澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

「漁業で生活できる行政を」―浜の一揆訴訟の第3回法廷

本日は、風薫る盛岡で、浜の一揆訴訟の第3回法廷。地域によってはウニの口開けと重なったとのことだったが、30人の原告が法廷を埋め、報告集会も意気盛んなものとなった。

本日も、法廷では堂々の原告意見陳述があった。かつての三閉伊一揆発祥の地、田野畑村の延縄漁師が、「延縄では漁業を続けることができない。ぜひとも、固定式刺し網でのサケ漁の許可が必要なのだ」という内容。迫力に満ちたものだった。

法廷での陳述は、文章にして読めば分かる、というものではない。生身の人間の発声を通じての訴えは、重く心に響く。真摯さや切実さが伝わってくる。ブログでは伝わらないものもあるが、ご紹介したい。

田野畑村で漁船漁業を営んでおります。昭和33年8月生まれの私は、岩手県立 岩泉高校 田野畑校卒業と同時に、八戸市の水産会社に就職。最初の1年は日本近海を操業。2年目からはニュージーランド等、外国遠海までイカつり操業に従事しました。4年後には茨城県の水産会社に移り、2年間まき網船に乗り、機関助手として働きました。そして沖縄県に本社のある水産会社で現場が八戸市にある沖防波堤工事の作業船に一年ほど乗船しました。

その後、 村に帰って田野畑村漁業協同組合の大型定置網に従事。 一年後の昭和59年、25歳で結婚。所帯をもってからは、漁協理事を兼務する父親と一緒に、養殖の塩蔵ボイルワカメとサケ延え縄漁、そしてカゴ漁でタコを取って生計を維持してきました。父親と二人でしたから、最盛期にはサケ延え縄漁だけで900万円を超す収入もあり、最高収益の賞状を漁協からもらったことも2回あります。この間、3歳ちがいの娘2人を育て、双方とも高校まで卒業させてきました。

5年前の東日本大震災では、小型漁船は沖に避難して何とか助けました。 しかしサッパ船や、1.5トントラック、養殖ワカメの施設、サケ延え縄の諸道具、カゴ漁などの諸施設等一切を流失してしまいました。しかし、何としても生きなければならないために、サケ延え縄漁とカゴ縄だけは、隣り近所からの援助もいただきながら再開しました。こうして、震災1年目から何とか生活できるだけの収入は、かろうじて確保しました。

震災1年目の延え縄の水揚げは、およそ200万円でした。2年目は思いがけなく約700万円の豊漁でした。ところが3年目は、1年目よりもわずかに上回る250万円前後。そして今年は50万円にも届かない40万円ほどで、本当に何ともなりません。延え縄漁については、収入が多くても少なくても経費はほとんど変わらずに50万円前後です。サケ延え縄漁では、どうしても食べていけないのが現実なのです。
大震災のあった平成23年3月11日の2カ月後に、久慈市に住んでいる長女に初孫が生まれ、その時はお祝いをすることができました。でも、昨年2人目の誕生には、可愛さ・喜びは同じでも、満足できるお祝いすら与えることができませんでした。

田野畑漁協管内のサケ延え縄に従事する漁師は、従来50隻以上の出漁でしたが、今ではたった7隻しかありません。こういう状況の中で、三陸沿岸で漁業を続けていくためにはどうしてもサケ刺網漁の許可をえなければならず、それ以外には漁業を続けていく方法がありません。漁師として生きていくために、私は100人の原告の一人として名前を連ねています。

生き残った私の小型船で、どうかサケ刺し網漁ができるよう、裁判官の皆様におかれましては実情をしっかりとお汲み取りいただき、適切なご判断をいただきますよう、どうぞ宜しくお願い致します。
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訴訟の進展は、下記の段階。
訴状⇒答弁書⇒原告準備書面(1)⇒被告第1準備書面⇒原告準備書面(2)

だが、原被告間の議論はまだ噛み合ったものとなっていない。原告の主張の概要は次のようなものである。

海洋の資源は原則として無主物であって、これを採捕(採取と捕獲を併せた立法上の造語)することは本来的に自由である。採捕を業として行うことは、営業の自由(憲法22条1項)に属する基本権として保障されている。
憲法上の基本権が、無制限な自由ではなく、「公共の福祉」による内在的な制約に服すべきことは当然としても、原則が自由であることは、その制約には、首肯しうるだけの、制約の必要性と合理性を根拠づける理由がなくてはならない。
原告は、自らの憲法上の権利を制約する行政庁の不許可処分を特定して、これを違法と主張しているのである。権利を制約した側の被告行政庁において、その適法性の根拠を主張し挙証する責めを負うべきは当然である。

原告の営業の自由を制約する法律上の根拠は、漁業法65条1項にいう「漁業調整の必要」と、水産資源保護法4条1項にいう「資源の保護培養の必要」以外にはない。岩手県漁業調整規則23条1項3号は、この両者を取り込んで「知事は、漁業調整又は水産資源の保護培養のため必要があると認める場合は起業の認可をしない」としている。

だから、被告は「漁業調整又は水産資源の保護培養のための必要」に当たる具体的事実を主張しなければならない。しかし、被告は自らした不許可処分の適法性の根拠について語るところはなく、もっぱら内規として取り決めた「取扱方針」によるとだけ主張して、具体的な根拠事実を主張しようとしない。原告に許可を与えれば漁業調整や水産資源の保護に不都合が生じる根拠となる具体的な事実についてはまったく主張しようとしない。

また、行政処分には理由の付記が不可欠であって、それを欠けば違法として取消理由となる。ましてや、本来国民の自由な行為を一般的に禁止したうえ、申請に従って個別に解除して本来の自由を回復すべき局面においては、飽くまでも許可が原則であって、不許可として自由を制約するには、合理性と必要性を備えた理由が要求される。その具体的な理由の付記を欠いた本件不許可処分はそれだけで手続的に違法である。

被告は、以上の原告主張に的確な対応をしていない。9項目の求釈明にも、真摯な回答をしようとしない。

本日の法廷では、裁判所から被告に対して、次のような指示があった。
「被告第1準備書面の2頁に、『被告知事は、原告らの固定式刺し網漁業の許可申請に対し、規則23条1項3号の上記規定(抽象的な規定内容)をそのまま解釈・適用して本件各不許可処分を行ったのではなく、同号の定め(漁業調整又は水産資源の保護培養の必要)を個別の漁業などの実情に応じて具体化した規程(審査基準。行政手続法5条)である取扱方針(乙2)を適用して許可の当否を判断したのである』と記載されていますが、『個別の漁業などの実情に応じて具体化した』とはどういうことなのか、その内容をもっと具体的に述べていただきたい。原告の反論や求釈明も同じ趣旨だと思われますので、次回までに被告の側でその点を明らかにしてください」

原告が指摘したとおりの裁判所の理解。浜の一揆、訴訟の進行は順調である。
(2016年5月20日)

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