澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

参院選8日目ー教育公務員の選挙運動への威嚇

本年7月1日付で、東京都教育委員会教育長比留間英人から、各都立学校長宛に下記の「教職員等の選挙運動の禁止等について(通知)」と標題する通知がなされている。また、その写しが、都下の各市町村区立の公立学校長宛に配布されている。

     「教職員等の選挙運動の禁止等について(通知)」
 参議院議員の通常選挙が7月に行われる予定である。
 公務員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき職責にかんがみ、選挙運動等の政治的行為が制限されているとともに地位利用による選挙運動等が禁止されている。特に教育公務員(校長、副校長、主幹教諭、指導教諭、教諭、養護教諭及び栄養教諭等をいう。実習助手及び寄宿舎指導員を含む。以下同じ。)については、教育の政治的中立性の原則に基づき、特定の政党の支持又は反対のために政治的活動をすることは禁止されている。さらに、教育公務員特例法において、教育公務員の政治的行為の制限は、国家公務員の例によることとされ、人事院規則で定められた政治的行為が禁止されている。また、公職選拳法においても、選挙運動等について特別の定めがなされている。
 このたびの選挙に当たっても、昨今の教育行政を取り巻く環境が極めて厳しいことを踏まえ、下記の事項に留意の上、所属職員に関係法令の周知徹底を図り、教職員が教職員個人としての立場で行うか教職員団体等の活動として行うかを問わず、これらの規定に違反する行為や教育の政治的中立性を疑わしめる行為を行うことにより、都民の教育に対する信頼を損なうことのないよう、服務規律の確保について格段の配慮をされたい。
 特に、平成25年4月に成立した公職選挙法の一部を改正する法律により、ウェブサイト等を利用する方法にによる選挙運動が解禁されたが、公職選挙法の選挙運動等の禁止制限規定に該当するもの及び政治的目的をもってなされる行為であって地方公務員法第36条第2項各号及び人事院規則14-7第6項各号に掲げる政治的行為に該当するものは、禁止されていることに十分御留意いただきたい。
                  記
1 地方公務員法及び教育公務員特例法関係
(1)地方公務員は、地方公務員法第36条に基づき、一定の政治的行為の制限がなされていること。
(2)教育公務員の政治的行為の制限については、教育公務員特例法第18条により、国家公務員の例によるものとされており、これにより、国家公務員法第102条及びこれに基づく人事院規則14-7に規定されている政治的行為の制限が適用されるものであること。
(3)したがって、公立学校の教育公務員について制限されている政治的行為は、教育公務員以外の地方公務員について制限されている政治的行為とは異なるものであり、かつ、その制限の地域的範囲は勤務地域の内外を間わずに全国に及ぶものであること。
(4)本制限は、公務員としての身分を有する限り、勤務時間内外を間わず適用されるものであり(ただし、人事院規則14-7第6項第16号については勤務時間内に限られる。)、休暇、休職(いわゆる在籍専従も含む。)、育児休業、停職等により現実に職務に従事しない者にあっても異なる取扱いを受けるものではないこと。
2 公職選挙法関係
(1)公務員がその地位を利用して選挙運動をすることは全面的に禁止され、また、その地位を利用して候補者の推薦、後援団体の結成に参画するような選挙運動とみなされる行為をすることも禁止されていること(公職選拳法第136条の2)。
(2)学校教育法に規定する学校の校長及び教員(以下「教員等」という。)は、学校の児童・生徒等に対する教育上の地位を利用して選挙運動をすることができないこと(公職選拳法第137条)。
(3) (1)については公務員としての身分を有する限り、(2)については教員等である限り、勤務時間の内外を問わず適用されるものであり、休戦、休職(いわゆる在籍専従も含む。)、育児休業、停職等により現実に職務に従事しない者にあっても異なる取扱いを受けるものではないこと。
3 政治資金規正法関係
一般職の地方公務員については、その地位を利用して、政治活動に関する寄附等への関与又は政治資金パーティーの対価の支払を受ける等の行為に関与してはならないこと(政治資金規正法第22条の9)。
4 その他
(1) 選挙運動等の禁止制限規定に違反する行為は、公務員の服務執務違反として懲戒処分の対象となるばかりでなく、上記2の場合にあっては、2年若しくは1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金、選挙権及び被選挙権の停止(公職選拳法第239条第1項第1号、第239条の2第2項並びに第252条第1項及び第2項)、上記3の場合にあっては、6月以下の禁鋼又は30万円以下の罰金(政治資金規正法第26条の4)という処罰の対象となるものであること。
(2) 具体的事例について判断するに当たっては、適宜関係法令や関係判例を参照すること。
※添付資料・(参考)教育公務員の違反行為の具体例
・平成25年執行参議院議員選挙「地方公務員と選挙運動」
(平成25年6月東京都総務局人事部作成)

