まずは澁谷の空に輝け・六色の虹の旗
渋谷区の快挙を各紙が大きく報道している。「同性カップルに結婚相当証明書」という見出しが分かり易い。
「東京都渋谷区は2月12日、同性カップルを『結婚に相当する関係』と認め、証明書を発行する条例案を盛り込んだ2015年度予算案を発表した。条例案は3月上旬に開会予定の3月区議会に提出する」「条例案は男女平等や多様性の尊重をうたった上で、『パートナーシップ証明』を定めた条項を明記。区内に住む20歳以上の同性カップルが対象で、必要が生じれば双方が互いの後見人となる契約を交わしていることなどを条件とする。カップルを解消した場合は取り消す仕組みもつくる」
渋谷区は昨年来、有識者らによる検討委員会を立ち上げ、LGBTの区民からも聞き取りをして条例の内容を検討してきたのだという。桑原敏武区長の言がよい。「互いの違いを受け入れ尊重する多様性社会を目指すという観点から、LGBTの問題にも取り組みたい」というもの。
さらに、興味を惹くのは実効性確保の手段の工夫である。「条例の趣旨に反する行為があった場合は事業者名を公表する規定も盛り込む」と報道されている。
諸手を挙げて歓迎したい。性的マイノリティという言葉が熟さないうちに、「LGBT」という言葉が市民権を得てきた。レズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、バイセクシュアル(Bisexual)、そしてトランスジェンダー(Transgender)の略語だという。当事者が、ややネガティブな語感のある「性的マイノリティ」よりは、自らのグループを「LGBT」と言うそうだ。そのLGBTに朗報であるだけでなく、人権の尊重のためにも、他のマイノリティーにとっても、そして豊かな多様性社会創造のためにも朗報なのだ。
このグループのシンボルが、6色構成(赤、橙、黄、緑、青、紫)のレインボー・フラッグ。言うまでもなく、豊かな多様性をシンボライズするもの。まずは澁谷の空にこの虹の旗が翻るよう、声援を送りたい。
人は多様である。文明化した社会は、相互に他の個性と多様性を認め合うことを基本的な約束事として成立している。人種も、民族も、性差も、年齢も、宗教も、嗜好も、思想信条もそれぞれに異なる多様な人々がそれぞれを尊重しながらこの社会を形づくっている。人種や民族による差別、宗教や出自による差別は最も忌むべきものとして克服しなければならない。同時に、皇族だの元華族だのという家柄や家系を誇る愚か者たちを持ち上げたりする陋習も意識的に排斥しなければならない。
人は生まれながらにして平等であり、誰もがありのままで尊重されなければならない。異性愛からする同性愛への差別も克服されなければならない。人はさまざま。多種多様でよいのだ。
「異性間の愛は崇高で神の摂理に適い、同性間の性的愛情は神の摂理に反するものとして認めがたい」。そのような考え方も尊重されてしかるべきであろう。しかし、そのような考えをもつものが、同性愛者のライフスタイルに介入することは許されない。ヘイトスピーチが許されないごとくにである。
社会のマジョリティは、得てしてマイノリティーに不寛容である。同調圧力をもって自らへの同化を求める。「外国人を排斥して日本人だけの社会にしたい」。「神仏以外の宗教は認めがたい」。「家族とは、両親揃っていなければならない」。「日の丸・君が代には国民こぞって敬意を表明するのが当たり前」。「男は仕事、女は家庭に」。これはまことに窮屈な社会。マイノリティーは、このような同調圧力に屈する必要はないのだ。無理に社会に合わせようとすれば、自分が自分でなくなってしまう。自分らしくありのままで暮らせる寛容な社会でなくてはならない。
マイノリティーが暮らしやすい寛容な社会は、実は誰にとっても暮らしやすい社会なのだ。人種や民族。宗教におけるマイノリティーも、思想・信条における少数派も、あるいは老齢者や、障がい者や、経済的に不遇な人も、安心して暮らせる社会を作りたいと思う。
LGBTのグループが暮らしやすい社会は、偏見や差別のない寛容な社会である。しかも、毎日新聞が伝えるところでは、信頼できる大がかりな調査によるとLGBTに属する人々は総人口の5.2パーセントにも及ぶという。
まずは渋谷区の英断を歓迎し、その条例の成立を応援したい。しかし、この条例では年金も相続も扶養も夫婦並みとは行かない。内縁関係が次第に婚姻に準じるものとして扱われた例はあるが、立法によらないその限界も明らかである。多くの先進国が既に多くの国が同性婚を法制化している。渋谷区の画期的試みが他にも広まり、法律を変える運動に発展するよう見守りたい。
すべての人がありのままの姿で尊重され、豊かな多様性あふれる社会の創造のために。虹の旗よ、輝け、ひるがえれ。
(2015年2月12日)