澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

DHCスラップに反撃の反訴状提出 ― 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第109弾

昨日(11月10日)、DHCスラップ第2次訴訟弁護団は、東京地裁民事第1部に損害賠償請求の反訴状を提出した。平成29年(ワ)第30018号債務不存在確認請求事件(原告DHC及び吉田嘉明・被告澤藤)を本訴とする反訴であるが、これでようやく攻守ところを変えて、私(澤藤)が反訴原告、DHCと吉田嘉明の両名が反訴被告となった。反スラップ訴訟の水準を示す内容の訴状となっている。

この反訴を、とりあえず「DHCスラップ反撃(リベンジ)訴訟」とネーミングしておこう。この反撃の経過をしっかりと公開して、あらゆるスラップ訴訟被害者の参考に供したい。この反訴状は本文20頁、訴状としては簡潔なものとしたが、全文掲載にはやや長文なので、抜粋して紹介する。

請求原因に記載の一連の経過は、DHC・吉田嘉明の前件スラップ提訴が言論の萎縮を狙ったものであることをあらためて浮き彫りにしている。この典型的なDHCスラップに対する反撃訴訟での勝訴は、スラップの抑止に大きな役割を果たすことになる。弁護団の意気込みと力量も十分で、私にも勇気と闘志が湧いてくる。
(2017年11月11日)
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第1 請求の趣旨
1 反訴被告ら(DHCと吉田嘉明)は,反訴原告(澤藤)に対し,連帯して660万円及びこれに対する2014年8月29日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え
2 訴訟費用は反訴被告らの負担とする
3 仮執行の宣言

第2 請求の原因
1 当事者
(1) 反訴原告
反訴原告は,東京弁護士会に所属する弁護士である。1971年に弁護士登録し,これまで日本民主法律家協会事務局長,日弁連消費者問題対策委員長,東京弁護士会消費者委員長などを務めてきた。
2013年3月からインターネット上に「澤藤統一郎の憲法日記」と題するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)を開設し,現在に至るまで1日も欠かすことなく,市民の基本的人権にかかわる様々な社会問題についての意見をブログに掲載している。
(2) 反訴被告ら
反訴被告株式会社ディーエイチシー(以下「反訴被告DHC」という。)は,化粧品の製造販売等を目的とする,資本金33億7729万円の会社であり、反訴被告吉田嘉明(以下「反訴被告吉田」という。)は,反訴被告DHCの代表取締役会長である。

2 反訴被告らによる前訴提起と請求の拡張
(1) 反訴被告吉田の告白事実に対する反訴原告のブログによる批判
反訴原告は、2014年3月27日発売の雑誌「週刊新潮」に掲載された反訴被告吉田の手記(反訴被告吉田が、「みんなの党」の党首であった渡辺喜美衆議院議員(当時。以下「渡辺議員」という。)に密かに8億円余りを貸し付けていたこと等を暴露し、同議員の不明瞭な貸付金使途や変節等を批判するもの。以下「本件手記」という。乙1)や、これに反論した同議員の「ヨッシー日記」と題するウェブサイト上に掲載された同年3月31日付のブログ(乙2)、さらには、同議員の「みんなの党」の党首辞任を取り上げた同年4月8日付の全国紙6社の社説について、本件ウェブサイトに以下の3本のブログ記事を掲載した(乙3の1~3)。
① 2014年3月31日付けの「『DHC・渡辺喜美』事件の本質的批判」と題するもので、反訴被告吉田が渡辺議員に密かに8億円ものカネを貸し付けた行為は、政治を金で買おうとしたものであり、渡辺議員とともに反訴被告吉田の行為も徹底的に批判すべきであるとし、政治資金・選挙資金を透明化する必要性を訴えたもの(乙3の1。以下「本件ブログ1」という。)。
② 同年4月2日付の「『DHC8億円事件』大旦那と幇間 蜜月と破綻」と題するもので、渡辺議員が「ヨッシー日記」に記載した反訴被告吉田からの金銭受領に関する種々の弁明を批判するとともに、政治家とこれを金で操る資本家(スポンサー)との関係を批判したもの(乙3の2。以下「本件ブログ2」という。)。
③ 同月8日付の「政治資金の動きはガラス張りでなければならない」と題するもので、渡辺議員が党代表を辞任したことに関する全国紙の各社説が、政治家とそのスポンサーの密かな金のやり取りの問題や、政治資金規正法の不備について論じないことを批判したもの(乙3の3。以下「本件ブログ3」という。)。

