自民党改憲草案の全体象と96条改正
本日は、ネットテレビ(IWJ)での自民党改憲草案批判の鼎談。これが4回目。準備不足ではあるが、しゃべっているうちに考えが整理されてくる。
日本国憲法の理念は3本の柱にたとえられます。国民主権、基本的人権の尊重、そして恒久平和主義。この3本の柱が、立憲主義という基礎の上にしっかりと立てられています。堅固な基礎と3本の柱の骨組みで建てられた家には、国民の福利という快適さが保障されます。いわば、国民のしあわせが花開く家。それが現行日本国憲法の設計図です。
今、自民党の改憲草案は、そのすべてを攻撃しています。
(1) まず、基礎となっている立憲主義を堀り崩して、これを壊そうとしています。つまりは、憲法を憲法でなくそうとしているということです。国家権力と個人の尊厳とが厳しい対抗関係に立つことを前提として、個人の尊厳を守るために国家権力の恣意的な発動を制御するシステムとして憲法を作るという考え方が、近代立憲主義。これをねじ曲げて、国民に憲法尊重の義務を課し、あるいは国民にお説教をする憲法に変えてしまおうという意図がありありです。
(2) 3本の柱のどれもが細く削られようとしています。腐らせようとされているのかも知れません。
?まずは、「国権栄えて民権亡ぶ」のが改正草案。公益・公序によって基本的人権を制約できるのですから、権力をもつ側にとってこんな便利なことはありません。国民の側からは、危険極まる改正案です。
?9条改憲を実現して、自衛隊を一人前の軍隊である国防軍にしようというのが改正案。現行法の下では、自衛のための最低限の実力を超える装備は持てないし、行動もできません。この制約を取り払って、海外でも軍事行動ができるようにしようというのが、改正草案の危険な内容。
?国民と主権を争う唯一のライバルが、天皇という存在です。その天皇について、「日本国は天皇を戴く国家」とするのが改正草案前文の冒頭の一文。第1条では、「天皇は日本国の元首」とされています。現行憲法に明記されている天皇の憲法尊重・擁護義務もはずされています。恐るべきアナクロニズム。
(3) その結果として大多数の国民には住み心地の悪い家ができあがります。とはいえ、経済的な強者には快適そのものなのです。自分たちの利潤追求の自由はこれまで以上に保障してくれそうだからです。日本国憲法は、経済的な強者の地位を制約し弱者には保護を与えて、資本主義社会の矛盾を緩和する福祉国家を目標としました。今、政権のトレンドは新自由主義。強者の自由を認め、弱肉強食を当然とする競争至上主義です。自助努力が強調されて、労働者の労働基本権も、生活困窮者の生存権も、切り詰められる方向に。
臆面もなくこのような改正案を提案しているのが、安倍自民党です。かつての自民党内の保守本流とは大きな違い。おそらくは、提案者自身も本気でこの改正案が現実化するとは思っていないでしょう。しかし、96条の改正手続条項の改正だけは、現実に改正まで漕ぎつけたい。そう思っているにちがいありません。
憲法改正のハードルを低くし、一度改憲の実績をつくってしまえば、そのあとは本格改正に道を開くことができる。あわよくば、9条改憲まで。96条の改正は、内堀を埋めるようなもの。本丸の落城が危ぶまれることになりかねません。その意味で、96条の改正問題は重要だと思います。
96条改正だけを見るのではなく、96条改正のあとに押し寄せようとしている大津波を警戒されるよう訴えます。