まず恒産を確保して、しかる後に恒心を発揮しよう
本日(9月25日)は、開業医共済協同組合の総代会準備の理事会に出席。
総代会に提案の議案書冒頭に、「事業の基本方針」が高らかに宣言されている。
1.開業医共済協同組合は開業医として国民の命と健康を守る立場にあり、共済協同組合として、国民の協同の力で共済制度の解体を狙うアメリカと日本の金融資本の横暴を阻止し、何よりも人間として平和と自由を希求するものである。その立場から、これらの政治の動きに警鐘を鳴らし、開業医の経営と生活を守り、協同の理念を広げる当組合と制度の発展に尽力する。またそのことによって開業医運動の未来を示す役割も果たす。
2.国民の生存権確保を目的とする社会保障の一翼を担って、第一線の医療現場で医療を給付している開業医には、ひとたび病気やケガで自院の休業を余儀なくされたときに医業再開のための公的休業保障は無く、当組合は「国民医療の改善」「開業保険医の経営を守る」という保険医運動の基本方針と「一人はみんなのために、みんなは一人のために」という協同組合の基本原則に則り、共済事業をさらに発展させていくために、保険医団体はじめ関係団体とともに協力・協同して活動する。
3.当組合は、医師・歯科医師自身が作った組織であるという株式会社等にはない共同体組織としての「優位性」を備えている。医療機関の経営を下支えすること、開業医共済休業保障制度の共済基盤を安定させることの2つの課題を正面に据え、組合員の立場に立った制度共済を提供・充実させるために、組合員の知恵と共同の力に基づいて事業を推進する。
なお、この議案書案の中には、医療を取り巻く情勢として、「憲法破壊に対峙し、平和を求める国民による明確な意思表示」の一項目が明記されている。
この議案書に通底するものは、「恒産無くして恒心無し」という現実主義である。「医師が、国民の命と健康を守るという使命を果たすには、まずもって自身の経営の安定が必要だ」というリアリティ。極めてわかりやすい。
弁護士も似たようなもの。人権と社会正義に奉仕するという弁護士本来の任務を全うするためには、弁護士が裕福である必要はないが、経営の安定が必須の要件なのだ。このことを軽視してはならない。弁護士の不祥事の多くは過当競争による弁護士の貧困に起因する。個人的な資質をあげつらうだけでは解決にならない。俗世では、「貧すりゃ鈍する」というとおりである。
孟子の「恒産無くして恒心無し」は、「恒産無くして恒心有る者は、ただ士のみ能くする」とセットをなしている。弁護「士」にしても、医「師」にしても、社会的使命を全うするためにやせ我慢せよ、とは言いがたい。世に「赤髭」はいるが常に稀有の存在でしかない。人権派弁護士も自己犠牲を求められれば、圧倒的に少数派とならざるを得ない。
実は、医師や弁護士に限ったことではない。「恒産無くして恒心無し」「衣食足りて礼節を知る」「貧すりゃ鈍する」は刑事政策の基本ではないか。犯罪をなくすためには、貧困をなくし、すべての人に生活の安定を保障することのはず。いや、国際紛争の多くが、経済格差や貧困から生じているではないか。
開業医共済協同組合は、まずは医師・歯科医師の共助によって自らの経営と生活の安定を確保し、その上で後顧の憂いなく自らの職業的使命を全うしようというのだ。企業による保険ではなく、献身的なボランティア理事による共済事業として今順調に発展中である。
関心ある方は、下記のURLをご覧いただきたい。
http://www.kaigyouikumiai.or.jp/
(2016年9月25日)