(2) 反訴被告らによる訴訟の提起
2014年4月16日、反訴被告らは、別紙訴状を東京地方裁判所に提出して反訴原告に対する訴訟を提起し(乙4)、反訴原告の本件ブログ1ないし3における記述が反訴被告らの名誉を毀損するとして、反訴原告に対し、反訴被告各自に対する1000万円(計2000万円)の支払いと、名誉毀損部分の記述削除、謝罪広告等を求めた(同裁判所平成26年(ワ)第9408号。以下「前件訴訟」という。)。

(3) 前件訴訟に対する反訴原告による批判
反訴原告は、前件訴訟は、反訴被告吉田に対する批判的な言論を封じることを目的とする、いわゆる「スラップ訴訟」であるとして、以下の3本のブログを本件ウェブサイトに掲載した(乙5の1~3)。
① 2014年7月13日付の「いけません 口封じ目的の濫訴ー『DHCスラップ訴訟』を許さない・第1弾」と題するもので、前件訴訟の提訴対象となったブログ1~3の内容を紹介し、民主主義社会における言論の自由、批判の自由の重要性を述べた上で、反訴被告らによる前件訴訟の提起が反訴原告の言論を封殺しようとしたものであると批判したもの(乙5の1。以下「本件ブログ4」という。)。
② 同月14日付の「万国のブロガー団結せよ-『DHCスラップ訴訟』を許さない・第2弾」と題するもので、市民ブログによる情報発信の今日的意義や重要性を説き、経済的強者が市民の意見表明の委縮させる意図をもって行うスラップ訴訟への反対表明を呼びかけたもの(乙5の2。以下「本件ブログ5」という。)。
③ 同月15日付の「「言っちゃった 金で政治を買ってると」-『DHCスラップ訴訟』を許さない・第3弾」と題するもので、毎日新聞の読者川柳欄に投稿・掲載された「言っちゃった 金で政治を買ってると」という句(乙5の4)や丸山眞男の著述を引用しながら、前件訴訟の本質と、市民の政治的権力が一部の経済的権力によって蹂躙されないための批判の自由の重要性、その批判を封じようとするスラップ訴訟への批判の重要性を述べたもの(乙5の3。以下「本件ブログ6という」。)。

(4) 反訴被告らによるブログによる批判活動中止の要求と請求額の増額
ア 反訴原告の本件ブログ4ないし6について、反訴被告らは、前件訴訟の2014年7月16日付第1準備書面(乙6)において、反訴原告は反訴被告らへの名誉毀損を繰り返し、前件訴訟が不当提訴である旨を一般読者に訴えかけ、反訴被告らの損害を拡大させているとして、反論は裁判で述べれば足りると主張し、本件ブログによる批判の中止を求めた。
イ これに対して反訴原告は、反訴被告らの要求は言論(批判)の自由を封殺するものであるとの意見を前件訴訟において述べるとともに、本件ブログにおける反訴被告らへの批判を継続した。
同年8月8日には「『政治とカネ』その監視と批判は主権者の任務だ-『DHCスラップ訴訟』を許さない・第15弾」と題するブログ記事を掲載して、改めて政治資金規正法の立法趣旨を説き、反訴原告吉田から渡辺議員に密かに交付された8億円は政治資金でありながら届出がなされない点において「裏金」であり、その授受を規制できないとする解釈は政治資金規正法をザル法に貶めることにほかならないと批判し、さらに、この批判は主権者として期待される働きであり反訴被告らが前件訴訟を提起したのは間違っている、と論じた(乙7。以下「本件ブログ7」という。)。
ウ そうしたところ、反訴被告らは、同年8月29日、別紙訴えの追加的変更申立書を裁判所に提出し、本件ブログ4及び7における記述が反訴被告らの名誉を毀損するなどとして請求の原因を追加するとともに、反訴原告に対する従前の請求額を三倍増し、請求金額を反訴原告各自につき3000万円(計6000万円)に拡張した(乙8の1。以下「本件請求拡張」という。)。
なお、本件請求拡張後の請求の原因については、同日付の「原告第2準備書面」(乙8の2)が全面的に引用されている。

