沖縄に学んで小選挙区共闘を― 総選挙の争点(その8)
今回の総選挙、注目度トップの選挙区は、沖縄1区。
「14日投開票の衆院選を前に、琉球新報社はこれまでの取材に、共同通信が7、8日に行った世論調査結果を加味し、終盤情勢を探った。沖縄1区は共産前職の赤嶺政賢氏と自民前職の国場幸之助氏が横一線で、維新元職の下地幹郎氏が追う展開」(琉球新報)。どの選挙情勢調査も同じことを言っている。
沖縄では、名護市辺野古への米軍新基地建設反対の一致点で保革を超えて共闘しているのが「建白書勢力」。革新プラス保守の一部からなる同勢力が、知事選・那覇市長選で勝ち、その流れを引き継いで、1?4区のすべてに保革を超えた共同候補を立てた。そのうち、2・3区は建白書勢力優勢だが、1区と4区は接戦で大激戦だという。その大激戦の1区の候補者が共産党の赤嶺政賢なのだ。
昨日(12月10日)、県庁前で開かれた赤嶺政賢候補の演説会に、知事として初登庁したばかりの翁長雄志が駆けつけて応援演説をした。翁長だけでなく、城間幹子新那覇市長、金城徹・那覇市議会議員(新風会)、糸数慶子・参議院議員(沖縄社会大衆党)も弁士として登壇。そして、志位和夫共産党委員長も。オール沖縄の姿を象徴する光景。いやが上にもボルテージが高まっている。
その沖縄1区、前回2012年総選挙も同じメンバーで争われて、自民・国場が当選している。その票数は次のとおり。
国場幸之助(自民党) 65,233票 当
下地幹也郎(国民新党) 46,865票
赤嶺政賢(共産党) 27,856票
共産党赤嶺は、当選者の半数の票も取れなかった。
ちなみに2009年総選挙では国民新党の下地が当選している。
下地幹郎(国民新党) 77,152票 当
国場幸之助(自民党) 63,017票
外間久子(共産党) 23,715票
共産党候補の獲得票数は当選者の3分の1に満たない。
今回選挙も、共産党単独では勝てないことが自明。共産党以外の革新勢力や、保守の一部からの支持を得ずして赤嶺の当選圏入りはあり得ない。これが1区の厳しい現実。
2?4区では、共産党は候補者を立てない。他の「建白書勢力」候補者の支援に回る。こうして、建白書勢力が、「辺野古への米軍新基地建設反対の一致点」で共闘して4議席全部を勝ち取ろうというのだ。
このような共闘は首長選ではいつも話題に上る。先日、革新の都知事選候補として出馬の経験がある吉田万三さんのスピーチを聞く機会があった。吉田さんは、2014年東京都知事選挙の選挙共闘のあり方をめぐってのある討論集会での論争を紹介し、それに反論する形で自説を述べると前置きした。当然聞き耳を立てることになる。
万三さんの話の前提を押さえておきたい。2014年都知事選に細川護煕出馬の報があったとき、宇都宮支援勢力の有力な一部から、「宇都宮は立候補を辞退して、細川支援にまわるべきだ」という強力な意見が出た。「自公勢力に牛耳られた都政を奪還する現実的な道はそれしかない」「共闘のスローガンは『脱原発』。今、このスローガンが最重要」「しかも細川の政策は比較的リベラルなもので、宇都宮の政策と積極的に矛盾するところはない」などの意見が述べられた。
しかし、宇都宮自身が、候補者辞退を求める勢力に対して「ふてえ奴だ」と反発して大同団結はならず、両候補の票を合計しても桝添票に届かない結果に終わった。客観的には宇都宮・細川両陣営ともに「惨敗」である。一議席を争う首長選挙の共闘問題は、小選挙区制の共闘問題と軌を一にし総選挙の度に論争のテーマとなっている。
私が理解した限りでだが、吉田さんが紹介したある討論集会での主要な意見は以下のとおりだったという。
?今、安倍政権の暴走を止めるには幅広く保守を取り込む共闘が必要。
?原発への対応は、その他とは次元を異にする保革の枠をこえた重大問題。革新だけでなく保守をも取り込んだ共闘の課題たりうる。
?新たな保守とのつながりをつくる上で、細川・小泉はキーマンである。小泉は『これまで間違っていた』という反省の弁まで述べている。
