澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

戦没学徒を「顕彰」する、右翼教科書の記述は戦争を美化するものだ。

(2021年4月3日)
本日の東京新聞第6面に、以下の見出しの記事。
「沖縄戦慰霊碑を『顕彰碑』」「高校教科書 元学徒ら『戦争美化』」「批判受け訂正へ」

見出しをつなげるとこういう意味だ。「ある高校教科書が、沖縄戦犠牲者の慰霊碑を『顕彰碑』と記載した。元学徒らは、この記載を『戦争美化』と批判し、批判受けて教科書の記載は訂正されることになった」

 この記事。いくつもの問題を孕んでいる。何よりも、戦没者追悼のありかたが問われている。今に生きる者の戦争に対する評価が、戦没者追悼のあり方を決することになる。ことは、学徒隊の戦没者追悼の問題にとどまらない。維新以後の軍国日本の侵略戦争における戦没者を「英霊」と呼ぶ歴史風土に根底的な問題が横たわっている。

 この東京新聞の記事のリードは、共同通信配信記事のようだが、以下のとおり。

 文部科学省が検定結果を公表した2022年度の高校教科書のうち明成社(東京)の歴史総合が、沖縄戦の戦没学徒の慰霊碑「一中健児之塔」(那覇市)を「顕彰碑」と表記し、報道機関の指摘を受け「慰霊碑」に訂正申請する考えを示したことが1日、分かった。文科省によると、検定で修正を求める意見は付かなかった。元学徒らは「戦没者を英雄視し、戦争を美化することは許されない」との声明を発表した。

 明成社とは、人も知る右翼出版社。日本会議の本を多く出している。教科書としては、「日本人の誇りを伝える最新日本史」を出版している。その編者が、渡部昇一・小堀桂一郎・櫻井よしこ・中西輝政・国武忠彦という、目の眩むような御仁たち。自ら、この本のキャッチを「新教育基本法に最も適った高校用歴史教科書。この教科書は、自虐史観・反日史観にとらわれない初の歴史教科書…」と言っている。

 その、同じ明成社の歴史総合教科書の記述が、「▲一中健児の塔 県立第一中学校の戦没学徒の顕彰碑」としている。「顕彰」とは、明らかに戦没者を「褒め称えている」含意をもっ用語。右翼にとっては、「君のため国のために闘って死んだ」ことは、悲惨であるよりは、褒めそやすべき立派な行跡なのだ。

 「顕彰」碑という言葉遣いの中に、戦争の肯定的評価がある。「英霊」という言葉が、あの戦争を侵略戦争だと言い切ることをためらわせる効果があるように、である。
 
 東京新聞の記事本文の重要部分を略記する。

 元学徒らはその説明文の中で、ひめゆり学徒隊を「ひめゆり部隊」と表記したことも「独立編成で軍隊と一緒に戦った印象を与える」と問題視した。

 塔を管理する養秀同窓会によると、明成社から3月末、顕彰碑の表記と写真の無断使用について謝罪の連絡があり、訂正申請する意向を伝えられた。

 沖縄戦に動員された沖縄県内21校の出身者らで作る「元全学徒の会」が今月1日、那覇市で記者会見し、共同代表の与座章健さん(92)は、「世の中が戦争を肯定するような方向に動き出していないか非常に心配だ」と危機感を示した。

 中学生(旧制)の戦死に対して、一方は悲惨な死と見、他方は国に殉じた称賛すべき死とみる。「元学徒の会」は、徹底して前者の立場に立つことで、後者の立場が台頭しつつある風潮を深刻に嘆いているのだ。

 だが、靖国という装置は、まさしく戦死者の美化による戦争肯定の役割を担うものなのだ。そこでは、慰霊という言葉も悪用されている。死者は、万人によって悼まれるべきものであって、死者の霊魂を慰めるという宗教性を一般化してはならない。ましてや、特定の信仰に結びつけて戦死者を「英霊」などに祀り上げてはならない。戦死者を神として崇めることは、その戦争を美化し肯定することにほかならないのだから。

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