3 前件訴訟の経過と顛末
(1) 反訴被告らの敗訴確定
2015年9月2日、東京地方裁判所は、反訴原告の訴え却下の申し立ては斥けた上で、反訴被告らの請求を全面的に棄却する判決(甲1。以下「本件一審判決」という。)を下した。
反訴被告らは、本件一審判決を不服として、2015年9月15日、東京高等裁判所に控訴を申し立てた。
2016年1月28日、東京高等裁判所は、反訴被告らの控訴を棄却する判決(甲2。以下「本件控訴審判決」という。)を下した。
2016年2月12日、反訴被告らは、本件控訴審判決を不服として最高裁判所に上告受理申立書を提出した。
最高裁判所は、同年10月4日付で上告不受理決定(甲3)をなした。これにより、前件訴訟における反訴被告らの敗訴が確定した。

(2) 関連訴訟等
ア 反訴被告らは、前件訴訟の提起と同時期に、反訴被告吉田の告白記事を契機としてなされた反訴被告らの言動を批判するブログもしくは雑誌記事に対し、反訴原告が知り得たものだけでも9件の名誉毀損訴訟を提起している。これら訴訟は、概ね反訴被告らが敗訴している。
イ また、反訴被告らは、前件訴訟の控訴審判決が出るや、2016年2月12日、反訴被告DHCのウェブサイト上に、反訴被告吉田が執筆した「会長メッセージ」と題する文章を掲載した。
上記文章において、反訴被告吉田は、政界、官僚、マスコミ、法曹界には在日が多く、裁判官も在日、被告側も在日のときには提訴したこちら側が100%の敗訴になる、と主張した(乙9の1)。
ウ さらに、同月21日には、反訴被告らは、反訴被告DHCのウェブサイト上に、反訴被告吉田が執筆した「スラップ訴訟云々に関して」と題する文章を掲載した。
上記文章において、反訴被告吉田は、反訴原告を「虚名の三百代言ごとき」「反日の徒」などの侮辱的表現を用いて罵倒したうえ、「どこの国の人かわからないような似非日本人が跳梁跋扈している世の中には私は断固反対します」と述べていた(乙9の2)。

4 前件訴訟提起と本件請求拡張の違法性
(1) 最高裁判所の判例
最高裁1988(昭和63)年1月26日判決(民集42巻1号1頁)は、訴訟提起が違法となる場合について、以下のとおり判示している。
「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。」

(2) 前件訴訟等の違法性
前件訴訟において反訴被告らが主張した権利が事実的、法律的根拠を欠くものであったことは、すでに反訴被告らの請求を棄却する判決が確定したことによって明らかであるが、反訴被告らの前件訴訟の提起及び本件請求拡張(以下、両者を合わせて「前件訴訟等」という。)は、わが国の判例法理を無視した正当な論評に対する不合理(敗訴必然)な訴訟行為であり、通常人であれば、反訴被告らの主張する権利等が事実的、法律的根拠を欠くものであることを、容易に知り得たものである。
また、仮にそうでないとしても、反訴被告らの前件訴訟等は、勝訴判決により権利を回復することを主たる意図としたものではなく、反訴被告らに対する批判者を被告の席に座らせること、また、その可能性を示すことによる批判言論の封殺を意図してなされたものであり、上記最高裁判決が言うところの「裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」違法な行為に当たるものである。とりわけ、本件請求拡張による請求額の増額は、この点が顕著である。
以下、詳述する。

