小池晃(共産)質問が指摘したー「国会の上に日米新ガイドラインがある」
戦争法案審議は、7月16日衆院での強行採決後明らかに様相の変化を見せている。法案の内容がよく知られてきたことに加えて、強行採決の乱暴を見せつけられて、民意は安倍政権を見限りつつある。内閣支持率は急激に低下し、安倍内閣の焦りが誰の目にも明らかになっている。国立競技場問題や辺野古基地新設問題でも、政府は従来の強気の姿勢を維持できなっている。対決法案の一つであったカジノ法案は、一時は「長期の会期延長が成立のチャンス」と報道されたが、その強行が内閣の評判をさらに落とすことになるからと、今国会成立断念となった。
それだけではない。川内原発再稼働あり、TPP問題あり。70年談話問題もあり、オウンゴール発言もある。安倍政権の末期症状露呈ではないか。
このような状況下、衆院とはまるで違った雰囲気の中での参院の特別委員会審議である。衆院では詰め切れなかった新たな問題が次々に出てきている。まさしく、これこそが「二院制の妙味」ではないか。
昨日(8月11日)の委員会審議で新たな爆弾が炸裂した。小池晃質問である。正確には、爆弾は小池質問であるよりは、小池が示した自衛隊内部文書である。前回の小池質問でも、「後方支援」における米軍と自衛隊の一体化を具体的に想定した恐るべき内部資料が示された。今回のものは、ひと味違うものだが、より根底的な問題を突きつけるものと言ってよい。次々と自衛隊の内部資料が共産党の手に渡って天下に公開されている。それなりの理由あってのことだろうが、きわめて興味深い。
この爆弾炸裂の効果として委員会審議が止まった。質疑の途中で「散会」となって、お盆休みに突入である。先行きは、「大気不安定」。雲行きが怪しい。豪雨や突風、真夏の降雹さえ予想される。
この日(昨日・11日)の委員会審議予定は質疑時間合計4時間16分とされていた。質問者と持ち時間は、以下のとおりである。
大塚耕平(民主) 60分 13:00?14:00
小西洋之(民主) 40分 14:00?14:40
柴田巧(維新) 30分 14:40?15:10
小池晃(共産) 30分 15:10?15:40
井上義行(元気) 16分 15:40?15:56
和田政宗(次代) 16分 15:56?16:12
中西健治(無ク) 16分 16:12?16:28
福島みずほ(社民)16分 16:28?16:44
山本太郎(生活) 16分 16:44?17:00
荒井広幸(改革) 16分 17:00?17:16
なお、出席大臣は、中谷防衛大臣・岸田外務大臣で、安倍総理はいなかった。
3番手で質問に立った小池晃が資料を示して質問を始めると、中谷防衛相は答弁に窮した。このような文書の存在を承知しているか、イエスかノーかと聞かれて回答できない。「ノー」と答えればシビリアンコントロールの不手際から制服組の暴走を許したと攻撃される。さりとて、イエスと答えれば、法案成立を前提とした部隊運用の計画を容認していたとして、国会軽視も甚だしいと突っ込まれる。どちらの答えもできないのだ。
答弁不十分という小池のアピールに、3度の「速記中止」となり、さらに速記中止の程度では対処できなくなって「休憩」が2度はいった。最初の休憩が15時25分から同32分まで。2度目が15時48分から16時7分まで。そして2度目の休憩が終了して、議長が審議の再開を宣告した。そして驚いたことに、「本日はこれにて散会いたします」と続けて流会となった。
結局小池質問は終了せずに持ちこされ、井上・和田・中西・福島・山本・荒井らの各質問は、この日は実現せず、次回持ち越しとなった。
本日の東京新聞朝刊は、この間の事情をこう説明している。
「共産党の小池晃氏は、自衛隊が法案の成立を前提に武器使用基準の見直しや日米間の具体的な調整内容をまとめた資料を独自に入手したとして自衛隊の独走だと追及。中谷元・防衛相は同名の内部文書の存在を認め、『国会の審議中に内容を先取りするようなことは控えなければならない』と釈明した。
