澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

韓国メディアの歴史修正主義への敏感さ

朝鮮日報、中央日報、東亜日報、聯合ニュースなどの韓国メディアが、インターネット日本語版で発信している。まことに貴重な情報源である。

例えば、2月6日の朝鮮日報ネット日本語版に朴正薫(パク・チョンフン)という幹部記者の次のようなコラムが掲載されている。

標題が、「悲劇に冷静な日本、ぞっとするほど恐ろしい」というもの。同記者は20年前の阪神淡路大震災の現場取材を行って、「頭を殴られたような衝撃を感じる出来事」に遭遇したという。70代とみられる高齢者夫婦の自宅が崩壊し、妻ががれきの下に埋まった。夫が見守る中、救助作業が行われたが、妻は遺体となって発見された。
「記者が本当にぞっとしたのは次の瞬間だった。救助作業中、ずっとその場に立ちすくんでいた白髪の夫は妻の死を確認すると、救助隊員らに深々と頭を下げ、何度も『ありがとうございます。お疲れさまでした』と大声で叫んでいるようだった。夫は一滴も涙を流さず、自らの感情を完璧にコントロールしていた。ロボットのようなその様子を見ると、記者は『これが日本人だ』と感じた。…被災地のどこにも泣き叫ぶ声は聞こえなかった。『静けさゆえに恐ろしい』という感覚。これこそ記者が日本の素顔を目の当たりにしたと感じた体験だった」

続いて、記者はこう続ける。
「過激派組織『イスラム国』により2人の日本人が殺害され、日本国民の間に衝撃が走った。しかし、日本社会の反応は20年前の阪神淡路大震災当時とほとんど変わらなかった。最初の犠牲者となった湯川遥菜さんの父は、息子が斬首され殺害されたとのニュースを聞くと『ご迷惑を掛けて申し訳ない』と述べた。また2人目の被害者となった後藤健二さんの母もカメラの前で『すみませんでした』と語った。何が申し訳なくて、何が迷惑だったのだろうか。」

記者は、これを「迷惑コンプレックス」と紹介している。「日本人の潜在意識には『他人に迷惑を掛ける行為は恥』と考える遺伝子が受け継がれている。『侍の刀による脅し』が日本人をそのようにしたという見方もあれば、教育の効果という見方もある。いずれにしても理由は関係ない。重要なことはたとえ悲惨な状況の中でも、彼らは常に忍耐を発揮するということだ」という。

記者が言いたいことは次のようなことのようだ。
「イスラム国に家族を殺害された遺族らは、日本政府に対して恨み言の一つでも言いたいはずだ。2人の人質が殺害されるという最悪の結果を招いたことについては、安倍政権の失政が大きいからだ。2人が人質となったのは昨年10月ごろで、イスラム国との交渉も水面下で行われていたという。ところが安倍首相は致命的なミスを犯した。中東を歴訪した際、現地で『イスラム国との戦争に2億ドル(約240億円)を拠出する」(原文のママ)と表明し、まさに彼らの面前で挑発したのだ。安倍首相の発言が報じられた直後、イスラム国は2人の人質を殺害すると突然表明した。無用にイスラム国を刺激する結果を招いた戦術的なミスだった。」

「他人に迷惑を掛ける行為は恥」と考える遺伝子を受け継いでいる日本人は、安倍首相のミスで家族を失っても、政権を批判しないどころか、「ご迷惑を掛けて申し訳ない」「すみませんでした」と謝るばかり。記者は、そのように日本人に対する苛立ちを隠さない。日本通と思われる韓国人から、われわれはこう見られている。思いがけないというべきか、思い当たるというべきだろうか。

韓国メディアは、権力批判に遠慮がない。日本の政権にも手厳しい。安倍政権の従軍慰安婦否定発言問題ではことさらである。

安倍首相が今月初めの国会審議において、「アメリカの教科書が従軍慰安婦問題をどのように記述しているかを知って驚愕した」「政府として教科書の記述の変更を求める」と、答弁したことへの反応は敏感である。昨日(2月8日)の朝鮮日報(ネット日本語版)は、アメリカ歴史学界の動向をインタビュー取材して次のように報道している。

「安倍首相は学問の自由を脅かしている」というもの。

今年の1月2日に、アメリカ歴史学会(AHA)が昨年11月の安倍首相による歴史修正主義的発言を批判する全会一致の声明を出した。また、今月5日には、安倍首相の教科書非難発言について、専門家19学者連名の声明が出ている。その中心となった歴史学者のインタビュー記事である。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150207-00000800-chosun-kr

米国コネチカット大学のアレクシス・ダデン教授は「日本政府の教科書修正要求は学問の自由に対する直接的な脅威であり、教科書を執筆したハワイ大学ハーバート・ジーグラー教授を、私たち歴史学者が支持しなければならないということにすぐ同意した」と語った。安倍首相は先日、米国の教科書に日本軍慰安婦問題が間違って記述されていると語り、その前にも日本の外務省は教科書を発行したマグロウヒル社に慰安婦に関する部分を削除するよう要求していた。

同教授は「日本の間違った行動に対し警告すべきだという共感と連帯感が強かった。歴史は自分の都合のいいように選び、必要なものだけを記憶するものではない」と述べた。以下は一問一答。

?声明に賛同したのはどんな学者たち?
「さまざまな地域を研究する、さまざまな地位の学者たちが集まった。アジアを専攻する学者だけでなく、ロシア、欧州、ラテンアメリカなど世界各地の専門家だと考えればよい」

?日本政府の教科書修正要求を歴史学者たちはどのように受け止めているのか。
「学問の自由に対する直接的な脅威だと深刻に受け止めている。日本政府が独特なのは、従軍慰安婦問題は論争の種ではなく、すでに全世界が認めている『事実』なのにもかかわらず、しきりに政治的な目的をもってこれを変更、あるいは歴史の中から削除しようとしている点だ。マグロウヒル社は非常に評判が高い出版社で、見当違いもいいところだ」

?なぜ安倍政権はしきりに歴史問題を取り上げると思う?
「日本政府の不名誉を覆い隠そうという意図ではないかと思う。しかし、河野談話を通じて多くの人々が慰安婦に関する真実を知り、これを認めている。日本の人々も同様だ。特に慰安婦に関する真実のほとんどは、日本人学者の吉見義明・中央大学教授の努力により証明されている。さらに過去数十年間、日本の小中高校に関連の記述があったが、安倍政権になって急に、安倍氏とその支持者たちが真実を変えようとしている。自分たちに有利な記憶だけ大事にしようとしているが、これは問題だ」

?日本はなぜ、第二次世界大戦中のナチスの過ちを謝罪し続けるドイツのように行動できないのか。
「日本人の多くはドイツと自国を比較することを好まない。終戦70周年を迎えたのにもかかわらず、安倍政権は不幸にも日本の過去の責任を認めた村山談話にも挑もうとしている。地域内の平和を20年以上守ってきた歴史問題やそれに関連する大きな枠組みを個人的な政治ゲームのため不必要に崩そうとするのは問題だ。だが、安倍首相がドイツのように過去の過ちを謝罪し、未来に向かって進めない理由はない。世界が直面している危機に共に対処しても不十分なのに、安倍政権は全てを後退させる傾向がある。北東アジア地域や世界にとって良くないことだ」

韓国メディアは米国歴史学者の安倍批判発言を大きく取り上げている。日本と韓国、足を踏んだ側と、踏まれた側の違いではないだろうか。私たちは、韓国国民の発信に耳を傾け、その感情の動きにもっと敏感でなくてはならない。
(2015年2月9日)

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