(3) 反訴被告らの主張する権利等が根拠を欠くことを容易に知り得たこと
ア 本件ブログ1ないし3を対象とする請求について
(ア)本件ブログ1ないし3が論評であること
本件ブログ1は、反訴被告吉田が本件手記により週刊誌に自ら告白した事実をもとに、反訴被告吉田の行為は政治を金で買おうとしたものであり、渡辺議員とともに反訴被告吉田の行為も徹底的に批判されなければならない、との意見を表明したものである(乙3の1)。
また、本件ブログ2及び3は、本件手記の内容と関連のある渡辺議員の「ヨッシー日記」や全国紙の社説の論評について反訴原告の意見を表明するとともに、これに付随して、本件ブログ1で述べた反訴被告吉田の告白事実に対する批判を再述したものに過ぎない(乙3の2~3)。
本件ブログ1ないし3が、いずれも、主に反訴被告吉田が本件手記により自ら週刊誌に告白した事実を前提とする、反訴原告の意見を表明した論評であり、反訴被告吉田の告白事実とは無関係な事実の一方的な摘示や、告白された事実とは無関係な事実を前提になされた批判でないことは、本件ブログの一般的な読者において容易に認識しうるものであった。
(イ)公正な論評の法理が確立した判例となっていること
意見表明による名誉毀損の場合には、その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、その前提としている事実が主要な点において真実であるときには、論評の範囲を逸脱したものでない限り、違法性はなく、むしろ健全な民主主義の発展にとっては必要不可欠な行為だとするのが「公正な論評の法理」であり、わが国における確立した判例(最高裁1989(平成元)年12月21日判決(民集43巻12号2252頁など)となっているところである。
(ウ)権利等が根拠を欠くことを容易に知り得たこと
本件ブログ1ないし3において反訴原告が行った論評は、政治家と規制の厳しい健康食品を製造・販売する大企業の代表者との不明朗で多額な金銭貸付の違法性、政治資金規正法を厳格化する必要性の有無など、いわゆる「政治とカネ」の問題に関係する、民主主義の根幹に関わる極めて公共性の高いテーマに関する主張であった。これが公益目的の論評であることは、その内容からしても、また、本件ウェブサイトがこれまでに取り上げてきたテーマとその真っ当な論述内容からしても、疑う余地のないところである。
そして、反訴原告が論評の前提とした事実は、反訴被告吉田が本件手記により自ら週刊誌に告白した事実や、公刊されている新聞紙上に掲載された記事、反訴被告DHCにおいて過去に存在した事実、又は公知の事実であったから、論評の前提事実の真実性については、前件訴訟等においてそもそも検討する必要のないものであった。
このように、本件ブログ1ないし3は、公益目的であること、前提事実に真実性があることがいずれも明らかであったから、公正な論評の法理により違法性が否定されることも明らかであった。
したがって、反訴被告らの、前件訴訟等における、本件ブログ1ないし3が反訴被告らの名誉を毀損する旨の主張は、事実的、法律的根拠を欠くものであることを、通常人であれば容易に知ることができた。
(エ)反訴被告らがあえて前件訴訟を提起したこと
反訴被告らは、本件ブログ1ないし3が反訴被告吉田の告白事実を邪推して誤った事実を摘示するものだと主張し、その表現の一部を捉えて反訴被告らの名誉を侵害しているとし、さらに加えて、各論評は公共の事実に関するものではなく、公益目的でもないとまで強弁して、前件訴訟を提起した。
反訴被告らは、その主張する権利等が根拠を欠くものであることを通常人であれば容易に知り得たにもかかわらず、あえて前件訴訟等を行ったものである。

