自民党を代表いたしまして、2016年参院選(第24回)公約のエッセンスをかいつまんで解説申し上げます。
申し遅れましたが、わたくしアベ・シンゾーと申します。恥ずかしながら、自民党の総裁であり、日本のソーリ大臣でもあります(「そのとおり。全く恥ずかしい」と不規則発言する者あり。)。総裁はともかく、大臣って天皇の筆頭格の家来という意味。わたくし、陛下の臣であることを身に余る光栄と存じております。「ダイジン」、あるいは「おとど」って、とてもすばらしい響きではありませんか。誰がなんと言おうと、天皇あっての日本、天皇のための日本というのが私の信念。臣民一億総員が火の玉となって御稜威を輝やかせる、これが神武以来の我が国の国柄にほかなりません。今は、戦争に負けて、心ならずもGHQに押しつけられた「日本国憲法」によって、個人主義だの、自由主義だのがはびこる世になっていますが、これに終止符を打つための憲法改正が私の使命。そうして、本来の国柄とそれにふさわしい日本を取り戻すことができれば、私の本望とするところ。今回の参院選の公約の眼目は、実はこの点にあるのです。
私が使命とする憲法改正は、容易な企てではありません。GHQの陰謀に洗脳された一億総平和惚け国民の目を覚まして、日本人としての自覚を呼び起こすことなのですから、言わば国民の精神革命が不可欠なのです(「革命ではなく、反革命だろう」と不規則発言する者あり。)。
上ご一人に率いられた万邦無比の國体は金甌無欠、過去に間違ったことをしたはずはありません。特に、過ぐる大東亜戦争を、侵略戦争だの帝国主義戦争だなどとことさらに神州日本を貶めることは許せません。さらには、こともあろうに靖国に鎮まる護国の神々が皇軍の兵として活躍していた時代に、従軍慰安婦を辱めたなどと濡れ衣を着せるような、自虐史観を払拭しなければなりません。
皇国の富国強兵の必要を忘れて、平和主義などとうつつを抜かす輩に国防の精神を叩き込まねばなりません。精強なる国家を再興するためには、月々火水木金々の精神で文句を言わない勤労の精神を注入しなければなりません。個人の権利だとか、自由などを口にする前に、滅私奉公を行動で示すことを叩き込まねばなりません。
天皇を中心として一億国民が総結集することで、国は強くなり、国が栄えます。国防の武威あって初めて国民の安全が確保されます。国富が充実して初めて国民の経済も潤います。国が強く栄えずして、個人の幸せはあり得ません。「まずなによりもお国のため」「個人の利益は後回し」を徹底する国柄を作らねばならないのです。この精神は、自民党が下野していた時代に作った「自民党・日本国憲法改正草案」にしっかりと書き込んであります。
しかし、今述べたような私の本心を赤裸々に語っては、今の国民に受け容れてもらえないことは、よく承知しています。ですからどうするか。そりゃ決まっています。欺すのです。
世の中では、「嘘はいけないこと」とされていますが、政治は違います。なんのために政治はあるのか、立派な国を作り、そのことによって国民を幸せにすることなのですから、国民を幸せにするための嘘は許される。これがわたくしの強固な信念です。普通の人は、なかなかウソをつけない。それでは政治家失格です。私のように、政治家稼業三代目ともなれば、嘘をつく能力は生得のものとなっています。DNAに組み込まれているのです。
だから、「アンダーコントロール」で、「完全にブロックされています」と、平気で大ウソをついて、東京オリンピック誘致を成功させたではありませんか。もちろんあれは嘘です。でも、それでみんながハッピーになったのだから、なんの問題がありましょうか。
今回の参議院選公約もまったく同様なのです。本当の狙いは、憲法改正にあります。でも、そうあからさまには言わないのです。まずは、国民を欺して改憲に必要な議席をとること。議席をとってしまえば、しめたもの。そのあとに、国民の信任を受けたと言って、憲法改正に踏み切るのです。これが、作戦なのです(「ずるいぞアベ」と不規則発言する者多数あり)。
だから、マスコミ向けの記者会見では、「アベノミクスを加速するか、後戻りするか。これが最大の争点だ」と言っているのです。でも、ご存じのとおり、アベノミクスは、議席獲得のための手段、本当の目的は改憲の実現です。そんなことはお分かりでしょう。改憲が將、経済は馬。改憲を射んとして、まずはアベノミクスの矢を放っているのです。
もう、公然の秘密ですが、改憲を訴えれば票が逃げます。「改憲は自民党の党是。隠しているわけではないが、今は声を潜めた方がいい。参院で3分の2が取れたら改憲に動き出す。それが政治の世界」なのです。
良賈は深く蔵して虚しきが如し、というではありませんか。能あるシンゾーは、改憲の爪を隠しているのです。「選挙戦で改憲を訴えるつもりはありません。他にも訴えるべきことがあります」。これが、私のスタンス。
わたくしは、普段は産経新聞しか読まないのですが、本日(6月5日)の毎日新聞の切り抜きを見せられました。菅野完という人がズバリこう言っていますね。
「安倍晋三首相は憲法改正を目指しているが、選挙では経済政策アベノミクスや消費増税延期が与党の主張の前面に出て、憲法はかすんでしまうだろう」「選挙で憲法が争点にならなかったとしても、改憲勢力が参院で3分の2以上の議席を占めれば、首相が『民意を得た』と改憲に向けて動き出すだろう。これは2014年衆院選の自民党公約に小さく書き込んだだけの『安全保障法制の速やかな整備』に、翌年から積極的に取り組んだのと同じだ」「改憲の狙いは、まずは護憲派が想定する9条ではなく、『緊急事態条項』の創設や、伝統的家族観をうたう『家族条項』などがクローズアップされてくるはずだ」と。
菅野は、「有権者やメディアはこうした欺きを指摘しなければならない。安倍政権は憲法の何を変えようとしているのか。選挙の前に手の内を明かせと言う必要がある。」と言っていますが、わたくしが簡単に嘘を嘘と言うはずはありません。手の内を明かしてしまえば、マジックは成り立ちません。所詮は、シンゾー流ダマシのテクニックを皆さんに楽しんでいただきたいのです。
「人はパンのみにて生くるにあらず。政治は真のみにて成り立つにあらず。」
自民党の参院選公約とは、そんなものなのです。(「引っ込め、シンゾー」と不規則発言する者甚だ多く、以下聴取不能。)
(2016年6月5日)
注目の沖縄県議選投開票が、いよいよ明日(6月5日)。公選法上、選挙運動は今日(4日)までとなる。日本の矛盾を象徴する沖縄の民意のあり方を問う選挙としても、参院選の前哨戦として全国の動向を占う選挙としても、さらにはアベ政権と最もシビアに対決している沖縄県政に対する、県民の信任の可否としても注目せざるを得ない。その県民の選択が、国政に大きく影響しないはずはない。
13選挙区で48議席が争われる。もっとも、辺野古を抱える最注目の名護市区(定員2名)が無投票で2人の当選が確定したという。無所属で県政与党の親川敬と、自民党の末松文信が、与野党で1議席を分け合うかたちとなった、と報じられている。
残る12選挙区・46議席を69人の立候補者が明日県民の審判を受けることになる。名護選挙区を含む全立候補者は71名。政党別の内訳は、自民19、民進1、公明4、共産7、おおさか維新3、社民6、地域政党の沖縄社会大衆3、諸派5、無所属23。与野党別では、翁長知事与党36人、野党22人、中立13人。辺野古移設計画には、反対44、容認13、推進2(その他・無回答が12)と報じられている。
告示後選挙期間中の5月30日?6月1日、地方紙琉球新報社と沖縄テレビ放送が合同で世論調査を実施している。
最も注目された設問が、米軍属女性遺棄事件についての「米軍関係者の事件事故の防止策」である。県民が選択したトップは、「沖縄からの全基地撤去」(42・9%)だった。全基地撤去に賛否を問うての賛成4割の回答ではない。繰り返される女性に対する暴行殺害事件の再発防止策のトップが、「全基地撤去」であり、4割を超す県民の意見だということの意味は重い。「全基地撤去」の次が「在沖米軍基地の整理縮小」(27・1%)と続き、「兵員への教育の徹底」は19・6%だった。
