大阪府教委もブラック官庁だ
この人の感覚は異常と評するしかない。憲法感覚において、社会感覚において、そして人間という存在の根源的な理解において。秩序感覚と権力志向のみが異様に発達して、他人の心情やプライドへの理解能力、共感能力が皆無である。基本的人権ということがまったく分かっていない。こんな人物が弁護士であることが理解できない。こういう人物に権力という玩具を与えてはならない。周りが迷惑することこの上ない。いや、橋下徹のことではない。その仲間の、中原徹のこと。
民間人校長として大阪府立立和泉高校長となり、2012年3月の卒業式で、教頭らに指示して、教職員が国歌斉唱の際に斉唱しているかを確認する「口元チェック」を指示して世論の非難を浴びた。もちろん、秩序派・橋下徹は「素晴らしいマネジメント」と賞賛したが、当時の大阪府教育委員長までが、「そこまでやらなくてもいいのではないか」とたしなめている。
その中原が、今年の4月大阪府の教育長に就任した。そして、今月4日府立学校の校長宛てに、「入学式や卒業式の君が代斉唱の際に教職員が実際に歌ったかどうか、管理職が目視で確認するよう求める通知」を発したという。「目視で確認」とは、「口元チェック」のことだ。年度末の卒業式に向けて、改めて全府立校に通知を出す方針だと報じられている。
「口元チェック」となると、思想・良心や表現の自由侵害(憲法19条・21条)などという精神的自由権侵害レベルの問題ではないのではないか。こんなやり方で、こんなところまで、人を追い込みプライドを傷つけることは、世上の用語で「人権侵害」というにふさわしい。つまりは、人間の尊厳を根底から損なう公権力の発動として、憲法13条違反レベルの問題として把握すべきこととなろう。
都立高校で、10・23通達が発出された際に、「自分には思想的な『日の丸・君が代』への違和感はない。だから、これまで少数派の教師の一人として、式では起立し斉唱してきた。しかし、職務命令として起立・斉唱を命じられたら立てない。歌えない。自分の信念として教育に強制はなじまず、教師が生徒の前で、強制に屈してはならないと思うからだ」という教師にお目にかかることができた。まさに、尊敬に値する教育者ではないか。
中原教育長の通知文の中に、「公務に対する府民の信頼を維持することが目的」と記載されているという。何たることか。本気で、教育への府民の信頼が「口元チェック」で獲得できると考えているのだろうか。あまりに貧しい発想というほかはない。およそ教育の場で語られる言葉ではない。
教育とは、個性豊かな教師と生徒との人格的接触によって成立するものだ。信念を貫く教師がいなければならない。「権力などは屁のような存在」「誰がなんと言おうと我が信念を貫く」という教師がいてこそ、硬骨な子どもが育つ。学校をロボットがロボットを製造する工場にしてはならない。
「口元チェック」は、パワハラであり、イジメである。チェックをされる教職員だけでなく、チェックをするよう命じられる校長や教頭にとってもだ。多くの良心的な教職員が気持ちを暗くし、心を傷つけ、教場を去ることになるだろう。都教委を「ブラック官庁」と言ってきたが、大阪府教委はさらにひどい。東西両都市が、ブラック度を競い合っている。ブラックユーモアにもならない。
ところで、府立校の校長やら教頭やらに、聞いてみたい。「あなた、口元チェックやりますか」「ほんとに、チェックして報告を上げますか」「こんな馬鹿げたことが校長の役目だと思いますか」「あなたは教育者ですか。教育行政の下僕ですか」「あなたの視線は、子供に向いていますか。それとも人事権者に向いているのですか」
大阪府の有権者にも聞いてみたい。「こんなアホな教育長を抱えて、大阪の恥やおまへんか」「口元チェックの学校に、子どもをやれますか」「大阪人は、そんなに『日の丸・君が代』大好きですか」「個性や自由や硬骨や叛骨は、お嫌いなのですか」「いつまで、橋下や中原のような連中に好き勝手なことをやらせておくつもりですか」
*************************************************************************
『想像を絶する地下水の力』
上野駅(新幹線地下駅)はカウンターウエイト(重し)無しでは浮き上がってしまう。東京駅も浮き上がらないように駅舎下の地層に固定する「永久グラウンド・アンカー方式」で建設されている。91年10月には武蔵野線の新小平駅で地下部のプラットホームが浮き上がり、レールが隆起した。まれに見る降雨つづきで、地下水位が上昇したせいである。ことほどさように、地下水恐るべし。
その地下水が福島原発で手に負えない暴れ方をしている。ここでの地下水の流れは、事故以前から恐るべきものだった。それが、放射能汚染で、手の付けられないものになっている。「完全にコントロールされている」「ブロックされている」は、嘘も甚だしい。
