アベシンゾウ流「沖縄の民意」への対処法
私はアベシンゾウ。ナイカクソウリダイジンだ。日本の行政権のトップの地位にある。権力がこの我が手にあるわけだ。私のこの地位この権限は、民意によって授けられたもの。だから、私は常に民意を大切にする。一度だって、民意を無視したことなどない。だから、この間の選挙も勝てたんだ。
もっとも、民意ったっていろいろある。あちらを立てればこちらが立たない。すべての民意を大切にしろと言われても、そりゃ無理な話だ。だから、取捨選択はやむを得ない。政権与党に擦り寄るかわいい民意には暖かく、政権与党に背を向けるかわいくない民意には冷たいのは、そりゃ人情だ。そのくらいの選択権や優先権はあるだろう。なんたって、私はソウリダイジンなんだから。
政権側が選挙に勝ったときには、胸を張って「民意は多数決に表れる」と言うんだ。「私には民意に従う義務がある」なんてね。「民意に背中を押してもらった」なんてのもうまい言葉じゃないか。ところが、実は最近の世論調査では旗色が悪い。憲法改正や集団的自衛権行使容認、特定秘密保護法だけではなく、原発再稼働でも、安全保障政策一般でも雇用政策でも、福祉でも教育でも、「民意は安倍政権から離反しつつある」とか、「安倍政権は民意にそむきつつある」なんていう論調がある。
そういうときに、うっかり「政権に冷たい民意は尊重しない」と口を滑らせてはいけない。どう言えばよいかについては、十分にレクチャーを受けている。
基本は、「見かけの民意」と「真の民意」の使い分けさ。選挙結果や世論調査の結果がどう出ようとも、あるいはメディアが口を揃え、デモがどんなに政権批判で盛り上がっても、「それは見かけの民意に過ぎず真の民意ではない」とがんばるんだ。「沈黙の民意こそが真の民意」ということだ。
もちろん、政権に批判的な民意は「見かけの民意」だ。扇動された浅はかな民意であって、丁寧に説明し説得させていただきますと言うんだ。そして、政権に物わかりのよい好都合な民意の方を「真の民意」として無条件に尊重する。たとえ、そんな声がなくても、「声なき声」を聞くのさ。1960年安保闘争のときの岸信介、私のお祖父さん譲りの手口。サイレントマジョリティといっても同じことだ。それで、だいたいは思い通りになるんだ。だからちっとも間違ってはいないだろう。
ところが問題は沖縄だ。選挙では政権に擦り寄る賢い仲井真陣営に勝ってもらわねば困ると思ったんだ。かわいげのある仲井真側が勝てば「辺野古基地新設が沖縄の民意だ」というつもりだった。それで、沖縄に振興策の大判振る舞いを約束した。この手で沖縄の民意は政権側にがっちり握ったはずだったんだ。だって、世の中、すべて金目の問題じゃないか。子どもじゃあるまいし、「魚心あれば水心」って分かるだろう。
ところがどうだ。沖縄県民の民意はかわいげがない。知事選じゃ翁長圧勝だし、続く総選挙では四つの小選挙区全部で政権側の敗北だ。あらためてはっきりさせておこう。私が民意を尊重するというのは、私が選挙に勝ったときのセリフ。負けたときは、「これは真の民意ではない。丁寧に政権の考えを説明しご理解いただくまで説得申しあげる」ことになる。当然、丁寧な説明や説得が成功するまでは、沖縄振興資金の大盤振る舞いはオアズケさ。「安倍政権のやり方は汚い」「ずるい」「おかしい」「えげつない」「破廉恥」。なんとでも言うがいい。ありゃあ餌だ。食いつかなかった魚に餌をやる釣り師はいない。
それにしても、沖縄の怒りはすごいな。地元紙が吼えている。「対話拒否 安倍政権は知事と向き合え」(琉球新報社説)なんてね。
「安倍政権は県知事選と衆院選の県内選挙区で完敗した意味をよく理解できていないのではないか。そうとしか思えない振る舞いだ。サトウキビ交付金に関して県が上京中の翁長雄志知事と西川公也農相の面会を求めたのに対し、農林水産省はこれを断った。農水省は日程を理由としたが、農相はJA関係者の要請には応じ、自民党の地元国会議員が同行している」「昨年末、就任あいさつで上京した翁長知事に対し、安倍晋三首相や菅義偉官房長官らは会わなかった。今回の対応もその延長線上にあるが、翁長知事への冷遇が県民感情をさらに悪化させている現実が首相らには分からないようだ」「自民党本部も、沖縄振興予算について議論する8日の沖縄振興調査会に翁長知事の出席を求めなかった。こちらも前県政時とは手のひらを返したような対応だ」「沖縄の民意を今こそ直視し、その非民主的な対応を恥じるべきだ」
赤旗も手厳しいね。
「安倍政権は、辺野古新基地推進の方針を何ら変えないばかりか、民意を聞かずに沖縄振興予算も減額するという『ムチとムチ』政策を押し通すかまえ。沖縄の民意を聞かないばかりか、行政府としての公正な対応さえ投げ捨てています」
おっしゃるとおりだよ。見てのとおりだ。かわいくない沖縄に嫌がらせをしているんだよ。いやなら政権にすり寄っておいで、と言っているんだ。その辺のところ、私の陰険さが、沖縄県民に十分には理解されていないんじゃないの?
それでも、私は民意を尊重しているんだ。選挙に勝ったのは沖縄の見かけの民意に過ぎない。真の沖縄の民意は、政権にすり寄って、金さえもらえば辺野古移転大賛成に決まっている。間違った見かけの民意にお灸を据えて、隠れた真の民意に道をゆずらせるのが私のつとめなのだ。
こうも言ってみようか。
「民意の尊重が私の任務だ。本土の民意が、十全の抑止力を確保するために辺野古新基地の建設を求めている。これと両立しない沖縄の民意を尊重できないのもやむを得ない」
それじゃ、沖縄は踏んだり蹴ったりじゃないかって? でもね、大所高所に立って我慢してもらわなくちゃならないこともある。きっと、沖縄の良識派穏健派が、真の民意を掘り起こして、政権にすり寄って来ると思うよ。まさか、私のイヤガラセが県民と国民の怒りの火に油を注ぐことにはならない…だろう。もしや、琉球独立運動の盛り上がりを招くようなことになれば…それは悪夢だが…。
(2015年1月10日)