5月26日の臨時県議会は、自民党議員退席後の全会一致で、初めて「海兵隊の全面撤退」の抗議決議を採択した。上記琉球新報世論調査では、「海兵隊の全面撤退」を求める意見が52・7%。「大幅に減らすべきだ」の31・5%を上回っている。また、日米地位協定については79・2%が改定・撤廃を求めた。
関心が集まる「米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設」には、83・8%が反対と回答している。そして、「米軍属女性遺棄事件」後の安倍内閣の対応について、70・5%が「支持しない」と答えている。これこそ、オール沖縄の総意というべきだろう。
調査を実施した琉球新報は、「辺野古移設への反対は‥12年12月の安倍政権発足以降の調査で最も高い値となった。普天間飛行場の移設はどうあるべきか聞いたところ、『国外移設すべきだ』が最も多く31・5%、次いで『すぐに閉鎖・撤去すべきだ』が29・3%、『県外移設すべきだ』が23・0%だった。」と解説している。アベ政権が「辺野古移転が唯一の策」と躍起になっている「辺野古移設計画を進めるべきだ」を支持する県民の意見は、9・2%に過ぎない。
日米地位協定についての県民の見解には注目しなければならない。
「全面撤廃」が34・3%、「根本的改定」が44・9%。両者を合わせると8割に近い。政府が掲げる「運用の改善」は15・2%。「自民党支持者でも63・6%が改定・撤廃を求めた」とされている。
日米安保条約については、「破棄すべきだ」が19・2%、「平和友好条約に改めるべきだ」が42・3%。「(現状のまま)維持すべきだ」は12・0%に過ぎない。これは瞠目すべき調査結果ではないか。
この調査結果に表れた沖縄県民の反基地感情の高揚に関して、菅義偉官房長官は昨日(3日)の記者会見で「真摯に受け止めたいと思う」「具体的に政府としてできることを関係省庁で早急に決めて、すぐにでもスタートする」などと述べ、同日午前に開かれた「沖縄県における犯罪抑止対策推進チーム」で取りまとめられた対応策を早急に進める考えを示した(琉球新報)と報道されている。
真摯な対応となれば、普天間早期返還実現、辺野古新基地建設断念、日米地位協定抜本改定、そして安保条約改定による非軍事同盟化とならざるを得ない。選挙直前だから「真摯に受け止めたいと思う」くらいは言っておこうとしか聞こえない。
この沖縄県民の民意がそのまま投票に反映すれば、県政与党の圧勝となるはず。アベ政権の改憲策謀に小さくない蹉跌をもたらすことになる。目前の参院選で、改憲阻止勢力を元気づけることにもなる。
共産、社民、民進、沖縄社大、そして与党系無所属の全候補者に声援を送りたい。是非最後までがんばって当選を勝ち得ていただきたい。一方、自民、公明、おおさか維新、野党系無所属の改憲推進派各候補者には声援を送らない。是非とも議席を減らしていただきたい。平和のために、人権のために、民主主義のために、何よりも沖縄県民の安全のために。そして、沖縄の犠牲をいとわないアベ政権への痛打のために。
(2016年6月4日)
関心の焦点は、サミットの伊勢からオバマの広島へ。そして、本日告示の沖縄県議選へと目まぐるしく移る。参院選直前の前哨戦としてというだけでなく、アベ壊憲政権との対峙の最前線の政治戦として注目せざるを得ない。
沖縄県議会は、昨日(5月26日)臨時会を開いて、「米軍属女性死体遺棄事件に対し抗議するとともに、在沖米海兵隊の撤退や日米地位協定の改定などを求める決議と意見書」を全会一致で可決した。
可決された抗議決議と意見書は、与党が提案した「被害者への謝罪と完全な補償」「日米首脳で沖縄の基地問題と事件・事故対策を話し合うこと」「米軍普天間飛行場の県内移設断念」「在沖米海兵隊の撤退と米軍基地の大幅な整理縮小」「日米地位協定の抜本改定」「米軍人・軍属などの凶悪事件発生時に、訓練と民間地域への立ち入りと米軍車両の進入の禁止措置」などを求めている。
この内容の決議に自民まで賛成したのかと一瞬驚いたが、実は「全会一致」は必ずしも正確ではない。「自民会派は、普天間飛行場の辺野古移設断念を「閉鎖・返還」とし、在沖海兵隊の撤退を「大幅な削減および米軍基地の速やかな整理・縮小」を図ることをそれぞれ求めた上で、事件の根絶や謝罪、補償などを日米両政府に求める修正案を提出したが、賛成少数で否決された」(琉球新報)という。で、自民は与党案裁決時に退席して、与党と中立系による「全会一致」の形作りに協力したということだ。選挙直前に、与党案に反対という露骨な姿勢を見せたくはなかったのだろう。
なお、「公明は与党、自民の両案に賛成した」と報じられている。沖縄の公明党は、かつては仲井眞県政の与党だったが、今は普天間の県内移設反対の立場で、県政野党ではなく、中立系とされている。
それにしても、県議会が「普天間飛行場の県内移設断念」「在沖米海兵隊の撤退」「日米地位協定の抜本改定」を求めて決議を上げている姿は、県民の怒りのほとばしりであり、不退転の決意の表れというほかはない。このたびの事件の被害女性が住んでいたうるま市議会や那覇市議会などでも同様の決議が採択されており、県内のほとんどの自治体で抗議決議の準備が進んでいるという。
そして本日、日本中が注視する第12回沖縄県議会議員選挙の告示。翁長雄志知事が就任してから1年半。その信任をめぐる投票の色が濃い。現在の与野党分布は、47議席(欠員1)のうち、翁長知事を支える与党は24である。かろうじての過半数。これに対する野党が自民を中心に14、公明を含む中立系が8人だという。この24の与党(社民・共産・沖縄社会大衆・県民ネット)議席の増減に関心が集まる。最大の対決点は、当然ながら辺野古新基地建設の可否をめぐってのこと。元海兵隊員の女性殺害容疑の事件もあって反基地の空気は熱い。
県議選は13選挙区に定数48(各選挙区の定数は2?11)。本日の立候補者は71名であった。政党別の候補者は、自民19、民進1、公明4、共産7、おおさか維新3、社民6、地域政党の沖縄社会大衆3、諸派5、無所属23。
朝日も毎日も立候補者について、「与野党別では、与党36人、野党22人、中立13人。辺野古への移設計画には、反対44、容認13、推進2(その他・無回答が12)」と報じている。
朝日に、「軍属が働いていたとされる米軍嘉手納基地を抱える嘉手納町では県政野党の自民現職が第一声。『自民党は政府に対して堂々と抗議した。日米地位協定も改定させないといけない。県民の命を守るために地域の声を伝える』と訴えた。」という記事。
オーイ、アベ君。キミが総裁だという自民党、統制がとれていないようだぞ。
「自民党が政府に対して堂々と抗議」などしていいんだろうか。「日米地位協定も改定させないといけない」なんて、党紀違反じゃないのか。何よりも、「県民の命を守るために地域の声を伝える」って、「日本国民のために沖縄県民には我慢をしてもらおうというアベ政権の方針」への当てつけだろう。処分しないの? あっ、そう。票が取れれば、何を言ってもよいのか。
沖縄県政の与党は国政では野党。国政では「野党は共闘」のスローガンだが、沖縄県政では、民進党の力量が弱い。それでも関心は、「自民」対「国政野党連合」の対立構図で世論の動向を見ざるをえない。
その結果が出る投開票は6月5日(日)である。昨日の臨時議会での決議実現を可能とする結果を期待したい。
(2016年5月27日)
連休さなかの5月2日、東京地検は元航空幕僚長・田母神俊雄を公選法違反(運動員買収)で起訴した。2014年2月東京都知事選における選対ぐるみの選挙違反摘発である。選挙後に運動員にカネをばらまいたことが「運動員買収」とされ、起訴されたものは合計10名に及ぶ。
田母神俊雄(候補者) 逮捕・勾留中
島本順光(選対事務局長) 逮捕・勾留中
鈴木新(会計責任者) 在宅起訴
運動員・6名 在宅起訴
ウグイス嬢・女性 略式起訴
