各紙調査に見る「9条改憲反対」世論の定着
毎年、憲法記念日には、各紙(社)の改憲への賛否を問う世論調査結果が気になる。もちろん、世論なる複雑なものを厳密に把握することは不可能であって、いずれの世論調査も科学的というにはほど遠く、客観的なものでもありえない。さはさりながら、各紙それぞれの客観的であろうとする姿勢や努力の差異は見て取れる。また、世論の傾向を解することは可能といえよう。
まずは産経の調査結果である。下記は今年の憲法記念日直前の世論調査の報道(デジタル版4.27 11:50更新)である。見出しは、「【本紙・FNN合同世論調査】戦後70年談話 “未来志向”を60%が「評価」 TPPの交渉進展「期待する」52%」というもの。見出しでは、憲法改正問題については、触れられていないことに注目しなければならない。
http://www.sankei.com/politics/news/150427/plt1504270035-n1.html
この記事は、「産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が25、26両日に実施した合同世論調査」についての報道だが、テーマとしては「戦後70年談話」と「ドローン」と「TPPの交渉」問題について結果を述べ。最後に次のように述べる。
「一方、憲法改正に賛成は40・8%で、反対は47・8%。賛成者のうち9条改正に60・3%、緊急事態条項の新設に88・2%、環境権の新設に82・8%、財政規律条項の新設に72・3%がそれぞれ賛意を示した。」
つまり、産経の調査によっても、明文改憲賛成派は40・8%にとどまり、改憲反対派の47・8%に水をあけられているのだ。しかも、改憲賛成と回答した内「9条改正に賛成した者は60・3%」に過ぎないという結果は衝撃的ですらある。回答者全体を分母としての「9条改憲賛成者」の割合は、24・6%(47・8%×0・603)に過ぎないというのだ。
「(当然のこととして9条改憲反対を含む)改憲反対」派47・8%と、「改憲には賛成だが、9条改憲には与しない」というグループ(40・8×(1?0・60)=16・3%)を合計すれば、64・1%である。つまり、「分からない(DN)」「無回答(NA)」を除外して、明示の「9条改憲賛成派」が24・6%なのに対して、明示の「9条改憲反対派」が64・1%である。その比率は2・6倍。これは大差だ。勝負あったと言ってよいだろう。
ところが、産経はこの「自ら調査した民意」を「不都合な真実」として、直視しようとしない。見出しではまったく触れないこと、記事の末尾でしか触れていないことは既に見たとおりである。できるだけ、読者の印象を薄めようとしているのだ。
それだけではない。上記の記事に続く、同日の世論調査の追加報道(4.27 20:29更新)をご覧いただきたい。見出しは、「【本紙・FNN合同世論調査】民主党支持層は憲法改正『反対』多数」というもの。敢えて全文を引用する。
http://www.sankei.com/politics/news/150427/plt1504270049-n1.html
産経新聞社とFNNの合同世論調査で、自民、公明、維新の3党の支持層では憲法改正への賛成が多数を占めたのに対し、民主党支持層では反対が6割を超えた。平成24年12月の第2次安倍晋三政権発足で憲法改正の機運は高まったが、各党との改憲論議に後ろ向きな民主党の姿勢に拍車がかかりそうだ。
憲法改正に賛成したのは自民党支持層で57・3%、維新の党支持層で54・3%に上り、公明党支持層でも42・0%が賛成した。反対はそれぞれ3割台だった。
民主党は現行憲法に関し「GHQ(連合国軍総司令部)が短期間で作った代物」とする安倍首相の見解を問題視し、衆院憲法審査会での議論に難色を示してきた。こうした民主党の態度を反映するかのように、同党支持層では改憲賛成は26・9%にとどまった。
一方、全体でみると25年4月には6割を超えていた賛成は徐々に減り、昨年3月は反対が賛成を上回る結果に。その傾向は今回も続いた。船田元自民党憲法改正推進本部長は「憲法改正の議論の中身が十分理解されていないため」と分析。「国民のみなさんが十分理解できるような分かりやすい議論を心がける」と述べた。
