今日を「前夜」にしてはならない。ーそのための精一杯の抵抗を
私と梓澤和幸君とIWJの岩上安身さんとの、自民党改憲草案批判をめぐる12回の鼎談を一冊にした「前夜」(現代書館)が初版本を完売したという。今なら、古本市場で相当の高値がついているとか。情勢が動いているから、増刷するよりは版を改めようということになった。今日(10月27日)は、そのために久しぶりで3人顔合わせをして、戦争法を中心に延々4時間にも及ぶ「前夜・増補改訂版」作成のための再鼎談となった。
過去12回の鼎談は、司会の岩上さんの問に私と梓澤君が答えるという形式だった。今日は憲法問題を語るというよりは、情勢を語り運動を語る場となった。さすがに、ジャーナリストとしての岩上さんの発言が冴え、出番も多かった。知らないことを教えてもらって有益だったがいささかくたびれた。
意見が一致したことは、来夏に行われる参院選の重要性である。岩上情報では、安倍政権はこの選挙で本格的に改憲発議を訴える予定だという。この選挙の結果如何では、改憲の具体的なスケジュールが動き出すことになりかねない。2014年は解釈改憲閣議決定の年、15年は解釈改憲による違憲の戦争法が成立した年として記憶されることになろうが、ビリケン安倍は、さらに16年を明文改憲元年としようとしているのだ。
「前夜」とは、開戦の前夜、ファシズム成立の前夜、あるいは憲法が蹂躙される恐るべき時代到来の前夜を意味している。今こそ「前夜」の危険に満ちた時代と自覚せよ、という編集者の警世の思いが書名に表れている。戦争法が「成立した」とされる今、時代が「前夜」のタイトルに追いついてしまった感がある。
茶色の朝が明けてはじめて、昨夜こそが「前夜」であったと気付くことになるが、そのときは既に遅い。その以前に、鋭敏に「前夜」に至る多くの徴候を、嗅ぎわけ、見逃さず、放置せず、ひとつひとつを克服していきたい。
この鼎談の中で、私は「戦争法案成立阻止のたたかいについての私的総括」を語った。そのレジメを抜粋して掲載しておこう。だいたいのところは、察していただけるだろう。
※「戦争法」という呼称について
「平和安全法」か「戦争法」か。
運動を統一する呼称の成立が喜ばしいこと。
あるいは、メディアのいう「安保法制」「安保関連法」「安保法」か。
※戦争法案攻防は、どのような理念をめぐるたたかいであったか
☆立憲主義をめぐるたたかい
民主主義の限界を意識 政権の権限の制約
選挙での勝利は万能ではない
☆民主主義をめぐるたたかい
「民主主義って何だ?」との問自体の重さ 市民の政治参加の権利と責務
☆平和主義をめぐるたたかい
非武装平和主義→専守防衛路線(安保自衛隊法)→集団的自衛権行使容認へ
いま、あらためて「平和憲法」(前文を含む全条文が平和主義)の確認
※味方の政治的立場はどうだったか
A 形式的立憲主義派 集団的自衛権行使は改憲してから
B 戦後の保守本流 安保も自衛隊も合憲 専守防衛路線
C 伝統的護憲派 安保も自衛隊も違憲
※たたかいの特徴
☆上記Cだけの陣営の狭さを、A・Bが補った。
幅広い連帯 → これが大きな運動の言動力になった
(共闘はBの見解を押し出した。しかし、運動の核はC陣営だったのでは)
☆かつての組織動員型運動から、非組織の市民中心型に(ネット社会化)
しかし、現実には、政党・市民団体の役割は大きい。
☆運動の拡大→新しい参加者の獲得→拡大 の好循環
☆戦争法と、原発・TPP・靖国・「日の丸・君が代」・教育問題等との結びつき
※敵は誰だったか
政権 自公与党 右翼 右派メデイア 財界 ナショナリスト
※敵のイデオロギーは
我が国を取り巻く防衛環境の変化(=中国脅威論)
米軍との軍事同盟関係強化による抑止力期待論
※たたかいに負けた原因
数の暴力+安倍政権の求心力⇔小選挙区制
中国脅威論・北朝鮮脅威論・嫌韓論の一定の影響力
※戦争法が成立したことを軽視してはならない
特定秘密保護法+戦争法 競合症の脅威
「9条ブランド」の喪失は復元不可能
戦地への自衛隊員派遣⇒戦死者の靖国合祀問題
ナショナリズム高揚の危険性
※これからの課題
☆本流 選挙協力⇒安倍政権打倒⇒立憲派政権の樹立⇒戦争法廃止
☆傍流 ビリケン与党の戦争法賛成議員に対する落選運動
適切なシチュエーションを選んでの違憲訴訟の提起
※闘い続けるために
社会的同調圧力に負けずに、ナショナリズムに声を上げることの重要性。
表現の自由とその行使の重要性。萎縮、自主規制の風潮への警鐘。
教育・教科書・大学の自治への攻撃を軽視してはならない。「日の丸君が代」も。
弁護士自治の重要性。その喧伝を。
政党・労組・民主団体の役割についての正当な評価を。
真っ当な政権対抗勢力を作る必要。政党嫌いや野党への揶揄の姿勢の克服を。
本日の鼎談を終えて、思う。今なら、まだ間に合う。本当の「前夜」にしないために、表現の自由とその行使の重要性を再確認しよう。政権や大勢に順応することをやめよう。萎縮や自己規制の風潮は危険だ。覚悟を決めて抵抗しよう。このことを大いに発言し続けよう。
(2015年10月27日・連続940回)