起訴にかかる買収資金の総額は545万円と報じられている。田母神・島本・鈴木の3人は共謀して14年3月?5月選挙運動をした5人に、20万?190万円の計280万円を提供。このほか田母神・鈴木両名は14年3月中旬、200万円を島本に渡したとされ、島本は被買収の罪でも起訴された。さらに鈴木らは、うぐいす嬢ら2人に計65万円を渡したとされている。
被疑罪名は、田母神俊雄(候補者)と鈴木新(会計責任者)が運動員買収、島本は買収と被買収の両罪、その余の運動員は被買収である。
田母神は、4月14日逮捕され、捜索され、身柄事件として起訴され、起訴後に保釈を申請して却下されている。特捜は、本腰を入れて立件したという印象。田母神自身にとっても、彼の応援団にも、ここまでやられるとは意外な思いではないだろうか。
いまも田母神俊雄の公式ホームページが開設されており、「本当の日本を取り戻す」「日本人の、日本人による、日本人のための政治」というキャッチコピーが踊っている。彼には、政治思想において自分こそが安倍晋三に最も近いという自負があったろう。実際、安倍は選挙前に田母神の集会に出かけて、応援演説までしている。
ウイキペディアからの孫引きだが、以下は田母神出馬についての賛同者リストからの抜粋である。アベ政治の応援団とほとんど重なっている。アベ・コア人脈と言ってもよいのではないか。
政治家
石原慎太郎(日本維新の会共同代表・元東京都知事)
土屋敬之(元東京都議会議員)
中山成彬(日本維新の会衆議院議員)
西村眞悟(無所属衆議院議員)
平沼赳夫(日本維新の会衆議院議員)
三宅博(日本維新の会衆議院議員)
松田学(日本維新の会衆議院議員)
大学教員
小堀桂一郎(東京大学名誉教授)
西部邁(元・東京大学教授)
藤岡信勝(元・東京大学教授、元・拓殖大学教授)
中西輝政(京都大学名誉教授)
荒木和博(拓殖大学教授)
小田村四郎(拓殖大学元総長)
関岡英之(拓殖大学客員教授)
石平(拓殖大学客員教授・評論家)
杉原誠四郎(武蔵野大学教授・新しい歴史教科書をつくる会会長)
西尾幹二(電気通信大学名誉教授)
渡部昇一(上智大学名誉教授)
実業家
中條高徳(アサヒビール名誉顧問、日本会議代表委員)
上念司(株式会社「監査と分析」代表、経済評論家)
水島総(映画監督、日本文化チャンネル桜元社長)
元谷外志雄(アパグループ代表)
評論家・芸能人など
加瀬英明(外交評論家)
クライン孝子(作家)
デヴィ・スカルノ(スカルノ元大統領第3夫人)
すぎやまこういち(作曲家・日本作編曲家協会常任理事)
西村幸祐(評論家)
百田尚樹(作家)
三橋貴明(経済評論家)
逮捕当日、田母神は「国家権力にはかなわない」と名言を吐いている。政治思想ではアベ政治と一体であった彼も権力とは一体でなかった。元空幕長という経歴をもち、安倍晋三を含むこの応援団の顔ぶれを揃えてなお、逮捕からも起訴からも身を守ることができなかった。特捜はよくぞ逮捕し、全容を明らかにし、起訴したものと思う。
アベ自民をより右から引っ張る役割を任じようとした田母神の政治生命は終焉したというべきだろう。今後はその役割を大阪維新が担うことになるのだろう。
政治的影響はともかく、政治とカネ、選挙とカネについての貴重な教訓を読み取らねばならない。目前の参院選や、その後の総選挙における野党共闘の陣営が、この教訓を十分に心して、不要な弾圧を避けなければならない。
公選法は、その前身である衆議院議員選挙法が、「男子普通選挙」を採用した1925年改正法以来、選挙活動の自由を極端に制約して弾圧法規として作用してる。言論による選挙運動を規制する不当とは闘わなくてはならない。しかし、選挙が結局はカネの力で左右されることがあってはならず、現行公選法における選挙資金調達方法や使途の規制がすべて非合理とは言えない。
とりわけ、選挙運動は無償が大原則で、選挙運動者にカネを支払えば犯罪となることを不合理とは言い難い。選挙運動への参加は飽くまで無償と肝に銘じなければならない。企業が選挙運動者を派遣して、被派遣者が企業への勤務の実体を欠くのに、企業がこれに給与を支給すれば、当該給与分の金額で運動員買収をしたことになる。
田母神の起訴罪名と罰条は、公職選挙法の運動員買収である。条文を抜粋すれば以下のとおり。
第221条(買収)「次に掲げる行為をした者は、3年(候補者がした場合は4年)以下の懲役若しくは禁錮又は50万円(100万円)以下の罰金に処する。
一 当選を得、若しくは得しめ又は得しめない目的をもって、選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益の供与、その供与の申込み若しくは約束をしたとき。」
公選法上の買収には2種類ある。選挙人買収と運動員買収である。選挙人(有権者)を買収することは、直接に票をカネで買うことだ。運動員買収とは、集票作業をする人にカネを支払う方法で票を集めること、間接的にカネで票を買うことにほかならない。選挙運動は無償が大原則なのだから、選挙運動員にカネを渡してはならない。カネを渡せば運動員買収罪が成立する。受けとった運動員も処罰対象となる。買収だけでなく供応も同じだ。
選挙運動は、判例において「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」と定義されている。選挙運動は飽くまで、自発的な意思によって行われるべきもので、報酬はない。選挙運動は無償が原則である。選挙運動者に報酬を支払えば、運動員買収として処罰対象となるのだ。もっとも選挙運動には当たらない純粋な労務の提供や事務作業者に対しては、予め届け出た者に限って決められた範囲の額の対価を支払うことができる。気をつけなければならないのは、たとえ労務者として届出があっても、単純労務の提供の範囲を超えて「選挙運動をした者」となれば報酬を支払ってはならないということだ。
飽くまで、公職選挙法の定めでは、選挙運動は無償(ボランティア)であることを原則としている。この警告を「一方的な思い込みに基づく論理」などと揶揄するようでは、選挙弾圧を招くことになる。
たとえば、2012年選挙における宇都宮選対の打ち上げの「会食費」が政治資金収支報告書に計上されたり、宴席で突然に「労務者報酬」が配られたりするようなことになるのだ。このようなやり方で、善意の選挙運動参加者を犯罪行為に巻き込んだ選対事務局長の責任はとりわけ大きい。
東京地検特捜は、今回強く右を叩いた。次には、左を叩くことでバランスをとろうとする可能性を否定しえない。
選挙運動に参加する者は、無償が大原則であることをわきまえよう。常に心掛けよう。選対本部長や事務局長から「ごくろさまです」とカネを差し出されたら、犯罪として立件される虞のある危険な事態だと心得なければならない。
(2016年5月7日)
この夏の参院選は、日本国憲法の命運を大きく左右する。アベ政権の改憲策動実現への第一歩となるか、それとも改憲を阻止することによってさらに国民に定着したものとするのか。
その参院選の日程が、いよいよ「6月22日公示、7月10日投開票」と本決まりの模様。そして、衆院の解散によるダブル選挙はなくなったというのが各紙の報ずるところ。寝たふり解散や抜き打ち選挙もあり得ないではないが、解散権を持つ側にとって、「ダブル選挙必ずしも有利ならず」と読ませる状況があるということだ。
選挙をめぐる関心の焦点は、自公の改憲勢力で、改憲発議のできる3分の2をとれるか否か。それは野党共闘の成否にかかっている。とりわけ、32ある一人区で、どこまで野党統一候補の擁立ができるかがカギとなる。いま、その動きが全国に浸透しつつあるが、改憲派から見て、「野党の選挙共闘恐るべし」なのだろうか、それとも「恐るに足りず」なのだろうか。本日の産経がこの点を語っている。しかも、北海道5区補選の彼らなりの教訓を踏まえてのこと。「2016参院選 本紙シミュレーション」という記事である。
右翼と自民党に支えられた産経である。スポンサーに失礼あっては社運に関わる。徹底して、改憲派の側からの分析であり、表現となっている。それでも、危機感横溢の内容となっている。おそらくは、この危機感が保守層の本音なのではないか。