イ 本件ブログ4及び7を対象とする請求について
(ア)本件ブログ4及び7が論評であること
本件ブログ4は、反訴被告らが前件訴訟を提起したことを前提事実として、民主主義社会における言論の自由、批判の自由の重要性を述べるとともに、前件訴訟の提起は反訴原告の言論を封殺しようとするものだと批判する意見を表明したものである(乙5の1)。
本件ブログ7は、政治資金規正法の立法趣旨から、反訴原告吉田から渡辺議員に8億円もの貸付を行った行為が規正できないのでは政治資金規正法をザル法に貶めることになると批判し、さらに、そのような批判の声を挙げることは主権者として期待される働きであり、これに対して反訴被告らが前件訴訟を提起したことはスラップであり間違っている、との意見を表明したものである(乙7)。
本件ブログ4及び7が、いずれも反訴被告らが前件訴訟を提起した事実や反訴被告吉田の告白事実を前提とする、反訴原告の意見を表明した論評であることは、本件ブログの一般的な読者において容易に認識しうるものであった。
(イ)権利等が根拠を欠くことを容易に知り得たこと
本件ブログ4及び7において反訴原告が行った論評は、本件ブログ1ないし3でも論じた政治とカネの問題に加え、そのような問題について批判し声を上げることが重要であることや、経済的強者が批判を封じる目的で提起するスラップ訴訟が許されるべきでないという、表現の自由と裁判制度のあり方の問題に関するものであり、いずれも公共性の極めて高いテーマに関する主張であって、その内容に照らし、公益を目的とする論評であることは明らかであった。
また、反訴原告が論評の前提とした事実は、反訴被告吉田が本件手記により自ら週刊誌に告白した事実に加え、反訴被告らが前件訴訟を提起した事実であり、真実性に疑いの余地はなかった。
このように、本件ブログ4及び7は、公益目的であること、前提事実に真実性があることがいずれも明らかであったから、公正な論評の法理により違法性が否定されることも明らかであった。
したがって、反訴被告らの、前件訴訟等における、本件ブログ4及び7が反訴被告らの名誉を毀損する旨の主張は、事実的、法律的根拠を欠くものであることを、通常人であれば容易に知ることができた。
(ウ)反訴被告らがあえて本件請求拡張を行ったこと
反訴被告らは、前件訴訟はスラップ訴訟であり訴権を濫用するものだとした反訴原告の本件ブログ4ないし6による論評に対して、反訴被告らの名誉侵害を拡大するもので許されないとしてその中止を求め、反訴原告がこれに異議を述べて批判を継続するや、本件ブログ4及び7に反訴被告らの名誉を棄損する部分があるとして、従前の請求額を三倍増する本件請求拡張を行った。
反訴被告らは、その主張する権利等が根拠を欠くものであることを通常人であれば容易に知り得たにもかかわらず、あえて本件請求拡張を行ったものである。

ウ 小括
以上のとおり、反訴被告らの前件訴訟等は、権利等が根拠を欠くものであることを通常人であれば容易に知り得たにもかかわらず、あえてなされたものであるから、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く違法なものというべきである。

(4) 前件訴訟等の主たる目的が批判的言論の封殺にあったこと
ア 十分な検討を行った形跡がないこと
反訴被告らの請求に事実的、法律的根拠があるか否かについて、反訴被告らが十分な検討を行った形跡はない。
反訴原告が本件ブログ1ないし3を掲載したのは、それぞれ、2014年3月31日、同年4月2日、同月8日のことであった。これに対して、反訴被告らが前件訴訟を提起したのは同月16日、本件ブログ3の掲載からわずか8日後であった。
また、反訴原告が本件ブログ4及び7を掲載したのはそれぞれ同年7月13日、同年8月8日であったが、反訴被告らが本件請求拡張を行ったのは同月29日であり、本件ブログ7の掲載から21日後であった。
このように、反訴原告が本件各ブログを掲載してから反訴被告らが前件訴訟等を行うまでの期間は極めて短かった。
また、この種の事案においては、訴訟提起前に本件各ブログの削除を求める通知を送付するなどして事前交渉を行うことが通常となっているが、反訴被告らは、事前交渉を経ることなく、突然前件訴訟を提起している。
反訴被告らが十分な検討を行った形跡がないことは、前件訴訟等が反訴被告らの権利救済を目的とするものではなく、反訴原告を提訴による精神的、経済的負担によって威嚇し、反訴原告の批判的言論を封殺する目的のものであったことを裏付けるものである。

