澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

ようやくエンジンがかかってきたー「毎日」を評価する。

11月7日に特定秘密保護法案が衆議院で審議入りした。その翌日(8日)の各紙は、明確な反対の論調で充実した紙面を構成した。朝・毎・東京の各紙が、一面トップで取り上げ、政治面だけでなく社会面でも、解説記事としても総力をあげている。また、各紙各様に渾身の社説を掲載している。日本のジャーナリズムいまだ健在。ようやくエンジンがかかってきたの感がある。願わくは、廃案までのこの論調とテンションの持続を。もっとも、「読売」だけの読者は、社会に重要な事件が起きていることをまったく知らないで過ごしているのではないか。結局は、大新聞が時の政権の民主々義破壊に手を貸しているということ。その影響や恐るべしである。

「朝日」の8日付社説は、「市民の自由をむしばむ」と標題されたもの。「米軍基地や原子力発電所などにかかわる情報を得ようとだれかと話し合っただけでも一般市民が処罰されかねない。社会全体にそんな不自由や緊張をもたらす危うさをはらんでいる」「その指摘はけっして杞憂ではない。この法案に賛成することはできない」「特定秘密保護法案はまず取り下げる。真っ先に政府がやるべきは、情報公開法や公文書管理法の中身を充実させることだ」と言っている。

「東京」の8日付社説は、タイトルに「廃案」の2文字をいれている。「特定秘密保護法案 議員の良識で廃案へ」というもの。
「秘密に該当しない情報さえ、恣意的に封殺しうるのが、この法案である。行政機関の「長」が「秘密」というワッペンを貼れば、国民から秘匿できるのだ」「何より深刻なのは国会議員さえ処罰し、言論を封じ込めることだ。特定秘密については、国政調査権も及ばない。行政権のみが強くなってしまう。重要な安全保障政策について、議論が不可能になる国会とはいったい何だろう。議員こそ危機感を持ち、与野党を問わず、反対に立つべきだ」「三権分立の原理が働かないうえ、平和主義や基本的人権も侵害されうる。憲法原理を踏み越えた法案である」と、まことに明快。そして、法案への批判の姿勢がまことに手厳しい。

そして、「毎日」である。8日付社説のタイトルは「秘密保護法案を問う 重ねて廃案を求める」というもの。「重ねて」というとおり、毎日は連日以下のとおりの「秘密保護法案を問う」シリーズの社説を掲げて、警鐘を鳴らしている。
 11月5日「秘密保護法案を問う 国民の知る権利」
 11月6日「秘密保護法案を問う 国の情報公開」
 11月7日「秘密保護法案を問う 国政調査権」

シリーズ第4弾となる11月8日の社説は、タイトルに「廃案を求める」と明記した。「この法案は、憲法の基本原理である国民主権や基本的人権を侵害する恐れがある。憲法で国権の最高機関と位置づけられた国会が、「特定秘密」の指定・更新を一手に行う行政をチェックできない。訴追された国民が適正な刑事手続きを受けられない可能性も残る。憲法で保障された「表現の自由」に支えられる国民の「知る権利」も損なわれる」「7日の審議でも根本的な法案への疑問に明快な答弁はなかった。法案には反対だ。重ねて廃案を求める」と明快だ。さらに、「法案概要が公表されたのは9月である。今から議論を始めてこの国会で成立を図ろうとすること自体、土台無理な話だ」という指摘も。まことに真っ当な内容。

そして、毎日は本日(11月10日)シリーズ第5弾の社説を掲出した。「秘密保護法案を問う テロ・スパイ捜査」である。
「そもそも、テロ・スパイ活動防止のために特定秘密の指定が不可欠なのか」と疑問を呈し、「特定秘密を隠れみのに、公安捜査が暴走し、歯止めが利かなくなる恐れはないか。そちらの方が心配だ」「(2010年に流出した)警視庁公安部の国際テロ捜査に関する内部資料には、在日イスラム教徒や捜査協力者約1000人分の名前や住所、顔写真、交友関係などの個人情報も含まれていた。問題なのは、こうして集められた個人情報にテロとは無関係のものが多数含まれていたことだ。国際結婚したり、イスラム教徒だったりしただけでテロリストと結びつけられた例があった」「スパイ活動の防止にも同じことが言えるが、人を監視することによって得られる情報は、国民の人権やプライバシーと衝突する危険性をはらむ」という指摘である。ここには、権力は信頼できない、権力を信頼してはならない、というジャーナリストの本能が語られている。

また、本日の毎日8面の特集記事「特定秘密保護法案 成立したらー市民生活こうなる」に感心した。読者に訴える力がある。

タイトルのとおり、法成立後に起こりうる市民生活への影響を「三つのケース」で考察している。
 ケース1 原発の津波対策を調べる住民 「そそのかし」で有罪
 ケース2 オスプレイ計画を尋ねる議員 行政が裁量で情報秘匿
 ケース3 自衛官が内部告発、米の盗聴 内容の違法性問われず

よくできた想定なので、是非直接にお読みいただきたい。
http://mainichi.jp/shimen/news/m20131110ddm010010003000c.html

日下・青島・臺の「毎日」3記者に敬意を表したい。私たちも、これにならって、この法案が成立したら市民生活にどのような具体的影響が生じるのか、誰もがよく分かるような事例を積み上げていかねばならない。

本日の赤旗には、昨日(9日)札幌弁護士会が主催した秘密保護法に反対する市民集会に550人が参集したという記事が載っている。その集会での寸劇が好評だったとのこと。特定秘密保護法違反(特定秘密漏えいの教唆)で逮捕された記者の弁護活動が、秘密の壁に阻まれて‥という内容。

この危険な法案。何度「危険」を繰り返しても聞く人の耳にははいらない。どのように危険なのか、いったいどんなことが起こるのか。人権に、民主々義に、そして平和に、どのような影響が及ぶことになるのか。法案の内容を正確に押さえたうえで、訴える工夫を凝らしたい。
(2013年11月10日)

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Published in 日曜日, 11月 10th, 2013, at 23:12, and filed under 未分類.

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