澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

『君が代』訴訟の新しい動きと勝利への展望

「学校に自由と人権を! 10・17集会ー子どもを戦場に送るな!」の集会にお集まりの皆様に、東京君が代訴訟弁護団からご報告を申し上げます。

2003年10月23日、石原慎太郎都政第2期の時代に都教委が悪名高い「10・23通達」を発出しました。以来12年になります。この間、「日の丸・君が代」強制に服することができないとした教職員延べ474名が懲戒処分を受けました。この強権発動は、「日の丸・君が代」強制問題にとどまらず、学校現場を命令と服従の場とし、自由で創造的な教育はすっかり影をひそめてしまいました。

さらに、都教委は「学校経営適正化通知」(06年4月13日)を発して、信じがたいことに、職員会議での挙手採決を禁止しました。学校運営に教職員の意見反映を峻拒したのです。学校現場には、ものも言えない状況が蔓延しています。教職員は疲弊し、意欲を失い、自由闊達な雰囲気を欠いた教育は危機的状況に追い込まれています。その最大の被害者は、子どもたちであり、明日の民主主義といわざるを得ません。

10・23通達に対しては、現場での闘い、社会的な支援の闘いと並んで、10年余の長きにわたる裁判闘争が継続しています。これまでのところ、裁判の成果は勝利を博したとは言えません。しかし、けっして敗北したとも言えない一定の成果は挙げています。残念ながら裁判によって「日の丸・君が代」強制を根絶することはできていませんが、石原教育行政がたくらんでいた教員に対する思想統制は不成功に終わっていると評価できる事態ではあるのです。

これまで、10・23通達関連訴訟判決で、処分違法とされて取消が確定したのは56件、人数では47名となっています。行政には甘い裁判所も、都教委のやり方は非常識で到底看過できないとしているのです。都教委は司法から断罪されたといってよい状態です。ですから、都教委は10・23通達に基づく一連の施策を抜本的に見直すことが求められています。ところが、都教委が反省しているようには見えません。被処分者に対する「再発防止研修」を質量ともに強化し、なんとしてでも、教職員の抵抗を根絶やしにして、「日の丸・君が代」強制を徹底しようとしています。都教委は異常、そう指摘せざるを得ません。

これまでの「10・23通達」関連訴訟全体の判決の流れを概観して見ましょう。
最初、まだ最高裁判決のない時代に大きな成果をあげた時期がありました。これを仮に「高揚期」と名付けます。しかしこの時期は長く続かず、10・23通達以前の事件ですが、ピアノ伴奏強制拒否訴訟の最高裁判決で覆ります。その後しばらく「受難期」が続きます。そして、一定の成果を得て「安定期」にはいります。そして、本日ご報告したいのは、今安定期の域を脱して「再高揚期」にあるということです。都教委の側から見れば、今は「裁判ボロ負け続きの最悪期」なのです。

「高揚期」
10・23通達関連事件で、裁判所が最初の判断を示したのは、再発防止研修執行停止申立(民事事件の仮処分命令申立てに相当します)に対する決定です。裁判長の名をとって須藤(典明)決定と呼んでいる2004年7月の決定は、「内心に踏み込み、思想良心に関わる内容の研修は違法」として、研修内容に歯止めをかけました。さらに、2006年9月の予防訴訟一審判決(難波判決)は、「日の丸・君が代」強制を違憲違法とした全面勝訴の画期的判決となりました。担当裁判所は、教職員と一緒に、石原教育行政の暴挙に怒ってくれたのだと印象をもちました。これで、「『日の丸・君が代』強制は違憲、という流れが決まった」そう思いました。しかし、残念ながらこれはつかの間の喜びに過ぎませんでした。

「受難期」
その後半年足らずで、待ち構えていたように最高裁第三小法廷が、ピアノ伴奏強制拒否事件判決(07年2月)を出します。外形的な行為(君が代斉唱のピアノ伴奏)の強制があっても、必ずしも内心の思想・良心を侵害することにはならないという、奇妙な内外分離論に基づくものでした。

まことに奇妙な合憲論なのですが、最高裁判決は下級審の裁判官に重くのしかかります。ピアノ伴奏だけでなく、君が代不起立を理由とする懲戒処分は、ことごとく合憲合法とされました。事件や当事者に向き合わず、人事権を握る上だけに目をやり、上におもねる「ヒラメ判決」、最高裁判決の言い回しをそのまままねた「コピペ判決」が続きました。まさに受難の時代でした。

その嚆矢をなす典型が、「君が代・解雇裁判」一審佐村浩之判決(07年6月)です。難波判決の直後に結審しながら、ピアノ判決後に弁論再開して、「ヒラメのコピペ判決」を言い渡したのです。関連全訴訟の中心をなす、処分取消訴訟(第1次「君が代裁判」)一審判決(09年3月)も全面敗訴に終わりました。難波判決の控訴審判決も逆転敗訴(11年1月)となりました。ここまでが、長かった苦難の「受難期」です。

「回復・安定期」
この沈滞した局面を打破したのが、第1次「君が代裁判」控訴審、東京高裁大橋判決(11年3月)でした。戒告を含む全原告(162名)について、裁量権濫用にあたるとして違法と断じ、処分取消の判決を命じたのです。最高裁判決の枠には従いながらも、その制約の中で、教員側の訴えに真摯に耳を傾けた画期的判決でした。