福島第一原発の敷地は、元々海に面した海抜約30メートルの崖地であった。高波、津波、冷却水の取水、海からの資材搬入など考慮して、土地を削って海抜10メートルの平坦地を造成した。これをグランドレベルとして、圧力容器、格納容器を据え付けるために、建屋部分は14メートル掘り下げた。だから原子炉建屋の底面は海面より4メートル低い位置となった。
この敷地造成の工事において、海抜30メートルから27メートルまで掘り下げることには問題がなかったが、さてそこから10メートルレベルまで掘り下げるのは難工事だったという。常に地下水が湧出し、地盤がぬかるんで、地下水を汲み上げて排水路を作らなければならなかったからだ。10メートルレベルから、さらに14メートル掘り下げるときはもっとたいへんだったはず。
元電力中央研究所主任研究員本島勲さんによると「もともと福島第一原発1?4号機付近では、建屋に働く浮力を防止するために事故前から1日に850トンもの地下水をサブドレーンと呼ばれる井戸から汲み上げていました。」ということだ。事故後のことではない。事故前から地下水を汲み上げ続けなければならなかった。その量、毎日850トン。こうしなければ、上野駅同様、原子炉全体が浮き上がってしまうというのだ。
そして、恐るべき話しは続く。「サブドレーンは、津波やその後の建屋の爆発などで機能しなくなりました。その大量の地下水の一部が、(破損した)原子炉建屋などの地下階に流入し、溶融燃料を冷却した水と混ざり、汚染水を増大させています。」
事故前毎日850トン汲み上げていた地下水が、事故後は「コントロール不能」の状態となっている。地下水の相当部分がメルトダウンした燃料棒などに接触して、放射線汚染水となっているのだ。圧力容器、格納容器、建屋の底面がどうなっているのかは想像もつかないが、そんなたくさんの地下水が流れ込んでいるのなら、汲んでも汲んでも汲みきれない放射能まみれの水浸しになっているのだと考えても間違いではなかろう。東京電力の関係者が絶望的になるのはよく解る。しかし、この事態が起きることを、予測できなかったはずはない。みんなで口をつぐんでいたのか。「すべて制御できている」という安倍首相には誰もこの事態を説明しないのか。説明しても聞く耳持たないのか。
事故直後の11年4月2日には高濃度汚染水が海に流出していることが判明した。産業技術総合研究所(旧通産省工業技術院)の11年4月6日付の報告書「福島県の地下水環境」によると、福島原発施設の下の地層は、上から、砂・泥の混じった水を通しやすい表層(5メートル)、水を通しにくい泥質岩層(20メートル)、主要な帯水層である砂質岩層(200メートル)からなり、海に向かって傾斜している。汚染物質が表層に浸透すると地下水流として1日1センチメートルの速さで海に流れていくとしている。とすれば、汚染水が地下水として、この計算通り流れているとすれば、現在は原子炉建屋から10メートルほどのところを海に向かって進んでいるはずである。
報告書は、「水を通しにくい泥質岩層を透過して深部まで広がることは考えにくい」としている。しかし、岩盤内の地下水の動きはつかみにくいし、14メートル掘り下げて地層を傷つけているのだから、20メートルの泥質岩層を突き抜けて流れることは十分にあり得る。そうすれば、その汚染地下水は港湾の外、外海に湧出することになる。外洋への汚染水流出の危険性はけっして無視し得ることではない。
結局、海に至る汚染水は、3種類あることになる。
(1)地下水にならず地表を流れて海に注ぐ汚染水。
(2)表層に浸透して近くの海に流れて行きつつある汚染水。
(3) 深くしみこんで遠くの外海にいつか湧出する汚染水。
湾外に流れ出る汚染水にはシルトフェンスなど役に立たない。しみ込んだ汚染水を戻すすべなどない。とにかく一刻も早く、元を絶たなければならない。
本島勲さんは「地下水対策の基本は、『出口』ではなく『入り口』です」「より上流側で地下水の流入を防ぐ対策が必要です」「これまでの対症療法的対応ではなく、予防的対策に切り替えなければなりません」と言う。そして、科学的、技術的英知を結集し、研究所や大学などを動員した技術集団を結成することを求めている。それも急いで。
なお、本日の「ウイーンー共同」によれば、18日気象庁気象研究所の主任研究官は、IAEAの科学フォーラムで、「原発北側の放水口から、セシウム137とストロンチウム90が、毎日計600億ベクレル外洋に放出されている」と報告したという。もっとも、この線量でも「沖合では薄められ、漁業に影響しない」とのこと。本当だろうか。
(2013年9月19日)