メインのタイトルは「野党共闘効果は限定的 本紙が前回結果から試算」となっているが、サブのタイトルは、「与党、無党派で苦戦も 閣僚不祥事・失言など影響大」というもの。つまり、「野党統一候補は一部地域で善戦する可能性があるとはいえ、効果は限定的ともいえる」とスポンサーのご機嫌を伺いながらも、「補選の結果をみれば、無党派層の動向いかんでは野党共闘に勢いがつきかねない」「自民党は保守層の支持基盤を強化するとともに、無党派層の取り込みに向けた対策を進める必要がありそうだ」と献策している。この大事な選挙、自民党は安泰なのか、危ういのか。タイトルではなく、記事を読む限りは、大いに危ういのだ。
産経が、「野党共闘ができたとしても効果は限定的」という根拠は、3年前の参院選における有権者の投票行動を基礎としてのもの。これはたいして当てになるものではない。それでも、野党が一本化すれば、それだけで自民党候補に勝つところが7選挙区になるという。
さらに、次の記事が北海道5区補選の保守側の衝撃をよく表現している。
「自民党にとって枕を高くして寝ていられる状況でもない。夏の参院選の帰趨を占うとされた4月の衆院北海道5区補欠選挙で、野党統一候補が自民党公認候補を相手に健闘したからだ。
補選は参院選の構図とほぼ同じ「与党候補」と「野党統一候補」の一騎打ち。両候補の得票数を市町村別に分析すると、支持政党を持たない無党派層が多い都市部で与党候補の得票数が野党統一候補を下回った。
共同通信の出口調査では無党派層の約7割が野党候補に投票しており、自民党に大きな衝撃を与えた。自民党は政策がバラバラな「民共合作」を批判する戦術で辛くも制したが、無党派層の投票率が伸びれば与党候補が逆転されることもあり得た。もともと革新系が強いとされる北海道とはいえ、「堅調な内閣支持率のもとで党の支持層を固めれば、無党派層もそれほど取りこぼさない」というセオリーが覆された形だ。
ある自民党選対幹部は『民進、共産両党にほぼきっちり支持層の票を積み上げられ、結果的に「1+1=1・9」になった。0・1は誤差の範囲内。勝ったものの、恐ろしい結果だ』と警戒感をあらわにする。」
要は、野党共闘のあり方次第で、参院選を制することで改憲を阻止し、アベ政権を窮地に追い込むことは可能なのだ。
誰がどう考えても、主敵・アベ政権を倒すには、野党の選挙共闘しかありえない。その基本枠組みは、既に2月19日にできている。
民主、維新、共産、生活、社民の野党5党(現在は、民主・維新が民進となって4党)の党首は2月19日、安全保障関連法を廃止する2法案を同日共同で衆院に提出するに当たって国会内で会談。国会での対応や国政選挙などで協力を強化していくことなど、下記の4点の共闘項目についてあらためて合意している。
(1)安全保障関連法の廃止と集団的自衛権の行使を容認する閣議決定の撤回
(2)安倍政権の打倒を目指す
(3)国政選挙で現与党とその補完勢力を少数に追い込む
(4)国会での対応や国政選挙などあらゆる場面で5党のできる限りの協力を行う
本年4月3日の毎日新聞が、その参院選における野党共闘進展の具体的模様を伝えている。見出しは、「野党一本化、15選挙区…32の1人区 本紙調査」というもの。
「夏の参院選に向け、全国で32の「1人区」のうち15選挙区で民進党と共産党を中心にした野党の候補者一本化が確実になったことが分かった。両党による協議が進んでいる選挙区も10あり、「統一候補」はさらに増える可能性が高い。参院選では1人区の勝敗が選挙戦全体の結果を左右する傾向が強く、2013年の前回参院選で『自民党一強』を選んだ民意が変わるかどうかが注目される。」
同日の毎日記事は、32の「1人区」を野党の選挙協力成否に関して3分している。
合意成立 15区
青森・宮城・山形・栃木・新潟・福井・山梨・長野・「鳥取島根」・山口・「徳島高知」・長崎・熊本・宮崎・沖縄
協議中 10区
岩手・秋田・福島・富山・三重・滋賀・和歌山・岡山・佐賀・大分
難航 7区
群馬・石川・岐阜・奈良・香川・愛媛・鹿児島
そして、昨日(5月1日)の赤旗が、最新情勢を伝えている。
「一人区野党統一候補が大勢に」「政権に危機感」というもの。
「夏の参院選にむけ、32の1人区での野党統一候補の擁立が20選挙区を数え、大勢になりつつあります。『野党と市民・国民』対『自公と補完勢力』という選挙の対決構図が鮮明になるなか、安倍政権・与党は警戒感を募らせています。」という内容。
「前回参院選(2013年)の野党票を合計すると、9選挙区で野党が勝利、3選挙区で接戦となる計算となります。前々回(10年)の野党票合計では、18選挙区で野党が勝利、5選挙区で接戦。市民とともに野党が団結し本気で選挙をたたかえば、自民を負かす可能性がみえています。」
「一方、野党は統一候補擁立とともに政策課題でも一致点を広げています。26日、徳島・高知選挙区で野党4党と大西聡統一候補は、消費税増税反対、TPP(環太平洋連携協定)批准反対、原発に依存しない社会の実現、辺野古新基地建設反対など11項目の共通政策を発表しています。」
赤旗が報じる参院選1人区での野党統一候補は以下のとおり。
青森 田名部匡代 民進公認
秋田 松浦大悟 民進公認
宮城 桜井充 民進公認
山形 舟山康江 無所属
栃木 たのべたかお 無所属
群馬 堀越啓仁 民進公認
新潟 森裕子 無所属
長野 杉尾ひでや 民進公認
山梨 宮沢ゆか 民進公認
石川 柴田未来 無所属
福井 横山龍寛 無所属
滋賀 林久美子 民進公認
岡山 黒石健太郎 民進公認
鳥取・島根 福島浩彦 無所属
山口 こうけつ厚 無所属
徳島・高知 大西聡 無所属
長崎 西岡秀子 民進公認
宮崎 読谷山洋司 無所属
熊本 あべ広美 無所属
沖縄 イハ洋一 オール沖縄
残る一人区(12)は、 岩手 福島 富山 岐阜 三重 奈良 和歌山 香川 愛媛 佐賀 大分 鹿児島である。
日経(4月30日)によれば、「7月の参院選で勝敗のカギを握る32の改選定数1の選挙区を巡り、民進、共産、社民、生活の野党4党は全体の6割を超える20選挙区で統一候補の擁立に合意した。残る12のうち、9選挙区で一本化に向け最終調整に入っている。参院選で「自民1強」に歯止めをかけるには野党共闘の加速が欠かせないと判断。残る選挙区で協議を進め、5月中の決着をめざす」とのことである。
私は、無原則な選挙共闘の相乗効果を安易に信じる立場にはない。しかし、今回参院選に限っては、野党候補統一の相乗効果は大いに期待しうるのではないだろうか。『1+1=2』にとどまらず、『1+1=2.5』にも、あるいは『1+1=3』にもなり得ると思う。
「一人区では、どうせ野党候補に勝ち目はない」という雰囲気は、アンチ・アベ無党派層の投票意欲を著しく殺ぐことになる。ところが、第2位・第3位の候補者の共闘が実現して接戦に持ち込めるとなれば、反アベ・反自民・反公明の無党派層の投票行動へのインセンティブが跳ね上がるのだ。
前回参院選(2013年)は、野党陣営にとっては最悪の事態でのものだった。このときの票の分布を今回も同様と安易に決めつけてはならない。北海道5区で示された接戦状態が、至るところで現出するだろう。そして、その経験は来たるべき総選挙における小選挙区共闘につながることになる。
「野党は共闘」という昨年の戦争法案反対デモのシュプレヒコールが、まだ耳に響いている。あのコールが、ここまで政治を動かしつつあるのだ。もしかしたら、あのデモが、アベ政治を許さず、改憲を阻止することになるのかも知れない。
(2016年5月2日)
北海道5区補選の教訓をどうとらえるかについては、各地のいたるところで議論がまき起こり、貴重な情報や意見が飛びかっていることだろう。メーリングリストというツールは、議論の場の設定にこれ以上のものはない。
私も、いくつかのメーリングリストで議論に参加しているが、同期弁護士のメーリングリストに札幌の郷路征記君から、以下の傾聴に値する意見をもらった。同君の許可を得たので、ご紹介したい。
