澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

スラップ訴訟は両刃の剣?「DHCスラップ訴訟」を許さない・第13弾

とりあえずスラップ訴訟を、「政治的・経済的な強者の立場にある者が、自己に対する批判の言動を嫌忌して、運動や言論の弾圧あるいはその萎縮効果を狙っての不当な提訴」と定義する。運動弾圧型と言語的表現弾圧型に分類することが、応訴するものにとって意味のあるものであろう。

恫喝訴訟・威圧目的訴訟・いじめ提訴・イヤガラセ訴訟・言論封殺訴訟・ビビリ期待訴訟などのネーミングが可能だ。個別具体的にはもっとふさわしいネーミングが選択できそうだ。業務妨害目的訴訟・労働運動潰し訴訟・公益通報報復訴訟・市民運動制圧訴訟、批判拒否体質暴露訴訟…。

損害賠償請求の形態を取るスラップは、運動や言論への萎縮効果を狙っての提訴だから、高額請求訴訟となるのが理の当然。「金目」は人を籠絡することもできるが、人を威嚇し萎縮させることもできるのだ。

かつて、武富士が「週刊金曜日」とフリーのルポライター三宅勝久に対して、スラップをかけたとき、当初の請求額は5500万円だった。それを、一審係属中に1億1000万円に請求を拡張している。

このときの口頭弁論期日に、裁判長福田剛久は原告側に「損害賠償の請求拡張はこれでおしまいですか」と聞いている。これに対する武富士代理人弘中惇一?の回答は、「ええ、連載が続かない限り」というものだった。「週刊金曜日誌上に武富士批判の連載が続くようなことがあれば、さらに増額する」という含みの発言なのだ。自ら、言論封殺の意図を明らかにしたものと言ってよい。この企業ありてこの弁護士なのである。

このような訴権の濫用は、スラップ提訴者にとっても両刃の剣である。客観的に見て品の悪いやり方であることこの上ない。古来、「金持ち喧嘩せず」なのだ。権力や経済力を持つ者には、鷹揚に批判に耐える姿勢が求められる。批判の言論にいちいちムキになっての提訴は、それ自体みっともない。のみならず、社会的強者には批判の言論を受忍すべき義務が課せられる。批判拒絶体質丸出しのスラップは、自らのイメージを壊す行為であるだけでなく、受忍義務を敢えて無視したことにおいて違法の評価を受けざるを得ない。

また、社会がすっかり忘れてしまったことを、提訴を契機にあらためて思い起こさせる逆効果もある。この場合、スラップの対象となった言論がよく効いて、しっかり痛みを感じさせていることを社会にアピールすることにもなる。

それでも、勝てればまだまし。敗訴の場合には目も当てられなくなる。スラップを濫発した武富士の場合はどうだったか。

被告にされた言論のうち主なものは、「サンデー毎日」、「週刊金曜日」、「週刊プレーボーイ」、「武富士の闇を暴く」、「月刊ベルダ」、「月刊創(つくる)」の6誌。このうち、「サンデー毎日」、「週刊プレーボーイ」、「月刊ベルダ」、「月刊創」の4誌に関しては、「武富士が盗聴をしている」という記事を中心に、武富士と警察の癒着関係を報じた記事が槍玉に挙げられた。武富士は、この盗聴の記事を事実無根として激怒し拳を振り上げたとされていた。

ところがどうだ。スラップ訴訟係属中に、思いがけなくも武富士の盗聴が明るみに出た。内部告発によるものだった。そして、サラ金の帝王といわれていた武井保雄本人の逮捕という劇的な展開となった。こうして、武富士スラップのうち、盗聴記事関係事件は、訴訟の進行を停止してバタバタと解決した。(「サンデー毎日」訴訟だけは、武井逮捕以前に取り下げと同意によって終了している)

『月刊ベルダ』をめぐる件では、武富士が謝罪し650万円を支払うことで出版社のベストブックと和解、ライターの山岡俊介には本訴請求を放棄し反訴請求を認諾することで訴訟が終了した。「週刊プレーボーイ」訴訟では、反訴がなかったので、原告の請求放棄で終わった。

「創」をめぐる訴訟は、さらに劇的な終わり方となった。3名の被告(創出版・山岡俊介・野田敬生)に対する本訴請求をすべて放棄し、反訴を認諾または主張を認めて和解金を支払った。特筆すべきは武富士は、次のような謝罪広告を「創」誌上に掲載した。

(創出版・山岡俊介宛)「この提訴は、当社前会長・武井保雄指示の下、山岡氏や有限会社創出版の言論活動を抑圧し、その信用失墜を目的に、虚偽の主張をもって敢えて行った違法なものでした」
(野田敬生宛)「本件提訴は、当社が本件記事の内容が真実であると知りながら貴殿が当社を批判するフリーのジャーナリストであることから、敢えて、これらの執筆活動を抑圧ないしけん制する目的をもってなされたものであり…貴殿の社会的信用を失墜させる行為として名誉毀損に該当するものでした」

もっとも、残る「週刊金曜日」と「武富士の闇を暴く」事件は盗聴問題ではなく、武富士の業務の実態のあくどさを暴露するものだった。武井の刑事事件とは無関係として、武富士は徹底抗戦を続けた。そして、いずれも判決において完敗して終了している。

以上の経過は、北健一著「武富士対言論」(花伝社)に詳しい。なお、北さんには、8月20日午前10時半のDHCスラップ訴訟法廷の後、11時から東京弁護士会508号室で開かれる報告集会を兼ねた弁護団会議の席でご報告いただけることになっている。

かくのごとく、スラップ訴訟は両刃の剣。少なくとも武富士の場合、自ら抜いて振りかざした剣で、自らを深く傷つけた。スラップは仕掛けられる方に甚大な被害を与えることは言うまでもないが、仕掛ける方にとっても取り扱いの難しい劇薬である。あるいは、軽々には抜けない妖刀なのだ。

警告しておきたい。うかつな濫訴の提起は身を滅ぼすもとになる、と。
(2014年8月3日)

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