澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

田母神俊雄運動員買収で逮捕ー教訓:選挙運動者にカネを払ってはならない

田母神俊雄が逮捕された。一瞬驚いたが、所詮は政権とは無縁の人。甘利逮捕ならビッグニュースだが、田母神逮捕ではさしたるニュースバリューはないのかも知れない。それでも、田母神を応援した石原慎太郎や百田尚樹らの言を聞きたいところ。

政治的影響はともかく、政治とカネ、選挙とカネについての貴重な教訓を提供する事件だ。選挙運動は無償だ。これにカネを支払えば犯罪となるとの警鐘として心しなければならない。似たような話は身近にいくつもある。

田母神逮捕の被疑事実は公職選挙法の運動員買収である。条文を抜粋すれば以下のとおり。
第221条(買収)「次に掲げる行為をした者は、3年(候補者がした場合は4年)以下の懲役若しくは禁錮又は50万円(100万円)以下の罰金に処する。
一 当選を得、若しくは得しめ又は得しめない目的をもって、選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益の供与、その供与の申込み若しくは約束をしたとき。」

公選法上の買収には2種類ある。選挙人買収と運動員買収である。選挙人(有権者)を買収することは、直接に票をカネで買うことだ。運動員の買収はカネで票を集めること、間接的にカネで票を買うことにほかならない。選挙運動は無償が大原則なのだから、選挙運動員にカネを渡してはならない。カネを渡せば運動員買収罪が成立する。受けとった運動員も処罰対象となる。買収だけでなく供応も同じだ。

田母神の被疑事実は、「都知事選後の14年3月中旬ごろ、東京都内の事務所で、事務を統括し選挙運動をしたことへの報酬として島本順光元事務局長に200万円を支払ったほか、島本元事務局長らと共謀し、同3月中旬~5月上旬、同事務所などで運動員だった5人に対し、投票を呼びかけて練り歩いたことなどに対する報酬として、現金計280万円を供与したと」と報道されている。

候補者であった田母神だけでなく、島本順光元事務局長も逮捕された。島本は、5人の運動員買収について田母神との共犯(共同正犯)とされたほか、自らが田母神から200万円を受領したことが別の独立した犯罪とされている。

選挙運動は、判例において「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」と定義されている。選挙運動は飽くまで、自発的な意思によって行われるべきもので、報酬はない。選挙運動は無償が原則である。選挙運動者に報酬を支払えば、運動員買収として処罰対象となるのだ。もっとも選挙運動には当たらない純粋な労務の提供や事務作業者に対しては、予め届け出た者に限って決められた範囲の額の対価を支払うことができる。気をつけなければならないのは、たとえ労務者として届出があっても、単純労務の提供の範囲を超えて「選挙運動をした者」となれば報酬を支払ってはならないということだ。

私は、2013年の暮れから14年の1月にかけて、連続33日間「宇都宮健児君、立候補はおやめなさい」のシリーズを書き続けた。その中で、12年暮れの都知事選における宇都宮陣営の田母神類似問題について、詳細に報告した。

金額の大小の差はあれども、宇都宮選対事務局長と選対本部長とは、田母神陣営と似たことをしている。この報告は、下記のURLでお読みいただきたい。
 http://article9.jp/wordpress/?cat=6

この私の指摘に対して、宇都宮陣営の3人の弁護士が連名で「反論」している。2014年1月5日付(公表は6日)の「澤藤統一郎氏の公選法違反等の主張に対する法的見解」というもの。公平に見て、駄文の域を出ないものであるが、そのなかに、見過ごせない次の一文がある。

「澤藤氏は、『公職選挙法の定めでは、選挙運動は無償(ボランティア)であることを原則としています。』とか『市民選挙における選挙カンパとは、選対事務局員への報酬へのカンパではないはずと思うのです。』との一方的な思い込みに基づく論理で、あたかも選対事務局員に公選法違反の報酬が支払われたかのごとき主張をなしているのである。これらの支払いは単純労働への対価の支払であり、何らの違法性もないものである。」

この文章の非論理はともかく、これを普通の読み方をすれば、「公職選挙法の定めでは、選挙運動は無償(ボランティア)であることを原則としています」という私の指摘を、「一方的な思い込みに基づく論理」として非難するものにほかならない。これは、恐るべき認識というほかはない。この文章が書かれたのは、2014年都知事選の直前のこと。14年都知事選での宇都宮陣営は、「選挙運動は無償(ボランティア)であることを原則としています」という指摘を真剣に受け止めることなく、選挙戦に突入したと考えるほかはない。この3弁護士の「論理」で選挙運動をしたのでは、田母神陣営と同様の違法を犯した可能性を否定し得ない。

革新陣営の選挙に参集する選挙運動者に対しては、飽くまで「選挙運動は無償(ボランティア)でするもの」と確認し強調しなければならない。これを「一方的な思い込みに基づく論理」などと揶揄するようでは、田母神陣営の感覚と変わるところがない。14年選挙についての違法は可能性しか指摘できないが、12年選挙に選対事務局長や選対本部長の違法があったことは、既述のとおりである。

このような感覚だから、12年選挙における宇都宮選対の打ち上げの「会食費」が政治資金収支報告書に計上されたり、宴席で突然に「労務者報酬」が配られたりするようなことになる。このようなやり方で、善意の選挙運動参加者を違法行為に巻き込んだ選対事務局長の責任はとりわけ大きい。

その他の反論は、「宇都宮健児君、立候補はおやめなさいーその17」をお読みいただきたい。
  http://article9.jp/wordpress/?p=1834

あらためて当時のことを思い出す。今回の田母神逮捕は、私の運動員買収の指摘が杞憂でなかったことを裏付けるもの。再度しっかりと確認しておきたい。選挙運動は飽くまで無償でやることなのだ、と。
(2016年4月14日)

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