澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

自民党改憲草案「緊急事態」条項は、立憲主義崩壊へのレッドカードだ

梓澤和幸・岩上安身・私、3名の共著『前夜-日本国憲法と自民党改憲案を読み解く・増補改訂版』(現代書館)が刷り上がった。発行日は2015年12月20日となっているその書物のお披露目の集会が本日あって、サインセールなどという慣れないことに手を染めた。150冊に自分の名前を書くのはひと仕事だった。

黒い帯に「危険な緊急事態宣言条項の導入を画策する 自民党のトンデモ改憲案は許さない」の白文字。この帯を外して裏返すと、雨に濡れても丈夫だというつくりのミニプラカードになっている。
このプラカードに、
「自民党改憲案・緊急事態宣言条項は 許さない」
の大きな文字。

この書は、戦争法「成立」が立憲主義を大きく傷つけた事態を踏まえて、さらに来夏の参院選が明文改憲への道を開きかねない重要な政治戦であることを強調している。そしてその明文改憲の具体的なテーマとして「緊急事態」条項に着目している。これが攻防の焦点となり得るとして警鐘を鳴らしているのだ。

自民党改憲草案は、「第9章 緊急事態」を新設し、現行日本国憲法にはない、次の2か条をおいている。

☆改憲草案「第9章 緊急事態」
「98条 緊急事態の宣言
1項 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる

99条 緊急事態宣言の効果
1項 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
3項 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。」

自民党の改憲草案「Q&A」は、第99条3項をつぎのように解説している。
「現行の国民保護法において、こうした憲法上の根拠がないために、国民への要請は全て協力を求めるという形でしか規定できなかったことを踏まえ、法律の定める場合には、国民に対して指示できることとするとともに、それに対する国民の遵守義務を定めたものです。」
自民党改憲草案は、「国家の権限強化」と「国民の遵守義務」が大好きなのだ。

東日本大震災の経験を経て、なんとなく、この「国家の権限強化」と「国民の遵守義務」の創設を許容する雰囲気がありはしないだろうか。

本日の「前夜・増補版」サインセールとなった集会は、主としてこの改憲草案「緊急事態」条項をめぐる議論として設定された。私も、冒頭次のようなレポートをした。

※国家緊急権(規程)は、支配層にとって喉から手の出るほど欲しいものなのだ。
 緊急事態条項は、国家緊急権といわれるものの一態様。戦時・自然災害・その他の非常時の際に、憲法の例外体系を形づくって立憲主義を停止しようというものである。
 言うまでもなく、集中した強い権力は人権尊重理念の敵対物である。人権を擁護するために、権力を規制してその強大化を抑制するのが立憲主義なのだから、国家緊急権は、立憲主義を崩壊せしめて強大な権力を作るための恰好の武器なのだ。もちろん、改憲草案の「緊急事態条項」もそのようなものである。

※明治憲法下では、戒厳大権・非常大権・緊急勅令・緊急財政処分権限の明文規定が手厚く保障されていた。支配者にとって、これでこそ「皇国の安全が保持される」というもの。

☆大日本帝国憲法の国家緊急権規程
第14条(戒厳大権)
 1項 天皇ハ戒厳ヲ宣告ス
 2項 戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム  
第31条(非常大権)
  本章(第2章 臣民権利義務)ニ掲ケタル条規ハ戦時又ハ国家事変ノ場合ニ於テ天皇大権ノ施行ヲ妨クルコトナシ
第8条(緊急勅令)
 1項 天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要ニ由リ帝国議会閉会ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ発ス
第70条(緊急財政処分) 
 1項 公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ需用アル場合ニ於テ内外ノ情形ニ因リ政府ハ帝国議会ヲ召集スルコト能ハサルトキハ勅令ニ依リ財政上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得

※ヒトラーのナチス政権は、全権委任法(授権法)を制定して、政府が立法権を乗っ取った。
☆ナチスドイツの全権委任法(授権法)とは、正式名称を「民族および国家の危難を除去するための法律」(1933年3月23日成立)という。その条文は、全5条。主要な内容は以下のとおり。
「ドイツ国の法律は、憲法に規定されている手続き以外に、ドイツ政府によっても制定されうる。」「ドイツ政府によって制定された法律は、国会および第二院の制度そのものにかかわるものでない限り、憲法に違反することができる。」「ドイツ国と外国との条約も、本法の有効期間においては、立法に関わる諸機関の合意を必要としない。」

この法は、1933年から1945年まで猛威を振るった。この13年間に、政府が国会を通さずに作った法律が985件、国会が憲法本来の手続で作った法律は僅か8件だったという。緊急事態法が、立法権を乗っ取ったのだ。この緊急事態法によって、議会制民主主義は死滅した。

※「日本国憲法」は、そのような歴史の教訓を踏まえて、国家緊急権(規程)の一切を駆逐した。
最も徹底した人権保障システムとしての日本国憲法は、人権保障のダブルスタンダードを認めず、例外の体系を作らなかった。また、戦争放棄条項は、戦時の憲法体系を想定する必要がなく、国家緊急権(規程)は無用の長物なのだ。

※自民党改憲草案「第9章 緊急事態」は、大日本帝国か、第三帝国への回帰現象にほかならない。
自民党改憲草案の98条・99条が、旧憲法の緊急勅令制度にも、ナチスの全権委任法にも、瓜二つであることに留意しなければならない。

安倍政権は、旧天皇制政府の戒厳・非常大権規程が欲しいのだ。これは、「戦後レジームからの脱却」の重要テーマの一つである。また、ナチスの全権委任法のような「便利なものがあったらいいな」と思っているのだ。これが、「ナチスの経験に学びたい」のホンネではないか。
しかも、緊急事態に出動して治安の維持にあたるのは改憲草案では、「自衛隊」ではない。堂々の「国防軍」なのである。

※緊急事態条項は、トランプの12×4の安定した秩序の外にあって、1枚で他の48枚の秩序を破壊するジョーカーにたとえられる(大江志乃夫「戒厳令」岩波新書)。このジョーカーの最悪の使用例がナチスの全権委任法だった。

結論として、自民党改憲草案による「緊急事態」条項は
濫用なくても、「戦争する国家」「強力な権力」「治安維持体制」をもたらす。
しかも、その濫用の歯止めは期待しがたく、その濫用の危険は立憲主義崩壊につながる具体的なおそれがあると言わねばならない。来夏の参院選、何としても改憲阻止の結果を出さねばならないと切に思う。
(2015年12月9日・連続第983回)

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