澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「総合的、俯瞰的活動を確保する観点」って、わかるかな? わからないだろうな。言ってる自分もわからないんだ。

(2020年10月6日)

学術会議の新会員任命拒否問題というやつ。思いがけなく大きな問題になって、まずかったかなって頭抱えてるんだが、弱気なところを見せるわけにもいかないだろう。マスコミから会見やれってうるさい。逃げてばかりというのもみっともないから、昨日(10月5日)は、3紙だけ「内閣記者会の共通インタビュー」というのをやってみた。ペーパー読みながらのしゃべりだから楽なものだったが、評判はよくない。確実に支持率は下がることになる。憂鬱でならない。

 ― 日本学術会議が推薦した新会員候補6人の任命を拒否した理由は? 政府は1983年、学術会議の推薦を受けて形式的に任命するとの立場を示したが、法解釈を変更したのか。

 えらくストレートな質問だが、私は「ご飯論法」の継承者として、決してまともに答えるようなまぬけたことはしない。そんな答弁では、ほんとのことがバレバレになるじゃないか。「拒否した理由」も、「法解釈を変更したか否か」も、決して答えない。聞かれていることには答えず、聞かれていないことにだけ答える。これが安倍継承の菅流。

 「法に基づいて、内閣法制局にも確認の上、学術会議の推薦者の中から首相として任命している。個別の人事に関するコメントは差し控えたい」

 質問は、「本当に法に基づいての任命拒否行為なのかを知りたい。そのため、まずは拒否理由を明確にしていただきたい」と問い質しているのだが、「法に基づいての任命行為」と、結論だけを強引に言っちゃう。で、「内閣法制局にも確認の上」と権威付けたのだが、アベ政権以来、「首相に忖度の内閣法制局」と権威失墜だからあまり意味はないか。そして、「学術会議の推薦者の中から任命を拒否した者」について聞かれているのだが、「学術会議の推薦者の中から首相として任命している」とはぐらかす。最後は、「個別の人事に関するコメントは差し控えたい」と、断固として答弁を拒否。どうせ食い下がる記者なんかいない。もし、そんな記者がいたら、情報をやらなくすればよい。しかも時間を限ってのものだ。この程度の答弁で十分だろう。

もう少し、聞かれていない余計なことを付け加えておいた。こうしておけば、政権に近い学者や、会食を重ねている報道関係者が、忖度の記事を書いてくれるだろう。

 「学術会議は政府の機関で、年間約10億円の予算を使って活動し、任命される会員は公務員の立場になる。現在の会員が自分の後任を指名することも可能。推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲してよいのか考えてきた。会議は、省庁再編の際に必要性を含めて相当議論が行われ、総合的、俯瞰的な活動を求めることになった。総合的、俯瞰的な活動を確保する観点から、今回の任命についても判断した」

 締めの言葉が、「総合的、俯瞰的な活動を確保する観点から、今回の任命についても判断した」と言うんだ。きっと、この原稿起案した官僚もなに言ってるのかわからんだろうな。読んでる私も、さっぱりわからない。聞かされている記者も国民も、わかるはずはないんだが、それでもいいのさ。後になれば、「これまで、丁寧にご説明してまいりましたとおり」という材料になるんだね、これが。

 「過去の国会答弁は承知しているが、それぞれの時代の制度の中で、法律に基づいて任命を行っている」

 「法解釈を変更したのか」という問に対する回答個所だが、これも分からない。上手に分からぬよう書くものだと、起案者を褒めるしかないね。

 ― 学問の自由を侵害するとの指摘をどう考えるか。6人が(安全保障関連法など)政府提出法案に反対の立場だったこととの関係は。

 これも、あまりにストレートな質問。「学問の自由を侵害するとの指摘はごもっとも」なんて答えるわけにはいかないだろう。「政権が学問の自由を侵害しているのでないかとの疑義は払拭しなければならない」とも言えない。結局は、「学問の自由とは全く関係ない。」と言わざるを得ないじゃないか。聞いた人が信じるはずもないにせよだ。

そして、みんな知っているとおり、政権は、自分に対する批判者を排除したいのだよ。当たり前じゃないか。法的にできるかどうかではなく、力関係を量っての排除できるかどうかの判断なんだ。国民の反感を買って支持率が大きく下がり、次の選挙に響くと思えば、無理はできない。しかし、大きく選挙に響かないのなら、強引にやるだけなのさ。

質問者だけでなく、国民ももうよくわかっている。安倍政権の憲法改正の方針や、反憲法的な強引な政策に、科学者や研究者と言われる人たちの多くが、先頭に立って異議を唱えてきた。その影響力は無視できない。だから、反政府的な発言をする学者に対しては、「黙っておれ」というメッセージを送らなければならない。6人は、そのような影響力を持った学者として、「黙っておれ」というメッセージとして、任命を拒否されたのだ。そんなこと、常識的にわかることさ。この6人が、学術会議の会員になれなかったから、政府批判を遠慮するようにはならないだろう。しかし、その周囲に対する萎縮効果は十分に期待できるはずだ。世の中、「長いものには巻かれろ」と考える人々が多いのさ。

もちろん、そんなホンネを口にできるはずはない。しかし、まったく否定してしまっては、十分な萎縮効果を期待できなくなる。そこで、こんな風に、否定しつつも、匂わすわけだ。「6人についていろんなことがあったが、そういうことは一切関係ない。総合的、俯瞰的活動を確保する観点から判断した。これに尽きる」 

「総合的、俯瞰的活動を確保する観点から判断」って、なかなかのものじゃなかろうか。以後、私のことを、「総合おじさん」とか、「俯瞰おじさん」と呼んでくれたまえ。

Comments are closed.

澤藤統一郎の憲法日記 © 2020. Theme Squared created by Rodrigo Ghedin.