澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

首相の、ハンセン病患者家族への面会謝罪を評価する

首相・安倍晋三は、昨日(7月24日)官邸でハンセン病家族訴訟原告団と面会し謝罪した。この謝罪は、所詮は参院選対策、政治的打算のパフォーマンスとの醒めた批判もあるが、積極的に評価して良いと思う。

 被害者に対する加害者の謝罪は、何よりも被害感情の慰藉のためにある。面会した被害者たちが首相の真摯さを評価していることを、重く受けとめたいと思う。この原告団は闘い抜いて首相の「真摯な反省」を勝ち得たのだ。

面談後の記者会見で、黄光男(ファン・グァンナム)原告副団長は、「心にしみる(謝罪の)言葉だった」と語ったという。謝罪は、被害者にこう語ってもらえる舞台設定なくしては意味がない。2015年12月28日日韓「慰安婦合意」にともなう首相の謝罪は、多くの被害者に評価されるものではなかったことを想起しなければならない。

首相の謝罪の言葉(官邸ホームページでは「冒頭の挨拶」)の全文が、以下のとおりである。

「本日は、こうしてお話をさせていただくため、遠路わざわざお越しいただきまして、誠にありがとうございました。
 ハンセン病に対する極めて厳しい差別と偏見は、本日ここにいらっしゃる皆様に対しても向けられてきました。これは、否定し難い厳然たる事実であります。その結果、本当に長い間皆様にとって大切な人生において、大変な苦痛と苦難を強いることとなってしまいました。内閣総理大臣として、政府を代表して心から深くお詫び申し上げます。
 18年前の熊本地裁判決の際は、私は官房副長官としてこの問題に関わりました。今回は内閣総理大臣として、皆様が経験された筆舌に尽くし難い御労苦を、これ以上長引かせるわけにはいかない、きちんと責任を果たさなければならないと考えました。先般、判決受入れを決定いたしましたが、それにとどまらず、今回訴訟に参加されなかった方々を含め、新たに補償するための立法措置を講ずることといたします。さらに、様々な問題の解決に向けて、協議の場を速やかに設け、皆様と一緒に差別偏見の根絶に向け、政府一丸となって全力を尽くしていくことをお約束いたします
 今回はその第一歩として、皆様から今までの御経験、思いをじっくりと伺わせていただきたいと思っております。
 改めて、皆様が強いられた苦難と苦痛に対しまして、深く深くお詫び申し上げます。」

世上、この首相謝罪への評価は十分ではない。その主たる原因は安倍晋三という人物の不徳のいたすところ。日ごろの行状の報いではある。が、それだけではない。この謝罪が不十分でもあるからだ。

謝罪は、陳謝の意を述べるだけでは十分ではない。何について謝罪するのか、責任を認める根拠を具体的に特定しなければ、誠実な謝罪にはならない。

そのような視点からは、「大変な苦痛と苦難を強いることとなってしまった」原因を作り出した国の作為と、問題が認識されて以後放置した国の不作為を特定して、謝罪すべきであった。にもかかわらず、これが欠けていることが、漠然とした印象だけのものとなってしまっている。謝罪の責任根拠について具体性が欠けているのだ。

一方、「今回訴訟に参加されなかった方々を含め、新たに補償するための立法措置を講ずることといたします」と述べたことの意味は大きい。敗訴したから、やむを得ずその範囲での被害救済ではなく、ある行政行為が違法とされた以上は、違法な行政行為で損害を余儀なくされた人びとの被害をすべて救済しようということである。控訴審・上告審を待たずに、法的措置を講ずるとしたことを評価したい。

「超党派で一致した議員立法を秋の臨時国会で成立させてほしい」というのが原告団の要望である。この立法内容をどうするか、その法をどう運用するかは、今後の課題だが、救済対象を不当に狭めることのないよう、適切なものとしてもらいたいと思う。

ハンセン病罹患者やその家族に対する社会的差別は国が作り出した側面が大きい。ハンセン病が不治の病ではなくなってから、差別を払拭すべき国の施策はまことに不十分であった。このような払拭すべくして払拭されていない、偏見や差別は実はいくつもある。そのことによって、人権を侵害されている被害者が数多くある。

まずは、旧優生保護法による「優生手術」を強制された被害である。これについても、首相の謝罪がなければならない。救済措置法ができたものの訴訟は継続している。官邸か厚労省に、抜本解決の場を作る努力あってしかるべきではないか。

不合理な偏見や差別の典型は、非解放部落在日に対するものである。いずれも社会的差別が主たるものであるが、この差別・偏見を解消して侵害された人権を回復するために、国の不作為の責任をみとめ、具体的な差別解消策が実施されてしかるべきではないか。そのきっかけとして、首相謝罪が有効であろう。

さらには、戦後補償問題である。明らかに誤った国策としての戦争が、国の内外に甚大な被害を作出した。国外の戦時加害行為による被害者には、直ちに今回のハンセン病問題なみの首相による面会謝罪があっても良いのではないか。また、日本人戦争被害に関しては、軍人・軍属への手厚い遺族恩給と民間人の空襲被害者への救済放置とのアンバランスが予てより問題となっている。その救済にも、首相謝罪は有効であろう。

上記の課題に限らず数多くの累積する懸案事項解決のために、今回同様の首相による被害者への謝罪の有効活用を期待したい。
(2019年7月25日)

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