まずは、郷路君が推薦する動画の画像。キャプションは省いての紹介。これだけでも、十分な「選挙総括」となりうる。
https://youtu.be/dkBxZu4IO5A
http://www.kanaloco.jp/article/168575
https://www.youtube.com/watch?v=6F-IicWUgZU
http://www.asyura2.com/16/senkyo204/msg/851.html
メーリングリストでは、私が次のように振った。
「さて、5区補選。残念でならない。「いま一歩及ばずの敗北」である。いま一歩のところまで追い詰めた積極面の教訓と、もう一歩のところで勝利に届かなかった消極面の教訓と。その両面について多くの人からの、とりわけ直接選挙に携わった人たちからの報告や意見を聞きたい。
共闘は本当にうまくいったのか。共闘によるシナジー効果が、客観的にあったのか。選挙戦を戦った人に実感できたのか。その「成果」についての確信が、全国に伝播するのか。
そこが最大の関心事だ。」
これに対して、郷路君のこの上ない丁寧な回答があった。
「澤藤君の問題提起に答えることができるかどうか。次のように考えている。
考える下敷きにしたのは、次の分析。
善戦じゃダメなのだ 衆院補選・野党共闘「惜敗」の絶望
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/180218
安倍官邸を苛立たせる、補欠選挙の「ある調査結果」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48537
そして、朝日の4月27日道内版記事「市民主導」浸透に壁
http://www.asahi.com/articles/CMTW1604270100003.html
1 野党共闘成立前には、ダブルスコアで自民が勝つという調査結果が出ていたという。票差の点は別にして野党分立では勝てっこないことは自明だったと思う。
その理由の一つは、安倍内閣への厚い支持。これがずっと変わっていないこと。アベノミクスによる経済活性化を掲げた(プラス、財政規律を無視した 自民党的ばら撒き政策の実行による)安倍内閣への支持は、正月以来の株安や円高、中国をはじめとする新興国経済の減速など、この先に不安要因をはらみつつ、まだ国民の支持をつなぎとめることに成功していたと思う。
2 それが、自民党・和田候補は、「伯仲・誤差の範囲」という調査がでるところまで追いつめられた。
その理由は
ア なんといっても野党共闘の成立。そのことによって前回の選挙での票数でいえば、勝負になるところまで持ち込めた。これがなければ何も起きなかっただろう。なんといっても展望がないからだ。
イ 「保育園落ちた 日本死ね」のブログによって、安倍内閣の新自由主義的経済政策による弱者切り捨て、格差拡大に苦しめられている国民の怒りのマグマに火が付きそうになった。そのことが契機となって、奨学金の問題とか、最低賃金の問題とか、保育士の待遇の問題とか、国民の貧困に関わるさまざまな問題が噴出しそうな形勢となった。
ウ 池田候補は子供時代から青年期を超える期間の、極度の貧困を乗り越えてきた経歴を持ち、他方、和田候補は三菱商事の社員。妻は町村の娘。一見して「上級国民」である。イの問題との関係で池田候補の経歴とその人柄が強い訴求力を発揮したと思う。
3 危機感を持った自民党は、党本部の総力を挙げた組織選挙をおこなった。なにせ、ダブル選の可否を占うという意味があった。
陣営の幹部の発言として新聞報道されたものの中に、「票を削り出している」という表現があった。それくらい、必死になってやったようだ。それくらいの危機感をもったようだ。野党陣営が勝って勢いがつけば、参議院の議席10程度に影響するという考え方もあった。自公が総力をあげた組織選挙を行うことによって、前回の票を若干上回る程度の得票に繋げることができたのだと思う。これが自民党の勝因だとおもう。総力をあげれば、この程度の票を削り出すことができる組織・人間関係の束を自民党・公明党は持っているということだと思う。大地の票(鈴木宗男)がどう動いたのかはわからないが、和田候補に行ったと考えるのが妥当だと思う。だとすると、必死で、総力をあげて、前回を下回っている程度ということもできそうである。
参議院選挙になれば、党本部が一地域に総力を挙げることはできない。この点では、自民党は厳しい選挙を強いられることになるのではないか?
4 野党共闘は浸透しきれなかった。投票率60%を目標にしたが届かなかった。60%に届いていれば勝てていたかもしれない。無党派層の7割を獲得していたのだから、その層が投票に来てくれていれば、勝機は生まれたのである。
浸透できなかった理由は
ア 熊本地震だという。たしかに、熊本地震を契機に、雰囲気は変わったと思う。保育園落ちたも報道の表層から消えて行った。おおさか維新の片山代表が「タイミングのいい地震」と言ったのは、本音で本当だったようだ。安倍首相はこの地震を利用したと思う。事故直後に食糧90万食を送ると表明したり、自衛隊の派遣規模を2000から2万に増加するなどした。現地視察を投票日の前日である土曜日にして、激甚災害指定をその時までしなかった。
報道によれば、選挙狙いの面もあると思われる安倍首相の対応は、国民には評価されているのだという。 危機が発生すると世論は政権支持に回る。このことによって、上記2イの問題が消し去られていった。
イ シールズも市民連合も学者の会もママの会も、全体から見れば少数である。北海道5区の住民に人的なつながりを持っているわけではない。絵を作るべく努力はした。でも、その絵が大きな力になるほどの参加者のボリュームはなかったと思うし、期間もなかったと思う。また、北 海道5区という地域性もあると思う(札幌市厚別区を除く)。
そうだとしても、昨年以来のシールズを先頭にした市民組織の継続的活動なしには、野党共闘すら考えることができなかった。その点で、彼らの奮闘と先見的活動には本当に頭が下がる。
ウ 市民主導の選挙運動を支え、実体化する組織が弱体化しているのではないか。民進党北海道の主体を担っていると思われる官公労 (北教祖・全道庁を中心とする自治労等)に往年の力はないだろう。共産党とその関連組織の力量の減退も疑う余地がないだろう。
エ 自民党の政治的影響力は全世代に及んでいる。池田候補は60代の年齢層でのみ多数だった。20代から50代のすべて、70代以上で和田候補が多数を占めている。若い世代まで、もはや保守である。そのような広い自民党支持層が醸し出す政治的雰囲気が、リベラルの風を吹かせなかったのではないかと思う。
5 以上で、澤藤君の問いに答えるとすれば、共闘は本当にうまくいったのかということについては、イエスなのだと思う。選挙対策の関係者達の談話でも否定的なものはない。お互い努力しあい、尊重し合ったのではないか。そして、各党の支持者を池田支持にほぼ纏めきることができたことも、信頼関係を作ることになったと思う。
共闘によるシナジー効果が客観的にあったのかという点についていえば、上記の経過が示す通り、客観的にあったといえるのではないか。その程度においては、この程度だったとしても。
選挙戦を闘った人たちが共闘の成果を実感できたのかという点でいえば、ぞれで一発逆転できるものではないにせよ、共闘して必死に戦わない限り、勝負にならない、共闘すれば勝負ができるというレベルではその成果を実感したのではないだろうか。
それが、全国に伝播するかという点については、多分、伝播すると思うが、判らないというところかな。確信が全国に伝播するかどうかは判らないけれども、野党共闘は広がると思う。民進党内部の主要な反対者らがこの選挙の経験を通じて、明確な反対をしなくなるのではないかなと思っている。
6 参議院選挙に向けて、安倍内閣の争点隠しは横行するだろうし、社会福祉についてもばら撒き的政策を打ち出すことによって、不利な争点を消失させようとするだろう。その中で、何をどう訴え、市民主導を拡げていくかが課題になりそうに思う。
