「STOP! 秘密保護法共同行動」の街頭宣伝活動で
ご紹介いただきました日本民主法律家協会の澤藤です。有楽町をご通行の皆様、ぜひ耳をお貸しください。私は、特定秘密保護法の成立は議会制民主々義の危機だと申し上げたい。なんの誇張でもない、正真正銘の民主々義の危機。そのような意味で、この法案は稀代の悪法というにふさわしい。
先程から何人もの弁士が語っているとおり、特定秘密保護法とは「行政機関の長(各省大臣等)が国民に知らせてはならないとする情報を特定秘密に指定してこれを国民の目の届かないところに隠蔽し、この情報を国民に知らせようとする者に重罰を科す」という基本構造をもった法律です。国民の目と耳を塞ぎ、主権者である国民の知る権利をないがしろにするもの。そのことによって、国民が正確な情報に基づいて自分の意見を形成して政治に参加するという、民主々義の根本を堀崩すものとならざるをえません。
当然のことながら、「知る権利を侵害される国民」の中には国会議員もふくまれます。国会議員も、正確な情報に基づいて意見を形成して国会審議に参加するという、国民から付託された使命を全うすることができなくなります。本来国会は国権の最高機関であって行政府には優位に立ちます。国政調査権を行使して行政を監督すべき立ち場にあります。ところが、特定秘密保護法が成立すれば、知る権利を侵害された国会は最高機関としての役割を果たせなくなります。国会の使命として最も重要な、戦争と平和、国際協調や外交の問題について、行政機関の長が許可した範囲の情報しか入手できないことになるからです。
戦前には、民主々義は存在しませんでした。立法権は天皇にあり、貴衆両院からなる帝国議会は天皇の「協賛機関」に過ぎませんでした。国民は、敗戦という高価な代償をもって日本国憲法を獲得し、その中に国民主権原理という大事な柱を据え付けました。国会は国権の最高機関として、行政の暴走への十分な監視監督ができなくてはなりません。
条文を引用すれば、憲法62条は「両議院は各々国政に関する調査を行い、これに関して証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」と各院の国政調査権を定めています。これを承けた国会法や議院証言法は、政府が国会への報告の義務を負うこと、求められた証言や資料提出の義務を定めています。どうしても義務を履行できない場合には、「国家の重大な利益に悪影響を及ぼす」との声明を内閣が出さなければなりません。
ところが、特定秘密保護法案は、国会と行政の立ち場を行政優位に逆転します。これでは、国会は行政の暴走をチェックすることができません。これが、議会制民主々義の危機という理由です。
特定秘密保護法案では、国会が行政に求めた情報の提供について、それが特定秘密にあたる場合には、行政機関の長が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたとき」にだけ国会の要求に応じればよいことにされています。つまりは、諾否の権限を行政の側が握っているのです。しかも、行政機関の長が国会に特定秘密を提供する場合にも、国会は非公開の秘密会でなくてはならないのです。主権者である傍聴人も、国民の知る権利に奉仕すべき立ち場にあるメディアの記者たちも閉め出した密室での「特定秘密のこっそり提供」なのです。
まだ先があります。秘密会で提供された特定秘密を知った国会議員が、これを政党の幹部に報告しても、仲間との政策議論の場で口にしても、あるいは調査依頼のために政策秘書に漏らしても、最高刑懲役5年の犯罪なのです。その議員に働きかけて情報を得て、記事を書こうとした気骨ある記者も処罰対象となります。
かくも厳重に秘匿される「特定秘密」とはなんでしょうか。「安全保障にかかわる情報で、4分野(外交・防衛・スパイ・テロ)の法律列挙事項に関する、特に秘匿を要するもの」というのです。外交問題にしても防衛事項にしても、主権者である国民が最も知ることを望み、最も知らねばならないものです。このような特定秘密の指定件数は、法が成立すればまず40万件を超えると言われています。
内容が重要でしかも厖大な秘密情報。それが隠蔽されたままでは、平和を守り戦争を防止するための国会審議はまったくできません。日米間に密約はないのか、非核3原則は守られているのか、日本に寄港している核艦船に放射線漏えいはないのか、オスプレイの構造上の欠陥はないのか、国内原発の構造は安全なのか、TPPでは主権が売り渡されているのではないか、自衛隊も公安調査庁も警察も平和を求める市民団体の監視を行っているのではないか、国民のプラバシー侵害を行っているのではないか‥、幾多の重要問題が秘密にされ国会の審議は形骸化してしまいます。しかも、「何が秘密かはヒミツ」なのですから、時の政権に不都合な情報が特定秘密に紛れ込むことは大いにあり得るところです。
特定秘密保護法は、国会の権威、国会の権限を貶めるものです。国会に対する行政優位、実質的には官僚優位をもたらし、議会制民主々義の危機を招くものです。保守も革新もなく、国民からの付託を受けた国会議員が、自らの使命や権能の失墜をもたらす法案に賛成することが理解できません。民主々義を大切に思う多くの人々の力を結集してこの法案を廃案に追い込もうではありませんか。
(2013年11月11日)