?現実の問題として、革新だけでは勝てない。本気で勝とうとするなら、左派系は自己中心主義を捨てよ。
?左派は党派的メガネで見られぬよう運動を支える黒子に徹することで、「勝つための選挙」に専念すべきではないか。
?結局、14年都知事選では、保守との共闘のモデルケースを作る絶好のチャンスを逃してしまったのではないだろうか。
これを批判して吉田さんが何を言うかと謹聴した。概ね次のような趣旨。
「良質な保守派との共闘はあってしかるべきだが、無原則に保守派との共闘を求めるべきではない。共闘は、具体的な情勢に照らして検討してみるしかない」
共闘の原則や条件に耳を傾けようとした聞き手には拍子抜けの一般論。共闘の理念や原則、具体的な基準や共闘のテーマ、共闘にあるべき手続きなどへの言及は慎重に避けられた。
共闘の理念や原則の代わりに語られた内容は、失敗した「無原則な共闘」の実例である。まず、民主党の衆議院議員だった初鹿明博の例。
「この人、元は民主党のなかでもリベラル派として知られた人。それが、民主党→みどりの風→日本未来の党→みどりの風とわたって、今は維新の党じゃないですか」と言う。
2012年の宇都宮選挙を思い出す。宇都宮選対は、初鹿を異様に持ち上げた。あれはなんだったのだろう。初鹿に宇都宮と一緒の場を何度も提供した。それが今、維新の党からの出馬だ。無原則的共闘としての失敗例として持ち出されている。
川田龍平も同様だ。無所属→みんなの党→結いの党→維新の党と渡り歩いて、今は維新の党国会議員団総務会長である。
万三さんは、荒井広幸の「新党改革」についても触れた。
「保守派でアべノミクス支持と言いながら『脱原発』をスローガンとしている。脱原発なら共闘できるというものではない」
それはそのとおり。その限りで異論はない。しかし、「初鹿・荒井と細川・小泉は、どう同じでどう違うのか」「今の沖縄での共闘と知事選とは、どう重なるのか、どこが違うのか」「『よりまし論』はどんな条件でどこまで妥当するのか」。時間の制約もあったが、聞きたいことは語られなかった。
それでも、万三さんの結論は、「崩れなかった宇都宮選対の持つ意義」を評価するというものだった。細川との共闘を拒否したことの積極評価なのだ。「今後の共同行動の第一歩として貴重」というのが根拠らしい唯一の根拠。しかし、私の感想では、万三さんが批判の対象とするつもりの討論集会での意見の方が遙かに説得力がある。万三さんは、「公式の立場」から「宇都宮選挙共闘に意義があった」という結論だけは広報したが、その根拠はほとんど何もしゃべることができなかった。
もちろん、私も無原則的な共闘には強く反対する。「原発反対なら悪魔とでも手を組む」という方針はあり得ない。今最大の共闘テーマは「憲法改正阻止」であろう。憲法改正に積極的な勢力とは共闘の条件がないと言わねばならない。
その意味では、新自由主義政党であり、積極的な改憲勢力でもある維新との共闘ははあり得ない。初鹿や川田ら維新の議員とも、である。
「緑茶会」(脱原発政治連盟)なる運動体がまだあるようだ。22人の脱原発候補を推薦している。そのうち3人が維新に所属している。初鹿のほか、柿沢未途と阪口直人。到底、こんな候補を推して改憲勢力の拡大に手を貸すことはできっこない。
「憲法改正に積極的な勢力とは共闘の条件がない」とは、それ以外なら条件があるということでもある。安倍自民の補完勢力でないところとなら、最大限に共闘を追求すべきではないのか。たとえば、東京1区。海江田万里民主党代表が苦戦していると報じられている。これを支援する共闘などは考えられないのだろうか。
いま、最大の政治課題は安倍暴走の阻止にある。安倍自民の議席を可能な限り減らすことが至上命題と認識しなければならない。しかも喫緊の課題だ。「次に備える」「将来への確かな一歩を進める」などの余裕があるのだろうか。
確かに悪いのは小選挙区制だ。これをなんとかしなければならない。しかし、急場には間に合わない。沖縄に学んで、条件を育て共同行動・共闘関係の形成を実現しなければならない。つよくそう思う。
(2014年12月11日)