澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

施政方針演説は、岸田文雄の国会軽視宣言となっている。

(2023年1月24日)
 昨日、第211通常国会の開幕となった。今朝の新聞で、岸田首相による施政方針演説に目を通して、その大上段ぶりに驚いた。この人、こんな人だったかしら? それだけではない。言ってることがどうもおかしい。大丈夫だろうか、この人。

 冒頭こう言っている。この人の日本語、なんだかおかしい。

 「政治とは、慎重な議論と検討を積み重ね、その上に決断し、その決断について、国会の場に集まった国民の代表が議論をし、最終的に実行に移す、そうした営みです」

 そうではない、こう言わねばならない。

 「政治とは、国会の場に集まった国民の代表が慎重な議論と検討を積み重ねて方針を決断し、その決断された方針を政府が実行に移す、そうした営みです」

 これが、三権分立の立場である。こうでなくては、憲法によって国権の最高機関とされている国会の立場を貶めることになる。

 「私は、多くの皆さまのご協力の下、さまざまな議論を通じて、慎重の上にも慎重を期して検討し、それに基づいて決断した政府の方針や、決断を形にした予算案・法律案について、この国会の場において、国民の前で正々堂々議論をし、実行に移してまいります」

 岸田君、頭が高い。これでは、勝手に閣議で決めた政府方針を正々堂々貫くぞという国会軽視宣言ではないか。行政府が立法府に持つべき謙抑性や謙虚さのカケラもない。民主主義というものへの理解に欠けるのではないか。

 岸田文雄、どうやら舞い上がってしまっているようだ。すべては、もう自分が決めた。あとは、国会での「議論」が残っているが、正々堂々と受けて立とうではないかと息巻いている。国会での議論によって、内閣の「決断」の変更はないという大上段。

 「外交には、裏付けとなる防衛力が必要です。戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対峙していく中で、極めて現実的なシミュレーションを行った上で、十分な守りを再構築していくための防衛力の抜本的強化を具体化しました」
 「5年間で43兆円の防衛予算を確保し、相手に攻撃を思いとどまらせるための反撃能力の保有、南西地域の防衛体制の抜本強化、サイバー・宇宙など新領域への対応、装備の維持や弾薬の充実、海上保安庁と自衛隊の連携強化、防衛産業の基盤強化や装備移転の支援、研究開発成果の安全保障分野での積極的活用などを進めてまいります」
 「こうした取り組みのためには、2027年度以降、裏付けとなる毎年度4兆円の新たな安定財源が追加的に必要となります。行財政改革の努力を最大限行った上で、それでも足りない約4分の1については、将来世代に先送りすることなく、27年度に向けて、今を生きるわれわれが、将来世代への責任として対応してまいります」

 この人、自民党内のハト派と言われていなかったっけ? ハトのぬいぐるみを脱ぎ捨てたら、タカの正体が現れたという変身ぶり。これまでは、「聞く力」を特技としていたはずだが、「意見を聞いて決めた後は『聞かない力』を発揮する」と開き直っているという。そこのけそこのけキシダが通るという、エライ鼻息。

 「今回の決断は、日本の安全保障政策の大転換ですが、憲法、国際法の範囲内で行うものであり、非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としてのわが国としての歩みを、いささかも変えるものではないということを改めて明確に申し上げたいと思います」

 確かに、日本の安全保障政策の大転換だ。憲法、国際法遵守の姿勢を危うくし、非核三原則や専守防衛は投げ捨てて、平和国家としてのわが国の歩みを根本的に変更してしまうものではないか。さらに、演説では「廃炉となる原発の次世代革新炉への建て替えや、原発の運転期間の一定期間の延長を進める」と宣言もした。ほかにも「決断を実行に移す」と肩に力が入り過ぎ。

 かれは、演説で「『検討』も『決断』も『議論』も、全て重要であり必要だ。それらに等しく全力で取り組むことで、信頼と共感の政治を本年も進めていく」と語った。しかし、「等しく全力で取り組む」印象からはほど遠い。「『検討』と『決断』はもう終わった。事後報告としての『議論』が残ってはいるが、『決断』は変えない」としか、聞こえない。

 この姿勢では、「国民の信頼と共感」は得られない。岸田内閣の支持率低迷はむべなるかな、と言うほかはない。

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