澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「WE ARE NOT ABE!」「アベ NO THANK YOU!」

危惧していたことが現実になった。イスラム国に拘束されていた湯川遥菜氏が殺害された模様だ。まことにおぞましく傷ましい限り。

ところで、安倍首相は「人命第一に私の陣頭指揮の下、政府全体として全力を尽くしていく」と語ったではないか。72時間+αの間に、「私」はいかなる陣頭指揮をし、政府全体としてはどのように「全力を尽くした」のか。

問題が起きてから、政府は湯川・後藤両氏がイスラム国に拘束されており、身代金交渉もあったと知っていたことが明らかになった。たとえば、毎日の1月21日記事が、「昨年11月に『イスラム国』側から後藤さんの家族に約10億円の身代金を要求するメールが届いていたことが分かった。政府関係者が明らかにした」と伝えている。要求金額はその後20億円となったようだが、政府は、昨年11月以来、後藤氏の家族から相談を受けていた。身柄拘束だけでなく、身代金要求の事実も事前に把握していたのだ。

にもかかわらず、首相はわざわざ中東まで出かけて、イスラム国の名を出して関係国への支援を約束して見せた。最初から、人質見殺しの意図があったのではないかと疑問視せざるを得ない。到底、「想定外」などと言い訳できる事態ではないのだ。

直接の問題となったのは、1月17日に、安倍首相がカイロでした政策スピーチである。その内容は、たとえば産経新聞ではこう報道されている。
「(安倍首相は)中東地域の平和と安定に向け、人道支援やインフラ整備など非軍事分野へ新たに25億ドル(約3000億円)相当の支援を行うと表明した。内訳としては、…イスラム教スンニ派過激派組織『イスラム国』対策としてイラクやレバノンなどに、2億ドル(約240億円)の支援を行うとした」
安倍スピーチでの2億ドル支出は、しっかりと「イスラム国対策」と位置づけられたものなのだ。イスラム国側から見れば、人道支援であろうと経済支援てあろうと、自国を敵視してのカネによる介入と映ることにもなろう。「8000キロのかなたからの十字軍参加」と言われる口実を与えたのだ。

このような安倍内閣の外交感覚を疑わざるを得ない。日本人人質が捕らわれていることを知りながら、敢えて挑発をしたと受けとられてもやむを得ないではないか。こんな杜撰な感覚や危機管理能力で、到底集団的自衛権行使などの判断を任せられるはずもない。

このような事態を招いたことの責任だけではなく、ことが起きてからの対応の責任も大きい。問題の72時間の政府の動きはわれわれにはまったく見えない。無為無策だったのではないか。もしかしたら、人命第一ではなく、米英と協調して断固テロと闘って米英ら有志連合からの信頼を得ることに優先順位があったのではないか。

人命救助のためには政府を信頼して任せるしかない、当面は安倍批判の時ではない、多くの人がそう考えていた。しかし、湯川氏が殺害された今、人命救出への政府の本気度は極めて疑わしい。残る後藤健二氏救出のためにも安倍批判が必要ではないか。

1月22日のハッサン中田孝氏(元同志社大学教授・イスラム法学者)緊急記者会見では、この点は次のように語られている。
「今回の事件は安倍総理の中東歴訪のタイミングで起きた。総理自身はこの訪問が地域の安定につながると考えていたようだが、残念ながらバランスが悪いと思う。訪問国が、エジプト、ヨルダン、イスラエル、パレスチナとすべてイスラエルに関係する国に限定されている。イスラエルと国交をもっている国自体がほとんどないことを実感していないのではないか。そういう訪問国の選択をしている時点で、日本はアメリカとイスラエルの手先とみなされ、難民支援・人道支援としては理解されがたい。現在、シリアからの難民は300万人といわれ、その半数以上がトルコにいる。そのトルコが支援対象から外れているということもおかしい。」
「日本人2人がイスラム国に拘束されていることは政府も把握していた。それなのにわざわざイスラム国だけをとりあげて、対イスラム国政策への支援をするという発言は不用意といわざるをえない。中東の安定に寄与するという発言は理解できるが、中東の安定が失われているのはイスラム国が出現する前からのこと。」(1月23日Blog「みずき」から引用)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-category-32.html

1月23日、後藤さんの母・石堂順子さんが、「息子救って」と声を上げた。その訴えの最後に、「健二はイスラム国の敵ではない」「日本は戦争をしないと憲法9条に誓った国です。70年間戦争をしていません」と訴えている。

「殺す」「殺される」「捕虜」などは、戦争を前提としての論理である。日本が真に平和国家としての真摯さを貫いていれば、そして平和国家としての国際的認知を獲得していれば、今回のような事態は起こらなかったのではないか。これまで、中東では日本は米やヨーロッパ諸国とは異なる平和志向の国と見なされてきたと聞いてきた。その評判に陰りが見えてきているのではないか。大戦後に不再戦の誓約を遵守してきたはずの日本のイメージを、安倍政権が破壊しつつあるのではないか。だから、アメリカやイスラエルの手先として金をばらまいているというイメージを与えてしまったのてはないか。

憲法をないがしろにしてでも、好戦的な米英やイスラエルとの友好国として国際的な認知を得たいという安倍政権の姿勢が、今回の傷ましい事態を招いたものと批判されなければならない。

残念ながら、われわれの力量が十分ではない。憲法嫌いで武力大好きな安倍政権の姿勢をもって、日本国内が一色になっているととらえられているのだ。多くの日本国民が、「WE ARE NOT ABE!」と声を上げなければならない。さらにその先の「アベ NO THANK YOU!」を旗印にしたい。

後藤健二氏を見殺しにしてはならない。何をなすべきかは、今回は具体化されている。安倍政権が本気になってヨルダンの政府と国民に、訴えなければならない。安倍政権に本気で国民の生命第一の姿勢を貫かせるために、いま、安倍政権への批判が必要だと思う。
(2015年1月25日)

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Published in 日曜日, 1月 25th, 2015, at 23:06, and filed under イスラム, 安倍政権, 戦争と平和.

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