弁護士 郷路征記
必死で選挙戦を闘った人たちがおり、共闘の成果を実感した人たちもいたことがよく分かる。私の、「その成果についての確信が、全国に伝播するのか。」は愚問だ。全国に伝播するのは、全国の人びと、私を含めた私たち自身の役割なのだから。
ささやかながらも、当ブログもその役割を果たしたいと思う。
(2016年4月28日)
本日は、文京区民センターでの「アベ政治を許さない! 4・27文京区民集会」。熱気のこもったなかなかの集会となった。若者の姿も見えたのが頼もしい。
以下は、私の基調報告のレジメ。このレジメの行間をそれぞれの立場で読み込み、使いやすいように改変して活用していただけたらありがたい。
現在の状況を、「アベ政治の罪」と「国民の被害」と「処罰(退陣)」と構成してみた。医療に喩えれば、「病名(疾患)」と「症状」と「処方」と構成もできるだろう。アベ政治にレッドカードを突きつけて「ピッチから退場」させなければならない。その理由と方法を分かり易く整理したつもりである。
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アベ政治十の大罪
1 憲法をないがしろにする罪 (解釈改憲と明文改憲)
2 平和を破壊する罪 (戦争法と7・1閣議)
3 民主主義を蹂躙する罪 (安保特での「採決」強行)
4 格差を拡大し貧困をつくり出す罪 (新自由主義経済政策)
5 メディアを規制し国民の耳と目をふさぐ罪(秘密保護法と停波・NHK)
6 原発再稼働と原発プラント輸出推進の罪(本音は核保有)
7 歴史の真実を曲げる罪 (靖国・慰安婦・教科書)
8 オール沖縄の民意を圧殺する罪 (辺野古新基地建設強行)
9 TPP交渉推進の罪 (秘密主義と主権の放棄)
10 劣化政治家濫造の罪 (甘利・宮崎・武藤・大西…)
アベ政治による七つの被害
1 危うくされているものは平和
2 奪われたものは民意に基づく政治
3 覆われたものは真実
4 痛めつけられたものは庶民の生活
5 汚されたものは歴史の真実
6 断ち切られたものは未来と希望
7 損なわれたものは安全と安心
こうしてアベ政治に引導を渡そう
アベ政治の罪と被害を深く知ること、広く知らせること
至るところでアベ・ビリケン(非立憲)政治批判の声を上げること
声を上げた市民が幅広く連帯すること
市民が野党の背を押して野党共闘を作り上げ選挙戦に勝ち抜くこと
勝ち抜いた国会で、憲法改正の発議を許さず、戦争法を廃止すること
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アベ政治の基本姿勢は、「戦後レジームから脱却」して、「美しい日本を取り戻す」というもの。これは、戦後民主主義を否定して戦前回帰を呼号するものにほかならない。
なぜ、戦前回帰なのか。天皇制下の臣民こそが、政権にとって統治しやすく、資本にとって使い勝手がよいからだ。文句を言わず権利主張をせず、権威主義的で勤勉な国民、これこそ政権と政権を支える資本が望む国民像なのだ。
権力や資本に従属する臣民は、敗戦を経て主権者となり人権主体となった。この変化をもたらしたものこそ戦後民主主義であり、その制度の中核に日本国憲法がある。アベ政治は、この戦後民主主義体制を総体として否定し去ろうという政権である。だから、日本国憲法に激しい敵意をもっている。アベ政権はこれまでの保守政権とは違う。戦後民主主義と日本国憲法を否定する危険な存在と認識しなければならない。
アベ政治のもう一つの基本姿勢は、新自由主義の徹底である。資本を優遇し、資本の活動への最大限の自由を保障しようとする。具体的には、解雇の自由であり、労働条件差別化の自由であり、不当労働行為の自由であり、最大限の規制緩和であり、企業減税である。格差・貧困の積極的容認策でもある。
新自由主義政策と戦前回帰政策とが、奇妙なマッチングをしているのが、アベ政治の特徴ではないか。このマッチングは、必然的に軍事大国化路線を志向し、富国強兵を国策とすることになる。
だから、政治・経済・財政・外交・防衛・教育・福祉・労働…等々のあらゆる分野において、アベ政権は国民生活と軋轢をもたらす。一言で表現すれば、アベ政治とは本質的に反国民的政治なのだ。しかも、政権の好戦性は際立っている。
それを整理すれば、「アベ政治 十の大罪 七つの被害」となる。
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アベ政治にレッドカードを突きつけなくては、壊憲の動きは止まらない。引導を渡す手段は、何よりも選挙である。反アベ陣営が小異を捨てて選挙共闘の大同につかなくては選挙戦での勝利はできない。
反アベ陣営とは、市民と諸野党である。北海道5区の補選から貴重な教訓を汲むべきである。池田候補の惜敗を共闘の失敗とみてはならない。
NHKの出口調査による投票者の政党支持率のうち与党は次の数字だった。
自民 44%
公明 5%
自・公の合計が49%となる。これに、1%未満の「大地」を切り上げて足せば、ちょうど50%。つまり、町村後継である和田候補の基礎票はほぼ50ポイント。
これに対する野党側は、以下のとおりである。
民進 20%
共産 5%
社民 1%
合計して、26%。つまり、池田候補の基礎票は26ポイント。
アベ側の和田候補に、民進と共産と社民の候補がバラバラに対抗しても勝ち目はない。候補者を統一した場合の基礎票の割合は50対26。ほぼ2対1の差。当初は、「ダブルスコアでの和田勝利」と囁かれたことにはそれなりの根拠がある。
しかし、池田候補と支持者の奮闘にはめざましいものがあった。市民が各野党の紐帯となって選挙運動の母体を作り、市民候補を市民と各野党が一体となって推す形ができた。創意にあふれた自発性の高い運動の結果、ダブルスコアを伯仲まで押し戻したのだ。熊本震災前には逆転の声も聞かれたし、千歳・恵庭という基地の街を除けば池田候補が勝っていたという側面も見なければならない。
参院選が近い。一人区の共闘がどこまで出来るかがカギとなってきている。参院選の経験は、総選挙の小選挙区での共闘につながる。市民と野党の選挙共闘によって、議席を確保しアベ政権を退場させて、改憲を阻止しなければならない。切実にそう思う。
アベ政治跳梁の現事態は、紛れもなく非常時である。立憲主義も危うい。民主主義も自由も危うい。何よりも平和が危うい。明文改憲を許せば、悔いを千載に遺すことになる。ならば、この非常時を乗り切るために、市民の声を背にした野党の大同団結があってしかるべきだ。いや、憲法と平和と民主主義を守るには、この道以外にはないではないか。
(2016年4月27日)
昨夜から元気が出ない。北海道5区の補選の投票結果は、紙一重に肉薄しながらも、野党共闘が支援する市民派池田まき候補の敗北となった。残念でならない。
「いま一歩及ばずの敗北」である。いま一歩のところまで追い詰めた積極面の教訓と、もう一歩のところで勝利に届かなかった消極面の教訓と。その両面について多くの人からの、とりわけ直接選挙に携わった人たちからの報告や意見を聞きたい。
今回は、勝利に結びつかなかったが、差し迫っている憲法の危機を回避するには、市民と野党が大同団結して選挙で勝つしか方法がない。北海道5区補選で形づくられた「この道」「この形」しかないのだ。どのようにすれば、「この道」をもっと大きく広げ、多くの人に歩いてもらうことができるのか。その教訓を得たいと思う。がっかりはしているが、「結局共闘しても勝てない」と清算主義に陥ってはならない。私も、及ばずながら、分かる範囲で、考えてみたい。
北海道5区補選が注目されたのは、野党共闘の効果の試金石としてである。任意の一小選挙区で野党共闘候補が勝てれば、日本中の小選挙区で勝つ展望が開ける。北海道5区は、そのような意味の「任意の一選挙区」であっただろうか。