イ 本件請求拡張を行ったこと
反訴被告らは、前件訴訟の提起後、前件訴訟はスラップ訴訟であって裁判の濫用であるとした反訴原告の論評(本件ブログ4ないし6)に対して、反訴被告らの名誉侵害を拡大するもので許されないとしてその中止を求め、反訴原告がこれに異議を述べて批判を継続するや、本件ブログ4及び7が原告の名誉を毀損するなどとして、従前の請求額を三倍増する本件請求拡張を行った。
しかし、本件ブログ4及び7における吉田の告白事実に対する批判部分は、本件ブログ1ないし3の再述(要約)にすぎず(反訴原告はブログ中にこのことを明記している)、論旨の中核はスラップ訴訟批判である。
しかるところ、前件訴訟がスラップ訴訟に当たるという指摘は、論評以外の何物でもない。この論評の前提事実に真実性が備わり、論評の公共性、公益目的性の各要件を充足していることも論を待たない。
結局、反訴被告らは、反訴原告のスラップ訴訟に関する論評を封じる目的だけの理由から、その請求額を、名誉毀損の裁判では到底容認される見込みのない6000万円にまで増額し、反訴原告を威圧しようとしたのである。

ウ 反訴被告らが前件訴訟等を含め合計10件の訴訟を提起していたこと
反訴被告らは、本件名誉毀損訴訟を提起した際、これとほぼ同時に、反訴被告らに対する批判的言論を行った者に対する9件の名誉毀損訴訟を提起していた。
この事実は、反訴被告らが、反訴被告らに対する批判的な言論を許容しないという姿勢をとり、批判的言論の具体的内容いかんにかかわらず名誉毀損訴訟を提起する方針をとっていたことを示している。

エ 本訴における反訴被告らの主張
反訴被告らの前件訴訟等の目的が反訴原告の言論封殺にあったことは、本訴の訴状における文言の端々にも現われている。
例えば、反訴被告らは、本訴訴状の請求の原因第5項において、反訴原告の本件ブログについて「このような事実無根の誹謗中傷をネットに書き散らす行為が許容される事態は社会的に問題である」と主張しているが、この主張は、正当な論評とそれによる社会的評価の低下に関する判例法理に対して反訴被告らが未だに無理解であることを露呈させており、今後も反訴被告らを批判する正当な論評に対して反訴被告らが名誉棄損訴訟を提起するおそれのあることが懸念される。
さらに、請求の原因第7項には、反訴原告が「自身のブログにおいて、性懲りもなく、未だに原告らの提訴がスラップ訴訟である旨主張し続けており」との記載がある。前件訴訟等がスラップ訴訟であるか否かに関する本件ブログの記載が適法な論評であったことは、すでに判決において正当に認定されたところであるが、「性懲りもなく」との表現は、あたかも反訴原告の方が違法な行為をしているかのように示唆するものである。
これら請求の原因の記載は、反訴被告らが、反訴被告らに対する論評が適法なものであるか否かに関わらず許容する意志がなく、「事実無根の誹謗中傷」として提訴対象とする姿勢を有していることを示している。
なお、反訴原告は、健全な司法制度の維持、発展のためには、弁護士として、引き続きそのことを主張し続ける必要があると考えている。その内容の妥当性は、賢明な読者が判断するものである。

