改憲論議・世論調査と議員アンケートの壮大なねじれ
憲法記念日を前に、各紙の憲法問題報道が活発となっている。本日の朝日世論調査と、読売の国会議員アンケートを併せて読むと興味深い。
朝日1面トップの見出しは、「96条改定し改憲手続き緩和 反対54% 賛成38%」というもの。記事のおさまりは「96条の改正要件緩和については、自民党が昨年作った憲法改正草案で主張。最近は安倍政権も唱えているが、有権者は慎重であることが浮かびあがった」となっている。
これに対して、読売のトップの見出しは、「憲法96条、自・維・みんな9割超が改正に賛成」。こちらは世論調査ではなく、議員アンケートの結果。自民・維新・みんなの議員の90%以上が、96条改憲派だという。
「憲法に関するアンケート調査を衆参両院の全国会議員を対象に実施した。回答した議員のうち、改正の発議要件を定めた憲法96条について、自民党は96%、日本維新の会は98%、みんなの党は96%が『改正すべきだ』と答え、3党いずれも改正賛成が9割超に上った。一方、民主党は25%、公明党は11%にとどまり、政党間の違いが鮮明になった」という。
朝日世論調査と読売アンケートの対比は以下の通りである。
朝日世論調査 96条改正反対54% 96条改正賛成38%
読売議員調査 96条改正反対22% 96条改正賛成74%
また、朝日の「9条改定反対52%」という小見出しに続く記事は、「9条についても『変えない方が良い』が52%で、『変える方が良い』の39%より多かった」。「自民投票層でも、『変えない方が良い』が55%で、『変える方が良い』は30%だった」となっている。これに対する読売アンケートでは、9条改憲派(「自衛のための軍隊保持」)は59%に及んでいる。
かくも極端に、国会議員の意見分布は、国民世論の意見の分布と齟齬をきたしている。もっとも重大な憲法改正問題というテーマにおいてである。この捻れの原因の主たるものが、小選挙区制のマジックであることは明らかといえよう。改憲派は、底上げ・虚飾の多数をもって、改憲発議を目論んでいるのだ。
朝日に、浦部法穂さんが、次のようにコメントを寄せている。
「そもそも憲法改正権は国民にあるのだから、改憲は国民の側から『国会で案を作れ』という声が起きてから初めて国会が議論するものだ。ところが、憲法で行動を制約され、命じられる側の国会、まして統治権の中枢の内閣が今の憲法では都合が悪いからといって改憲を主張するのは、本末転倒でおかしい」
むべなるかな。読売と併読するとその感一入である。
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ぜひ、もひとつどうぞ。
『バングラデシュのユニクロ』
ダッカのアパレル工場崩壊事故の続報では、2日現在死者は411名にのぼり、140名ほどが行方不明だという。縫製工場の労働者や遺族ら数千人が経営者の処刑を求めて、怒りのデモをしている。
崩壊した工場にはイギリスやスペインの激安衣料メーカーが入っていた。労働条件の過酷さ、搾取のすさまじさが伝えられている。平均で1日10時間、週6日働いて月収40ドル足らず。崩壊ビルに入っていたイギリスの格安衣料メーカー「プライマーク」の最低賃金は、月収約20ドル、時給に換算して約10円という信じがたい金額。ジェトロの調査によれば、同国の製造業労働者の平均年収は14万円。インドの43万円、中国の56万円と比べても破格の低賃金。今回多数の犠牲者を出した縫製業は女性労働者が大部分を占めるので、被害者の賃金はさらに低い。大正時代の紡績工場のルポルタージュ「女工哀史」が頭に浮かぶ。
激安衣料品といえば、日本の「ユニクロ」は進出していないのか気になるところ。最近、その「ユニクロ」は「ブラック企業」なのではとの議論が盛んだ。「ユニクロ」では、新卒社員の入社3年以内離職率が年々上がって、現在では50%を遙かに超えている。加えて、正社員の休職者が3%もあって、そのうち40%あまりがうつ病などの精神疾患だということだ。社員を酷使するブラック企業だと批判される所以である。
その「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが「世界統一賃金構想」を考えているという。コストでしのぎを削っている激安メーカーのことだ。「中国のユニクロ社員の賃金を日本の社員並みに上げましょう」という話でないことは明らかだ。日刊ゲンダイは「ユニクロショックは地獄のはじまり 年収100万円時代にのみ込まれる」「弱肉強食の競争社会で富を得るのは一握りの勝ち組だけ」と報じた。4月21日付朝日のインタビューに、社長の柳井氏は「低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円になっていくのは仕方がない」と答えている。日経ビジネスで、柳井氏は社員教育について「努力を重ねて35歳ぐらいで執行役員になる。そして45歳ぐらいでCEO になるのが正常な姿だと思っています」と語っている。
グローバル化するということは、日本人労働者にとってこういう過酷で激烈な競争を意味する。アベノミクス効果でユニクロ株が高騰し、柳井社長の資産は3兆円になったと報じられている。「同社は従業員にとってはブラックな面があるかもしれないが、経営陣や株主にとっては理想的な企業といえる」とブラック企業アナリストの新田龍氏は述べている。たぶん、「うっかりした消費者」も良い企業だと思ってしまうかもしれない。
その「ユニクロ」、大々的にはバングラデシュに進出を果たしていない。しかし、ずいぶん頭の良い方法を考えついている。2010年に「グラミン」グループとソーシャルビジネスで合弁会社「グラミン・ユニクロ」を設立しているのだ。服の企画、生産、販売を通じて、バングラデシュの貧困、衛生、教育などの社会的課題の解決を図るというコンセプトを掲げてのこと。828万人(うち97パーセントは女性)にのぼる「グラミン銀行」の借り手のネットワークを利用して、貧困者の職業訓練と服の販売とをめざす。ところが、バングラデシュにおけるTシャツ1枚の市場価格は50円。両者の思惑や目標を達成する道はなかなか遠いようである。ユニクロは盛んに企業イメージ向上の宣伝材料に「グラミン・ユニクロ」を使っている。今回の災害ビルに入らなくて良かったと胸をなで下ろしていることだろう。