選挙結果でまず目についたのは、5区内での得票の地域的偏りである。区内各自治体は、札幌市厚別区・江別市・千歳市・恵庭市・北広島市・石狩市・石狩郡当別町・石狩郡新篠津村である。各自治体ごとの候補者別得票数は以下のとおり。
和田 池田
札幌市厚別区 29,292 33,434
江別市 28,661 29,687
千歳市 25,591 14,439
恵庭市 19,447 13,062
北広島市 13,419 15,200
石狩市 13,103 13,133
市区計 129,513 118,955
当別町 5,023 3,902
新篠津村 1,306 660
北海道第5区 135,842 123,517
以上のとおり、池田候補は、札幌市厚別区、江別市、北広島市、石狩市では勝っているのだ。千歳市、恵庭市で大きく負け込んでいるのが敗因となっている。全体の票差は1万2300票だが、千歳市での1万1100票差、恵庭市での6400票差が大きい。言うまでもなく、この両市は基地の街である。自衛隊関係者の有権者が多い。安全保障問題が大きな争点となった今回選挙では、明らかに千歳・恵庭は「任意の一選挙区」ではなかった。
千歳・恵庭を例外地域とすれば、これを除いた札幌市厚別区・江別市・北広島市・石狩市と市部では野党共闘候補が勝っている。このことは、大いに勇気づけられるところではないか。
ところで、朝日・NHK・道新・共同通信が、それぞれの出口調査の結果を発表している。
朝日は、その結果の報道に「無党派層68%『池田氏に投票』」と見出しを付けている。
「池田氏の方が無党派層依存度が高く、無党派層で和田氏に大きく水をあける必要があった。この日の出口調査で、無党派層は32%が和田氏に、68%が池田氏に投票。池田氏善戦に見えるが、結果を見ればその差では不十分だった。」という分析が、正鵠を得ているのだろう。
NHKの調査は、「和田氏は、無党派層では30%余りの支持を集めました。これに対して池田氏は、また、無党派層からは70%近くの支持を集めました」と、ほぼ朝日と同じ結果を報じている。
道新の分析も同様である。「池田氏は、民進党支持層と、共産党支持層の9割以上を固めた。無党派層からも7割の支持を得たが、当選には及ばなかった。」
共同通信の調査結果では、「『支持政党なし』の無党派層は、73・0%が池田氏に投票した。」という。
朝日によれば、「自公の支持層は出口調査回答者の4割を超えるのに対し、4野党の支持層は3割に満たない」という。そもそも基礎票が「4割強」対「3割弱」と、我が方著しく劣勢なのだ。結局は無党派層の票を上積みするための奪い合いとなるが、野党陣営が勝つためには、基礎票の差を埋める以上の票差をつけて無党派層を取り込まなければならない。池田候補は、「68%」(朝日)、「70%近く」(NHK)、「7割」(道新)、「73%」(共同)と無党派層に浸透したが、基礎票の差を埋めるに至らず、いま一歩及ばなかったということなのだ。
道新の調査は、「野党統一候補で無所属新人の池田真紀氏も民進支持層の95・5%、共産支持層の97・9%の票を得ており、両候補とも支持層を手堅くまとめた。」と報告している。
野党陣営は、それぞれの自陣を固めきり、無党派層を取り込む相乗効果も上げた。共闘は成功したと言ってよい。しかし、千歳・恵庭を擁するこの選挙区では、基礎票が不足していた。そして、無党派層の取り込みが、勝つための高いハードルをクリアーするには十分でなかった。
さて、他の多くの選挙区であれば、基礎票の差は北海道5区ほどではないとして、勝てたのではないか。池田まき候補には、政見放送の機会が与えられなかったなどの無所属故のハンディもあった。このような不公平をカバーすることができれば、勝機があったのではなかろうか。
勝敗の分かれ目は、無党派層の取り込み如何である。さらに無党派からの支持率を上げるには、どのような訴えをすればよいのだろうか。また、投票率のアップは野党有利という図式が明確になった。投票率を上げる工夫はどうすればよいのだろうか。そして、いよいよ次からは18歳の有権者が登場する。この若者たちに、どのような訴えかけが有効なのだろうか。
「これ以外にはない」道を大道とするために、知恵を集めたいものである。
(2016年4月25日)
田母神俊雄が逮捕された。一瞬驚いたが、所詮は政権とは無縁の人。甘利逮捕ならビッグニュースだが、田母神逮捕ではさしたるニュースバリューはないのかも知れない。それでも、田母神を応援した石原慎太郎や百田尚樹らの言を聞きたいところ。
政治的影響はともかく、政治とカネ、選挙とカネについての貴重な教訓を提供する事件だ。選挙運動は無償だ。これにカネを支払えば犯罪となるとの警鐘として心しなければならない。似たような話は身近にいくつもある。
田母神逮捕の被疑事実は公職選挙法の運動員買収である。条文を抜粋すれば以下のとおり。
第221条(買収)「次に掲げる行為をした者は、3年(候補者がした場合は4年)以下の懲役若しくは禁錮又は50万円(100万円)以下の罰金に処する。
一 当選を得、若しくは得しめ又は得しめない目的をもって、選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益の供与、その供与の申込み若しくは約束をしたとき。」
公選法上の買収には2種類ある。選挙人買収と運動員買収である。選挙人(有権者)を買収することは、直接に票をカネで買うことだ。運動員の買収はカネで票を集めること、間接的にカネで票を買うことにほかならない。選挙運動は無償が大原則なのだから、選挙運動員にカネを渡してはならない。カネを渡せば運動員買収罪が成立する。受けとった運動員も処罰対象となる。買収だけでなく供応も同じだ。
田母神の被疑事実は、「都知事選後の14年3月中旬ごろ、東京都内の事務所で、事務を統括し選挙運動をしたことへの報酬として島本順光元事務局長に200万円を支払ったほか、島本元事務局長らと共謀し、同3月中旬?5月上旬、同事務所などで運動員だった5人に対し、投票を呼びかけて練り歩いたことなどに対する報酬として、現金計280万円を供与したと」と報道されている。
候補者であった田母神だけでなく、島本順光元事務局長も逮捕された。島本は、5人の運動員買収について田母神との共犯(共同正犯)とされたほか、自らが田母神から200万円を受領したことが別の独立した犯罪とされている。
選挙運動は、判例において「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」と定義されている。選挙運動は飽くまで、自発的な意思によって行われるべきもので、報酬はない。選挙運動は無償が原則である。選挙運動者に報酬を支払えば、運動員買収として処罰対象となるのだ。もっとも選挙運動には当たらない純粋な労務の提供や事務作業者に対しては、予め届け出た者に限って決められた範囲の額の対価を支払うことができる。気をつけなければならないのは、たとえ労務者として届出があっても、単純労務の提供の範囲を超えて「選挙運動をした者」となれば報酬を支払ってはならないということだ。
私は、2013年の暮れから14年の1月にかけて、連続33日間「宇都宮健児君、立候補はおやめなさい」のシリーズを書き続けた。その中で、12年暮れの都知事選における宇都宮陣営の田母神類似問題について、詳細に報告した。
金額の大小の差はあれども、宇都宮選対事務局長と選対本部長とは、田母神陣営と似たことをしている。この報告は、下記のURLでお読みいただきたい。
https://article9.jp/wordpress/?cat=6
この私の指摘に対して、宇都宮陣営の3人の弁護士が連名で「反論」している。2014年1月5日付(公表は6日)の「澤藤統一郎氏の公選法違反等の主張に対する法的見解」というもの。公平に見て、駄文の域を出ないものであるが、そのなかに、見過ごせない次の一文がある。
「澤藤氏は、『公職選挙法の定めでは、選挙運動は無償(ボランティア)であることを原則としています。』とか『市民選挙における選挙カンパとは、選対事務局員への報酬へのカンパではないはずと思うのです。』との一方的な思い込みに基づく論理で、あたかも選対事務局員に公選法違反の報酬が支払われたかのごとき主張をなしているのである。これらの支払いは単純労働への対価の支払であり、何らの違法性もないものである。」
