アベ9条改憲案の危険性
先日の日民協総会での意見交換の場で、仙台から出席の研究者から「今、5月3日以来安倍首相が提案している9条改憲案を『加憲的改憲案』と呼称することには違和感を覚える」という発言があった。「加憲」とは、厳密に新たに書き加えられた条文が既存の憲法条項の解釈に影響を及ぼすことがない場合にのみ使うべきで、条文の書き加えが既存の条文の意味を変えるおそれがある場合に安易に「加憲」と言ってはならない、というご趣旨。なるほど、そのとおりだ。
9条3項(あるいは9条の2)に、既にある自衛隊を明記するだけ。この条文を書き加えるだけだから「加憲」。この「論理」を是認してしまうと、まさにアベの思惑に乗せられてしまうことになる。憲法に自衛隊を明記することは、これまでの憲法の条文の意味を変えてしまうことになるのに、その注意をそらしてしまうからだ。
5月3日のアベ提案は、「9条1項(戦争放棄)と2項(戦力不保持)を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」というもの。しかし、そもそも9条1項(戦争放棄)と2項(戦力不保持)をそのままにして、憲法に自衛隊を明文で書き込むことなどできることだろうか。とりわけ、戦力不保持と自衛隊の存在とは両立し得ない二律背反ではないのか。それでも強引に自衛隊の存在を明文化した場合には、いったい何が起きるのだろうか。なによりも、「自衛隊を明文で書き込む」とはどんな条文となるかが肝腎だ。
6月22日の各紙が伝えている。
安倍晋三首相が提起した「自衛隊」を明記する憲法改正を巡り、自民党が検討する条文のたたき台が、21日判明した。新設する「9条の2」で、自衛隊を「我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織」と定義したうえで、「前条(9条)の規定は自衛隊を設けることを妨げるものと解釈してはならない」としている。執行部はこの案を軸に協議を進める考えだが、2項(戦力不保持)や2012年の党改憲草案との整合性を問う声もあり、9月にも策定する改憲案の集約が難航する可能性もある。(毎日)
共同配信記事は、次のように伝えている。
「自民党の憲法改正推進本部が、憲法9条に自衛隊の存在を明記する安倍晋三首相(党総裁)提案を踏まえ、今後の議論のたたき台とする条文案が21日、判明した。現行9条と別立ての「9条の2」を新設し、自衛隊について『わが国を防衛するための必要最小限度の実力組織』と規定。戦力不保持などを定めた現行9条2項を受ける形で『自衛隊を設けることを妨げるものと解釈してはならない』と明示した。首相が自衛隊の指揮監督権を持つことも盛り込んだ。党関係者が明らかにした。」
「推進本部は21日、全所属議員を対象とした全体会合を開き、9条への自衛隊明記案を巡って本格的な議論をスタート。賛成論が出る一方、9条2項との整合性の面などで異論もあった。条文案は示されていない。自民党は年内の改憲案策定を目指しており、早ければ秋にも具体的な条文案を巡って公明党との調整に着手したい意向だ。」
憲法9条2項が「戦力」の保持を禁止しているのだから、自衛隊は「戦力」であってはならない。ということは、自衛隊を「戦力」ではないことにすれば、違憲の存在ではなくなる。そこで、歴代政権は戦力を「固有の自衛権行使のために必要な最小限度を超える実力」と定義し、自衛隊は「固有の自衛権行使のために必要な最小限度内の実力組織」であるから戦力ではなく、したがって合憲としてきた。
しかし、アベ政権になって事情は変わった。長く、集団的自衛権の行使は憲法上できないとしてきた解釈を変えたのだ。自衛隊は基本性格を変え、もはや専守防衛の自衛隊ではない。同盟国の要請に応じて、海外での武力行使も可能な実力組織としての側面を持つものとなっている。その自衛隊を憲法上の存在として、「前条(9条)の規定は自衛隊を設けることを妨げるものと解釈してはならない」とすれば、明らかに9条1項、2項の意味が変わってくる。
戦争法反対運動が盛りあがったのは、「自衛隊違憲論者」だけでなく、「自衛隊の合憲性は認めるが専守防衛に徹すべきだ」とする論者も一緒に、集団的自衛権行使に反対したからだ。
自民党の「たたき台」案は、明らかに専守防衛路線否定を明文化するものにほかならない。戦争法の違憲を明文で合憲化することでもある。ということは、自衛隊違憲論者も、専守防衛なら合憲の論者も、共同してアベ9条改憲に反対しなければならない。反対運動は、自ずから大きなものとならざるを得ない。
(2017年7月12日)