澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

泉徳治さんと「憲法の求める司法の役割」

泉徳治さんという最高裁判事がいた。東京高裁長官から最高裁判事となって6年3か月の在職だった。4年前に退官して今は東京弁護士会所属の弁護士。キャリア裁判官として22年間を最高裁事務総局で過ごした人。私から見れば、典型的司法官僚のお一人。その人がごく最近、「私の最高裁裁判官論」という本を日本評論社から出した。副題が「憲法の求める司法の役割」というもの。これは、話題だ。

泉さんは、退官後に結構発言が多い。7月10日に大法廷口頭弁論が開かれることで今話題となっている婚外子相続差別問題で、在任中2度の少数意見を書いたとのことで、弁護士になってからもこの差別は違憲だと言い続けている。その立場は一貫していて、現在の最高裁が、違憲立法審査権に臆病であることを批判している。

以下は、著書の「はしがき」からの抜粋である。さすがに、私より品の良い文章だが、私の言いたいことをずばりと言ってくれている。

「司法の重要性を多くの人に理解してもらうためには、何よりも裁判官が憲法によって課せられた司法の役割を十分に認識して、国民の権利自由を擁護するため、立法・行政の裁量権の行使について適切に審査し、企業の行動規範の形成などにも積極的に関与していくことが大切だと考えるようになりました。」

「国民全般の公益と個々の国民の私益とは、しばしば衝突します。国民主権に基づく代表民主主義は、元来、国民が全て平等に人間として尊重されるという基本的人権の尊重の確立を目的とするものです。全体の利益増進を図るためといっても、個々の国民の人間の尊厳に関わるような権利自由をむやみに制約してよいものではなく、制約は必要最小限にとどめる必要があります。個人の権利自由を擁護するのは、裁判所の重要な役割であります。立法・行政の裁量に全てを委ねていては、国民の権利自由を庇護するために設計された司法の職務放棄になりかねません。」

「多数決原理の民主政の下では、社会的少数者の声が立法・行政に反映されるということは、あまり期待することができません。社会的少数者の憲法によって保障された基本的人権を擁護するのも、裁判所の役割であります。」

副題にあるとおり、「憲法の求める司法の役割」がメインテーマだ。裁判官は、憲法によって課せられた司法の役割を十分に認識しなければならない。その視点からは、違憲審査権行使に臆病な司法の現状は歯がゆい。国民からの距離が遠いことを理由とする司法消極主義は、結局のところ「国民の権利自由を庇護するために設計された司法の職務放棄にほかならない」というのだ。元最高裁判事が、自らの反省を込めての言である。ずっしりとした重みがある。

次の点にも共感する。
「私は、最高裁判事時代に三六件の個別意見を書きました。多数意見と結論を異にした「反対意見」が二五件、結論は多数意見と同じであるが結論に至る理由を異にした「意見」が四件、多数意見に加わりながら自分の意見を付け加えた「補足意見」が七件であります。」「少数意見の表明は、全体の議論の質を高めるものであります。」「少数意見は、時間を経て、多数意見へと成長することが少なくないのであり、法の発展につながると考えます。」「少数意見が存在してこそ議論が活発化し、一人でも多くの人が議論に加わることによって制度が前へ進むチャンスも生まれてくると信じております。」

この人の、少数意見の存在が大切だという感性を素晴らしいと思う。まさしく、少数意見が存在してこそ議論が活発化するのであり、「少数意見が多数意見へと成長することも少なくない」のだ。

本文では、日の丸・君が代強制事件最高裁判決にも言及している。宮川光治判事の反対意見を好意的に紹介して、「君が代斉唱事件は、違憲審査基準を重要な争点として浮かび上がらせるものであった。最高裁において、違憲審査基準自体についての議論がさらに深まっていくことを期待したい」と述べられている。

宮川光治判事の少数意見が、議論を深めるだけでなく、やがて多数意見に転化することを切望する。そうなってこそ、最高裁は「憲法の求める司法の役割」を果たしたと言えるのだから。
(2013年6月12日)

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Published in 木曜日, 6月 13th, 2013, at 00:08, and filed under 未分類.

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