澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

東京弁護士会歴代会長全員連名の「安保関連法案反対声明」

東京弁護士会は会員約7400人を擁する、最大の単位弁護士会である。その会内機関誌(月刊)を「LIBRA(リブラ)」という。「LIBERAL(リベラル)」と紛らわしいが、12星座の中の「天秤座」からの命名。

正義の女神テーミスは目隠しをして天秤を携えているという。つまりは、「正義とは公平のことで、これぞ弁護士業務の理念である」との寓意が込められている。弁護士と天秤。私には、大いに違和感があるが、何しろ全員加入制の弁護士会のこと、この題名は無難な選択なのだろう。

その「リブラ」8月号の表紙裏に、ズラリと並んだ歴代会長による共同記者会見の写真が大きく掲げられている。背後に、「私たちは,安全保障関連法案の撤回・廃案を強く求めます!」という横断幕。次のキャプションがつけられている。

「東京弁護士会歴代会長による違憲の安全保障法制に反対する共同声明を発表」
「2015年7月15日正午過ぎ,衆議院平和安全法制特別委員会で,安全保障法案が強行採決されたことを受け,同日午後2時より弁護士会館で記者会見を行い,標記共同声明を発表しました。当会歴代会長のうち存命の24名全員による声明であり,会見には24名中12名の歴代会長が出席しました。また,会見には報道機関14社が参加し,関心の高さがうかがわれました。当会は,安全保障関連法案の違憲性とその危険性を強く訴え,同法案の撤回あるいは廃案を求める活動を継続していきます。」

http://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2015_08/h2.pdf

歴代会長が連名で声明を発表するのは初めてのことなのだそうだ。会見に参加した歴代会長の中で最高齢が安原正之弁護士(93歳)。1950年に弁護士となり、1982年に会長職を務めている。記者会見では、自らの学徒動員による戦争体験を語り、平和の大切さを訴えた。その上で、今回の安保法案を「法律家であれば、とうてい誰も納得できるものではない」「日本は70年間戦争することなくここまできた。若い世代が、この平和を継続することを望む」と述べている。

現会長の伊藤茂昭弁護士は同会見での発言で、「戦後70年に及ぶ平和な日本の礎を破壊する暴挙だ。法律家として絶対に譲れない一線を越えている」と与党の強行採決を強く批判した。

存命の歴代会長24人全員が名を連ねたことのインパクトは大きい。「圧倒的多数」ではなく、保守的な会派(派閥)からの推薦会長を含めての「全員」。これが、戦争法案に対する法律家の常識的な見方だと言うべきだろう。

明日から、また熾烈な戦争法成立阻止闘争が始まる。今、政権は明らかな論理破綻に陥っているのだが、なりふり構わず法案成立を押し通そうとしている。こと憲法の問題となれば、弁護士会は黙過できない。政権との対決を覚悟しても、運動に立たざるを得ない。政権と対決する陣営の中で。弁護士は法論理の争いにおいて貴重な存在である。我が、東京弁護士会なかなかよくやっているではないか。
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歴代東京弁護士会会長全員による「共同声明」の全文は以下の通り。
http://www.toben.or.jp/message/seimei/post-408.html
2015年07月15日
 「二度と戦争をしない」と誓った日本国憲法の恒久平和主義が、今最大の危機を迎えている。
 現在、国会は政府の提出した「安全保障関連法案」を審議中であるが、会期を異例の95日という長期間延長し、本日、衆議院の特別委員会での採決を強行した。政府与党は、引き続き、本国会での成立を辞さないとの構えを見せ、日々緊迫の度を増している。
 安全保障関連法案は、昨年7月1日の集団的自衛権行使の容認等憲法解釈変更の閣議決定を立法化し、世界中のどの地域でも自衛隊の武力行使(後方支援)を可能とするものである。「厳格な要件を課した」と称する存立危機事態・重要影響事態等の発動の基準は極めて不明確で、時の政府の恣意的な判断で集団的自衛権が行使され、自衛隊の海外軍事行動が行われる危険性が高く、憲法9条の戦争放棄・恒久平和主義に明らかに反するものである。
 また憲法改正手続に則って国民の承認を得ることなく、憲法を解釈変更し、これに基づく法律制定をもってなし崩し的に憲法を改変しようとすることは、立憲主義および国民主権を真っ向から否定するものである。
 衆議院憲法審査会に与野党から参考人として招じられた3名の憲法学者がそろって「安全保障関連法案は憲法違反」と断じ、大多数の憲法学者も違憲と指摘している。これまでの歴代政府も一貫して、集団的自衛権行使や自衛隊の海外軍事活動は憲法9条に違反するとの見解を踏襲してきたのである。
 然るに、政府は「日本をめぐる安全保障環境が大きく変わり、国民の安全を守るためには集団的自衛権が必要」と主張し、武力による抑止力をことさらに喧伝しているが、そのような立法事実が実証できるのかは甚だ疑問である。また、政府は唐突にも、1959年(昭和34年)12月の砂川事件最高裁判決を本法案の合憲性の根拠として持ち出しているが、同判決は、個別的自衛権のあり方や米軍の国内駐留について述べたものであって、集団的自衛権を認めたものではないことは定説である。
 われわれ国民は、日本国憲法の恒久平和主義という究極の価値観のもと、様々な考えや国際情勢の中で平和と武力の矛盾に揺れながらも、戦後70年間軍事行動をしなかったという、世界に誇れる平和国家を創り上げてきたのである。政府は「国民の安全を守るのは政治家である」として、かかる歴史と矜持を、強引に踏みにじろうとしている。
 私たちは、憲法とともに歩みこれを支えてきた在野法曹の一員として、憲法の基本理念である恒久平和主義が、時の一政府の発案によって壊されようとしている現状を深く憂い、ここに安全保障関連法案の違憲性とその危険性を強く国民の皆さんに訴えるとともに、同法案の撤回あるいは廃案を求める。

