官房機密費訴訟上告審ー最高裁はブラックボックスに光を当てうるか。
国の財政は国民が納めた税金によって成り立っている。国の機関が国民に税金の使途について報告の義務があり、納税者たる国民はすべての税金の使途について知る権利がある。国民が主権者である以上、あまりに当然のことだ。
ところが、これに例外がある。正確に言えば、例外としてまかり通っている「穴」がある。官房機密費(「内閣官房報償費」とも)がその典型。例年14億6000万円が予算計上され、内閣情報調査室の活動に充てる2億円ほど(これも具体的な使途は明らかにされない)を差し引いた残りの12億円余りが、官房長官の一存で使えるカネとされる。
「使途は自由、領収書は不要、会計検査院もノーチェック」だと言われている。国民への報告義務のないカネ。私的な着服があっても、流用があっても、国民の目からは覆い隠されて窺い知ることができない。検証のしようがない、まさしくブラックボックスの世界。
そんなカネだから、昔から疑心暗鬼の対象となってきた。悪いうわさが絶えない。野党工作費として使われた、首相経験者に中元・歳暮として現ナマが渡されている、世論操作のため御用評論家にばらまかれている、外遊する議員への餞別、飲み食いに使われている…。
ときに、官房長官経験者から、「これでよいのか」と問題提起がなされる。小渕恵三内閣の野中広務、民主党野田佳彦政権の藤村修など。
野中広務がメディアに漏らしたところでは、「官邸の金庫から毎月、首相に1000万円、衆院国対委員長と参院幹事長にそれぞれ500万円、首相経験者には盆暮れに100万円ずつ渡していた」という。「前の官房長官から引き継いだノートに、政治評論家も含め、ここにはこれだけ持って行けと書いてあった。持って行って断られたのは、1人だけ」「国民の税金だから、官房機密費を無くしてもらいたい」などとも。
2009年総選挙で自民党が大敗し、政権交代が決まった直後に、麻生内閣の河村建夫官房長官が2億5000万円の官房機密費を引き出したことが話題となり、告発までされた。もう政権がなくなる時点で、いったい何に使おうと言うことだったのだろうか。謎のままである。
このブラックボックスに光を当てようという試みが、市民団体「政治資金オンブズマン」のメンバーによる大阪地裁への情報公開請求訴訟。10年がかりの、1次?3次までの3件の訴訟で、官房機密費支出に関連する各文書の開示を求めて、いま最後の最高裁判決を迎えようとしている。
問題になっているのは、官房長官を安倍晋三が務めた2005?06年の約11億円と、河村建夫の09年の約2億5千万円、そして菅義偉による13年の約13億6000万円の、各官房機密費支出に関連する3種類の文書開示の是非。
開示請求は、5種類の文書に対して行われたが、「支払決定書」「領収書」の2種類については、3件の大阪高裁判決のすべてで原告側の敗訴となり、これは既に最高裁でも確定している。残る「政策推進費受払簿」「出納管理簿」「報償費支払明細書」の3種類の文書では、高裁の判断が割れた。
1次・2次各訴訟での大阪高裁判決は原告側勝訴となって、その開示が命じられた。一部にせよ、官房機密費の使途を明かすよう求めた訴訟での高裁認容判断は初めてだという。しかし、3次訴訟では原告側敗訴となって、原告側と被告・国側の双方が上告した。
昨年暮れの12月22日に、最高裁で弁論が行われ、上告審判決が1月19日第2小法廷(山本庸幸裁判長)で言い渡される。さて、「ブラックボックス」に一筋の光が差し込むことになるだろうか。
政権を信頼する立場からは、行政を円滑に進めるための「ブラックボックス」は必要だから情報開示の必要はない、となろう。しかし、健全な民主主義とは政権に対する国民の猜疑によって支えられるとする立場からは、財政使途のブラックボックスなどあってはならない、ということになる。
果たして、最高裁は、健全な民主主義擁護の立場に立つことができるだろうか。
(2018年1月11日)