オ 小括
以上に述べた事実に加え、反訴被告らが前件訴訟等において本件ブログの公共性や公益目的性に関して行った不合理な強弁などに照らせば、反訴被告らは、批判的な言論を行った反訴原告を訴訟の被告とすることによって精神的、経済的その他の負担をかけることによる威圧効果を狙って前件訴訟等を提起したものと考えられる。
すなわち、前件提訴等は反訴原告の言論を封殺することを主たる目的としてなされたものであり、反訴被告らの権利救済を意図したものではなかった。
このような裁判の利用は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものであり、前掲の1988(昭和63)年最高裁判決が違法と判示するところである。
なお、反訴被告らは、本訴の訴状において、前件訴訟が不適法却下されなかったことをもって前件訴訟等の違法性を否定する主張をしているが、訴訟の却下要件と違法提訴の判断基準は異なるものである。
そもそも、裁判所が反訴原告のスラップ訴訟の主張を容れず実体判断に至った理由には、わが国でのスラップ訴訟に関する裁判例が乏しいことも一因としてあったと考えられるが、何よりも、(スラップ訴訟を規制する立法により訴訟却下の要件が法律により定められている諸外国の場合とは異なり)原告の請求がスラップ訴訟に該当するかどうかを判断するためには結局のところ本案の実体判断に入らざるを得ないというわが国の訴訟法の構造上の問題がある。
本件一審判決における実体判断の説示内容は、反訴被告らが名誉毀損に当たると主張した記述は反訴被告らに関係のない記述か、又は、反訴被告吉田の告白事実に関する意見であった、ということで一環しており、本件が、勝訴の見込みのないスラップ訴訟であったことを十分に窺わせるものとなっている。本件高裁判決の説示は、この点がなお一層顕著である。

(5) 本件提訴等は条理(「裁判を受ける権利」に優越する「言論の自由」)に違反する行為であったこと
仮に、反訴被告らに反訴原告の言論を封殺しようという目的があったとまでは認められないとしても、以下に述べるとおり、前件訴訟等は、「高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評については、前提事実に明らかな誤りがある場合でなければ名誉毀損訴訟を提起することは許されない」というという条理に違反してなされた違法な行為(「裁判を受ける権利」に優越する「言論の自由」の侵害)であった。

ア 条理の存在
(ア)高度に公共的な事項や公人に対する批判的な意見ないし論評の重要性
憲法21条1項は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定めている。
表現の自由を支える社会的価値として、①個人が言論活動を通じて自己の人格を発展させるという個人的な価値(自己実現の価値)と、②言論活動によって国民が政治的意志決定に関与するという民主政に資する社会的な価値(自己統治の価値)があり、これによって表現の自由は、他の諸権利よりも優越的な地位にあるものと位置付けられている。
さらに、表現の自由の意義として、各人が自己の意見を自由に表明し競争することによって真理に到達することができる、という「思想の自由市場論」が提唱されており、ここからも表現の自由の優越的地位を導くことができる。
高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評は、権力者や社会的強者に対して主権者たる市民が世論を喚起して対抗するための重要な手段であり、表現活動の中でも特に「自己統治の価値」の側面を強く有するものである(本件ブログ6で引用されている丸山眞男の著述参照)。
したがって、高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評は、表現行為の中においても特に重要なものとして手厚い保障を与えるべきとされる。
(イ)名誉毀損訴訟が表現活動を抑圧し萎縮させる効果を持つこと
公共的な言論に対して名誉毀損訴訟が提起されると、表現活動を行った者は否応なく被告の立場に置かれ、応訴を強いられることになる。訴訟を提起されることは、弁護士であるか否かを問わず、万人にとって極めて不快なことであり、応訴のために費やさなければならない金銭、時間、労力は決して小さなものではない。
さらに、提訴された当事者に限らず、社会一般の表現活動に萎縮効果をもたらすことも重大である。被提訴者がいわば見せしめとなり、同様の見解を持っていたマスコミや市民は「同じ目には遭いたくない」と思いから萎縮し、公共的な言論を控えることで世論は不活性化し、市民は共同体意識を失って民主主義は衰退するのである。
(ウ)小括
健全な民主主義を維持、発展させるためには、高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評は表現行為の中においても特別に保護される必要があるが、他方、裁判制度にアクセスし易い公人や経済的強者は、自己の批判を名誉毀損訴訟で封ずる誘惑に駆られることが多い。しかし、このような訴訟の提起を常に容認することは、表現者に過酷な応訴負担、マスコミを始めとした社会一般に言論萎縮の効果をもたらす結果となり、個人の自己統治、自己統治された個人の参加による民主主義の実現を失わせることとなる。
ここから、「高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評については、前提事実に明らかな誤りがある場合でなければ名誉毀損訴訟を提起することは許されない」との条理が導かれるものである。

