澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

国は、はたして国民のために存在しているのか-松村包一詩集紹介

省かれた手間
   --無責任体制その1

  誰も命令しなかったし
  誰も強制しなかったが
  赤紙は容赦なく配達されて
  若者達は否応なく死地へと旅立った

  従軍慰安婦になれと
  誰も命令しなかったし
  誰も強制しなかった--という
  只 口車に乗せた奴はいる

  集団自決せよとは
  誰も命令しなかった--という
  が 生きて虜囚の辱めを受けるなと
  手榴弾を配った奴はいる

  特攻隊に志願せよと強制した
  上官は居なかった--という
  只 忠君の〈大義〉に殉ぜよとの
  説諭は全将兵を呪縛した

  〈愛国〉という名の〈大義〉が
  今 再び偽造されつつある
  命令する手間を省き
  強制する手間を省くために

ピラミッド
   --無責任体制その3

  責任には重さがある
  不思議なことに
  大きな責任ほど 軽く
  小さな責任ほど 重い

  大きかろうが小さかろうが
  とにかく重さがあるからには
  責任は下へ下へと滑り落ち
  次第次第に重くなる

  責任は最高責任者から
  上位・中位・下位責任者へと
  次々 次々と分割委譲され
  最下位責任者へと辿り着く

  最下位責任者から その先は
  何と! 責任者とは縁無き衆生の
  庶民の肩に食らい付くなり
  (自己責任)と改名する!

  かくて 最高責任者は
  最高無責任者になり
  以下の各位責任者もまた
  以下同様ということになり

  ありとあらゆる責任はすべて
  庶民の自己責任ということになり
  巨大な無責任体制のピラミッドが
  庶民の暮しに華を添える

市場(いちば)と市場(しじょう)

  市場(いちば)と市場(しじょう) それとこれとは
  目で見れば 全く同じ漢字の造語だが
  耳で聞くなら それとこれとの間には
  天国と地獄ほどの違いがある

  市場(いちば)--その響きのあたたかさ
  そこには市井の人々の哀歓が交差する
  だが市場--そこには困窮する人々や
  国土でも食い荒らす化物がたむろする

  市場(いちば)と市場(しじょう) 人間界と化物界
  生産力の増大につれ生まれ 育ち
  共存し 排斥しあう
  この互いに似ても似つかぬ双生児!

防 衛
  万里の長城は総延長八千八百キロを超える
  それは中国全土を防衛できる筈だったが
  蒙古軍の怒涛の進撃を阻むことは出来なかった
  建設に駆りだされた膨大な数の人民の
  塗炭の苦しみは遂に徒労に帰した

  中国が世界に誇る万里の長城
  世界文化遺産として登録されているのだが
  それは正に大いなる愚行の記念碑として
  永く保存されるべきである

  その後も 規模の大小こそあれ
  防衛線なるものは次々と出現した
  独仏国境には マジノ線 ジークフリート線
  また冷戦を象徴したベルリンの壁 等々
  破られない防衛線なぞ遂になかった
  すべては破られる為にのみあった

  真の防衛とは 防衛しないこと
  敵意と不信と邪悪な野望を捨てること
  虚心に 対等に 互いに尊重し合うこと
  内外にあまねく扉を開くことではなかろうか

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以上の詩は、松村包一さんの「詩集 夜明け前の断絶-テロと国家と国民と-」からの抜粋である。詩集は158頁、54編の詩が掲載されている。
「英霊に捧ぐ」「テロの源流」「ガザの子どもたち」「言葉の綾」「日米同盟とオスプレイ」「愛国心」「安全と主権の行方」等々。題名から内容のおおよそは推測できるだろう。徹底して民衆に寄り添い、徹底して国の無責任を追求する内容。それが、詩になっている。

詩集に掲載の略歴によると、松村さんは、「1931年水戸市で出生。茨城中学(旧制)、水戸高校(旧制)、茨城大学文理学部を経て1957年東京大学文学部卒」とある。その後の職歴が「劇団東演に所属して演劇活動後、川崎市立中学校教諭」と非凡である。

この詩集は、松村さんご自身からいただいた。2013年11月、ささやかな同窓会の席上でのこと。以来、ときどき頁をめくって読んでいる。滅法面白いので、人に紹介したくなって、4編を抜き出してみた。

後書きに、こうある。
「…疑いの目で日本の国や諸外国をつらつら眺めてみると、殆どの〈国〉が〈国民の為に〉存在しているのではないような気がしてきます。このような疑いの目に映った諸々の情景を描いてみたのが、この一連の作品です。私の目が狂っているのか、私の目の前の世界が狂っているのか、この作品を読まれた方々の忌憚のないご意見を聞かせて頂ければ幸いです」

詩集の奥付を見ると発行がその年の1月29日となっている。安倍政権発足直後のこと。その後の日本の情景はもっと狂っている。松村さんには、安倍政権批判のあらたな詩集を期待したい。

なお、詩集は頒価1000円となっているものの、出版社からの刊行ではない。松村さん、あまり売る気はなさそうなのだ。
(2015年3月2日)

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