澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

都教委は、懲戒処分に先立つ事情聴取に弁護士の立ち会いを認めよ

(2020年7月28日)

申  入  書

2020(令和2)年7月22日

東京都教育委員会
教育長  藤  田  裕  司  殿
委員   遠  藤  勝  裕  殿
委員   山  口     香  殿
委員   宮  崎     緑  殿
委員   秋  山  千  枝  子  殿
委員   北  村  友  人  殿

弁護士 澤 藤 統一郎
外弁護士6名連名

 私たちは、東京都立I特別支援学校に勤務するT教諭から依頼を受けた弁護士として、連名で貴委員会に下記の申し入れをいたします。

 東京都教育庁人事部から所属校の学校長を通じてT教諭に対して、口頭での「事情聴取」の通告がありました。同時に、「事情聴取」実施日について同教諭の日程問い合わせがなされているところです。
おそらくは、この「事情聴取」は貴委員会が、T教諭に対する懲戒処分発令する手続きの一環としてなされるもので、当該の「事情聴取」とは、行政手続法13条1項2号にいう、「弁明の機会の付与」であるものと理解いたします。
 いうまでもなく、懲戒処分発令はこれを受ける公務員にとっては重大な不利益処分となります。しかも、T教諭には、教育公務員としての職責の遂行に何の落ち度もなく、むしろ貴委員会が発令しようとしている懲戒処分にこそ憲法違反、ないしは数々の法令違反が窺われるところです。
 しかし、T教諭には貴委員会による処分決定に向けた教育庁人事部による「事情聴取」を拒絶する意思は豪もなく、むしろ、与えられたこの機会に、予想される懲戒処分の違憲・違法・不当について十分な弁明を尽くしたいと考えています。そして、その弁明に遺憾なきを期するために弁護士の立ち会いを希望しています。私どもは、同教諭の依頼に応えて、私たちのうちの日程の都合のつく者が「事情聴取」に立ち会い、法律専門家の立場から、弁明に必要なアドバイスを行う所存です。
 ご存じのとおり、行政手続法は「聴聞」と「弁明の機会の付与」とを分け、前者の手続には代理人選任を被聴聞者の権利として認めており、後者の場合には認めていません。しかし、もとより「弁明の機会の付与」に、代理人の選任を禁ずる規程はなく、ましてや弁護士の立ち会いを不都合とするものではあり得ません。
本件は、優れて法的に複雑な問題を伏在している事案として、弁明者の権利の保護という観点からも、なされるべき弁明が全うされて法が要求する手続に瑕疵なきを期するという視点からも、弁護士の立ち会いを認めて然るべき事案だと思料せざるを得ません。
 弁護士という職能は国民の基本的人権を擁護するために、法治国家としてのわが国の法が認めた法律事務専門職であります。国民の誰もが、法的な助言を得たいと希望するときに、これに応えることが弁護士の職責であることをご理解いただきたいと存じます。
 なお、教育行政を司る貴委員会の在り方としても、教師としての職責を有する公務員の立場を尊重され、是非とも弁護士立ち会いを認めていただくよう申し入れする次第です。

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T先生は、特別支援学校で美術を教えている。穏やかな人だ。京都で育ち、身近に在日差別や部落差別に接して心を痛めてきた。そして、自分が教師になって差別をを許さない教育実践をしようと思ったという。そのT先生にとって、学校での「日の丸・君が代」は、かつての皇民教育の象徴であり、民族差別・身分差別の象徴でもあった。自分が教員を志した原点に関わる問題として起立・斉唱の強制に服することはできない。それは、教え子に対する裏切りである、と言う。

T先生は、東京君が代裁判・4次訴訟の原告のお一人。訴訟では、次の5件の懲戒処分の取消を求めた。
第1回不起立 戒告
第2回不起立 戒告
第3回不起立 戒告
第4回不起立 減給10分の1・1か月
第5回不起立 減給10分の1・1か月

一審・東京地裁判決は、残念ながら戒告処分の取消を認めなかったが、2件の減給処分をいずれも違法として取り消した。都教委は、これを不服として東京高裁に控訴したが控訴棄却の判決となった。都教委は、さらに上告受理申立までしたが最高裁は申立を不受理として、一審判決が確定した。これが、2019年3月28日のことである。

なお、4次訴訟の一審判決では、《停職6月》1名、《減給10分の1・6月》2名、《減給10分の1・1月》3名(4件)が、いずれも取り消された。これについて、都教委は、T先生の《減給10分の1・1月》(2件)だけを控訴して、他は確定させている。東京都も都教委も、この6名7件の確定した処分取消に対して、謝罪をしていない。謝罪をしようともしていない。まずは、真摯に謝罪すべきが当然であろう。

謝罪するどころか、都教委は「減給が認められないのであれば、改めて戒告処分としなければならない」ということなのだ。これが通るのなら、T先生としては、ひとつの不起立行為に2度の制裁手続を強いられ、再度の救済手続を強いられることにもなる。これは、過重な負担となる。

それにしても、昨年3月28日から既に1年4か月である。これまで、再処分手続に着手しようとしなかったことに、都教委の自信のなさを窺うことができよう。

都教委は弁護士の立ち会いを認めて、T先生に十分な弁明の機会を保障しなければならない。それが、教育行政に携わる者に要求される最低限の誠実さではないか。

この申し入れに、教育委員会からの返答はまだない。

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