イ 前件訴訟等の対象がいずれも高度に公共的な事項や公人に対する批判的な意見ないし論評であったこと
本件ブログ1ないし3は、反訴被告吉田が週刊誌に公表した手記(国会議員に対する8億円という巨額資金の密かな貸付)を題材に、政治の過程における政治と金銭、いわゆる「政治とカネ」の問題について反訴原告の批判的な意見ないし論評を記載したものである。
「政治とカネ」の問題は、民主政の根幹に関わる重大なテーマであり、高度に公共的な事項といえる。
また、反訴被告DHCは、健康食品業界におけるトップ企業の一つとして社会に広く知られ、反訴被告吉田はそのオーナーかつ代表者で、政治家に対して8億円もの貸付けを行ったことを週刊誌に公表した者なのであるから、いずれも公人ないし公人に準ずる者であり、政治をその資金力で左右する可能性を持つ経済的強者である。
本件ブログ4及び7は、反訴被告らの本件提訴等について、これが言論封殺の効果を有するいわゆる「スラップ訴訟」に当たるとの観点から、批判的な意見ないし論評を記載したものである。
スラップ訴訟は、裁判制度のあり方や、表現の自由と裁判制度の関わり方に関するものであり、高度に公共的な事項に当たる。

ウ 前件訴訟等が条理に違反すること
以上のとおり、反訴原告の本件各ブログは、いずれも高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評であったところ、前件訴訟等は、この批判的な意見ないし論評に対して提起された名誉毀損訴訟である。
反訴原告の本件各ブログの前提事実は、反訴被告吉田が本件手記により自ら告白した事実や、前件訴訟が提起された事実などであり、いずれも真実性は明らかであった。
したがって、本件提訴等は、「高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評については、前提事実に明らかな誤りがある場合でなければ名誉毀損訴訟を提起することは許されない」という条理に違反してなされたものであり、違法な行為であった。

5 反訴原告の損害
(1) 前件訴訟等に応訴するための弁護士費用:500万円
反訴被告らが前件訴訟を提起し、さらに本件請求拡張を行ったことにより、反訴原告は、弁護士を代理人として反訴被告らの請求を争わなければならなかった。本件名誉毀損訴訟では、計110名の弁護士が反訴原告の代理人に就任しているが、これら代理人に対する弁護士費用の支払いは、前件訴訟等の提起がなければ発生することのなかった費用である。
(旧)日弁連報酬等基準規程によれば、経済的利益の額が6000万円の場合における弁護士費用の標準額は、着手金249万円、報酬金498万円とされている(いずれも税別)。上記規定は2004年4月1日に廃止されたが、適正な弁護士費用を算定するための基準として、現在も広く用いられている。
本件名誉毀損訴訟では、反訴被告らの請求額6000万円が経済的利益の額となるから、記述の削除や謝罪広告等の請求を考慮しない場合でも、標準的な弁護士費用は着手金249万円、請求を排斥したことによる報酬金498万円(いずれも税別)である。
したがって、本件名誉毀損訴訟に応訴するための弁護士費用として反訴被告らの不法行為と相当因果関係のある損害は、少なくとも500万円を下るものではない。

(2) 精神的損害:500万円
反訴被告らが不当な前件訴訟等を行ったことにより、反訴原告は、応訴による肉体的、時間的、精神的負担を余儀なくされた。しかも、請求額が6000万円という高額なものだったことから、反訴原告の精神的負担は極めて大きなものとなった。
この反訴原告の精神的損害に対する慰謝料の額は500万円を下らない。

(3) 本訴訟提起のための弁護士費用:100万円
反訴被告らの不法行為に対する損害賠償請求のため、反訴原告は本件反訴を提起せざるを得なかった。反訴被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は100万円を下らない。

9 結語
よって、反訴原告は、不法行為に基づき、反訴被告らに対して、上記損害の一部請求として、連帯して660万円及びこれに対する反訴被告らが本件名誉毀損訴訟における請求を拡張した日である2014年8月29日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払いをもとめる。
以上

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Published in 土曜日, 11月 11th, 2017, at 22:59, and filed under 表現の自由, DHCスラップ訴訟.

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