小渕優子議員の法的責任ー違憲議員落選運動に関連して考える
昨日(10月9日)、小渕優子議員の元秘書2名に対する政治資金規正法違反(虚偽記載など)被告事件の判決が言い渡された。東京地裁(園原敏彦裁判長)は、被告人・折田謙一郎(群馬県中之条町の前町長)に禁錮2年執行猶予3年(求刑禁錮2年)、被告人加辺守喜(小渕議員の資金管理団体の元会計責任者)に禁錮1年執行猶予3年(求刑禁錮1年)の判決を言い渡した。
「判決によると、両被告は小渕氏の資金管理団体『未来産業研究会』(東京)の2009?13年分の政治資金収支報告書で、未来研から地元・群馬側の政治団体に計約5600万円の寄付があったように装ううその記載をした。また、折田被告は群馬側の政治団体の収支報告書でも、計約2億円のうその記載をするなどした。」(朝日)
同裁判長は「政治資金の収支について、国民の疑惑を回避できさえすればいいとする姿勢が垣間見え、厳しい非難に値する」「政治活動に対する国民の監視と批判の機会をないがしろにする悪質な犯行」と述べたという。私には、この裁判所の「国民の監視と批判の機会」という指摘が、たいへんに心強い。
戦争法案に賛成した違憲議員の落選運動が話題となっている今、改めて政治資金規正法第1条を掲げておきたい。まずは、この条文を熟読玩味しなければならない。
第1条(目的) この法律は、議会制民主政治の下における政党その他の政治団体の機能の重要性及び公職の候補者の責務の重要性にかんがみ、政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治団体の届出、政治団体に係る政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする。
法は、「国民の不断の監視」の条件を整える。「不断の監視」の上の批判は、主権者国民がそれぞれになすべきことだ。そのことを法が期待していると言うべきであろう。
ところで、小渕優子の秘書2人は有罪になった。議員自身はどう責任を取るのか。また、国民がその責任をどう追及するか、それこそが問題ではないか。
私は、これまで小渕を「ドリル姫」と呼んできた。「東京地検特捜部が(14年)10月に小渕氏の関係先に家宅捜索に入る以前に、関係先にあったパソコンのハードディスク(HD)が壊されていたことが、関係者への取材で分かった。一部のパソコンのHDは電気ドリルで穴が開けられた状態で見つかった」(毎日)からである。わざわざ、ハードディスク(HD)をドリルで破壊することは通常あり得ない。証拠隠滅の意図からなされたとするのが常識的な考え方。今回、その責任についての報道がないのが気にかかる。
しかし、ドリル姫の呼称は引っ込めてもよい。今後は、尻尾2本を切って生き延びようとしている「トカゲ姫」ではどうだろうか。
本日の各紙の中では、毎日と読売の社説がこの問題に触れている。読み較べて、さすがに毎日の社説に説得力があるが、この問題に限っては読売の姿勢も悪くない。なかなかの迫力。タイトルは、「元秘書2人有罪 小渕氏はいつ説明するのか」と、小渕優子の責任を徹底して追求している。
冒頭の一文が、「議員自らが説明責任を果たしていない中で、元秘書への判決が出た。閣僚を2回も務めた政治家として、みっともないと言うほかない。」というもの。
そう、小渕優子は「みっともない」のだ。分かり易く、言い得て妙である。「小渕氏自身は嫌疑不十分で不起訴となったが、実態を見過ごしてきた責任は極めて重い。」「小渕氏は昨年10月の経産相辞任の際、『説明責任を果たす』と約束した。それから約1年が経過しながら、自らの口で説明していないのは、どうしたことか。」と、読売社説も手厳しい。
読売社説の結論はこうだ。
「政治資金を巡る問題が浮上する度に、『知らなかった』『秘書に任せていた』といった政治家の弁明が繰り返されてきた。その姿勢が、国民の政治不信を増幅させたのは否めない。政治家が自らの政治資金の流れに責任を持つよう、政治資金規正法にも、公職選挙法のような連座制の導入を検討すべきだろう。」
一方、毎日である。タイトルは、「元秘書有罪 小渕氏の重い政治責任」
