公職選挙法違反を自認した 選挙運動費用収支報告書訂正
予てから指摘しているとおり、前回都知事選(2012年12月16日施行)における宇都宮健児候補の選挙運動費用収支報告書(同年12月28日付分)の記載によって、同陣営の運動員買収の疑惑が濃厚である。けっして規模が小さい故に無視できるものではない。宇都宮君に、猪瀬を初めとする他の政治家の違法を正す資格があるのかが問われなければならない。
上原公子選対本部長(元国立市長)と服部泉出納責任者に対する運動員買収を明示したが、被買収運動員はこの2名に限らない。「労務者」「事務員」として届けられた者、最大29名に及ぶ可能性がある。買収者は、収支報告書に名前は出てこないが選対事務局長であった蓋然性が高い。公職選挙法221条1項に違反するもので法定刑の最高量刑は懲役3年である。
私は、選挙告示の前日(1月22日)のブログhttps://article9.jp/wordpress/?p=1970に次のとおり記載した。
「東京都知事選は、とうとう明日が告示日。明日から選挙運動期間である。
念のために、今日また東京都選挙管理委員会に足を延ばした。2012年12月16日施行の東京都知事選挙における宇都宮健児候補の選挙運動資金収支報告書を閲覧してきたが、本日(1月22日)午後の時点で、何の訂正も変更もなされていないことを確認した。宇都宮陣営は、前回選挙における選挙運動収支報告書の重大な届出ミスを認めながら、これを放置して次の選挙に突入しようとしている。
上原公子選対本部長(元国立市長)の労務者報酬10万円受領の届出も、添付の選挙運動報酬受領証も何の変更もなくそのままであった。服部泉出納責任者についても同じこと。合計29名に及ぶ疑惑の「労務者」「事務員」についての届出訂正もない。宇都宮陣営の1月5日付文書「法的見解」では、随分と簡単に「記載ミスを訂正すれば済む問題である」と言っておきながら、何の訂正もせずに次の選挙に突っ込もうというのだ。誰の目にも、「コンプライアンス意識に問題あり」が明白ではないか。あるいは、「記載ミスを訂正すれば済む問題」と言ってはみたが、実は「労務者報酬受領」と届出を脱法しての運動員買収の事実は訂正のしようがないということなのであろうか」
ところが、宇都宮選対は、同じ1月22日付で収支報告書の訂正届出をしていた。私が報告書を閲覧して確認をしたあとのことになるのか、あるいは同日の訂正届出が報告書に反映されたのが私の閲覧のあとになったのかも知れない。いずれにせよ、私がその訂正を確認したのは昨日(2月3日)のこと。都庁に用事があって、ついでに選挙管理委員会によって閲覧の結果である。
訂正の態様は、上原公子選対本部長と服部泉出納責任者両名に対する、各労務者報酬として明記された10万円の支出の届出を抹消するというもの。
1月5日付の宇都宮陣営の「法的見解」は、次のように言っていた。
「公職選挙法は『選挙運動に従事する者』の実費弁償を認めている(197条の2)。上原氏はこの『選挙運動に従事する者』であり、交通費や宿泊費など法的に認められる支出の一部にすぎない10万円の実費弁償に何の違法性もないことは明らかである。」「もっとも上原さんらの上記10万円の実費弁償が選挙運動費用収支報告書に誤って「労務費」と記載されていることは事実であるが、この記載ミスを訂正すれば済む問題である。」
「法的見解」では、「上原さんら」への選挙運動費用としての10万円の支払いと、同人らの同額の受領を否定していない。2012年12月14日の日付がはいった「上原さんら」の署名捺印のある領収証に、「選挙報酬として」受領したと明記されているのだから、受領の事実は否定し得ないと判断したのだろう。だから、「選挙報酬として」という受領証の記載も、収支報告書の支出目的欄に届け出た「労務者報酬」という記載も間違いで、実は「交通費や宿泊費の一部」だったと取り繕うほかはなかったのだろう。
以上の「法的見解」の記載から、私は当然のこととして「労務者報酬」としての支出の届出を「交通費や宿泊費」に訂正するのだろうと思っていた。そのために、これを証する領収証を調達する努力がなされるだろうし、もしそれができなければ、領収証に代わるものとして公職選挙法189条1項に定められた「領収証…を徴し難い事情があったときは、その旨並びに当該支出の金額、年月日目的を記載した書面」を作成して提出することになるだろう、そう思っていた。