ごく一般的な言語感覚の持ち主が、この見出しを読めば、「民主党支持層という特殊な範疇の人々の中では憲法改正『反対』の意見が多数」なので、「国民全体では憲法改正『反対』は少数だという世論調査結果が出た」と思い込むだろう。いや、そのような思い込みで全文を読んだあとでも、最初の印象は消せないのではないか。
この記事に拾われている数字は、調査結果を正確に伝えようとするものではない。明らかに読者の誤読を誘おうとするもので、「捏造」とまでは言い難いが、「過剰な演出」の域を遙かに超えている。真実に誠実ならざる報道姿勢がよく表れている。読者に対して罪深いといわざるを得ない。
これに較べて、さすがに朝日の世論調査結果の報道は誠実な姿勢に徹している。しかも、格段に全面的で本格的なものである。産経に比較すること自体が非礼ではあろうが、メディアとしての力量の差は覆いがたい。また、ジャーナリズムの在り方として当然ではあろうが、まったく作為を感じさせるところがない。これは本格的な国民の憲法意識の調査結果として、今後多方面で引用されることになるだろう。
http://www.asahi.com/articles/ASH4H4KBCH4HUZPS003.html
朝日の見出しは、「憲法改正不要48%、必要43% 朝日新聞社世論調査」(15年5月1日21時53分)というもので、結論は産経と大差ない。
冒頭のリードは、以下のとおり。
憲法記念日を前に朝日新聞社は憲法に関する全国郵送世論調査を実施し、有権者の意識を探った。憲法改正の是非を尋ねたところ、「変える必要はない」が48%(昨年2月の調査は50%)で、「変える必要がある」43%(同44%)をやや上回った。
調査手法や質問文が異なり単純に比較できないが、…改憲の是非を聞いた97年の調査以降は賛成が反対を上回ってきたが、安倍政権が憲法解釈を変えて集団的自衛権を使えるようにする議論を進めていた昨年の調査から再び逆転していた。
厖大なアンケート結果の報道量となっているが、とりあえずの重要テーマは「9条改憲」の是非を巡るものである。
◇9条「変えない方がよい」63%
憲法9条については「変えない方がよい」が63%(昨年2月は64%)で、「変える方がよい」の29%(同29%)を大きく上回った。女性は「変えない方がよい」が69%に及んだ。
◇憲法第9条を変えて、自衛隊を正式な軍隊である国防軍にすることに賛成ですか。反対ですか。
賛成 23 反対 69
これも、産経と大差ない。
そして本日(5月4日)の毎日が同様の世論調査結果を発表した。
http://mainichi.jp/select/news/20150504k0000m010056000c.html(最終更新5月3日23時06分)
「本社世論調査:9条改正、反対55%…昨年より増」というもの
毎日新聞が憲法記念日を前に実施した全国世論調査によると、憲法9条を「改正すべきだと思わない」が55%で、「思う」の27%を大きく上回った。昨年4月の調査では「改正すべきだと思わない」51%、「思う」36%だった。政府・与党が集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案の準備を進める中、9条改正慎重派は増えている。
一方、憲法を「改正すべきだと思う」は45%、「思わない」は43%でほぼ拮抗した。
産経、朝日・毎日の各調査の主要な調査結果と、その差を比較してみよう。
憲法9条の明文改正について
朝日 賛成29% 反対63% 2・17倍
(自衛隊を国防軍とすることに
賛成23% 反対69% 3倍)
毎日 賛成27% 反対55% 2・03倍
産経 賛成24・6% 反対64・1% 2・60倍
である。
昨日の当ブロクは、「危機感に溢れた憲法記念日」とした。政権の動きや国会情勢を見る限りでは危機感を持たざるを得ないが、世論調査の結果は、9条明文改憲に反対する、「9条擁護」の世論が確実に国民に根付いていることを明らかにしている。
(2015年5月4日)