徹頭徹尾、「べからず」の羅列である。いささかも「このことはできる」との示唆はない。とりわけ、「ネット選挙解禁」を弾みとして、多くの公務員や教員が選挙運動に積極化するのではないかと危惧して、これを抑え込もうとする意図が見え透いている。

この通知では、いかなる教員にも、いかなる時間帯においても、いかなる態様でも、無限定に選挙運動が禁じられているごとくの印象を与える。そのような印象を与えるべく「創意と工夫」に満ちた記載となっており、しかも、懲戒処分だけでなく、刑罰や公民権停止の威嚇までも振りかざしてのものとなっている。これでは、すべての教育公務員が、「選挙に関わりを持つことは面倒」「選挙運動を敬遠した方が無難」という気分にならざるを得ない。それこそ、都教委の狙いであり、思う壺である。

この通知は、明らかに教職員と労働組合の選挙運動参加への萎縮効果を狙ってのもの。その結果としての萎縮の効果は、客観的に政権与党への肩入れにつながる。政治的な意図芬々たる通知と指摘せざるを得ない。

言うまでもないことだが、教育公務員とて国民であり、基本的人権の享有主体である。選挙運動を行う権利、あるいは政治的言論の自由は、教育公務員にも保障される。地方公務員法・教育公務員特例法・公職選挙法などでのその地位に伴う権利の制約は、厳格な必要性・合理性に裏付けられる限りでの制限的なものでなくてはならない。これが大原則である。

都教委の威嚇に怯まず、萎縮しないためには、なによりもまず、この通知の内容を十分に理解しなければならない。都教委の脅しは、地方公務員法・教育公務員特例法・公職選挙法の3法律である(政治資金規正法は無視してよい)。規制対象行為は、政治活動(地公法・教特法)と選挙運動(公選法)である。

まず、上記「1(1)」の「地方公務員は、地方公務員法第36条に基づき、一定の政治的行為の制限がなされていること」だけでは内容不明だが、具体的には36条2項1号に記載のある「選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること」という政治活動(実質的には選挙運動)の禁止を指す。重要なことは、この禁止規定には罰則がないこと。また、「当該職員の属する地方公共団体の区域外においてはすることができる」と明記されていることである。つまり、教員ではない地方公務員の場合には、選挙運動が禁止される地域は限定され、しかも違反に罰則がない。

上記「1(2)」は、教育公務員には「人事院規則14-7」(政治的行為の禁止)の適用があると指摘する。人事院規則こそ、悪名高い国家公務員に対する人権制約規定であって、その6項8号に「政治的目的をもって、公職の選挙、国民審査の投票において、投票するように又はしないように勧誘運動をすること」とされている。この点、確かに教育公務員の行為制限は一般地方公務員とは異なり、その制限の地域的範囲の限定もない。しかし、この禁止規定違反にも、罰則の適用はない。

問題は、公職選挙法上の地位利用による選挙運動禁止にある。「公務員がその地位を利用して選挙運動をすること」「教員等が学校の児童・生徒等に対する教育上の地位を利用して選挙運動をすること」とは何であるかを見極めなければならない。

公務員も人権主体であること、選挙に関連する表現の自由という重要な権利に対する制約であることに鑑みれば、その制約の目的や手段を吟味して、地位利用の内容を限定して解釈しなければならない。(以下、明日に続く)
(2013年7月11日)

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Published in 金曜日, 7月 12th, 2013, at 00:02, and filed under 未分類.

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