「違憲のウワサも75日、95日でなんとかなるさ」は許さない。
95日(!!)の会期延長だという。これは戦争法案成立に向けた安倍政権の並々ならぬ執念の表れ。しかし、この非常識というべき延長日程は、安倍内閣存立の非常事態宣言ではないか。論戦での劣勢を自認し、数を恃んでの強行突破はできないという自白でもあるのだ。
世論を宥める時間が必要だ。人の噂も75日。法案違憲で沸騰している世論も、75日もあれば治まるだろう。「95日も延長すれば、説明が足りないなどとは言わせない。」「これでなんとか成立に漕ぎつけるだろう」との背水の陣とも読める。
しかし、これは政権にとっての大きな賭けでもある。時間がたてば立つほど、反対世論が大きく強固なものになっていく可能性も大きい。当然、廃案時の傷はより大きくなる。政権そのものを崩壊させることにもなるだろう。安倍の心中穏やかであるはずがない。
幸い今のところ株価の推移は順調だ。これが内閣支持率の頼みの綱。もう少し時間をかけて、法案について「丁寧な説明」を尽くせば世論はやがて変わるだろう。別に合憲と考えていただかなくても結構。強行採決をしても大きな反発を招くことにはならないという程度でよいのだ。もちろん、「丁寧な説明」とは内容についてのものではない。世論の危惧と噛み合った説明をしていたのでは、次々とボロが出る。さらに世論を刺激してしまう。そのくらいのことを心得ない私ではない。
だから、過去のことを聞かれたら未来のことで切り返す。昨日のことを聞かれたら一昨日の話しで煙に巻く。明日の天気について質問されたら、明後日の空模様を答弁する。左が問題になっていても得意の右を論じる。白ではないかと問い質されたら、黒ではないようだと答える。噛み合っていないではないかという再質問には、再び丁寧に同じことの説明を繰り返す。この洗練された「忍法・はぐらかし」で、のらりくらりと時間を稼げばよいのだ。こうして時間稼ぎをしているうちに、攻め手は疲れる。世論は飽きる。どこかで強行採決のタイミングというものが熟してくる。そんなものさ。これが安倍流逃げ切りの術。
そうは問屋が卸さない。日本の命運が掛かった根競べだ。世論の追求が勝つか、安倍が逃げ切るか。その95日レースの中間指標が、各紙の世論調査だ。法案への賛否や、内閣支持率。その数値の騰落が、政権の行動を縛りもし煽りもすることになる。
本日の朝日が、世論調査の結果を公表している。ここがスタートだ。これに続く世論調査の結果次第で、安倍を追い詰めることにもなり、安倍の逃げ切りを許すことにもなる。このスタートの状況を確認しておきたい。
朝日が20・21の両日に行った全国世論調査(電話)によると、安倍内閣の支持率は39%で、前回(5月16、17日調査)の45%から下落し、第2次安倍内閣発足以降最低に並んだ、という。
◆安倍内閣を支持しますか。支持しませんか。(かっこ内は5月調査時の数値)
支持する 39%(45)⇒6%の下落
支持しない 37%(32)⇒5%の上昇
1か月間で、安倍内閣支持から不支持への鞍替え組が少なくとも5%である。日本の有権者総数はほぼ1億人。およそ500万人の大移動だ。これで、支持不支持層の差は13%→2%と減じて、ほぼ差がなくなった。女性だけに限れば逆転(支持34、不支持37%)しているという。ここがスタートラインだ。
戦争法案への賛否は、「賛成」29%に対し、「反対」は53%と過半数を占めた。
◆安全保障関連法案に、賛成ですか。反対ですか。
賛成 29(29)
反対 53(43) ⇒10%の上昇、過半数に。
この「10%≒1000万人」の戦争法案反対への1か月の大移動が内閣支持率を変えたのだ。
さらに、法案をいまの国会で成立させる必要があるか聞くと、「必要はない」が65%を占め、「必要がある」の17%を大きく上回る。延長してでも今国会での成立を目指す政権に賛同する世論はきわめて少数なのだ。
◆この法案を、今の国会で成立させる必要があると思いますか。今の国会で成立させる必要はないと思いますか。
今の国会で成立させる必要がある17(23)⇒6%の減
今の国会で成立させる必要はない65(60)⇒5%の増
今国会で成立させる「必要がない」というのが、「ある」の3倍に近い圧倒的世論と言ってよい。強引にこの世論をねじ伏せようというのが、政権の95日会期延長である。明らかに、議会内の議席配分と議会外の民意とは大きく乖離しねじれている。もしかしたら、安倍は、この上なく危険な虎の尾を踏んでしまったのではなかろうか。
さらに朝日は、いくつか興味深い設問をしている。まずは、戦争法案の合違憲についての意見調査。
憲法学者3人が衆院憲法審査会で「憲法違反だ」と指摘したが、こうした主張を「支持する」と答えた人は50%に達した。他方、憲法に違反していないと反論する安倍政権の主張を「支持する」という人は17%にとどまっている。
◆法案について、3人の憲法学者が「憲法に違反している」と主張しました。
これに対して安倍政権は「憲法に違反していない」と反論しています。
どちらの主張を支持しますか。
3人の憲法学者 50% ⇒ほぼ3倍の圧勝。
安倍政権 17% ⇒ほぼ3分の1のボロ負け。
安倍晋三首相は法案について「丁寧に説明する」としているが、首相の国民への説明は「丁寧ではない」という人は69%。「丁寧だ」の12%を大きく上回った。
◆安倍首相の安全保障関連法案についての国民への説明は、丁寧だと思いますか。
丁寧ではないと思いますか。
丁寧だ 12%
丁寧ではない 69%⇒「丁寧だ」派の5.75倍
もうひとつ。
◇(安倍内閣を「支持する」と答えた39%の人に)これからも安倍内閣への支持を続けると思いますか。安倍内閣への支持を続けるとは限らないと思いますか。
これからも安倍内閣への支持を続ける 47%
安倍内閣への支持を続けるとは限らない 49%
◇(「支持しない」と答えた37%の人に)これからも安倍内閣を支持しないと思いますか。安倍内閣を支持するかもしれないと思いますか。
これからも安倍内閣を支持しない 60%
安倍内閣を支持するかもしれない 33%
つまり、安倍内閣支持派の支持の度合いは不確かなのだ。浮動的といってよい。けっして確信にもとづく支持ではない。「安倍内閣への支持を続けるとは限らない49%は、支持から不支持への予備軍が大量に存在していることを物語っている。安倍不支持派拡大の「のりしろ」が大きいということなのだ。一方、安倍不支持派は、遙かに固定性が高い。しかも、留意すべきは、1か月で500万?600万人の「支持⇒不支持・意見大移動」を経てなお、この数字なのだ。
政権の説明は、国民への説得力を持っていないことが明らかとなっている。安倍内閣が戦争法案を閣議決定したのが5月14日、国会上程が翌15日。以来、1か月間の「丁寧な説明」の結果が、この世論調査結果である。これから、95日間安倍の「丁寧な説明」はさらに国民の不支持を拡げるだろう。
国民一人ひとり、のみならず子々孫々の運命に関わる大問題だ。安倍の敵失を待っているだけでは、95日レースの勝利を確実なものとはなしえない。戦争をできる国への変身の危険と愚かさをあらゆる手段で発信し続けよう。既に、「潮目が変わった」のレベルは通り越した。もはや、世論は止めて止まらぬ「大きな竜巻」になりつつある。自信をもって戦争法案を吹き飛ばそう。
(2015年6月23日)