本日の神奈川新聞に見るスジの通った姿勢
たまたま、本日(9月28日)の神奈川新聞に目を通した。
全国ニュースからローカルニュース、そして論説・特報、投書欄までの充実ぶりを立派なものと感心した。なるほど、確かに中央紙より地方紙にこそジャーナリスト魂が宿っている。
とりわけ、社会面の「事件『繰り返させない』 横浜・米軍機墜落37年 横須賀で平和集会」の記事に、地元神奈川県民の立ち場からの取り上げ方が典型的に表れている。要約しようと思ったが、もったいなくて、全文を引用させていただく。
「住民3人が死亡、6人が負傷した横浜・米軍機墜落事件から37年となる27日、横須賀市長沢の『平和の母子像』前で集会が開かれた。事件で妻が重傷を負った椎葉寅生さん(76)も参加。『このような事件を再び繰り返させない日本をつくろう』と訴えた。
1977年の墜落事件から8年後の85年、犠牲者の死を無駄にせず、事件を語り継ごうと像が建てられた。以来毎年、集会が開かれている。
被害者の冥福を祈るため、毎年参加している椎葉さんは『これは事故でなく、墜落事件。二度と繰り返してはいけない』と強調。事件を風化させまいという思いに加え、日本を取り巻く安全保障の変容についても触れ、安倍政権の集団的自衛権行使容認の閣議決定について『憲法9条で戦争は禁止されている。それを解釈で中身を変えようとした。こんなことを許したら国会も議員も必要なくなる。どうか皆さん、憲法9条を守ろうじゃないですか』と呼び掛けた。
米軍機に関わる事故は後を絶たず、昨年12月には三浦市で米軍ヘリが不時着に失敗した。『米軍基地がある限り、事故はなくならない』と椎葉さん。一方、米軍の新型輸送機オスプレイが県内にも飛来している現状について『あれは論外。米国が日本政府に売りつけようとしている。医療や福祉の予算は削られているのに、私たちの税金が使われている』と怒りをあらわにした。
事件は77年9月27日、在日米海軍厚木基地(大和、綾瀬市)を離れたジェット偵察機が、エンジントラブルで横浜市緑区(現・青葉区)の住宅地に墜落。全身やけどなどで親子3人が死亡し、6人が負傷した。」
もしやと思って、神奈川新聞のホームページを検索してみた。案の定である。
「ニュース」が6項目に分類されている。「社会」「政治・行政」「経済」「子育て・教育」「医療・介護」、そして「在日米軍・防衛」なのだ。
http://www.kanaloco.jp/topic/sub-category?categoryid=13&limit=100
これをクリックすると、「沖縄からのメッセージ 辺野古・普天間 届かぬ『ノー』涙も出ず」「横須賀基地にGW配備6年 撤回求め市民ら行進」「【照明灯】日米密約問題」「深谷通信所跡地 横浜市が市民暫定利用に前向き」「【社説】辺野古移設 計画の混迷は不可避だ」などの記事が並んでいる。地域に根ざした確かなジャーナリズムが存在するという感慨を禁じ得ない。(なお、「GW配備」とは、原子力空母「ジョージ・ワシントン」のこと。念のため)
もう一つ、紹介に値するのが、「紙面拝見」という識者による神奈川新聞検証記事。本日の論者は、横浜在住のフェリス女学院大学矢野久美子教授。
「差別意識と向き合う」というタイトルで、外国人労働者、ヘイトスピーチや朝鮮学校の処遇問題などの民族差別について、同紙の報道に依拠して語っている。以下はその一部。
「9月8日付論説・特報面での師岡康子さんの言葉を書き留めておきたい。『人種差別撤廃条約は植民地主義や奴隷制度への反省の上に結ばれたものだ。例えば、ヘイトスピーチについての勧告で「根本的原因に取り組むべき」としているのも、植民地主義に根ざした朝鮮人への差別であると認識しているからだ』
記事によれば、国連人種差別撤廃委員会の審査では関東大震災における朝鮮人虐殺についても『いつ調査を行うのか』と問われたが、日本政府は『1995年に人種差別撤廃条約を締結しており、その以前に生じた問題は条約には適用されない』と答弁したという。『反省の上に結ばれた条約』なのだから、歴史の事実がどう伝えられているかということも重要な論点だろう。9月9日、10日付論説・特報面では、横浜市の社会科副読本で朝鮮人虐殺の記述が改訂されるプロセスが書かれている。これらの記事から歴史認識が現在の差別や政治動向と連動していることがよく分かる。『植民地支配を正当化するために熟成された差別意識』(9月1日付照明灯)と向き合うことこそが、今問われているのだろう。」
神奈川新聞の記事だけに拠って、今日的な人権問題や憲法問題ついて、これだけのことが語れるのだ。
中央各紙にも、このような姿勢がほしい。
(2014年9月28日)