澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

いよいよ沖縄県が辺野古の埋立承認撤回へ

昨日(7月13日)の沖縄タイムスが次のとおり報道している。

辺野古の承認撤回は土砂投入前に 沖縄県、8月初旬を軸に調整
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/282950

 沖縄県名護市辺野古の新基地建設を巡り、沖縄防衛局が8月17日に予定する埋立土砂の投入より前に、県が埋め立て承認を撤回する調整に入ったことが12日、分かった。土砂投入の重要局面を前に、翁長雄志知事の最大の権限となる撤回に踏み切り工事を停止させる考えで、8月初旬の撤回表明を軸に検討が進んでいる。複数の関係者が明らかにした。
 知事が撤回を表明した後は沖縄防衛局の意見を聞き取る「聴聞」の期間が設けられ、その後に撤回の手続きが取られる。翁長知事が2015年に埋め立て承認を取り消した際には表明から聴聞を経て29日後に正式に取り消され、撤回の場合も表明から数週間の手続き期間が必要となる。
 辺野古に反対する市民や労働組合、政党などでつくる「オール沖縄会議」は土砂投入に抗議する県民大会を8月11日に那覇市内で開催を予定。市民団体からは県民大会までに撤回のアクションを起こすよう求める声が強まっている。
 県はこれまで承認撤回の理由として「環境保全の不備」「設計変更の必要性」「承認の際の留意事項への違反」の3分野での国の対応の不備を指摘してきた。
 11日には県環境部が絶滅の恐れがある動植物のリスト「レッドデータおきなわ」を12年ぶりに改訂し、辺野古の建設予定地に生息する複数の海草藻類を追加。海草藻類を移植しないまま工事を進めることが撤回の理由となる可能性もある。
 一方で、県は撤回前に工事中止命令を検討した経緯もあり、撤回は翁長知事の高度な政治判断で行われるため表明の時期は流動的な側面もある。

辺野古の新基地建設反対運動に注目して報道を追っている者以外には、『辺野古の承認撤回』が分かりにくい。再度になるが、行政行為における《『撤回》の意味を確認しておきたい。

問題になっている《撤回》とは、仲井眞弘多・前沖縄県知事が、国に与えた「海面の埋め立て申請に対する『承認』」の《撤回》である。仲井眞前知事がした「承認」を、後任の翁長知事が《撤回》しようということなのだ。

辺野古新基地建設のためには、大浦湾を埋め立てねばならない。しかし、公有水面の勝手な埋立てが軽々に認められてよいはずはない。公有水面埋立法は、公有水面の「免許」を知事の権限とし、「国土利用上適正且合理的ナルコト」「埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」その他の諸要件を満たさない限り、「免許してはならない」と定める。

国が埋立工事をする場合については、特に「国ニ於テ埋立ヲ為サムトスルトキハ当該官庁都道府県知事ノ承認ヲ受クヘシ」(同法42条1項)と定める。つまり、国が海面の埋立をしようとする場合でも、県知事の「承認」が必要なのだ。

仲井眞弘多・前沖縄県知事は2013年12月27日付で、辺野古移設に向けての国の埋め立て申請に「承認」を与えた。先に、翁長知事は、この「承認」に瑕疵があったとして、「承認」を「取り消し」た。すなわち、「もともとしてはならない違法な承認だったから取り消す」としたのだ。取り消されれば、承認は遡及して効力が消滅し、はじめから承認はなかったこととされる。

紆余曲折は省略するが、国は「翁長知事の承認取消こそ違法」として、県に対して「承認取消を取り消せ」という是正を指示し、これに従わない県に対して行政訴訟(国の是正指示に従わない不作為の違法確認訴訟)を起こした。残念ながら翁長知事の「承認取消」は最高裁まで争って違法とされ、法的には決着が着けられた。

「承認取消」が通らなければ、これに代わる「承認撤回」で行こう、というのが運動体の中から提案されている。これが《撤回》の意味。

もともとすべきでなかった間違った承認について遡って効力をなくするのが「承認取消」であるのに比して、承認のときの違法はともかく現時点では承認すべきではなくなっているのだから今の時点から承認の効力をなくするというのが「承認の撤回」。

翁長知事自身も、何度か「承認撤回を必ずやる」と発言しているが、その実行はまだない。法的手段としては、言わば奥の手である。これを繰り出して、敗れればあとがないことにもなりかねない。やるからには、絶対に勝てる自信のもてる準備が必要で、慎重を要する。
常識的には、「承認時以後の事情変更」「承認時には知り得なかった違法事由」を特定して立証しなければならない。運動論としてはともかく、「承認取消」で敗訴している以上、法的には明確な根拠が必要なのだ。とはいえ、8月17日辺野古に土砂搬入と期限が切られた以上は、奥の手の使用を躊躇してはおられまい。

迂闊な《撤回》は、国側からの「承認撤回の取消を求める」訴訟提起に持ちこたえられない。これに関して、最近明らかになった知見として、埋立予定海域の活断層の存在とマヨネーズ状の地盤軟弱性の疑いが、撤回の根拠となり得るのではないかと、話題になっている。新基地周辺の建物高さ制限違反にならぬよう設計変更の問題もある。

本日(7月14日)たまたま、事情に詳しい白藤博行専修大教授(行政法)から、短時間ながらこの件について、私の理解で大要次のようなお話しを伺う機会があった。

授益処分(申請者から見れば「受益処分」)の撤回は、軽々になしえないというのが行政法上の常識的理解。しかし、それは飽くまで一般国民の利益の剥奪はできないという権力行使抑制の原則からの結論で、国が当事者となっている場合にまで、同じように考える必要はない。国が、一私人と同じ立場で権利主張をしていることがそもそも妥当ではない。行政法は、権力主体である国と国民とを峻別しているのだから。

有効な撤回の理由としては、取消処分後の後発的事情が必要。いくつも考えられるが、裁判所が認めやすいものとして、「承認の際の留意事項への違反」「国が県の指導に従っていないこと」が有力ではないか。

現地の沖縄タイムスは、「辺野古問題、再び法廷へ 8月にも承認撤回 留意事項への違反理由か」という解説記事を掲載している。
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/283044

名護市辺野古の新基地建設を止める最大の手段となる翁長雄志知事の埋め立て承認撤回の時期が、8月17日予定の土砂投入前に絞られてきた。環境保全や前知事の埋め立て承認の条件とされた留意事項への違反などを理由に撤回される見通しだ。一方で、国は撤回の効力を停止する手続きなど対抗措置を執ることが予想され、辺野古問題は再び法廷闘争へと発展することになる。

ようやくできた民意を反映する県政が、国の強引な権力発動に蹂躙されようとしている。これが民主主義だろうか。裁判所には、司法本来の役割を期待したい。

(2018年7月14日)

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Published in 土曜日, 7月 14th, 2018, at 23:21, and filed under 沖縄.

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