小渕自身の責任を次のように、まとめている。
「問題の表面化から約1年になる。小渕氏は弁護士ら第三者にまず調査を委ね、自ら説明責任を果たすと約束した。だが、約束はいまだ果たされていない。」
「巨額の簿外支出の使途は何だったのか。報告書に目を通し、秘書たちを指導・監督する政治家としての役割をなぜ放棄してきたのか。」
そして、かなり具体的に問題が小渕だけに留まるものでないことに言及する。
「小渕氏の関係政治団体では、父の故恵三元首相時代から、飲食・交際費の簿外支出が行われ、これを具体的な使途の説明がいらない『事務所費』に紛れ込ませて処理してきたとされる。しかし、国会議員の不適切な事務所費問題が発覚して以後、こうした処理が難しくなり、今回のような関係団体を使ったつじつま合わせが始まったという。」
「他の議員事務所でもこうした処理が行われているとの指摘がある。」
「国会はそうした疑念を呼ばぬよう、でたらめな処理の抜け道をふさぐ方策を考えなくてはならない。」
「1人の政治家が複数の政治団体を持ち、その間で資金移動できる制度が適切なのか。資金移動が必要だとしても、それを公開してチェックできるようにする仕組みが不可欠だ。」
「また、こうした事件のたび、秘書だけが刑事責任を問われ、事件の幕が引かれることでいいのか。」
そして、最後をこう締めくくっている。
「会計責任者の選任・監督に『相当な注意を怠った場合』しか政治家が罰せられない現行法のハードルが高すぎる。少なくとも秘書や会計責任者の有罪が確定すれば、一定期間、政治家本人の公民権を停止して政治の舞台から退場させるべきだろう。」
両社説とも、現行法での小渕の法的責任追求は困難との前提での政治資金規正法改正の提案となっている。具体的には、会計責任者が有罪になっ場合の、当該管理団体代表者となっている議員ないし候補者の公民権を停止する連座制の創設である。大歓迎だ。是非、実現してもらいたい。
しかし、このことは現行法でも可能なのだ。
政治団体(当然に、資金管理団体を含む)の会計責任者に収支報告書に虚偽記載等の犯罪が成立した場合、「代表者が当該政治団体の会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠つたときは、50万円以下の罰金に処する。」(政治資金規正法第25条第2項)と定める。秘書2人が会計責任者として有罪になったのだから、その選任及び監督について相当の注意を怠つたとされれば、代表者・小渕優子の犯罪も成立する。
しかも、この政治団体の責任者の罪は、過失犯(重過失を要せず、軽過失で犯罪が成立する)であるところ、会計責任者の虚偽記載罪が成立した場合には、当然に過失の存在が推定されてしかるべきである。資金管理団体を主宰する政治家が自らの政治資金の正確な収支報告書に責任をもつべき注意義務が存在することは当然だからである。
当該代表者において、特別な措置をとったにもかかわらず会計責任者の虚偽記載を防止できなかったという特殊な事情のない限り、会計責任者の犯罪成立があれば直ちにその選任監督の刑事責任も生じるものと考えてしかるべきべきである。
なお、資金管理団体を主宰する議員・小渕優子が有罪となり罰金刑が確定した場合には、政治資金規正法第28条第1項によって、その裁判確定の日から5年間公職選挙法に規定する選挙権及び被選挙権を失う。その結果、小渕は公職選挙法99条の規定に基づき、衆議院議員としての地位を失うことになる。
以上の措置は、現行法でも可能なのだ。問題は、政治資金規正法25条2項適用のハードルが運用上高くなっているというだけのことである。しかし、毎日社説が言うとおり、「会計責任者の選任・監督に『相当な注意を怠った場合』しか政治家が罰せられない現行法のハードルが高すぎる。」のであれば、政治家無過失でも公民権を失わしめる連座制を創設することが望ましいのは当然のことである。
政治資金規正法をその目的規定に沿うべく厳格に改正して、遷座制導入には大いに賛成するにしても、法改正までは政治家の責任を追及することが困難だと躊躇するようなことがあってはならない。落選運動では、現行法を徹底して活用しよう。
(2015年10月10日・連続923回)