小池氏によると、資料は陸海空の各自衛隊を束ねる統合幕僚監部が作成し、四月に再改定した日米防衛協力のための指針(ガイドライン)と安保法案に沿って検討項目を列挙。南シナ海の警戒監視への『関与のあり方を検討していく』と明記し、南スーダンに派遣している国連平和維持活動(PKO)に関しても『駆け付け警護が業務に追加される可能性がある』と見通しを示している。五月に作成されたとみられ、法案の成立時期も『八月』と明記されていた。
小池氏は『戦前の軍部の独走(と同じ)だ。絶対に許されず、議論できない』と批判した。他の野党も同調し、委員会は紛糾。予定した審議時間を一時間半以上残して散会した。」
当然のことながら本日の赤旗は一面トップの扱い。
「“8月成立” 日程表まで作成 小池氏『軍部独走の再現』と追及」「参院安保特 審議中断、散会に」などの見出しが大きい。
本文の記事は、以下のようなもの。
「自衛隊内で『8月中の戦争法案成立・来年2月施行』を前提に、法案の実施計画が立てられていた―。11日の参院安保法制特別委員会で、日本共産党の小池晃議員が独自に入手して暴露した防衛省統合幕僚監部の内部文書『日米防衛協力のための指針(ガイドライン)及び平和安全法制関連法案について』(防衛省統合幕僚監部の内部文書PDF)で、国会・国民無視の計画が初めて明らかになりました。
小池氏は『法案の成立を前提に部隊の編成計画まで出ている。絶対に許されず、法案を撤回すべきだ』と追及しました。中谷元・防衛相は答弁不能となり、審議はたびたび中断。結局、途中散会となりました。
文書は、今国会に戦争法案が提出された5月末時点で作成されたとみられます。表題から分かるように、新ガイドラインと戦争法案の概要、双方の関係を示したものです。『今後の進め方』とする日程表では、法案成立を前提に、最も早いパターンで『8月法案成立』、それから『6カ月以内の施行』開始として来年2月に施行を明記しています。また、7日に部隊派遣延長が閣議決定されたばかりの南スーダンPKO(国連平和維持活動)について、来年3月から『駆けつけ警護』を認めるなど、戦争法案を反映させる日程が具体的に示されています。」
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この資料から読み取れる大きな問題点が二つある。
一つは、小池が指摘したとおりの「軍部独走」である。防衛大臣の知らないところで、統合幕僚監部は、当然に法案が成立することを前提とした作戦計画を立てているのだ。シビリアンコントロールができていないと批判されて当然な事態。
もう一つは、新ガイドラインの政府・自衛隊に対する絶対的権威性である。政府・防衛省・自衛隊にとって、ガイドラインは憲法に優位する規範となっているという実態があぶり出されている。
資料を引用した小池質問の中に次の文言がある。
「この説明文章の中にこうあります。ガイドラインの記載内容については、既存の現行法制で実施可能なものと平和安全法制関連法案の成立を待つ必要があるものがあり、ガイドラインの中ではこれらが区別されることなく記載されていると。これ、本当に率直に書かれているんですね。大臣、法案が成立しなければ実施できない内容を、国会で議論もしないうちに日米合意し、発表したことになる、そういうことですね。」
これは的確にガイドラインの性格を言い表している。まずはガイドラインありきなのである。現行法でガイドラインに盛り込まれた自衛隊の任務ができなければ、できるように法律を作るのだ。違憲だという批判をものともせずに、である。小池自身が言っているとおり、「独立と主権をないがしろにする異常な対米従属の姿勢」にほかならない。
衆議院での審議も緊張感あったと思う。野党はよく頑張った。参議院も劣らず、審議の緊迫度が高く充実している。つくづく思う。与党に議席の多数を持たせて碌なことはない。来年の参院選挙が楽しみになってきた。
(2015年8月12日)