ところが宇都宮選対はそうしなかった。選挙運動費用収支報告書の記載は、「上原さんら」への支出はまったく無かったものと「訂正」されたのだ。「労務者報酬」としても、「交通費や宿泊費の一部」としても、支出と受領の事実そのものが抹消された。「法的見解」とはまったく異なるストーリーとなったのだ。
この訂正の結果、選挙運動費用の支出総金額は20万円の減額となった。すると、選挙カンパの残額は20万円増えてなくては辻褄が合わないことになるが、さて上原さんらは現金を払い戻したのだろうか。
なお、宇都宮候補の出納責任者として選管に届出されたのは服部泉さん一人だけである。ところが、選挙運動費用収支報告書の「第2回分」(2013年2月12日付)の届出は別人の「出納責任者・服部勇」が行っている。「真実に相違ありません」という公選法に基づく宣誓をしてのことである。今回、この点も併せて1ページ全部が差し替えられて訂正された。前代未聞のお粗末な訂正ではないか。
選挙管理委員会は、届出も訂正も内容の真偽にかかわらず受理はする。選挙管理委員会の届出受理が適法性のお墨付きとはならない。もちろん、訂正の経過はしっかりと残すようになっている。これから検証されなければならない。
この度の訂正は、選挙運動に関する費用の収支報告を適正になすべき公職選挙法上の義務に反した違法を自認したものである。届出の違法を指摘されて、違法を認めたから訂正した。いうまでもなく、訂正したから罪にならないということにはならない。報告書提出時点で犯罪は成立しているのだから。
公職選挙法の該当条文は以下のとおり。
「246条 次の各号に掲げる行為をした者は、3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処する
5号の2 第189条第1項の規定に違反して報告書若しくはこれに添付すべき書面の提出をせず又はこれらに虚偽の記入をしたとき」
これは、いわゆる形式犯である。「うっかりミス」も処罰の対象となる。先の選挙運動員買収は実質犯として懲役3年、こちらは形式犯であるが故の禁錮3年。もっとも、形式犯としては法定刑が重い。このことについて、「逐条解説 公職選挙法」は、「選挙の自由公正は適正な選挙運動費用の収支の確保によって担保されるものであり、これが適正に行われないときは選挙の自由が著しく阻害され、選挙の信用をも失墜せしめる原因ともなるのであるから、けだし当然のことというべきである」と述べている。
上原、服部両人の各10万円受領の事実は、報告書の「訂正」によっても動かしがたい。「法的見解」によって補強されているところでもある。しかも、今回の「訂正」によって、受領費目が「旅費・宿泊費」ではないとされているのだから、10万円の授受は運動員買収と考えざるを得ない。
上原・服部の受領費目を「旅費・宿泊費」としたのは「法的見解」だが、今回の訂正はこれを否定した。同じ報告書には宿泊者の特定はないものの、31泊分の宿泊費の支出を計上している。上原・服部らが真実宿泊しているのなら、支出費目を宿泊費と特定して支払いを請求し受領して、その旨を届け出たはずである。また、タクシー代を主とする交通費の支払いも188件の支払いが届け出られている。上原、服部両人が、領収証なしに各10万円の交通費の支給を受けたとは到底考えられない。誰が見ても、真実は、届出の虚偽ではく、選挙運動の対価としての報酬の受領であったろう。つまりは、禁錮刑の範疇ではなく、懲役刑の範疇の行為なのだ。
昨年10月の川崎市長選での福田紀彦市長陣営の提出した選挙運動費用収支報告書にミスがあったとして訂正になった。事情をよく調べてみると、なるほど陣営の言い分には納得しうるものがあるというべきである。それでも、「神奈川新聞」と、「朝日」「毎日」(いずれも地方版)はこれを取材し記事にした。まさしく、「選挙の自由公正は適正な選挙運動費用の収支の確保によって担保されるものであり、これが適正に行われないときは選挙の自由が著しく阻害され、選挙の信用をも失墜せしめる原因ともなるのであるから」という観点からである。しかし、なぜか宇都宮陣営の選挙運動費用収支報告書の訂正は、メディアの報道するところとなっていない。
(2014年2月4日)