難波判決に次ぐこの判決は最高裁では維持されませんでした。それでも、最高裁は減給以上の処分は重きに失するとして取り消しました。こうして、君が代裁判1次訴訟最高裁判決(12年1月)、河原井さん・根津さん処分取消訴訟最高裁判決(12年1月)などかこの仕切りに続き、第2次君が代裁判最高裁判決(13年9月)もこれに従って、「戒告なら合法」「減給以上は裁量権濫用で違法」という判断が定着します。

最高裁は、「日の丸・君が代」の強制は、間接的には思想良心の自由を侵害していると認めます。しかし、間接的な制約に過ぎないから、都教委側にある程度の強制の合理性必要性があれば合憲と言ってよいというのです。納得はできず不服ではありますが、ピアノ判決の理屈よりは数段マシになったとも言えます。

何よりも、原則として戒告だけが認められるとなって、都教委のたくらみであった累積加重の懲戒システムが破綻しました。これは、毎年の卒業式・入学式のたびに繰り返される職務命令違反について機械的に懲戒処分の量定を加重する、おぞましい思想弾圧手法です。心ならずも、思想良心を投げ出して命令に屈服し、「日の丸・君が代」強制を受容するまで、懲戒は重くなり確実に懲戒解雇につながることになるのです。私たちが思想転向強要システムと呼んだ、この邪悪なたくらみは違法とされ、採用できなくなりました。都教委は猛省しなくてはなりません。

再高揚期
そしていま、新たな下級審判決の動向が見られます。最高裁判例の枠の中ですが、大橋判決のように、可能な限り憲法に忠実な判断をしようという裁判所の心の内を見て取ることができます。さらに、10・23通達関連事件に限らず、都教委は多くの処分についての訴訟を抱え、ことごとく負け続けています。いまや、都教委の受難・権威失墜の時代です。これを教員側の「再高揚期」と言ってよいと思います。
  
ちなみに、最近の都教委が当事者となった事件の判決を並べてみましょう。
13年12月 「授業をしていたのに処分」福島さん東京地裁勝訴・確定
14年10月 再任用拒否(杉浦さん)事件 東京高裁勝訴・確定
14年12月 条件付き採用免職事件 東京地裁勝訴 復職
(15年1月 東京君が代第3次訴訟地裁判決 減給以上取消)一部確定
15年 2月 分限免職処分事件 東京地裁執行停止決定
15年 5月 再雇用拒否第2次訴訟 東京地裁勝訴判決
15年 5月 根津・河原井さん停職処分取消訴訟 東京高裁逆転勝訴
15年10月 Kさん、ピアノ伴奏拒否事件東京地裁処分取消判決
   原処分・停職→人事委員会修正裁決・減給処分→東京地裁・減給取消

以上のすべてが、10・23通達関連判決ではありません。しかし、明らかに、10・23通達関係訴訟で明らかになった、都教委の暴走を到底看過できないとする裁判所の姿勢が見て取れます。今や都教委は、悪名高い暴走行政庁なのです。

各原告団・各弁護団による総力の努力が相乗効果を産んでいるのだと思います。何よりも、最高裁判決と2名の裁判官の反対意見(違憲判断)、とりわけ宮川裁判官の意見、そして多くの裁判官の補足意見の積極面が生きてきていると実感しています。まだ十分とは言えませんが、粘り強く闘い続けたことの成果というべきではないかと思っています。

これから、闘いは続きます。まずは、最高裁の「論理」の構造そのものを徹底して弾劾し、真正面から判例の変更を求める正攻法の努力をしなければなりません。裁判所に対する説得の方法は、「大法廷判例違反」「学界の通説に背馳」「米連邦最高裁の判例に齟齬」などとなるでしょう。そして、「職務命令違反による懲戒処分が戒告にとどまる限りは懲戒権の濫用にあたらない」という判断を、大橋判決のように「すべての懲戒が権利濫用として違法になる」という判断の獲得はけっして不可能てはないと考えています。

さらに、まだこの問題に関して最高裁判決が語っていないことでの説得ー迂回作戦を試みなければなりません。
「主権者である国民に対して、国家象徴である国旗・国歌への敬意を表明せよと強制することは、立憲主義の大原則に違反して許容されない」「「日の丸・君が代」強制は、憲法20条2項に違反(宗教的行為を強制されない自由の侵害)に当たる」「憲法26・13条・23条を根拠とする「教育の自由」侵害に当たる」「子どもの権利条約や国際人権規約(自由権規約)に違反する」等々の主張についても、手厚く議論を積み上げていきたいと思います。

法廷内の闘いと、現場と支援の運動。そして、司法の体質を変える運動。さらには、都政そのものの質を変える運動。文科省の教育政策を弾劾する運動などと結びついて、粘り強く最終的な勝利を展望したいと思います。よろしく、ご支援をお願いいたします。

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公表された議事録作成の経緯の検証と当該議事録の撤回を求める申し入れ」への賛同署名のお願い

そもそも存在しない安保関連法案の「採決」「可決」を後付けの議事録で存在したかのように偽るのは到底許されません。私たちは、このような姑息なやり方に強く抗議するとともに、当該議事録の撤回を求める申し入れを提出します。ついては多くの皆様に賛同の署名を呼びかけます。

ネット署名:次の署名フォームの所定欄に記入の上、発信下さい。
     http://goo.gl/forms/B44OgjR2f2

賛同者の住所とメッセージを専用サイトに公開します。
     https://bit.ly/1X82GIB

第一次集約日 :10月27日(火)22時とします。なお、詳細は、下記ブログをご覧ください。
       http://article9.jp/wordpress/?p=5768
(2015年10月18日・連続931回)

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