この文章の非論理はともかく、これを普通の読み方をすれば、「公職選挙法の定めでは、選挙運動は無償(ボランティア)であることを原則としています」という私の指摘を、「一方的な思い込みに基づく論理」として非難するものにほかならない。これは、恐るべき認識というほかはない。この文章が書かれたのは、2014年都知事選の直前のこと。14年都知事選での宇都宮陣営は、「選挙運動は無償(ボランティア)であることを原則としています」という指摘を真剣に受け止めることなく、選挙戦に突入したと考えるほかはない。この3弁護士の「論理」で選挙運動をしたのでは、田母神陣営と同様の違法を犯した可能性を否定し得ない。
革新陣営の選挙に参集する選挙運動者に対しては、飽くまで「選挙運動は無償(ボランティア)でするもの」と確認し強調しなければならない。これを「一方的な思い込みに基づく論理」などと揶揄するようでは、田母神陣営の感覚と変わるところがない。14年選挙についての違法は可能性しか指摘できないが、12年選挙に選対事務局長や選対本部長の違法があったことは、既述のとおりである。
このような感覚だから、12年選挙における宇都宮選対の打ち上げの「会食費」が政治資金収支報告書に計上されたり、宴席で突然に「労務者報酬」が配られたりするようなことになる。このようなやり方で、善意の選挙運動参加者を違法行為に巻き込んだ選対事務局長の責任はとりわけ大きい。
その他の反論は、「宇都宮健児君、立候補はおやめなさいーその17」をお読みいただきたい。
https://article9.jp/wordpress/?p=1834
あらためて当時のことを思い出す。今回の田母神逮捕は、私の運動員買収の指摘が杞憂でなかったことを裏付けるもの。再度しっかりと確認しておきたい。選挙運動は飽くまで無償でやることなのだ、と。
(2016年4月14日)
選挙は戦争によく似ている。昨日(4月12日)開戦の、北海道5区の「選挙戦」について、本日の朝日トップは、「衆院2補選告示 参院選前哨戦」と見出しを打った。天下分け目の総力戦の前哨戦。しかも、アベ自民と野党・市民連合の一騎打ちである。
続いて、「アベノミクスの評価 焦点」という大見出し。関連の記事は以下のとおり。
「安倍首相はこれまで、経済が好調であることを前面に掲げて国政選挙を連勝してきた。ただ、今年に入り世界経済の減速を受けた円高・株安の影響で、政権が掲げる「経済の好循環」の実現が見通せなくなっており、アベノミクスの評価が改めて問われる。安全保障関連法が昨年9月に成立してから初めての国政選挙でもあり、同法の是非をめぐる論戦も焦点だ。環太平洋経済連携協定(TPP)への賛否も争われる。」
結局対立軸となる争点は、「アベノミクス」「安全保障関連法」「TPP」の3本というわけ。3本ともアベ側が放った矢だが、色褪せ、折れている。「アベノミクスの失敗」「戦争法の違憲性」「TPPの秘密主義と地域経済切り捨て」の3本の矢が、返り討ちの矢となっている。
谷垣幹事長の街頭演説が紹介されている。
「野党統一候補を『何党に所属して政治をやるのかも分からない』と批判。一方で『アベノミクスを力の限りやってきた。あと一歩のために、政治の安定が何よりも大事だ』と訴えた。」という。この人、性格上大言壮語は似合わない。結局、これくらいのことしか言えないのだ。
アベ側候補の出陣式で読み上げられた安倍晋三自身のメッセージは次のとおり。
「国民に責任を持つ自民党、公明党の連立政権か、批判だけの(旧)民主党、共産党勢力かの選択を問う極めて重要な戦いだ」。
防戦一方のメッセージ、積極的な武器も戦略も戦術もなんにもない。迫力ないことこの上ない。総大将がこれでは、士気は上がらない。
戦は、勢いだ。いま自公側に勢いはなく、野党・市民側には勢いがある。緒戦の戦況、我が軍に大いに有望ではないか。
ところで、野党連合軍に新兵器はないのか。敵の放った矢を的外れとし、あらためて射返すだけでも大いに意気が上がってはいるが、さて、果たしてこれで十分だろうか。
常々、不思議に思っていたのは、アベ自民の評判はよくない。よくないどころではなく、悪いと言いきってよい。アベの性格もよくない。政策もよくない。個別の政策では明らかに世論の支持を得ていない。ところが、内閣支持率はなかなか落ちない。落ちそうになりながらも、落ちきらない。その理由が実感しにくい。
本日の東京新聞「本音のコラム」欄に、斉藤美奈子が「一発逆転の秘策」という記事を書いている。中身は、松尾匡『この経済政策が民主主義を救うー安倍政権に勝てる対案』(大月書店)の紹介。斎藤美奈子をして、「安倍自民党に勝つための起死回生ともいうべき本を見つけた。」と言わしめている。
大筋ははこんなことだ。「安保法制も改憲も問題だけど、人々が求めているのは景気と福祉だ。対抗勢力はそこがわかってない。個別の案件では反対者が多いのに安倍政権の支持率が落ちないのはなぜか。人々が不況に戻るのを恐れているからだ」というのが、この書の基本視点。確かにそうだと頷かざるを得ない。
自民党は長期低落傾向にあって、国民から見放された。国民の輿望を担って、民主党政権ができたが、国民の意識としては大きな失敗をしたのだ。この失敗の失望が大きい。
自民党の方がまだマシだった。アベ自民に戻って、なにか民主党政権よりはマシなことをやっているようだ。自分の生活は少しも楽にはならないが、いつかはよくなることを期待できそうだ。自民以外の政権に委ねるのは冒険ではないか。そんな気分が、安倍の評判の悪さにもかかわらず、内閣支持率を支えているのだろう。
「英労働党の党首選でコービン氏が勝ったのも、米大統領選の民主党候補者指名争いでサンダース氏が躍進したのも、庶民に手厚い政策ゆえだった。」ことから学べ、というのが松尾書のコンセプト。
「よって野党が勝つには『こんなものでは足りない』『もっと好景気を実現します』『日銀マネーを福祉・医療・教育・子育て支援にどんどんつぎこみます』というスローガンを掲げる以外に方法はない!」というのだ。なるほど。それは基本的に正しいと思う。
アベノミクスは、「パイを大きくしましょう。そうすれば、貧者にも分け前が期待できる」とした。しかし、パイもさして大きくはならず、むしろいびつな形に変形した。何よりも3年待っても分け前は来ない。ならば、アベノミクスとはおさらばして、徹底してパイの分け前優先に切り替えよう。国民1%の利益にではなく、99%の利益のために。ここから、社会は活性化する。経済の好循環が始まる第一歩ともなる。
いま、野党・市民連合の池田まき候補が、「誰一人置いてきぼりにしない政治をつくる」としているのは、結局はその路線だ。一人ひとりの人間を大切にする政治の実現こそが、社会全体の経済を活性化し、パイの拡大にも繋がるということなのだ。
池田まき候補の公式ウェブサイトを何度も開いて宣伝に努めたい。
http://ikemaki.jp/mypolicy
同候補はこう言っている。
「飢餓、貧困、格差、紛争、難民、テロ。立憲主義、民主主義の危機。
世界の、そして日本の大きな課題です。
強い者による強い者たちのための政治が、
こうした問題を深刻化させています。
権力の暴走を止めなければなりません。
声なき声をもよく聞き、政治に反映させなくてはいけません。
『誰一人、置いてきぼりにしない』
『誰もが安心して暮らせる社会をつくる』
私、池田まきはそれをモットーに、福祉の現場で、
既成概念にとらわれず、行動を起こしてきました。
さらに、環境、経済、政治など広い分野で
社会的な危機の解決に取り組んでいくために。
ここ北海道から、より良い日本をつくりたい。
池田まきは、皆さんと共に、
平和、いのち、暮らしを守る戦いに挑みます。」
がんばれ。野党市民共闘候補。安倍の「強い者による強い者たちのための政治」に負けるな。
(2016年4月13日)