 昭和57年度会長 安原 正之   昭和58年度会長 藤井 光春
 昭和63年度会長 海谷 利宏   平成元年度会長  菅沼 隆志
 平成5年度会長 深澤 武久   平成7年度会長  本林 徹
 平成9年度会長 堀野 紀    平成11年度会長  飯塚 孝
 平成12年度会長 平山 正剛   平成13年度会長 山内 堅史
 平成14年度会長 伊礼 勇吉   平成15年度会長 田中 敏夫
 平成16年度会長 岩井 重一   平成17年度会長 柳瀬 康治
 平成18年度会長 吉岡 桂輔   平成19年度会長 下河邉和彦
 平成20年度会長 山本 剛嗣   平成21年度会長 山岸 憲司
 平成22年度会長 若旅 一夫   平成23年度会長 竹之内 明
 平成24年度会長 斎藤 義房   平成25年度会長 菊地裕太郎
 平成26年度会長 ?中 正彦   平成27年度会長 伊藤 茂昭
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その翌日には、東弁会長声明が出ている。
http://www.toben.or.jp/message/seimei/post-410.html
2015年07月16日
東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭
 本日、衆議院本会議において、『安全保障関連法案』が与党のみによる賛成多数で強行採決され、参議院に送付された。
 『安全保障関連法案』は、他国のためにも武力行使ができるようにする集団的自衛権の実現や、後方支援の名目で他国軍への弾薬・燃料の補給等を世界中で可能とするもので、憲法改正手続も経ずにこのような法律を制定することが憲法9条及び立憲主義・国民主権に反することは、これまでも当会会長声明で繰り返し述べたとおりである。
 全国の憲法学者・研究者の9割以上が憲法違反と断じ、当会のみならず日弁連をはじめ全国の弁護士会も憲法違反を理由に法案の撤回・廃案を求めている。法律専門家のみならず、各マスコミの世論調査によれば、国民の約6割が反対を表明しているし、約8割が「説明不足」だとしている。
 このように、法律専門家の大多数が憲法違反と主張し、国民の多くからも強い反対や懸念の表明があるにもかかわらず、『安全保障関連法案』を政府及び与党が衆議院本会議における強行採決で通したことは、国民主権を無視し立憲主義及び憲法9条をないがしろにする暴挙と言わざるを得ない。
 安倍総理自身が、「十分な時間をかけて審議を行った」と言いながら「国民の理解が進んでいる状況ではない」と認めており、そうであるならば主権者たる国民の意思に従い本法案を撤回すべきである。国民の理解が進んでいないのではなく、国民の多くは、国会の審議を通じ、本法案の違憲性と危険性を十分に理解したからこそ反対しているのである。
 参議院の審議においては、このような多くの国民の意思を尊重し、慎重かつ丁寧な審議がなされるべきであり、政府及び与党による強行採決や60日ルールによる衆議院における再議決など断じて許されない。
 あらためて、憲法9条の恒久平和主義に違反し、立憲主義・国民主権をないがしろにする『安全保障関連法案』の撤回あるいは廃案を、強く求めるものである。

(2015年8月16日)

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