澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

人質事件の首相責任解明に特定秘密保護法の壁

毎日の「万能川柳」欄の充実ぶりはたいしたものだが、欠点は「遅い」こと。選考に手間取るのだろうが、投句から掲載までの期間が長く、句によっては鮮度が落ちてしまう。その点、「朝日川柳」の鮮度は高い。

本日の掲載句中に、鮮度命の以下のものが見える。
  壮士かと思えばわしらの安倍首相  (埼玉県 椎橋重雄)
  好きですね「私が最高責任者」    (神奈川 桑山俊昭)
  知っていて蛮勇奮い歴訪し      (東京都 大和田淳雄)

川柳子の明言はないが、「蛮勇奮って歴訪中」の「壮士風言動」が、日本人2人の命を奪うことになったのではないか。「わしらの安倍首相」の「最高責任者」としての言動のあり方が厳しく問われねばならない。

首相官邸のホームページに、「1月17日 『日エジプト経済合同委員会合』における安倍首相の政策スピーチ」の動画がアップされている。スピーチ全文も起こされて掲載されている。
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/0117speech.html

標題からもわかるとおり、経済人を引き連れての中東歴訪であり、経済的な交流を主目的とする会合でのスピーチである。かなりの長文だが、言わずもがなの「壮士風の蛮勇」をひけらかしたのは、下記の部分である。

「今回私は、「中庸が最善(ハイルル・ウムーリ・アウサトハー)」というこの地域の先人の方々の叡智に注目しています。「ハイルル・ウムーリ・アウサトハー」、伝統を大切にし、中庸を重んじる点で、日本と中東には、生き方の根本に脈々と通じるものがあります。
この叡智がなぜ今脚光を浴びるべきだと考えるのか。それは、現下の中東地域を取り巻く過激主義の伸張や秩序の動揺に対する危機感からであります。中東の安定は、世界にとって、もちろん日本にとって、言うまでもなく平和と繁栄の土台です。テロや大量破壊兵器を当地で広がるに任せたら、国際社会に与える損失は計り知れません。

イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」

ISILを1度ならず2度までも名指しして、「ISILと闘う周辺各国への支援をお約束」と明言した。しかも、「現下の中東地域を取り巻く過激主義の伸張や秩序の動揺に対する危機感」表明に繋げてのことだ。明らかに、ISIL敵対当事者への支援宣言であり、有志連合への積極加担のアピールである。

安倍スピーチは、国際武力紛争の一方当事者を「過激主義・テロ勢力」と決め付けたうえで、「これと闘う」対立当事国側へと明示しての支援の約束である。日本国憲法の平和主義・国際協調主義から許されものか、まずこの点の吟味が必要である。国論が沸騰するときにこそ、冷静でなければならない。

さらに、政府は、1月17日当時、後藤さんが拘束され身代金の要求があったことまで知っていた。
「岸田文雄外相は5日の参院予算委で『(後藤さんの)奥様から(昨年)12月3日、犯行グループからメール接触があったと連絡を受けた。11月1日、後藤さんが行方不明になったと連絡をいただいた後、緊密に連絡をとった」と語った(朝日)。

この状況における中東歴訪の強行であり、紛争当事国となっている各国への経済支援をぶち上げ、明確にイスラム国と闘う国への人道支援を約束したのだ。この壮士風発言が、イスラム国側をいたく刺激したであろうことは推測に難くない。

首相は「私の責任でスピーチを決定した」として、「(自身の)判断について正しかったかどうかを含め検証していく」と答えてはいる。

問題は、特定秘密保護法の存在である。
「『イスラム国』から後藤さんの妻へのメールの内容や、日本政府とヨルダン政府の交渉の内容なども明らかになっていない。首相は4日の衆院予算委で『一切言わないという条件で情報提供を受けている。特定秘密に指定されていれば、そのルールの中で対応していくことに尽きる』と述べ、公開できない情報もあるとの考えを示した。」(朝日)という。

早くも、特定秘密保護法がその期待された役割を果たすことになりそうだ。こんな文脈になるのだと思われる。
「最高責任者としての自分の責任を糊塗する意図は毛頭ない」「しかし、ことは防衛・外交に深く関わることで、責任追求に誠実に対応しようとした場合に、特定秘密保護に抵触することは十分に考えられる」「その場合には、特定秘密保護法のルールにしたがって対応するしかない。これが法治国家の当然のあり方だ」「当然のことだが、その場合にいかなる秘密に抵触しているのかについては一切あきらかにできない。それが、法に基づいて行政を司る者の責務である」

かくして、安倍首相の責任追及は闇に葬られることになりかねないのだ。それこそが、特定秘密保護法に期待された狙いのひとつの実現のかたちである。

  セールスは重視人命は軽視
  国民を煙と闇の果てに捨て
  責任を秘密のベールで包み込み
  間に合ったこの日のための秘密法
(2015年2月6日)

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Published in 金曜日, 2月 6th, 2015, at 22:48, and filed under イスラム, 安倍政権, 特定秘密保護法.

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