

ますむらが最初に取りあげたのは「やまなし」だった。この作品は取扱注意だ。私にはいまだに難解に過ぎて分からない。小学生に読ませているのも不可解極まる。ますむらひろし作品も、結局はよく分からなかった。

しかし、「虔十公園林」から俄然おもしろくなった。登場人物の性格描写が生き生きと画に表れている。そして、11回連載の「オッベルと象」が先週終わった。これは文句なくおもしろい。傑作と賞賛してよいと思う。

宮沢賢治の作品の中で、「オッベルと象」はテーマの分かりやすさで群を抜いている。勤労大衆の弱さと強さとを象徴する白象と、支配層ないしは搾取階級のあくどさを象徴するオッベルとの関係の描き方が分かり易いのだ。労農党を支援した賢治の連帯や団結観も見えている。とはいえ賢治の作品である。陳腐な類型化を免れている。決して、オッベルが極悪非道に描かれているわけではない。そして、白象は歯がゆいほどのお人好しなのだ。

冒頭の一節が、全編のトーンを決めている。
「オツベルときたら大したもんだ。稲扱(いねこき)器械の六台も据すえつけて、のんのんのんのんのんのんと、大そろしない音をたててやっている。」

そこへ現れた白象を、オッベルはだましだましこき使う。しまいには鎖でつないで、閉じ込めてひどく扱うようにもなる。

そして、「ある晩、象は象小屋で、ふらふら倒れて地べたに座り、藁もたべずに、十一日の月を見て、『もう、さようなら、サンタマリア。』と斯う言った。」

月のはからいで、白象から仲間に窮状を訴える手紙が到着する。
「ぼくはずいぶん眼にあっている。みんなで出て来て助けてくれ。」という文面。

さあ、ここからだ。
「象は一せいに立ちあがり、まっ黒になって吠えだした。
『オツベルをやっつけよう』議長の象が高く叫ぶと、『おう、でかけよう。グララアガア、グララアガア。』みんながいちどに呼応する。
さあ、もうみんな、嵐のように林の中をなきぬけて、グララアガア、グララアガア、野原の方へとんで行く。どいつもみんなきちがいだ。小さな木などは根こぎになり、藪や何かもめちゃめちゃだ。グワア グワア グワア グワア、花火みたいに野原の中へ飛び出した。」

お終いはこうだ。
「グララアガア、グララアガア、象がどしどしなだれ込む。
『牢はどこだ。』みんなは小屋に押し寄せる。丸太なんぞは、マッチのようにへし折られ、あの白象は大へん瘠やせて小屋を出た。」
『まあ、よかったねやせたねえ。』みんなはしずかにそばにより、鎖と銅をはずしてやった。『ああ、ありがとう。ほんとにぼくは助かったよ。』白象はさびしくわらってそう云った。」

物語の終章の空気が静謐である。団結した行動が勝利したことによる高揚感の描写はない。みんなは「しずかにそばにより」、白象が「さびしく」わらうところで幕となるのだ。

ますむらひろしの作画は、賢治のストーリー展開に負けていない。象の大群が仲間を救出する大活劇の迫力をみごとに活写する。そのうえでの、解放された白象の複雑な表情が印象的である。

私も、スラップ訴訟の被告になって、「ずいぶんな眼にあっている。みんなで出て来て助けてくれ」と窮状を訴える立ち場にある。「『おう、でかけよう。グララアガア、グララアガア』みんながいちどに呼応する」となって欲しいと切実に思っている。

白象をひどく扱ったオッベルの運命はといえば、「五匹の象が一ぺんに、塀からどっと落ちて来た。オツベルはケースを握ったまま、もうくしゃくしゃに潰れていた。」となる。しかし、これは仲間の象が意図的にした結果ではない。

翻って思う。白象にしてみれば、オッベルに対する制裁よりも、完全な損害の填補が関心事ではないか。物語の始まりの「第1日曜」から、終章「第5日曜」までの未払い賃金の支払い、そして虐待に関しての原状回復費用と慰謝料の支払いこそが切実な具体的要求となる。仲間の象たちの日当だって相当因果関係のある損害なのだ。

現実の世界では、賢治の寓話のごとくに、寂しく笑っておわる、というわけには行かない。そう、私もだ。
(2014年7月22日)
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