「日本」の国号はいつから? 「天皇」号は?
先日、50年前のクラス仲間が集まった際に、上海在住で徐福伝説を研究しているS君が発問した。「日本という国号は正式にはいつから使われたのだろう」。誰も正確には答を出せない。
「日本書紀成立よりは以前ということだな」「もとは倭国、いつ日本になったんだろう」「国号だから、対外的な関係が意識されたときなんだろうね」「聖徳太子のときの、国書になかっただろうか」「もっと後、天武の時代だよ」「万葉集には、日本って出てこないのか」
調べてみた。正解はよく分からないが、確実なところでは701年の大宝律令で「日本」の国号を用いているそうだ。文武の時代。そして、対外的に「日本」の文字が表れるのは702(大宝2)年の秋のこと、粟田真人を主席とする遣唐使が楚州の海岸に着いた。この一行が、中国当局に「日本の使」と称したと記録されているとのこと。出典は中国の史書「旧唐書」らしい。
ちなみに、この遣唐使の一行の中に、山上憶良がいた。その帰路に詠んだ歌が、万葉集に出ている。
いざ子ども 早く日本へ
大伴の御津の浜松 待ち恋ぬらむ
ここでの「日本」は、万葉仮名の原文でも「日本」の文字が当てられている。これをヤマトと読むのが習わしのようだが、ニッポンあるいはニホンと読んでもおかしくはない。
面白いことに、日本書紀は「日本」を多用しているのに、古事記は「倭」で一貫し「日本」の語をまっく使っていないという。
701年より前には確実な資料がないようだが、おそらくは飛鳥浄御原令(689年)に日本の国号は使われていただろうという。天武の時代である。国号だけでなく、天皇号も同じ時期に制度として成立したものとするのが有力説だそうだ。そして、その由来を、唐の高宗(則天武后の夫)が、短期間ではあるが「皇帝」号を「天皇」号にあらためていることに倣った、との説があるそうだ。圧倒的な文化先進国の模倣に何の不自然さもない。
高校の歴史の時間に、「日本の元号は大宝に始まって現在に続いている」「大宝とは、日本で金が産出したことを祝っての命名」と習った。金が出たとされたのは対馬で、喜んだ朝廷は、関係者に莫大な褒美と位を授けた。ところが、文武期の朝廷を喜ばせた産金は、実は詐欺だった。続日本紀に「後に詐欺あらわれぬ」と記されているそうだ。日本の元号制度はその出発からケチがついている。
以上は、すべて吉田孝「日本の誕生」(岩波新書)の引用。同書は、「日本とは、国号なのか王朝名なのか」と問うてもいる。この知識の宝庫が古本屋でわずか100円。こんなに安い買い物はない。
歴史は正確に把握したい。誰かに気兼ねしたり、誰かの権威のために、都合良くも悪くも枉げてはならない。自民党改憲草案前文の冒頭が、「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって」から始まるような、そんなご時世だから、なお。
本日も、新装開店記念サービスを。
『古本のこと』
本がどんどん殖えていく。足の踏み場がなくなって、そのうち寝る場所もなくなるかもしれない。困ったものだ。
先日買った本。
稲垣史生「武蔵武将伝」(歴史図書社・昭和55年) 1050円
山本大二郎「奥多摩の花」(講談社・昭和57年) 400円
本田靖春「不当逮捕」(岩波現代文庫・2000年) 600円
ご推察の通りみんな古本。神保町の古本屋さんや東京古書会館の古書展にちょくちょく行く。研究のための本を収集したり、何かのマニアだという大仰なことではない。自分で読んで楽しむために買う。誰かに頼まれた本も探す。宝探しの気分だ。手にとって装丁を見たり、挿絵や写真を見ながらページをめくって楽しみたいのだ。だから通販はあまり使わない。
10年ぐらい前、欲しい植物図鑑を古本屋さんで格安で入手したのが始まり。どれくらい安いかというと正価の4分の1。この値段なら誰だって病みつきになると思う。時代の流れで、山岳本や植物本を欲しがる人が少なくなっていたのも幸運だった。
だいたい場所をとって嵩張る本自体、買う人が減っているらしい。まして清潔を好む時代に古本を嫌う人がいても当然だ。でもよく考えてみれば、図書館の本を平気で借りているなら全く問題なしじゃないかしら。
植物、動物、紀行、旅行、ドキュメンタリー、小説、古典、歴史関係等々。分野にこだわらず、何でも面白そうだと思ったら買う。読めば世界は広がり、時空を超えてわくわくするような冒険に出かけられる。面白い本に出会えば、苦労も悩みも雲散霧消してしまう。
稀覯本とか書名入りとか初版本なんていうことには全く興味がない。だいたいは古本屋の店の前に出ている均一台の上に乗っている、いわゆるゾッキ本からお宝を発見するのが面白いのだ。だって、文庫本も新書もだいたい100円なんですから。皆さんびっくりするでしょう。持ちきれないほど買ってせいぜい2000円ということさえある。
それにとどまらず、時には「どうぞお持ちください」と只でくれる本に行き当たることさえある。わたしは「世界歴史」(岩波講座・全31巻)や「現代医学の基礎」(岩波講座・全15巻)を拾ってきたことがある。いくら自転車とはいえ、坂の多い道を上ったり下りたりしながら、無事家に帰り着けるか心細くなったものだつた。古本と一緒に行き倒れになるのかと一瞬思いました。そこまでの困難はお奨めしませんが、古本探しは紙文化でそだった人の定年後には最適の暇つぶしだと思いますがね。
その前に注意を一言。家族を説得できるかどうか、自信のない人はやめた方がいいかも。